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保護等級“IP53”の「TOUGHBOOK FZ-55」は“激しい雨”で使い物になるのか?

ITmedia PC USER 2024年7月29日 17時5分

 パナソニック コネクト(以下、パナソニック)が発売した「TOUGHBOOK」(タフブック)シリーズの新モデル「FZ-55」は、クラムシェルスタイルの頑丈ノートPCだ。

 しかし、その製品コンセプトはこれまでのTOUGHBOOKと少し異なるという。本記事では、これまでのTOUGHBOOKとの違い、そして、その違いが堅牢ノートPCとしての使い勝手にどれほど影響するかを荒天化におけるフィールドテストによって検証してみた。

●1kg以上の大幅な軽量化に注目

 パナソニックは、FZ-55を投入する背景の1つとして「頑丈なPCは重すぎて使いづらいという不満の声があった」と説明する。

 クラムシェルスタイルの従来モデル「FZ-40」とFZ-55のサイズと重さを比較すると次のようになる。

・FZ-40:約354.0(幅)×301.0(奥行き)×54.4(高さ)mm、重さ約3.35kg

・FZ-55:約345.0(幅)×272.0(奥行き)×54.4(高さ)mm、重さ約2.08kg

 FZ-55は、大幅な小型軽量化を果たしていることが分かる。特に奥行きと高さ、そして何より重さがかなり減っている。使い勝手を考える上で1kg以上の減量はインパクトが大きい。

●保護等級「IP53」はどこまでタフなのか

 ただし、その小型軽量化のトレードオフとして、頑丈さに関連する性能がFZ-40と比べて控えめになっている。パナソニックは「頑丈性能」という項目を設けてTOUGHBOOKの頑丈さを示しているが、その中で、FZ-40とFZ-55の違いは次の通りだ。

・FZ-40 耐落下:180cm落下試験(26方向、合板)、90cm落下試験(非動作時、6方向、コンクリート) 防塵(じん)・防滴:IP66準拠、耐振動:MIL-STD-810H準拠

・FZ-55 耐落下:90cm落下試験(26方向、合板)、76cm落下試験(非動作時、6方向、合板)、防塵・防滴:IP53、耐振動:MIL-STD-810H準拠

 MILスペック(米国防省が定める工業製品の環境耐性評価試験に関する規格)は、頑丈さを示す性能全般の指標として利用され“がち”だが、TOUGHBOOKでは耐振動に関連した試験だけを選択して実施しているという。

 耐衝撃関連の試験に関しては独自基準の耐落下試験を実施しており(とはいえ、MILスペックで指定する耐衝撃試験に近い)、内容は本体の26方向で落とす動作試験、そして、本体の6方向で落とす非動作試験となっている。

 これらの試験における落下距離に違いがある。FZ-40は180cmに耐えられるのに対し、FZ-55は90cm、同様に非動作試験でFZ-40はコンクリート90cmであるのに対し、FZ-55は合板76cmとなっている。

 頑丈さの性能で重視される防塵防水滴性能では、JISが定める(そしてその国際規格としてIECが定める)IPコードを用いて示している。こちらもFZ-40がIP66なのに対し、FZ-55はIP53にとどまっている。

 IP指標では左の値(第一特性数字)が外来固形物に対する保護等級(=防塵性能)、右の値(第二特性数字)が水の浸入に対する保護等級(=防水性能)を示している。

 防塵性能においてIP6Xが「粉じん試験機内で一定の負圧を作りだした状態を8時間連続で実施し、機器内部に粉じんが一切入らない」ことを確認するのに対して、IP5Xは「粉じん試験機内で標準大気圧を維持した状態を8時間連続で実施して機器内部に許容範囲内の粉じんが入るが、機器の正常な動作を阻害しない」ということを確認できればいいとしている。

 防水性能においては、IPX6が高圧ウォータジェット(12.5mmノズル)を使って各方向から圧力100kPaから150kPaで毎分100L噴射した水に3分間耐えることを求めているのに対し、IPX3はスプレーノズル(直径0.8mm)を使って垂直から60度以内の角度で毎分0.7Lを低圧で噴射して10分間耐えられればいいというものだ。

 防水性能を示すIPコードのそれぞれで定義とその要約、試験内容は具体的に定められている。IPX6ならば「暴噴流(powerful jet)に対して保護できる」=「あらゆる方向からのノズルによる強力なジェット噴流水によっても有害な影響を及ぼしてはならない」のに対して、IPX3は「散水(spraying water)に対して保護できる」=「鉛直から両側に60度までの角度で噴霧した水によっても有害な影響を及ぼしてはならない」としている。

 とはいえ、その試験内容が自然現象である天候のどの程度に相当するのかを具体的に示す客観的規定はない。その代わりに「防滴」「生活防水」「耐水」「防水」や「防霧」「生活防水」「水洗い防水」「水中防水」など業界団体やメーカーなどによってユーザーの実利用場面に合わせた基準を独自に提示する例がある。

 その中に、日本写真機工業会(JCIA:1954年4月発足、2002年6月解散。後継団体としてカメラ映像機器工業会が2002年7月に発足)が1997年にまとめた「防水カメラの種類と表示」において、保護等級ごとに具体的な降雨条件と照らし合わせた指標が提示されている。

 保護等級3および4に関しては「10mm/分の降雨量で5分の試験(総降雨量50mm)は単位時間当たりの降雨強度としては強い雨に相当し、さらに総降雨量で激しい雨(筆者注:日本気象協会が予報作業指針で“激しい雨”と表現する基準の降雨量は1時間当たり40~50mm)のレベルを超える降雨量に当たる」としている。

 「なんだ、IPX3でも結構タフじゃん」と筆者は思う。ただし、試験時間が5分と短時間であること、日本気象協会が定める激しい雨の降雨量が“1時間当たり”と試験時間と比べてはるかに長時間であることを勘案して、ドキュメントでは保護等級3および4に関する考察の末尾に「実際の最大雨量の長時間撮影を考慮しない前提で生活防水形(=同じドキュメントでごく短時間の小雨での撮影は可。水洗いは不可と定めている)」と記述している。

 加えて、保護等級3の試験内容にあるように、散水方向が試験対象機器の鉛直から周囲60度までの範囲に限られる。これは、降雨を想定しているからではあるけれど、FZ-40で実施する保護等級6の「実際に水がかかるおそれのある全ての方向から」と比べると水のかかる方向は限定される。

 実際のフィールドワークでは激しく降っている状態の雨粒は地面に当たって相当の量が跳ね返る。「水がかかるおそれのある全ての方向」はその跳ね返りも想定した試験条件ともいえる。

●FZ-55を「激しい雨」で使ってみた

 「えー? 結局のところ、ゲリラ豪雨みたいな土砂降りのときにIP53のFZ-55は使えるの? 使えないの?」

 というわけで、雨が降る梅雨空の中、船に持ち出してFZ-55の使用感を検証してみた。評価作業を始めた当初、梅雨独特の「しとしとじめじめといつまでも降り続ける雨」のフィールドテストになると思っていたのだが……。

 雨雲レーダーに、“赤色”のエリアがいきなり発生して実験海域に近づいてきた。赤色はすなわち1時間当たりの降水量が50mmを超える「激しい雨」の予報だ。図らずも「IPX3で耐えられる?」としていたギリギリの降水条件での評価作業となった。

 50mmを超える激しい雨となったのは正味30分程度だ。たたきつけるように雨粒がFZ-55に降り注ぎ、ボディーに当たってしぶきを上げるほど。しかし、そのような状況でもFZ-55は正常に起動し続け、キータイプを正確に認識し続けた。

 「なんだ、やるじゃん。いろいろな意味で“ライト”になったとはいえ、さすがTOUGHBOOK!」

 しかし、この激しい雨の中、ポインティングデバイス系の操作が全く効かなくなった。タッチパッドもディスプレイに組み込まれたタッチパネルも、激しくたたきつける雨粒に惑わされて指の静電容量が認識できなくなり、Windowsの操作がほぼできなくなってしまった。

 FZ-55は本体にペンホルダーを備えており、そこに収納したスタイラスペンもすぐに取り出せるが、そのペンオペレーションも不可能だった。

 TOUGHBOOKにはディスプレイに組み込んだタッチパネルの“感度”を調整して、ディスプレイがぬれた状態でも操作を可能にする「水滴誤動作防止」モードを用意しているが、その設定のためにもポインティングデバイスによる操作が必要だ。今回のように予想外の激しい雨に遭遇した場合は対処が困難と感じた。

 ただ、これはFZ-55だけの問題ではなく、TOUGHBOOK、いや、タッチパネルデバイスを必須とする頑丈デバイス共通の課題でもある。激しい雨の中でも使うことを想定するのであれば、ポインティングデバイスに相当するキーを用意することを検討すべきではないだろうか。

 ──そんな話をパナソニックの開発担当者に以前伝えたところ、「うーん、コストとの兼ね合いで」と積極的に対応できない理由を聞かされてはいるのだが。

●アウトドアなら「明るくて暗い」ディスプレイは必須

 FZ-55のディスプレイサイズは14型で、最大解像度は下位構成のFZ-55G2601Aは1366×768ピクセル、上位構成のFZ-55J2601AJとFZ-55J260KAJは1920×1080ピクセルとなっている。後者はFZ-40と同様だ。

 上位構成でFZ-40と共通する項目は他にもある。パネル表面には非光沢処理を施し、同時10点認識に対応した静電容量式マルチタッチパネルを組み込んでいること。さらに最大輝度が約1000ニト、そして最小輝度は約1ニトまで対応する(ちなみに下位構成は最大輝度が約220ニト、そして最小輝度は約10ニト)。

 最大輝度はフィールドワークにおける大きな意味を持つ。以前掲載したTOUGHBOOK FZ-A3Aのレビュー記事でも検証したように、十分な輝度がないと白昼下での視認が困難になる。

 FZ-A3Aの検証では、最大輝度が800ニトのディスプレイで8月下旬の午後1時に細かい文字まで明瞭に判読できていたので、それを上回る1000cd/平方メートルのFZ-55も十分に視認できると思われる。

 最小輝度も夜間のフィールドワークでは重要になる。夜間に明るいディスプレイを見た直後、視線を外して周囲を確認しようと思っても、いったん絞られた瞳孔では暗闇の中の状況を認識できるようになるまで時間を要してしまう。

 暗所で使う照明やディスプレイには赤色で発光する夜間モードを備えていることが多い。潜水艦を題材にした映画やフィルムを現像する暗室の照明(といってもデジタルカメラしか知らない人は暗室も知らないか)で見る赤色灯をイメージすると分かりやすい。

 波長の長い光は目に対する刺激が弱く、瞳孔があまり閉じないため、光から視線をそらした直後でも暗いところの認識が比較的容易で周囲の状況をすぐ把握できる。夜間の野外行動では必須の機能だ。

 FZ-55も夜間モードが用意されており、最小輝度と先ほど紹介したように1cd/平方メートルまで下げられる。

 加えて画面エフェクトとして画面の色をプリセットされているカラーから選ぶことができるので、「赤」を指定して赤色灯に照らされた色味を再現することが可能だ。なお、画面エフェクトでは、赤以外にも灰、緑(ナイトビジョンを想定)、橙(アンバーライトを想定)、そしてブルーカット設定(20%と40%)が用意されている。

●インタフェースのモジュールコンセプトは継承

 FZ-55はフィールドワークに用いることを想定した業務用ノートPCなので、利用できるインタフェースの種類は幅広い。それこそ、日本のオフィスでも利用する機会がほとんどなくなったシリアルポートやアナログRGB出力に関しても測定機器や観測機器を接続する機会が少なくない。

 TOUGHBOOKシリーズでは以前より、モジュールユニットを用意して、本体に脱着することで幅広い種類のインタフェースを利用できるようにしてきた。

 FZ-55はボディー形状が新規となったため、これまで用意されてきた他のTOUGHBOOKシリーズ用インタフェースユニットは利用できない。しかし、モジュール式のインタフェースユニットを専用で用意している。

 本体標準構成ではHDMI出力にUSB 3.2 Standard-Aを2基、USB 3.2 Type-C、有線LAN(RJ-45)、そして、ヘッドフォンマイク端子にmicroSDメモリーカードスロットを用意している。そして、オプションのインタフェースユニットには現時点でアナログRGB出力にUSB Standard-A、そしてシリアルポート(RS-232C)を選べる。

 インタフェースユニットの脱着はワンタッチではなく、4カ所のネジで固定する。本体搭載インタフェースはカバーで覆った状態でIP53準拠の防塵防水となるが、使用中は防塵防水とならないのは他のTOUGHBOOKと同様だ。

 なお、他のTOUGHBOOKはインタフェースカバーを開くときに「いったん下げて」「それからカバーを開ける」といったダブルロック機構を備えていたが、FZ-55では“爪”で固定された硬性ゴム製のカバーを「えいやっ」と力強く外すといったワンアクションで開くようになっている。

 以上のように、本体に載せたインタフェースは使用時に防塵防水が“無効”になる。過酷な環境でも使用し続ける必要があるなら無線接続に頼るしかない。

 FZ-55では無線接続インタフェースとしてWi-Fi 6EとBluetooth 5.3が利用できる。さらに、最上位構成ではモバイル通信(WWAN)にも対応し、LTE対応のnanoSIMスロットに加えてeSIMも利用できる。なお、その最上位構成では人工衛星による位置即位モジュールも組み込んでいる(対応するのはGPSの他にGLONASS、Galileo、BeiDou、そして準天頂衛星システム「みちびき」ことQZSS)。

●第13世代のCPUはどこまで使えるのか

 従来のクラムシェルスタイルのTOUGHBOOKから外観が大きく変わったFZ-55だが、その中身はある意味“保守的”といえる。CPUは第13世代のCore i5-1345Uを採用する。

 システムメモリの容量は16GB(DDR4-3200)、ストレージ512GBのSSDを組み込んでいる。接続バスはPCI Express 4.0 x4(NVM Express 1.4)で、レビューした評価用機材には、キオクシアの「KBG5AZNV512G」が搭載されていた。

 FZ-55の処理能力をベンチマークテストでチェックしてみよう。今回評価機材の構成は以下の通りだ。

・CPU:Core i5-1345U(Eコア1.7GHz、Pコア4.7GHz、2+8コア12スレッド、vPro対応)

・メインメモリ:16GB(16GB×1)

・ストレージ:512GB NVMe SSD

・ディスプレイ:フルHD液晶

・OS:Windows 11 Pro

PCMark 10

 PCの総合性能をチェックする「PCMark 10」の結果は以下の通りとなった。

・総合:5092ポイント

・Essentials(日常利用):10087ポイント

・Productivity(仕事利用):6008ポイント

・Digital Content Creation(コンテンツ作成):5914ポイント

 CPUがTDP 15WのCore i5と省電力を重視したミドルレンジクラスだが、それでも、2022年に登場した省電力タイプの第12世代Core i5搭載モバイルノートPCを上回るスコアを出している。TOUGHBOOKシリーズがカバーする用途を考えると、必要十分な性能を備えているといえる。

CINEBENCH 2024

 レンダリングを通してCPUの性能をチェックする「CINEBENCH 2024」では、マルチスレッドのスコアが445ポイント、シングルスレッドのスコアが102ポイントとなった。

 こちらも第12世代Coreプロセッサファミリーと比較するとその上位クラスで、かつ処理能力を重視した“P”タイプのCore i7-1280Pのスコアを上回っている。

CrystalDiskMark 8.0.5

 最後に、内蔵ストレージの性能を「CrystalDiskMark 8.0.5」でチェックした。

 シーケンシャル(SEQ1M Q8T1)の読み出しは毎秒3164.52MB、書き込みは2721.87MB、ランダム(RND4K Q32T1)の読み出しは毎秒453.33MB、書き込みは358.22MBとなった。

 PCI Express 4.0 x4接続のSSDとしてはミドルレンジデバイスに相当する速度で載せているSSDがミドルレンジモデルなのを考えると妥当なスコアといえるだろう。

●FZ-55のトレードオフをいかに考えるか

 「重くて取り回しが大変! もっと軽くて安いTOUGHBOOKを!」という声に応えるべく開発されただろうFZ-55は、確かに数値的にはコンパクトになって軽く、そして価格も下がった(TOUGHBOOKとしては)。

 そのトレードオフとして、TOUGHBOOKの存在理由であった頑丈さはMIL-STD-810H準拠は変わらないものの、耐衝撃テストの条件と防塵防水指標である保護等級が数値上はTOUGHBOOKラインアップの中で最も低いレベルとなった。

 調達資金を少しでも切り詰めたい組織にとって、従来の“TOUGHBOOK比”とはいえ価格が下がったメリットは大きいだろう。上位構成なら晴天下でも夜でも見やすいディスプレイも貴重な存在といえる(暗いディスプレイを搭載するモデルは意外と少ない)。

 以上のトレードオフをどのように評価するか。そこがFZ-55を選択するか否かの最大のポイントとなる。

 取りあえず、実際の検証において、日本気象協会が「激しい雨」と表現する1時間当たり降水量50mmの状況で正常に動作し続けたのは確認できた。ただ、先に説明したようにIPX3の試験条件は上方からの降水しか想定していない。より安全を見るなら、本体下面側は跳ね返りの水の侵入を防ぐ工夫を施すのがいいだろう。

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