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LenovoとAMDが語る「AI PC」の将来像 普及には業界横断のAIパートナーシップが重要に

ITmedia PC USER 2024年9月10日 18時53分

 9月上旬にIntelとQualcommからPC向けの新しいCPUが正式発表されたのにあわせ、Lenovoからも新CPUを搭載した新製品の数々が発表された。

 9月5日(現地時間)にドイツのベルリンで開催されたLenovoの発表会では、Intelの“Lunar Lake”(開発コード名)こと、第2世代のCore Ultraプロセッサを搭載した「ThinkPad X1 Carbon」などが披露されたが、それらの新製品には「Aura Edition」という呼称が付けられている。

 これはLenovoとIntelの間で、2年間にわたるコラボレーションが水面下で行われていたことを強調するものだという。

 こうしたPCメーカーとチップセットメーカーのコラボレーションはIntelだけでなく、AMDとの間にも存在している。5日の発表会で披露された計10モデルの新製品のうち、半分がAMDプロセッサを搭載していたこともあり、Lenovoが手掛ける「AI PC」戦略において、AMDも間違いなく重要なピースであると考えられる。

 今回はこの両社のコラボレーションについて、主に“コマーシャル”(企業向け)分野を中心とした視点から、レノボ・ジャパンの塚本泰通氏(執行役員 副社長 開発担当 CPSD 大和研究所)と、AMDのマット・ウナングスト氏(Commercial Client and Workstation シニアディレクター)に話を聞いた。

●LenovoとAMDの“AI PC”コラボレーションは3年前から

──「AI PC」も第2世代が登場しつつありますが、今回の「ThinkPad T14s」をはじめ、両社間でのどのようなコラボレーションが行われたのでしょうか。実際に製品を市場に出すにあたり、どのようなエピソードがありましたか?

ウナングスト氏 (ThinkPad T14sに搭載されている)Ryzen AI 300シリーズを6月のCOMPUTEX TAIPEI 2024で発表しましたが、この製品は非常に生産性が高いもので、バッテリー駆動時間も向上しています。

 私たちAMDの取り組みは、2023年からスタートしています。特にコマーシャル分野において重要なのは、パフォーマンスとバッテリー駆動時間のみならず、セキュリティを加えた3つの要素です。私たちのAMD PRO Technologiesに、LenovoのThinkShieldというソリューションなど、両社のコラボレーションは非常に強力で、数年先の長期的視点を見据えたエンジニアの協力体制ができています。ハードウェアのみならず、ソフトウェアを含めたエクスペリエンス全体の包括的な協力体制といえるでしょう。

塚本氏 Lenovo側の視点でいえば、最新のテクノロジーを最適な形で載せていくというところで、やはり最適なシャシーや温度管理、そしてキーボード回りが熱くならないかといった使用感、バッテリー駆動時間に充電速度など、いろいろな要素で仕上げていくことが重要です。

 戦略的なコラボレーションがどのような形で行われているかといえば、数年先を見据えた、かなり前の段階からデザインプランを練っています。プラットフォームの面でも、単にAMDの製品を利用するというのではなく、実際にLenovoが持っているお客さまの声を反映する形で、共同で製品作りを行っています。

 両社の間にはコロケーションラボというか、共同の研究開発拠点があり、開発段階で出てくるいろいろな問題を持ち込み、エンジニア同士がフェース・トゥー・フェースですぐに集まってチューニングしています。

──ジョイントラボでは実際にどのようなチューニングが行われているのでしょうか?

塚本氏 チューニングの段階では、ベンチマークでどういった数字を出すのかという話だけではなく、『一緒にこういうシナリオを考えてチューニングしていきましょう』といったことが行われています。

 例えばコロナで、多くの人が在宅勤務でTeamsを使うようになりましたが、実際に使ってみたら短時間しか使えなかったということでは困ってしまいますよね。LenovoではAMDのみならず、Microsoftや他のISV(独立系ソフトウェアベンダー)を巻き込み、アプリケーションの起動からWebブラウジング、そしてストリーミングまで、さまざまな最適化のための検証を行っています。

 この他、コマーシャル分野で独特だと思うのは、外付けディスプレイをつなげて使うお客さまが多いことですね。USB Type-Cケーブルでドッキングステーションに接続し、複数のディスプレイを接続する用途が多いようですが、その際にパフォーマンスを含めた動作に問題ないか、そういったことを包括的に検討しつつ開発を行っています。

──コマーシャル分野とコンシューマー分野におけるPC開発では、どういった部分が最も異なりますか?

塚本氏 コマーシャル分野では主に2つのターゲットがあり、1つはビジネス・エンドユーザーということで、本当に端末として使うお客さま、もう1つがIT部門など業務の中でPCを活用するお客さまです。前者はよりコンシューマー分野に近く、いかに安心して使っていただけるかを主眼としています。

 一方で、後者はどう管理するのか、例えば私たちが出荷しているPCそのままの状態で利用するのではなく、彼ら自身のコーポレートの利用イメージを作成し、それを導入していることが多くあります。その中で、いかにPCをうまく“デプロイ”していくのか、さらにセキュリティや管理性が求められるようになり、そこがコンシューマーと大きく異なってくるところです。

 Lenovoの訴求ポイントは、私たちの技術をいかに最新のプラットフォームに最適化していくか、もちろんOSもそうですが、それ以外のあらゆる部分でセキュリティをしっかりと提供していくことにあります。

ウナングスト氏 設計側の立場でいえば、より良いセキュリティ、管理性、そして信頼性の3つがポイントとなるでしょう。AMD PRO Technologiesのセキュリティ機能もそうですが、多層にわたるセキュリティ設定が必要です。

 MicrosoftのOSレベルのセキュリティに加え、ThinkShieldというセキュリティソリューションなど、アプリケーションレイヤーでの対応が重要なのです。

●AIエコシステムの拡大には、ISVのコミュニティーが重要に

──AI PC元年と呼べるほど製品が花盛りですが、このエコシステムの拡大でどのような点が重要で、ユーザーにメリットがあると考えていますか?

ウナングスト氏 まず、ユーザーにとってのメリットですが、第1世代と第2世代のAIプロセッサにおいて、それが使われている既存のアプリケーションにより良いパフォーマンスやサービスを提供できることです。

 例えば、TeamsやZoomなどのアプリケーションがより長い時間、利用できるようになります。Copilot+ PCが提唱するように、将来的により多くのアプリケーションがAIを使うようになれば、それらを並列させて処理できるようになるメリットもあるでしょう。

 AMDとしては、AIエコシステムにコミットしており、こうしたAIアプリケーションを開発するAI ISVのコミュニティーを2024年内に150社集めるという目標を立てていますが、問題なく達成できそうです。2025年にはさらに多くのISVが参画することになるでしょう。

塚本氏 Lenovoとしても、やはりISVが重要だと考えています。CPU、GPU、NPUがそろったわけですが、必ずしも全てのプロセスでNPUを使うのではなく、適材適所で利用し、電力当たりのパフォーマンスを向上させて生産性を上げることが必要です。

 例えばLenovo Viewという、会議中にWebカメラの画質を良くするソフトウェアを提供していますが、これはこれまでGPUで処理していましたが、NPUで動作するようになります。こうすれば性能も上がるし、消費電力も下がるのでベストな使い方となるでしょう。

 将来的にそういったものを増やしていき、お客さまの生産性向上で成功に貢献していくのがミッションです。加えて、現状はクラウドで処理しているようなものであっても、ローカルで処理して自分のデータは自分で守れるようにしたいなど、ビジネスをやっている上でそういうニーズが増えてきます。Lenovoでは、いずれにせよお客さまに安心して使っていただけるビジョンを示し、うまく活用してほしいと考えています。

──ISVの重要性に言及されていますが、それを踏まえて将来的なAI PCのビジョンをどのように考えていますか?

ウナングスト氏 指摘されたように、サードパーティーであるISVの存在が非常に重要であり、業界を横断したAIのパートナーシップが必要です。ユースケースをさらに足していく中で、パートナーシップが重要になってきます。私たちがハードウェアを提供するだけでなく、ソフトウェアも合わせてソリューションを提供していく必要がありますね。

塚本氏 Lenovoとしては、パーソナライズを重視しており、AI PCでとても大事な要素だと考えます。自分の情報をパーソナライズするのに自身のデータをうまく活用しなければいけないわけで、それに適したISVをうまく活用し、安心して生産性を上げていける環境が重要です。

 ユーザーが自然と使うようになる仕組み──例えば、昔はGoogle検索といえばそれ自体が独立した行為だったものでしたが、今では誰もが自然に使うものになりました。

 そうした世の中で、もしインターネットに接続できなくなったとしたら『ああ、自分はこんなに検索に頼っていたんだ』と気付いたりするでしょう。

 同様に、AIでクラウドが使えなくなったらどうなるだろうという場面も出てくるでしょう。そうした時にローカルで利用できるAIの環境があると便利で、そこのバランスを大事にしたいのです。それらを包含したISVのエコシステムを実現できればと考えています。

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