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お客さまに寄り添うしかない エプソン販売の栗林社長が「環境」「サスティナビリティ」にこだわるワケ

ITmedia PC USER 2024年8月9日 12時0分

ポストコロナ時代に入ったが、世界情勢の不安定化や続く円安など業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら。

 エプソンは2026年までに、レーザープリンタの販売を終了し、インクジェットプリンタ事業へと集約する計画を打ち出している。この方針の背景にあるのは、エプソン独自のインクジェットプリンタ技術を生かすとともに、省エネ/省資源といった「環境」の観点から大きなメリットを提案できる強みがある。

 そして、エプソンの事業方針の中で、「環境」は最重点テーマの1つに位置付けている点も見逃せない。エプソン販売の栗林治夫社長のインタビュー後編では、エプソンのプリンタ戦略や環境戦略について聞いた。

●ハードウェアが一切からまないサービスでお客さまの課題を解決

―― エプソンでは、オフィス向けレーザープリンタの販売を2026年までに終了し、インクジェット方式に一本化する計画を発表しています。この大転換に向けた進ちょく状況はどうですか。

栗林 お客さまの理解は少しずつ深まっているとは思いますが、レーザープリンタをインクジェットプリンタに置き換えると、環境において、どれぐらいの効果につながり、お客さまの役に立ち、社会貢献につながるのかということを、さらにしっかりと伝えていきたいと思っています。

 これまで以上にリソースを投入して、お客さまに説明して提案するといったことを進めていきます。プリンタの置き換えには一定の時間がかかりますし、リプレースのタイミングに合わせて、パートナーとともに、積極的な提案をしていくことが大切です。

 エプソン販売では「サステナビリティ経営の推進支援サービス」を通じて、社内におけるエネルギーの利用状況を可視化することで、稼働しているプリンタの台数を最適化し、さらにレーザープリンタからインクジェットプリンタに置き換えることで、エネルギー消費を圧倒的に減らし、CO2排出量の削減に貢献できることを、数字を元にして提案できます。これも、レーザープリンタからインクジェットプリンタへの移行を促進する施策の1つになります。

 なお、これまでエプソンが販売してきたレーザープリンタについては、しっかりとサポートをしていきます。これも大切なことだと思っています。

―― 「サステナビリティ経営の推進支援サービス」は、どんな成果を生んでいますか。

栗林 エプソン販売では、2022年4月に「サステナビリティ経営の推進支援サービス」を行うための専門家チームを発足しました。さらに、キャプランやTBMとの協業によって、オフィスにおけるCO2排出量を可視化し、サステナビリティ経営に関する診断の各種結果をもとにアドバイスするサービスを開始しています。

 これまでに49社の実績がありますが、このサービスを利用した企業に共通しているのは、必ず課題を見つけることができているということです。エプソンにとっても、最初は手探りであった環境への取り組みでしたが、具体的なサービスの提供を通じて、エプソンが環境に対して、どんな貢献ができるのかが明確になってきたといえます。

 実はサステナビリティ経営の推進支援サービスは、ハードウェアが一切からんでいないのです。これまでのエプソンであれば、考えられないサービスかもしれませんね(笑)。同サービスでは、お客さまの経営課題の解決というところから入っていき、その先の解決手段として、後からインクジェットプリンタを活用するという提案を行っています。

 社内では、環境において、社会のお役に立たなくてはいけないというマインドが醸成されていますし、エプソンは、そこでお客さまのお役に立てるんだという自信が芽生えています。

●個人向けにはプリンタを長く利用するためのサービスを提供して環境に配慮

―― エプソンは、「環境」という切り口からの提案を積極化しています。エプソン販売でもその取り組みが加速していますね。

栗林 この数年で商品を選択する際に、価格や性能に加えて、環境という要素が重視されるようになっています。当社では、社会課題である「環境」「省人化」「DX/共創」を軸にした価値提供を進めていますが、特に環境においては、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」の重要な柱に据える一方で、「環境ビジョン2050」を掲げ、「脱炭素」「資源循環」「お客さまのもとでの環境負荷低減」「環境技術開発」の4点から環境戦略に取り組んでいます。

 商品や技術そのものによる環境対応だけでなく、乾式オフィス製紙機「PaperLab」による紙の循環を始めとして、さまざまな商品を組み合わせたトータルでの環境提案ができるようになっています。

 その一方で、お客さまからは脱炭素への取り組みを、何から始めたらいいか分からないといった声や、環境への対応要請が取引先からきているが、どう対応したらいいか分からないといった声をよく聞きます。

 上場企業では、サステナビリティに関する情報開示が求められていますが、中小企業も、取引先である大手企業からの依頼によって、環境に関する回答を行わなくてならず、環境対応への取り組みや見える化が、避けては通れないものになっています。先に触れた「サステナビリティ経営の推進支援サービス」も、こういった課題を解決し、お客さまを支援する提案の1つになります。

―― 環境対応としては、ペーパーレス化の動きがあります。しかし、プリンタメーカーの立場では、印刷をしてもらい、より多くの紙を使ってもらった方が収益性が高まるのは明らかです。エプソンは、ペーパーレス化にはどう向き合っていきますか。

栗林 ペーパーレス化の流れは止めることができません。お客さまのペーパーレス化において、そこでエプソンは何ができるかということを考えていきます。ペーパーレス化の取り組みは、エプソン販売社内でも進めており、既に紙の使用率を従来比で6割減らすことに成功しました。

 社内には、どうすればペーパーレス化ができるのかといったノウハウが蓄積できたので、それを業務改革サービスにして提供することも考えていきます。その一方で、4割の紙がまだ残っているわけですから、ここに関しては単に廃棄するのではなく、PaperLabによって、紙を循環し、再利用する提案を進めていきます。ペーパーレス化を、エプソンの新たなビジネスチャンスにつなげたいと思っています。

―― エプソンでは、個人ユーザーに対してもプリンタを長期間に渡って安心して利用するためのサービスを強化しています。これらの手応えはどうですか。

栗林 5年間の安心サポートを提供する「カラリオスマイルPlus」は、お客さまのご希望に合わせて修理料金を全額サポートするプランと、半額サポートする2つのプランを用意しており、落下破損や水こぼし、火災/落雷などの物損対応も修理対象としている他、廃インクメンテナンスエラー発生時も無償で交換できますし、修理が発生した場合には、自宅まで商品を引き取りに伺い、面倒な梱包(こんぽう)も発送作業が必要なく、しかも利用回数にも制限がありません。

 2021年10月からサービスを開始してから、累計で約14万件の利用実績となっており、サービス購入の満足度は70.7%に達するなど、非常にいい手応えを感じています。

 また2024年1月からは、プリンタの月額サブスクリプションサービスである「ReadyPrint」を、有料テストマーケティングとして開始しましたが、これも好評です。プリンタ本体の貸し出し、インクがなくなる前の自動配送、不具合発生時の本体交換などを組み合わせたもので、400人限定としていましたが、定員オーバーとなってしまったため追加で200人を募集しました。

 こちらも既に定員に達しています。応募はたくさんいただきましたが、このサービスが、本当にお客さまのお役に立っているのかといったことをしっかりと見極めてから、正式サービスを開始するかどうかを決定したいと考えています。今後も、お客さまの声を聞きながら、プリンタに関連するサービスは増やしていきたいと考えています。

●お客さまに寄り添うしかない そのための取り組み

―― エプソンでは、リファービッシュ品(認定整備済み製品)への取り組みに力を注いでいますね。

栗林 現在、7カテゴリーでリファービッシュ品をそろえ、この事業が動き始めたという段階にあります。お客さまにとっては、同じ機能を持った商品を、価格の観点でメリットを得られますし、環境に貢献するという点での顧客満足も得られています。

 またB2B向けには、大判プリンタのリファービッシュ品も用意していますが、既存機種と同じものをリファービッシュ品によって導入することで、ワークフローを変えずに、導入コストを引き下げながら、増設できるというメリットがあります。

 一方、エプソンにとっては環境に配慮したビジネスが展開できるという点で社会貢献ができます。エプソンユーザーの裾野を広げるというよりも、長く使ってもらうという提案を重視していきます。

―― その半面、若年層向けのプリンタ戦略では、競合他社に比べて遅れが感じられます。

栗林 その点は反省しており、実はZ世代向けの取り組みを少しずつ開始しています。エプソン販売では2023年度に、ホームプロジェクターにおいて、有志によるZ世代プロジェクトを立ち上げました。Z世代の約10人の社員が参加し、Z世代は、どういうメディア接点で情報を仕入れているのか、購入決定に至るまでの経緯ではどんなことが影響を及ぼしているのかといったことを調査しました。

 Z世代がプロジェクターに求めているものは何かといったことを調査し、プロジェクターで「チル」を感じてもらうにはどうするのか、「推し活」にはどう貢献できるのかといったことも検討しました。プロジェクターだけでなく、プリンタも独自の団扇(うちわ)が作成できるなど、「推し活」にもつなげる提案ができるのではないかと思っていますから、これからさまざまな可能性を捉えながら、スピードをあげて提案をしていこうと考えています。

 約2年前から、エプソン販売とセイコーエプソンの事業部がCX(カスタマーエクスペリエンス)を生み出すためにチーム連携を始めています。ただ、Z世代専用モデルなどのモノ作りにつなげるには時間がかかりますから、まずは、エプソン販売がマーケティング施策や販売提案の切り口で、どういう顧客接点で、どういうチャネルで、どんな提案をするのかといったアイデアを出し、そこからZ世代へのアプローチを進めていきます。

―― 今後、どんなエプソン販売を目指しますか。

栗林 経営者として財務指標は大切ですが、カスタマーサクセスという観点で捉えれば、お客さまから次もエプソンを買いたいと思ってもらえるようにすることが大切だと思っています。お客さまと長くつながっていられる状態は、お客さまに価値を提供し続けることができていることであり、お役に立っていることを推し量るバロメーターになるともいえます。

 例えば、カラリオスマイルPlusの利用者が増加すれば、エプソンのプリンタを長期間利用してもらえるユーザーが増え、お客さまと長くつながり、長期間に渡って満足していただけていることの裏付けになりますから、重視する指標の1つになります。

 エプソン販売にとって最も重要なのは、社会に貢献し、お客さまのお役に立つことだと思っています。そのために、お客さまを軸にビジネスを行っていく会社にしたいですね。これまで以上にお客さまに寄り添って、困りごとを解決し、お客さまの笑顔に貢献したいと思っています。

 実際に「エプソン販売は、本当にお客さまのことを理解して、課題を解決してくれる会社だよね」と言われるようになりたいですね。そのためには、お客さまに寄り添うしかありません。エプソン販売の社長とし、これをやりきりたいと考えています。

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