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「Core Ultraプロセッサ(シリーズ2)」は驚きの内蔵GPU性能に メモリ帯域が当初発表から“倍増”

ITmedia PC USER 2024年9月5日 12時5分

 既報の通りIntelは9月3日(中央ヨーロッパ時間)、ドイツ・ベルリンで開催される「IFA Berlin 2024」の開幕に先立って、モバイル向け新型CPU「Core Ultra 200Vプロセッサ」(開発コード名:Lunar Lake)を発表した。

 IT/PC業界全体がAI(人工知能)に傾倒していく流れの中で、同社はちょうど1年前に「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」を発表した。この時、同社は「AI PC」というキーワードを掲げ、「PCはAI時代へ」「AI時代のPC(のCPU)といえばCore Ultra」というブランディングを始めた。「もう1年か……」と、時の流れの早さを感じる。

 今回発表されたCore Ultra 200Vプロセッサは「Core Ultraプロセッサ(シリーズ2)」の一員となる。COMPUTEX TAIPEI 2024に合わせる形で、技術的な概要は6月に発表済みなので、「え、まだ出てなかったの?」と思う人も少なくないかもしれない。

 今回、IntelはベルリンでCore Ultra 200Vプロセッサの“正式な”発表会を行った。この記事では発表会の取材を通して得た情報を元に、本プロセッサについて改めてレポートしたい。

●全9モデル構成 PCメーカーの要望で追加ラインアップの可能性も

 Core Ultra 200Vプロセッサは、全モデルがPコア4基+Eコア4基(計8コア)構成となっている。最大クロックや搭載するメモリ容量(ごく一部のモデルは基本消費電力)の違いから、現時点では以下の9モデルが用意されている。

 Intelによると、このラインアップはあくまでも9月3日現在のものだという。発表会後の質疑応答では「PCメーカーの要望次第では、将来的なラインアップの拡充もあり得る」という旨の説明があった。具体的には「基本消費電力(PBP)を17W以下としたモデル」(※1)や「搭載メモリを64GBに増強したモデル」(※2)が想定されているが、あくまでも“可能性”程度の話とのことだ。

(※1)Core Ultra 200VプロセッサのPBPは基本17W/最小8Wに設定されている(Core Ultra 9 288Vのみ基本30W/最小17W)

●Pコアのマルチスレッド処理を廃止→ワッパ改善

 CPUコアは処理性能重視の「パフォーマンスコア(Pコア)」と、電力効率重視の「高効率コア(Eコア)」を併載する構成で変わりない。

 Pコアは「Lion Cove」(開発コード名)を4基搭載している。1基の物理コアで2つのスレッドを処理する「SMT(同時マルチスレッディング/ハイパースレッディング)」に非対応であることが、Lion Coveのホットトピックだ。

 そしてEコアは「Skymont」(開発コード名)を4基搭載する。EコアはSMT非対応だったので、この面での仕様的な変化はない。

 Lion CoveとSkymontのアーキテクチャ面の詳細な解説は拙著で説明済みなので省くが、ざっくり言うと「PコアをSMT対応させるよりも、非対応とすることで浮くトランジスタや消費電力の“予算”を活用してEコアを増やした方が消費電力当たりのパフォーマンス(ワッパ)がいいんじゃない?」という設計方針を採っている。

 そもそもSMTは、1基のコアでシングルスレッドを実行した際に余剰となる演算器を使わせるための機能だ。物理コアが2コアに“分身”する訳ではない。元々のシングルスレッド性能の高いIntelのCPUアーキテクチャでは、IPC(クロック当たりの処理命令数)の向上を突き詰めていくにつれて「SMTのうまみ」が生かしづらくなったということなのだろう。

 下に掲載する図は、Intelが自社で調べた「Lunar Lake対Meteor Lake」のパフォーマンス比較だ。

 パッケージの消費電力を「17W」にそろえて比較すると、Lunar Lakeは、Meteor Lake(シリーズ1)の16コア22スレッドモデル(Pコア6基12スレッド+Eコア8基8スレッド+LP Eコア2基2スレッド)よりも性能が良いのだという。これが「23W以上」となると、さすがにMeteor Lakeが逆転するのだが、差はわずか6%しかない。

 仮定の話だが、Lunar Lakeにより多くのCPUコア(12基くらい)を搭載する構成があったとしたら、23W以上における逆転を許さないだろう。

 次のグラフは、今回発表された中で最上位となる「Core Ultra 9 288V」の性能を、同じ30Wクラスの競合CPUと比べたクラフだ。具体的には、AMDの「Ryzen AI 9 HX 370」と、Qualcommの「Snapdragon X Elite X1E-80-100」と比べている。

 8コア8スレッドのCPUでありながら、Core Ultra 9 288Vは消費電力対性能において12コア24スレッドのRyzen AI 9 HX 370に“肉迫”する――Intelはこれでもかと、この点を強調していた。そしてSnapdragon X Elite X1E-80-100については、性能の割に消費電力が大きすぎる例として出したのだろう。

 その意図があるのかどうかは不明だが、Intelは今回のプレゼンテーションでSnapdragon X Elite X1E-80-100を、いわば「お笑い担当」として扱っているようにも見えた。

●メモリバスは「64bit」から「128bit」に訂正

 Core Ultra 200Vプロセッサは、チップ上にLPDDR5X-8533規格のメモリモジュールを搭載している。、6月に行われた機能概要の説明では、そのインタフェースが「64bit」であるとされた。

 今回の発表会では、本件について再度記者から質問があった。するとロバート・ハロック氏(クライアントコンピューティンググループ AI/テクニカルマーケティング担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー)が、「この件について誤解(ミスコミュニケーション)があった」とした上で、実は「64bit×2(デュアルチャネル)の128bitバス接続だった」と訂正を行った。つまり、メモリバスはCore Ultra(シリーズ1)と同等ということになる。

 LPDDR5X-8533規格のメモリが128bitで接続されるということは、理論上の最大アクセス速度は毎秒約136GBとなる。Core Ultra(シリーズ1)が毎秒約120GBだったことを踏まえると、わずかだがメモリアクセスのスピードが改善される。

 ここまでの帯域があれば、それなりに高いゲーミング性能や、AI処理性能、メディア処理性能が期待できそうだ。

●GPUコアは「Xe2アーキテクチャ」に

 Core Ultra 200VプロセッサのGPUコアは、アーキテクチャが「Xe2」(開発コード名:Battlemage)に刷新された。Xeコアの数はモデルによって異なり、7基の「Intel Arc 130V GPU」と8基の「Intel Arc 140V GPU」の2種類が用意されている。

 Intel Arcシリーズ(Xe/Xe2アーキテクチャ)のGPUは、「Xeコア」と呼ばれるGPUコアが、複数基のベクトル演算エンジン「XVE(Xe Vector Engine)」を内包する構成となっている。上位モデルに搭載されるArc 140VではXeコア(SIMD16)は8基なので、XVEは計128基搭載されていることになる。

 Core Ultra 9 288Vの場合、Arc 140Vは最大2.05GHzで駆動する。当初の筆者の予想よりも随分と高いクロックで、興味深い。ここから理論性能を計算すると、以下の通りとなる。

8(Xeコア)×8(XVE)×16(SIMD16演算)×2FLOPS(積和算)×動作クロック(MHz換算)≒4.2TFLOPS

 計算で求められた約4.2TFLOPSという性能だが、据え置き型ゲーム機のGPUと比較すると「Xbox Series S」の約4TFLOPSを超え、「プレイステーション4 Pro」の約4.3TFLOPSに迫る値となる。Intel CPUの内蔵GPUというと、一昔前は「画面が出るだけ」というイメージが強かったかもしれないが、そのイメージを吹き飛ばすような高性能ぶりで、感慨深い。

 先代のXeアーキテクチャと同様に、Xe2アーキテクチャのGPUはリアルタイムのレイトレーシング処理にも対応する。

 Xe2アーキテクチャのGPUでは、メディアエンジン(ビデオプロセッサ)回りも進化している。H.264(MP4)やH.265(HEVC)は当然のこと、採用事例が増えているAV1のエンコード/デコードに加え、次世代コーデックである「H.266(VCC)」のデコードもサポートしている。

 また、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)ではなぜか省かれてしまった推論アクセラレータ「XMX(Xe Matrix Engine)」が“復活”したこともポイントだ。INT8演算時における理論性能値は、XVEによるDP4a演算と、XMXによる演算の合算で67TOPS(1秒当たり67兆回)とされている。

●NPUの性能は最大48TOPS ついに「Copiot+PC」対応へ

 IntelのAI PC用プロセッサとして、Core Ultra 200Vプロセッサは2世代目となる。競合の動向もあってか、本プロセッサではAIアクセラレーション機能にもかなり力が入っている。

 先述したXe2アーキテクチャのGPUコアでは、ピーク時で67TOPSのAI処理性能を確保。CPUコアでもVNNI系やAVX系命令セットを活用することで、ピーク時で5TOPSのAI処理性能を得られる。

 さらに、Core Ultra 200Vプロセッサでは、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)よりも世代の新しい推論アクセラレータ「NPU4」が搭載されており、5基搭載モデルでは40TOPS、6基搭載モデルでは47~48TOPSのピーク処理性能を備えている。

 Core Ultra 200VプロセッサのNPUのピーク性能は、4月にMicrosoftが発表した「新しいAI PC(Copilot+ PC)」の性能要件である「40TOPS以上」を満たしている。よって、PC業界では「Lunar Lake(Core Ultra 200Vプロセッサ)搭載ノートPCはCopilot+ PCになるのか?」という点に注目が集まっていた。

 今回の発表会ではMicrosoftのパバン・ダブルリ氏(Windows+デバイス担当コーポレートバイスプレジデント)が登壇し、Core Ultra 200Vプロセッサ搭載ノートPCを11月をめどにCopilot+ PCとしてサポートすること発表した。

●Core Ultra 200Vプロセッサは予想以上に高性能

 今回の発表会場には、Core Ultra 200Vプロセッサを搭載するノートPCの実機展示が行われた。一部の展示機は実際に触れることもできたので、それらについて言及しておきたい。

 展示されていたノートPCは、13型前後の画面を備える1kg前後の重さのモバイルモデルが中心だったが、中には16型程度の大画面モデルもあった。PCメーカー的には、Core Ultra 200Vプロセッサを「そこそこ性能重視なノートPC」にも採用したいという意図も見え隠れする。

 デモで個人的に驚きを隠せなかったのは、やはり内蔵GPUの性能の高さだろう。ゲームのフレームレートを比較する展示では、理論性能が2倍以上も高いはずのRyzen AI 9 HX370のフレームレートがどういうわけか不思議なほどに安定していなかった。逆に、Core Ultra 200Vプロセッサは驚くほどにフレームレートが安定している。

 この展示の信ぴょう性については、今後各所から出てくるはずの実機レビューなどで明らかになるだろう。

 もっとも、いくらRyzen AI 300シリーズよりもゲームが安定して動作するといっても、会場で展示されていた“明らかな”ゲーミングPCは、MSIのポータブルモデル「Claw 8 AI+」1台だけだった。

 繰り返しだが、Core Ultra 200Vプロセッサは意外と高機能かつ高性能な内蔵GPUを備えている。趣味用途程度の映像編集はもちろん、カジュアルゲーミング用途にまでに対応できそうだ。多目的ノートPC用のCPU(SoC)として、ニーズが高まるのかもしれない。

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