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Ryzen AI 9 HX 370の採用はダテではない! エレガントで洗練された「ZenBook S 16 UM5606WA」を試して分かったこと

ITmedia PC USER 2024年8月1日 11時5分

 ASUS JAPANから登場した「ZenBook S 16 UM5606WA」は、AMDの最新CPU「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載した16型ノートPCだ。Zen 5/Zen 5cコアを採用し、50TOPSのNPUも統合した最新のプロセッサをいち早く備えただけでなく、「Ceraluminum」(セラルミナム)と呼ばれる新しいマテリアルと専用の放熱設計を導入し、エレガントな超薄型フォームファクターにまとめた意欲作となっている。

 ボディーカラーの異なる2モデルで展開されるが、ここでは「スカンジナビアンホワイト」カラーモデル(UM5606WA-AI9321WH)の評価機を入手したので、早速レビューしていこう。

●Zen 5+Zen 5c+NPU! 最新のRyzen AI 9 HX 370を採用

 本機が採用するCPUのRyzen AI 9 HX 370は、6月に開催された「COMPUTEX TAIPEI 2024」で発表されたばかりの最新世代Ryzen AI 300シリーズ(開発コード名:Strix Point)の上位モデルだ。

 Ryzen AI 300シリーズは、新しいZen 5アーキテクチャを採用するとともに、通常のZen 5コアと高密度なZen 5cコアのハイブリッド構造を取り入れつつ、さらに最大50TOPSのNPU、RDNA 3.5世代のGPUを統合するという目新しい要素が満載の最新プロセッサだ。

 Zen 5cコアは、マイクロアーキテクチャは通常のZen 5コアと共通ながら、実装スタイルを変えることでコンパクトに実装できるようにした高密度コアという位置付けだ。1コアあたりの共有L3キャッシュ容量は減っているが、コア単体のIPC(周波数あたりの処理性能)はZen 5と同じだという。

 Strix Pointの詳細については、こちらの記事を参照してほしい。

 Ryzen AI 9 HX 370はZen 5コアを4コア、Zen 5cコアを8コア実装する12コア24スレッド構造で、最大周波数が5.1GHzとなる。内蔵GPUコアとしては、11.88TFLOPSの「Radeon 890M」を統合する。

●Copilot+ PC体験はx64版Windows 11の対応待ち

 本機は、50TOPSのNPUを統合するRyzen AI 9 HX 370を搭載しており、メモリは32GB(LPDDR5X-7500)、ストレージは1TBのSSD(PCIe 4.0 x4対応)だ。Copilotキーも装備しており、Microsoftが推進するCopilot+ PCの要件を満たしている。

 しかしながら、Copilot+ PCでうたわれる新しいAI体験については「Windows 11の対応待ち」という状態で、現段階では本製品では体験できない。そして、COMPUTEX TAIPEIの発表会ではCopilot+ PCとして紹介された本製品も、製品版では「Copilot+ PC」とはうたわれていない。現状はいわば「Copilot+ PC Ready PC」(これは筆者の造語である)という状態になっている。

 それにしても、Windows 11にArm版とx64版が存在するのはややこしい。同じなのはUIだけで、ハードウェアの違いを吸収しておらず、リリース/アップデートの提供タイミングも異なるとなれば、完全に別物だ。同じWindows 11という看板を掲げていることに違和感……というより、戸惑いを覚えるのは筆者だけだろうか。

●新素材採用のエレガントでスリムなボディー

 ボディーは大判でスリムに仕上がっている。約353.6(幅)×243(奥行き)×11.9~12.9(厚さ)mm、重量は約1.5kgだ。画面占有率が約90%と狭額縁デザインを採用しており、スタイルの良さが際立っている。MIL-STD-810Hに準拠したテストをクリアする耐久性も備える。

 ASUSが独自に開発したというセラミックとアルミニウムを融合させた新素材「Ceraluminum(セラルミナム)」を採用するのもポイントだ。硬度が高く、耐摩耗性、耐食性にも優れており、美しい外観を長く保つことができるという。さらに、100%リサイクル可能で、サステナビリティーの観点からも優れているようだ。

 実際に触れてみると、すべすべとした手触りで皮脂も付きにくく、絶妙な上質感が伝わってくる。薄型ながらカッチリとしていて、安心して持ち運びもできる剛性感もある。

●78Whの大容量バッテリーを搭載 ACアダプターも超小型

 バッテリーは78Whと大容量を内蔵している。公称のバッテリー駆動時間は、JEITAバッテリ動作時間測定法Ver.3.0で動画再生時が約10.7時間、アイドル時が約15時間となっている。

 付属のACアダプターが非常に小型軽量なのも特徴だ。USB Power Delivery(PD)対応で最大出力は65Wだが、65W仕様とは思えない小ささで、本体のみの実測重量はわずか101g(USB Type-Cケーブル込みで177g)という軽さだ。

●きれいな3K有機ELディスプレイを備え6スピーカーを内蔵

 本機は16型の有機ELディスプレイを搭載する。画面解像度は2880×1800ピクセル(アスペクト比16:10)で、リフレッシュレートは最大120Hz、VESAのDisplayHDR 500 True Black 500に準拠している。有機ELディスプレイならではの黒の締まった鮮やかな映像、階調表現を楽しめる一方、表面は光沢仕上げのため照明などの映り込みは気になる。

 スピーカーは1W×4、0.8W×2の6スピーカー構成で、音質も良好だ。Dolby Atmosにも対応しており、コンテンツに応じた上質なサラウンドサウンドが楽しめる。

●テンキーレスのキーボードを採用し多機能タッチパッドを搭載

 大柄なボディーだが、キーボードはテンキーレスでゆったりと配置されている。アイソレーションタイプで実測のキーピッチは幅が約19mm、縦が約18mmとなる。キーストロークのスペックは不明だが、触った感覚では1.5mmくらいはありそうだ。スイッチも反発が強すぎず、タッチ感は良好である。カーソルキーはやや小さめだが、独立して配置されているので操作のしにくさは特に感じない。Copilotキーも装備する。

 キーボードの手前には、独自のスマートジェスチャー機能を備えたタッチパッドを装備する。150(幅)×100(奥行き)mmと非常に大きな面積を確保しており、端部を使って輝度調整や音量調整、早送り/巻き戻し操作が行えるようになっている。便利ではあるが、キーボードでも操作できる輝度や音量をあえてパッドの端を使った曖昧な方法で操作したいかと考えると、実用性は疑問だ。とはいえ、Windows標準のジェスチャー機能含めて操作感はとても良い。

●最新のWi-Fi 7に対応しUSB4端子を2基装備

 通信機能はWi-Fi 7対応の無線LANとBluetooth 5.4を標準で装備する。

 USB端子は、USB Type-C(USB4 Gen 3x2)が2基、USB Standard-A(USB 3.2 Gen 2)を備えている。USB Type-Cは2基ともUSB PDによるPCへの給電と画面出力(DisplayPort Alternate Mode)にも対応する。また、HDMI出力、ヘッドセットの各端子、フルサイズのSDメモリーカードスロットも備えており、使いやすい内容といえるだろう。

 Webカメラは約207万画素で、顔認証用のIRカメラも統合している。なお、Windows Studio Effectsによるカメラ効果は、評価時点では利用できなかった。

●新世代CPUならではの優秀なパフォーマンス

 ここからは、ベンチマークテストの結果を掲載する。MyASUSユーティリティーで設定できる動作モードは、特に言及がない限りは「フルスピード」で計測した。

 CPUに関するテストは、Ryzen 9 8945HSを搭載するミニPC「GEEKOM NUC A8」と似たようなスコアとなっている。ただ、GEEKOM NUC A8はノートPCではなく小型デスクトップPCであり、放熱設計で有利だ。また、スコアも同CPUを搭載したノートPCの水準よりはかなり良い。この薄型のフォームファクターでデスクトップPCに対抗できるのは最新世代だからこそだろう。

 3DMarkのSteel Nomad LightやTime Spyのスコアに見るように、GPU性能についても前世代からの着実な進化が見て取れる。

 Armネイティブ対応のベンチマークテストに関しては、Snapdragon X Elite(X1E-78-100)搭載の「Vivobook S 15 S5507QA」のスコアも掲載したが、CPUのマルチスレッド性能では及ばないもののそれほど大きな差ではない。シングルスレッド性能やGPU性能では明らかに勝っている。

 最後に、稼働時の動作音をチェックした。

●スリムボディーながら高い静音性

 静音性も優秀な部類だ。フルスピードモードやパフォーマンスモードの高負荷時は少し動作音は大きくなるものの、外部GPU搭載のゲーミングノートPCほどにはならない。スタンダードモードやウィスパーモードなら文句なしに静音であり、パフォーマンスも思ったほど落ちない。

 ボディーの発熱も左パームレストに少し暖かさを感じるかなという程度でうまく抑えられている印象だ。季節柄、テスト時の室温は高め(28度前後)なことやフォームファクターを考えればかなり健闘しているといえるだろう。

●外観も使い勝手も洗練された新しいAI PC

 本機の想定市場価格は31万9800円となっている。Ryzen AI 9 HX 370をいちはやく採用しつつ、超薄型のフォームファクターに収めるという攻めた姿勢の製品だが、パフォーマンス、排熱、静音性、使い勝手まで配慮が行き届いており、完成度は非常に高い印象だ。

 Copilot+ PC ReadyのAI機能、新開発のマテリアルを採用した洗練された外観も大きな魅力がある付加価値だ。価格に見合う価値は十分あるだろう。

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