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スマホジンバルなんてもういらない? AppleのDockKit対応で可能性が広がる「Insta360 Flow Pro」で再考する

ITmedia PC USER 2024年8月14日 15時10分

 高解像なセンサー画素数を活用し、あえて有効画素数を少なく抑えることで強力な電子手ブレ補正を実現している最近のスマホカメラ。手持ち撮影でも手ブレがほとんどなく、効果はバッチリ。誰でもスマホ単体でビシッと決まった映像が記録できるようになりました。

 テクノロジーの進化によって従来の課題(動画の手ブレ)が解決されていくことは本当に喜ばしいことですが、その課題を解決するために作られた別のオプション製品にとっては市場規模縮小というダメージが伴います。

 つまり「動画の手ブレを低減するために作られたスマホ用ジンバルは、そろそろお役御免となるのかな……」と思っていたら、7月に発売したばかりのスマホ用ジンバル「Insta360 Flow Pro」を使ってみて、その進化に驚きました。iPhoneと組み合わせて使うと、カメラマンいらずのジンバルになるのです。

 ベースモデルとなった「Insta360 Flow」(2023年3月発売)も、強力なトラッキング機能を持った専用アプリによってカメラマンを用意することなくワンオペでVlogが撮りやすいジンバルでした。

 1年と少しで登場した今回のInsta360 Flow Proに施された大きなアップデートポイントは3つ。可動部が制限なく無限に回転するようになったこと、NFCでペアリングできるようになったこと、そしてAppleがiOS 17から提供を始めた「DockKit」に対応したことです。

 DockKitとは、iOS純正アプリやDockKit対応アプリから外部のジンバルやモーターを制御できるフレームワークです。従来ならば専用アプリでしか使えなかったジンバル特有の機能を標準カメラアプリやiOS 17対応カメラアプリなどで使えるようになるため、ライブ配信やオンラインミーティング、ビデオ通話などでもジンバルの機能を利用できるようになる優れものです。

 実際に使ってみましたが、1点だけ気になることを除けばとても便利だし、今まで使ってきたスマホ用ジンバルを買い替えてもいいんじゃないかと思える完成度でした。

●基本構造はベースモデルと大きく変わらない

 Insta360 Flow Proはスタンダードな3軸ジンバルです。Insta360 Flowと同様に、無駄なく折り畳める構造となっています。

 グリップ部分につながっているシースルーのカバーがついたアームを180度回して真っすぐに伸ばすと、各ジンバルモーターが起動します。このときiPhoneを装着していないと負荷がかかっていないことをすぐに判断し、ジンバルモーターが固定またはフリーの状態となります。

 一昔前のスマホ用ジンバルは、ゼロ負荷でもバランスをとろうとしてジンバルモーターが暴れるかのように動き回ったものですが、Insta360 Flow Proは状況判断が早くて賢さを感じますね。

 ここでiPhone側の準備を進めましょう。iPhoneの中央部にInsta360 Flow Proに標準付属しているクランプを装着します。

 なお、このクランプは汎用性が高くAndroidスマートフォンでも使える反面、ややかさばります。もしInsta360 Flow ProをiPhone 12以降のiPhoneでのみ使うのであれば、オプションの「Insta360 Flow/Flow Pro 磁気スマートフォンマウント」を使うとベストでしょう。

●撮影アプリを選ばずトラッキングしてくれる

 標準カメラアプリなどを使う場合は、iPhoneをInsta360 Flow ProのNFCパネル部に近づけます。この作業により、Insta360 Flow ProをiPhoneにDockKit対応周辺機器として認識させます。

 クランプ/磁気スマートフォンマウントをInsta360 Flow Proに装着し、標準カメラアプリなどを起動します。そしてNFCパネル周囲にあるリングトラッキングライトが光れば、トラッキング機能が使えるようになります。

 なおInsta360アプリでペアリングを行っている場合、「Insta360 Flowシリーズが検出されました タップしてFlowで撮影を開始」という通知が表示されますが、ここで絶対にタップしないこと。Insta360アプリでなければトラッキング機能が使えなくなってしまいます。

 iPhone側がInsta360 Flow Proの接続状況を正しく認識していれば、iPhoneのカメラアプリが人物を認識し、トラッキングし続けてくれます。

 ただしInsta360アプリを使って録画しているときよりもトラッキング精度は甘め、というか、ジンバルの動きがゆっくりです。激しい動き、速い動きにはついてきません。せっかくのトラッキングが外れてしまうこともありました。

 これはiOSのカメラAPIが制御しているDockKitのパラメータによるもので、アプリ開発時に設定を変更すれば、被写体の速い動きや人物を右側に寄せるようなフレーミングといったカスタマイズが可能になります。DockKit対応の周辺機器を使いこなすアプリが出てくれば、Insta360アプリとは異なる撮影ができるようにもなるでしょう。

●動物のトラッキングにも対応しているDockKit

 記事執筆時点でのDockKitのトラッキングは人物(顔検出)もしくは動物となっているようです。1つの画角内に複数のトラッキング対象があるときは、全被写体が画角に収まるようにジンバルを動かします。

 この動画は最初1匹のヤギ(左側)を認識しましたが、右側からもう1匹のヤギが入ってきたところ、2匹が共に映るようにジンバルが動いていることが分かります。

●構図のバリエーションが増える無限回転仕様

 Insta360 Flowの横回転(パン)の動作範囲は-230度~100度となっていました。モーターの構造上、一定の回転角までしか回せなかったのです。これは他社製のスマートフォン用ジンバルも同様でした。

 しかしInsta360 Flow Proは右回りでも左回りでも無限に回転できるようになりました。もちろんトラッキングも対応しており、Insta360 Flow Proの回りをぐるぐると回ってみると、常にiPhoneのカメラが被写体を追いかけて回り続けます。

 Insta360 Flow Proを誰かが手で持った状態で使うのではなく、内蔵の三脚などで机の上などに置いたときの撮影に便利です。Vlogやライブ配信の構図、画角バリエーションを増やすことができるでしょう。

●“性能アップ/価格ダウン”のハイコスパなジンバル

 その他の特徴としては、ほとんどInsta360 Flowと同じです。グリップカバーは付属しますし、底面部に三脚穴もある。スマートフォン充電用/オプションのLEDライト用USB Type-Cポートも備わっています。

 ジョイスティックでジンバルの向きをマニュアル操作できます。タッチパネルでモードを切り替え、録画ボタンで録画開始/停止です。ギザギザの段が付いたのはズームホイールで、Insta360アプリ使用時にiPhoneカメラのズーム倍率を変更できます。

 トリガーは2回押しでセンタリング、3回押しでジンバルの向きを180度回転、長押しでモードをロックします。

 自撮り棒としても使えるように、5段式のロッドを内蔵しています。ロッド先端部を内側に曲げられるヒンジも備わります。これらの要素は全てInsta360 Flowゆずりです。

 つまるところ、手で持って録画のためのジンバルとして使うのであれば、Insta360 FlowもInsta360 Flow Proも大きな差はありません。DockKitによるInsta360アプリ以外のアプリで録画/配信や、無限回転トラッキングが必要でなければ、いますぐにInsta360 Flow Proへ買い替えしなくても大丈夫です。

 しかし、これらの機能が欲しい、または他社製のかさばるスマートフォン用ジンバルを使っているのであれば、Insta360 Flow Proの購入を一考してみましょう。なにせ機能がアップしたのに、Insta360 Flowより1100円ほど安い1万9800円です。コスパ高いジンバルとしてもおすすめします。

 なお冒頭で「1点だけ気になることを除けば~」と記しましたが、それはソフトウェア面での安定性です。NFCペアリングをしているにもかかわらず、DockKit周辺機器としてではなく勝手にInsta360アプリ用の通常のBluetoothペアリングをしてしまうことが多々ありました。これはDockKit側かInsta360 Flow Proの制御側のどちらに難があるのか判断できなかったのですが、ソフトウェア由来のトラブルでしょうから、一日も早い修正を期待したいところです。

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