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なぜアドビが山形市内のラーメン店主を集めてセミナーを開催したのか? 参加者の満足度が高い理由

ITmedia PC USER 2024年8月22日 17時0分

 アドビは8月20日、やまがたクリエイティブシティセンターQ1(山形県山形市)においてワークショップイベント「まちの広作室 in 山形市」を開催した。このイベントは7月30日に発表された同社と山形市の連携に基づく取り組みで、同市内のラーメン店の店主を対象として、ラーメン店の広報を支援すべく実施が決まったのだという。これまでも同社は、下北沢商店街(東京都世田谷区)を皮切りに、まちの広作室を全国6カ所で開催し、地域や店舗のクリエイティブにおける課題解決をサポートしてきた実績もある。

 当日は、同市が運営するポータルサイト「#推しメンやまがた」を通じて応募した7店舗の店主や店主クラスのスタッフ(10人)、山形ラーメンインフルエンサー(1人)、ラーメンインフルエンサー(2人)の計13人が集まり、講師に北沢直樹氏(イラストレーター/キャラクターデザイナー)を迎えて、アドビのクリエイティブツール「Adobe Express」の使い方を学び、SNSで目を引くようなデザインの画像を作成した。

●山形市内のラーメン店が抱える課題

 あまり知られていないかもしれないが、山形市はラーメンが“熱い”場所の1つだ。総務省統計局が毎年公表している「家計調査」によると、同市はラーメンの消費量が2022年、2023年の2年連続で日本一となったという。

 通常、福岡市の「博多ラーメン」ならとんこつスープ、福島県喜多方市の「喜多方ラーメなら煮干しだしのしょうゆ味、といったように“ご当地ラーメン”はスープに大きな特徴を持つ傾向にある。その点、山形市内にあるラーメン店は「とんこつ」「しょうゆ」「みそ」「鶏がら」と、多種多様なスープが特徴となっている。

 山形市の高橋大氏(商工観光部次長兼ブランド戦略課長)は、「どこか1つの店舗を取り上げて『山形市のラーメン』とはいえない。ラーメン店全体が、『山形ラーメン』を形作っている」と語る。

 続けて、広報活動におけるクリエイティビティの重要性を、アドビの吉原淳氏(マーケティング本部担当部長)が解説した。

 今回の取り組みに合わせて山形市内のラーメン店の広報活動について調査したところ、店舗運営や営業に関する最大の悩みは「人手不足」だったが、「集客」や「広報活動」で悩む店舗も少なからず存在したという。

 広報向けの制作物について聞いたところ、店舗のうち67%が「SNS用画像」、次いで49%が「メニュー表」、35%が「ポスター」、26%が「SNS用動画」を作っていると回答し、77%はSNSも運営しているという。

 SNSを使っている店舗は多数あるものの、その運用に課題を抱えていると店舗も88%と多い。課題を細かく見ていくと、「時間がない」という回答が36%と多かったそうだ。また、ポスターを自分で制作している店舗では51%が「費用がかかる」ことを課題として挙げている。その他、「(制作物の作り方やSNSの運用を)どのようにすれば良いのか分からない」ということも課題だ。

 今回のデザインワークショップは、このような背景があって開催に至ったのだという。

 吉原氏は「『まちの広作室』は、既に6カ所で行っており、好評を博している」と説明する。

 例えば下北沢商店街で実施した際は、ある中華料理店の店主はワークショップ前にはポスター制作など、「デザインのための費用がかさむ」と感じていたという。しかし、まちの広作室を受講した後、自分で撮りためた提供商品画像を素材として、Adobe Expressのスマートフォンアプリで写真を整えたり、文字を載せたり、背景をつけたり……といった感じでポスターやメニュー作りを「簡単に楽しく行えている」そうだ。

 単に楽しいだけでなく、「推したい商品を『人気No.1』として掲示することで、来店者の多くが注文するようになり、制作物が来店者にも響いているという実感がある」という感想も述べていた。

 吉原氏は「このように、Adobe Expressはちょっと方法を学ぶだけで楽しく簡単に使えるので、ぜひ今回のワークショップで皆さんにも使っていただきたい」と参加者に語りかけた。

●AIを活用した「Adobe Express」で“映える”制作物を!

 いよいよ「まちの広作室」の核心であるデザインワークショップの始まりだ。今回講師を務める北沢氏は、Adobe Expressアンバサダーでもある。

 北沢氏は、今日のお題について軽く触れた。

1. Adobe Expressについて

2. Adobe Expressでデザインを作る方法

3. アドビの画像生成AI「Adobe Firefly」について

 Adobe Expressには、多種多様なテンプレートや自由に使える素材集「Adobe Stock」を利用できる。そのため、きれいな制作物をすぐに作れること、また背景の削除や二次元コードの作成、動画のトリミングなどを簡単に行える「クイックアクション」があること、Adobe Fireflyではプロンプトを入力するだけで画像を作れることなどが紹介された。

 生成AIで作成した画像の商用利用の可否については、質問が多く寄せられるという。北沢氏は「Adobe Fireflyがトレーニング(学習)に利用しているのは、使用許諾を受けたAdobe Stock、オープンライセンス、パブリックドメインといったコンテンツだ。しかも、著作権やジェンダー、人種などに配慮して継続的に改善されている。生成物は安全だし、商用利用も行える」と解説する。

 今回はAdobe Expressを使ってデザインしていくが、めぼしい素材がない場合は、Adobe Fireflyを使って素材を作ることもできる。北沢氏はFireflyを使うことのメリットとして、次の5つを挙げた。

・素材を作る

・思いもよらないアイデアが浮かぶ

・イメージを膨らませる

・自分のスキルでは表現できないものを作れる

・時短になる

 北沢氏は特に、「思いもよらないアイデアが浮かぶ」の箇所では「そのまま使う必要はなく、プロンプトを入れて生成された画像を見て、こういうアイデアもあるのか、という気付きを得られる。それに沿った画像を作るなどして、クリエイティビティを発揮できる」と自身の経験を織り交ぜながら解説していた。

ステップ1:Adobe Fireflyの使い方をレクチャー

 前半は参加者に触ってもらいつつ、使い方を実演でレクチャーするというプロセスが取られた。まずはAdobe Expressに統合されたAdobe Fireflyの使い方だ。

 Adobe Expressのメニューの中から「生成AI」を選ぶとプロンプト入力の画面出てくるので、そこに例えば「観葉植物に囲まれた部屋 デスクとパソコン」と入力して「生成」ボタンをタップすると、ほどなくして雰囲気のある画像が生成された。

 また、画像で足りない要素を付け足す方法も紹介された。先ほどのプロンプトに言葉を追加するだけだ。

 その他に、「スタイル」や「構成」の追加方法も説明された。「スタイル」は生成画像の雰囲気を、「構成」は画面構成を思い通りにするのに有効だ。

 これには参加者たちも「おぉ」と感嘆の声を上げていた。

ステップ2:不要なものを削除/必要なものを追加する方法を伝授

 続いて、画像内で「不要なもの」を削除し、その部分を違和感のないように「生成塗りつぶし」で塗りつぶす方法が解説された。

 生成塗りつぶしのメリットについて、北沢氏は「せっかく良い写真を撮れたのに、『おしぼりが写りこんでしまった』とか『器が汚かった』という場合、これまでは写真を撮り直していたと思います。でも、Adobe Expressで生成塗りつぶしを使えば、それらをなかったことにできるので(撮り直す必要がないので)非常に便利です」と解説していた。

●オリジナルの画像をデザイン

 イベント後半は、参加者それぞれの持つ写真を使って、オリジナルの画像を作成する時間に充てられた。

 参加者に話を聞いたところ、ほとんどの人はAdobe Expressを使うのが初めてだった。しかし、それゆえか、あれこれ自由に試している姿が印象的だった。

 Adobe Expressには、豊富なテンプレートや素材が用意されている。北沢氏は「全て見ていくのは大変なので、検索していきましょう」と効率よく作成する方法を伝授していた。加えて、テキストや背景色の変更方法、素材をアニメーション加工する方法などを丁寧に説明しつつ、もっと知りたいという参加者のところへ行って、個別にレクチャーするなどして、参加者の創作意欲を刺激していた。

 最終的に完成したものをお互いに講評し合う場面では、プロジェクターで映し出された画像に「そういうこともできるのか!」と、それぞれ気付きを得られたようであった。

 「祭り」のテンプレートを使って、複数のラーメン画像をはめ込んだ上でアニメーション加工していた参加者は「初めてAdobe Expressを触ったが、直感的に操作できると思った。とはいえ、これで何ができるのかが分からなかったので、何ができるのか、どこにどのツールがあるのかを教えてもらえたのが非常に良かった。また同様の勉強の機会があれば、ぜひ参加したい」と語っていた。

 別の参加者も、やはりAdobe Expressを使うのは初めてとのことだったが、センスの良い画像を作っていた。「今はこの程度だけど、もっと試せばいいものが作れるはず。後でいろいろと試してみたい」と意欲を見せていた。

 文字だけでは伝わりにくい、拡散しにくい情報でも画像――“映える”画像があれば人目を引く。「まちの広作室」は、そのような画像の作り方を共有することで、「まちの」飲食店の広報活動を支えているのだな、と感じるイベントであった。

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