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AI PC「ProArt PX13(HN7306)」はジャストA4サイズにRyzen AI 9とGeForce RTX 4070 Laptopを詰め込んだ意欲作だった

ITmedia PC USER 2024年8月16日 17時5分

 「ProArt PX13(HN7306)」は、ASUS JAPANのクリエイター向けブランド「ProArt」から登場したフリップタイプの13.3型2in1ノートPCだ。

 ジャストA4サイズで、約1.38kgのコンパクトなフォームファクターに「Ryzen AI 9 HX 370」とGeForce RTX 40 Laptop GPUシリーズ、3K解像度の有機ELディスプレイを搭載し、独自の生成AIアプリもプリインストールしている。

 本機は一部スペックの異なる2モデルで展開されるが、今回は「GeForce RTX 4070 Laptop GPU」を搭載する上位モデル(HN7306WI-AI9321R4070W)を評価機として入手したのでレビューしていく。

●ジャストA4サイズのコンパクトボディーなのにハイスペック

 ProArt PX13(HN7306WA)は、ハイスペックにも関わらず、ボディーは非常にコンパクトだ。具体的なサイズは約298.2(幅)×209.9(奥行き)×15.8~17.7(厚さ)mm、重量は約1.38kgとなっている。持ち運ぶことができるサイズ感と重量に収まっている。

 このボディーは非常に頑丈で、開発段階で米軍の調達基準を定めた「MIL-STD-810H」(MIL規格)に準拠したテストをクリアしている“裏付け”もある。

 ただし、ハイスペックだけに、付属のACアダプター(200W出力)はそれなりに大きくて重い。重量は実測で565gで、一緒に持ち運ぶとなるとかさばるため、覚悟がいる。このACアダプターは独自の専用端子だが、これとは別にUSB PD(Power Delivery)対応のUSB Type-C端子も装備しているので、携帯時用に別途USB PD対応のコンパクトなACアダプターを用意して使う手もある(電力の都合でパフォーマンスは制限される)。

●最新APU「Ryzen AI 9 HX 370」を採用

 本機はAPU(GPU統合型CPU)としてRyzen AI 9 HX 370を搭載する。6月に開催された「COMPUTEX TAIPEI 2024」で発表されたばかりの「Ryzen AI 300シリーズ」(開発コード名:Strix Point)の上位モデルだ。

 CPUコアは4基の「Zen 5コア」に加えて、L3キャッシュの少ないコンパクトな「Zen 5cコア」を8基実装することで「12コア24スレッド」としており、最大クロックは5.1GHzとなっている。他にはピーク時に50TOPS(毎秒50兆回)の処理を行えるNPUと、ピーク時に11.88TFLOPSの演算を行えるGPU「Radeon 890M」も統合している。

 メモリはLPDDR5X-7500規格のものを32GB搭載し、ストレージはPCI Express 4.0 x4接続の1TB SSDを備える。クリエイター向けPCとしての必要条件を十分に満たす内容だ。

 なお、本製品はCopilotキーを搭載しており、Microsoftが推進する「新しいAI PC」「Copilot+ PC」の要件も満たす。しかし、現段階ではCopilot+ PCに指定されていない。Copilot+ PCの特徴でもある、NPUを利用した新しいAI体験がx64版Windows 11に実装されていないからだ。

 この問題は、そう遠くないタイミングで配信されるであろうWindows 11の「バージョン24H2」へのアップデートで解消される。そうなれば、本機もCopilot+ PCとして訴求されることになるだろう。

●生成AIにも強い「GeForce RTX 4070 Laptop GPU」搭載

 本機はコンパクトなボディーながらも、外部GPUとしてNVIDIAのGeForce RTX 4070 Laptop GPU(グラフィックスメモリは8GB)を搭載している点も見逃せない。

 3Dグラフィックスの描画やプレビューの高速化はもちろん、3Dレンダリング、動画のエンコード、AIを活用したノイズリダクション処理や画像生成など、近年のクリエイティブアプリは積極的にGPUを活用する。クリエイティブ用途での実績が多いNVIDIA製GPUの搭載は心強いところだ。

 GeForce RTX 4070 Laptop GPUが統合するAI処理用の「Tensorコア」は、現状ではWindows標準のAIアプリには対応していないものの、画像生成やノイズ処理、オートリフレームといった、クリエイティブアプリに実装されているAI処理では活用可能で、処理の高速化に貢献する。

●色再現性に優れた、フリップできる3K有機ELディスプレイ

 画面は13.3型の有機ELディスプレイを搭載している。表示解像度は2880×1800ピクセル(アスペクト比16:10)で、輝度が最大500ニト、DCI-P3の色域を100%カバーし、色差は「ΔE1以下」と色再現性も高い。VESAの「DisplayHDR 500 True Black」に準拠し、カラーサイエンス大手の「PANTONE」による認証も取得している。

 ヒンジは360度回転に対応しており、画面をフリップしてタブレットスタイルや、テントスタイル、スタンドスタイルと、マルチなスタイルで活用できる。

 スピーカーは1W×2という構成で、ゲームや映画などエンターテイメントをしっかり楽しめる音質と音圧を確保している。「Dolby Atmos」にも対応しており、コンテンツに応じたサラウンドサウンドを楽しめる。

●打ちやすいキーボードと多機能タッチパッドを搭載

 コンパクトなボディーが特徴の本機だが、キーボードは十分な大きさのものを備えている。キーの間にフレームがあるアイソレーションタイプで、キーピッチは実測で約19(幅)×18(奥行き)mmとなる。EnterキーやBackSpaceキーはやや細く、カーソルキーもやや小さめだが、打ちづらいというほどではない。キースイッチもほどよい反発で、タッチ感は良好だ。先述の通りCopilotキーも装備する。

 キーボードの手前には、約128(幅)×80(奥行き)mmと大きめのタッチパッドを装備している。パッドの左上には、ProArtシリーズではおなじみの操作ダイヤル「DialPad」を備えている。「Premiere Pro」のタイムライン操作や、「Lightroom Classic」の現像パラメーターの調整など、クリエイティブアプリの各種操作に活用できる。

●無線LANはWi-Fi 7対応 USB4端子も搭載

 ワイヤレス通信機能は、Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)対応の無線LANと、Bluetooth 5.4を標準装備する。有線LANを使いたい場合は、USB接続のアダプターを別途用意する必要がある。

 USB端子は、USB 40Gbps Type-C(USB4 Gen 3x2)が2基と、USB 10Gbps(USB 3.2 Gen 2) Standard-Aが1基の計3基を装備している。USB端子はUSB PD(Power Delivery)にも対応する。その他、HDMI出力端子、3.5mmヘッドセット端子(ヘッドフォン/マイク兼用)、microSDメモリーカードスロットも備えている。

 ディスプレイ上部にあるWebカメラは約207万画素で、顔認証用の赤外線(IR)カメラも統合している。なお、「Windows Studio Effects」によるカメラ効果は評価時点では利用できなかった。

●クリエイター向けの独自アプリとユーティリティーも充実

 本機には独自のローカルAIアプリ「MuseTree」が導入されており、テキストとスケッチ、アイデアマップを利用した画像生成が楽しめる。AIイメージモデルには「Stable Diffusion V1.5」が利用されており、Windows標準の「コクリエイター」よりも高品質な画像生成を楽しめる。

 また、独自アプリとして、画像や動画などのメディアを解析して自動で分類してくれるメディアハブ「StoryCube」も導入している。

 これらのアプリは、ProArtシリーズ専用のユーティリティーアプリ「ProArt Creator Hub」からアクセスできる。ProArt Creator Hubには、色域モードの設定や色校正、DialPadの設定なども用意されている。

●「Ryzen AI 9 HX 370」のポテンシャルを一層引き出す設計

 ここからは、本機のベンチマークテストの結果を掲載する。MyASUSで設定できるオペレーティングモードは、特に言及がない限りは「パフォーマンスモード」として計測した。

 CINEBENCHのスコアは、ノートPCとしてはかなり突き抜けている。同じRyzen AI 9 HX 370を搭載した「ZenBook S 16(UM5606WA)」をさらに上回るスコアで、Core Ultra 9 185H搭載の「ROG Zephyrus G16(2024)」や、Snapdragon X Elite X1E-78-100搭載の「Vivobook S 15(S5507QA)」も上回っている。フォームファクターを考えると脅威的なパフォーマンスだ。

 オペレーティングモードを「ウィスパーモード」、画面輝度を50%に設定した上で、PCMark 10のバッテリーテスト(Modern Office Battery Life)を使ってバッテリー駆動時間を計測したところ、99%から2%(強制休止状態)になるまで「4時間19分」かかった。

●ゲームやクリエイティブアプリのパフォーマンスも上々

 外部GPUのパフォーマンスについては、同じGeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載するROG Zephyrus G16には及ばないものの、GeForce RTX 4060 Laptopを搭載する「ROG Zephyrus G14」は明確に上回っている。フォームファクターを考えると、本機はかなり健闘している。

 Premiere Proのレンダリング、エンコード(書き出し)、Lightroom ClassicのRAW現像出力、AIノイズ除去処理などでも良い結果を出しており、実際のクリエイティブアプリのパフォーマンスも上々だ。

●動作音や放熱も優秀

 小さなフォームファクターでこれだけのパフォーマンスを発揮する本機だが、放熱面でもかなり健闘している。

 パフォーマンスモードでは低負荷時もたまにファンが回転することがあり、負荷が強まるにつれて動作音が大きくなるものの、比較的落ち着いたトーンで、ピーク時の音もそう大きくない。

 もっとも、小さいPCだけに、体の近くで使うことや排気口が左右側面にあることから、体感的な動作音は数値以上に大きくは感じる。ファンの動作を抑えるウィスパーモードの他に、外部GPUを利用しない「エコモード」も用意されているので、うまく使い分けると良いだろう。

 ボディーの発熱も比較的抑えられてはいるが、左右のパームレスト部分は体温より若干高めで、じんわりとは熱が伝わってくる。フォームファクターや季節(室温28度)を考えれば十分健闘しているが、夏場に常時触れて使うなら、ノートPCクーラーなど冷却アイテムを用意した方が快適だろう。

●コンパクトボディーに妥協なきパワーを詰め込んだ挑戦的なAI PC

 ProArt PX13 HN7306のASUS Storeにおける直販価格は、評価機(上位モデル)が42万9800円、外部GPUが「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」となる下位モデル(HN7306WV-AI9321R4060W)が29万9800円となっている。

 本機は13.3型の小さなフォームファクターに最新CPUとGeForce RTX 40 Laptop GPUシリーズの妥協ないパフォーマンスを凝縮するという、アグレッシブに攻めたノートPCだ。特に今回評価した上位モデルは GeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載するだけに、その付加価値の分が価格に上乗せされている。唯一無二というレベルの製品だけに、価格が高くなるのは仕方がないところだろう。

 一方、GPUのグレードが1つ下がる下位モデルは、スペックの割に買いやすい価格設定となっており、内容を考えるとコストパフォーマンスは良い。動作音や発熱とのバランス的にも使いやすいと思われる。

 いずれにしても、ProArt PX13 HN7306の魅力は大きい。新しいAI体験ができるPCとして、新たなクリエイター向けPCの選択肢として、注目すべき存在といえるだろう。

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