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シャープがEVを売りたい理由 CTOに聞く、“シャープらしさ”を取り戻すために今考えていること

ITmedia PC USER 2024年9月12日 15時5分

 シャープが、9月17日と18日の2日間、東京・有楽町の「東京国際フォーラム」で技術展示イベント「SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”」(参加費無料/要参加登録)を開催する。

 同社専務執行役員 CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷隆氏は、「独自技術をベースに近未来の価値を提供してきたシャープが、これからの近未来に向けた世界観を、ユーザーや協業パートナーなどのステークホルダーと共有し、共鳴してもらうためのショーケースがSHARP Tech-Dayである」と位置付ける。

 SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”の狙いについて、同社の種谷CTOに聞いた。

●「Game Changer」の活動を展開するための「Next Innovation」

―― SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”は、2023年に続き2回目の開催となります。テーマには「Next Innovation」を掲げました。この狙いを教えてください。

種谷 2023年のSHARP Tech-Dayでは「Be a Game Changer」をテーマに掲げ、2024年は「Next Innovation」をテーマとしました。ただ、これはGame Changerというテーマをクリアしたから、次に進んだというものではありません。Game Changerという姿勢は、今回のSHARP Tech-Dayでも継続して取り組んでいるものです。

 今、社内では日々の議論の中で「それはGame Changerになりうるのか?」といった話がよく出てきます。Game Changerは、シャープが強く意識し続けなくてはならない言葉ですし、それが社内に浸透してきたという手応えはあります。

 そして、Game Changerの活動を「点」で終わらせずに「線」として展開するには、Next Innovationという言葉が適していると考えました。

 当社は6月から新たな経営体制に移行し、ブランド事業に集中した事業構造を早期に確立することを打ち出しています。既存のブランド事業と新たなイノベーションを融合し、全体をアップグレードしていく取り組みを加速していているところです。

 SHARP Tech-Day'24の展示会場は、新たなイノベーションを生み出すユースケースを体感してもらえる場にし、当社が打ち出した近未来に向けた世界観をユーザーや協業パートナーなどのステークホルダーと共有し、共鳴してもらうためのショーケースにしたいですね。

―― 2023年のSHARP Tech-Dayを振り返ると、どんな成果が出ましたか。そして、それは2024年のSHARP Tech-Dayにどうつながっていますか。

種谷 2023年のSHARP Tech-Dayで展示した技術やソリューションは、既にいくつかの商談が始まっていたり、実用化されたりしています。AGV(自動搬送装置)を活用した倉庫ソリューションはもうビジネスにつながっていますし、デバイスは目的や用途が明確な場合が多く、製品への応用は早い段階から進んだものが多いですね。

 また、話題を集めた静音技術は、2024年8月に発売したシャープの掃除機に適用していますし、10月以降に発売する製品の中にも2023年展示した技術を採用したものがあります。一方で、お客さまの声を聞いて方向転換すべきだと判断したものもあり、それは出口戦略を大きく変えているなど、成果が着実に出ています。さらに、私から見て最も大きな成果は、技術者のモチベーションが上がったということです。

 これまでは完成した製品に対して、お客さまから声をいただくということはあっても、まだ製品になっていない技術の段階で、直接お客さまの声を聞くということはほとんどありませんでした。自分たちのコンセプトや世界観を早い段階で聞いていただき、評価をしてもらい、場合によっては間違いに気が付くということもります。

 目指した世界観に共鳴いただくと、世の中に早く出していきたいという気持ちが強くなりますし、今回のTech-Dayに向けても必ず間に合わせるんだという気持ちが出てきています。学会での発表とは異なり、技術者自らがオープンにプレゼンテーションができ、しかもユースケースを元に、どう社会を変えることができるのかといったことを語れる場を持つのは非常に重要なことです。

 2023年のSHARP Tech-Dayの経験を経て、技術そのものが生み出す価値や社会に対する影響、未来への価値という大きな視点で、技術者が考えるようになっています。2024年のSHARP Tech-Dayでも、技術者自らが展示ボードの言葉を考えていますが、技術の説明はせずに、技術によって生まれる価値だけを訴求してもらっています。

 技術者にとっては苦痛かもしれませんが(笑)、その癖をつけると、日々の開発でも視点や発想が変化していきます。SHARP Tech-Dayの経験は、当社技術者のモチベーションを高めるだけでなく、技術の中身だけにこだわらずにユースケースから生み出す価値を捉える視点へと変化したり、発想を変えたりするきっかけにもなっています。

 今回は50以上の展示を行い、そのうち半分が初めて公開するものであり、残り半分が2023年からアップデートしたものですが、パネルだけの展示はほとんどありません。モノが動いたり、直接触れたりして、来場者が価値を感じてもらいやすい展示内容にしています。

●フードロス削減を目指して開発された「エリア別選択加熱技術」

―― 展示する技術やソリューションは、どのような観点からを選んだのですか。

種谷 今回のSHARP Tech-Dayでは、AI/EV/ESGを基軸に50以上の展示を行います。前回は42テーマでしたが、私は何でも「2割増し」を目標にしていますから(笑)、展示数も「2割増し」にしました。

 2024年も、当社が持っている全ての技術を見るために私は全国を飛び回りました。その中から、当社全体に大きな波及効果を及ぼす技術であること、ブランド事業の再成長に向けて大きく貢献できる領域であること、技術の進展によって大きなインパクトが見込まれる分野であることなどを条件に選びました。

 そして、社会課題となっている領域に対して、一石を投じることができる技術なのかという点にもこだわりました。例えば、「エリア別選択加熱技術」は1つのプレート上に乗ったご飯や総菜のあたためと、刺身などの解凍を同時に行えるように、エリアごとに出力を細かく設定することができます。

 技術としては加熱を細かく制御している部分が鍵となりますが、私たちが価値として捉えているのは、これによって保存しやすく、消費期限が長い冷凍食材の活用シーンが広がり、集合施設や食堂、コンビニエンスストアなどで利用/販売されるようになれば、食品ロスの削減につながるという点です。

 国内だけで年間400万トン以上が廃棄されている食品ロスの課題に向き合うことができる技術であり、そうした世界観に共鳴していただけるお客さまやパートナーと一緒になって、この技術を活用し、社会課題を解決していきたいと考えています。

 技術の中には、Next Innovationという観点で展示するよりも、製品化への取り組みを加速した方がいいと判断したものもありましたし、単に技術がアップデートしただけで、イノベーションにはつながっていないと判断したものもありました。

 展示されたものが、「この技術は面白いね」というものばかりでは意味がありません。どう社会が変わるのか、どう生活が変わるのかということが大切です。技術としては小さな進歩に留まっていても、ユーザーにおけるイノベーションが大きいと期待されるものは展示をしましたし、技術が大きく変化していても、それがユーザーに与えるインパクトが少ないと判断した場合には展示を見送りました。

 私自身、SHARP Tech-Dayの展示会場には、納得がいく技術をそろえることができたと思っています。この1カ月で、かなり進歩した技術もありました。技術者は、SHARP Tech-Dayが始まるぎりぎりのところまで開発を進め、会場に持ち込むことになります。

●独自AI技術「CE-LLM」を向上 EVコンセプトモデル「LDK+」も

―― 2024年のSHARP Tech-Dayでは、EV事業への参入が大きな話題となりそうです。「Next Innovation “EV”」のエリアを設置し、EVコンセプトモデル「LDK+」(エルディーケープラス)を展示することを発表しています。

種谷 当社は、数年後をめどにEVを発売します。そのときに、シャープブランドのクルマとして販売するのか、パートナーとの合弁会社を設置して別ブランドで販売するのかと出口はいろいろありますし、現時点では決まったものは何もありません。

 冷蔵庫のブランドのクルマが街中を走ることが、果たして受け入れられるのかということも考えなくてはならないですし(笑)。ただEVは、もはや動く家電ともいえる存在になっていますし、家電の延長として捉えることができます。そこには、家電メーカーである当社が提供できる価値が存在するといえます。

 例を挙げると、ソニーは車内空間でエンターテインメントを楽しむEVを提案していますが、当社のEVはそれとは異なり、もう1つの部屋として生活に根ざしたさまざまな空間に変えて、活用できる価値を提供することを目指します。

 当社が着目したのは、EVは家の駐車場に止まっているときには価値を生み出していないという点です。EVは家とつながることが増え、ガソリン車ではできなかったような連携によって、多彩な用途が想定されますが、今はバッテリーを蓄電池として利用する程度の話であり、EVの車内空間は何も使われないままで、もったいないと感じていました。そこに、家電メーカーとして新たな提案ができると考えています。

 「LDK+」は後部座席が後ろ向きに回転し、ドアが閉まると両サイドの窓に搭載した液晶シャッターが閉まり、プライベートな空間が生まれます。65V型のディスプレイを備えていますから、リモートワークのスペースとしても利用できたり、集中して仕事をしたり、子供部屋としても利用できます。

 ガソリン車と違って、エンジンをかけずにエアコンを回してビールを飲みながら、大画面かつ大音量で誰にも邪魔されず、映画を楽しむといったことも可能です(笑)。また、大画面を通じて家の中にいる家族とのシームレスなコミュニケーションができるので、まるで隣の部屋にいるような状況も作れます。

 LDK+という名称は、家の中かにあるL(リビング)/D(ダイニング)/K(キッチン)に加えて、柔軟に使うことができるもう一部屋を実現するという意味を込めています。

 また、こんなこともヒントになりました。カーシェアやレンタカーの会社に話を聞くと、今は動かない利用が増えているそうです。営業担当者がEVを借りて、エアコンを効かせながらクルマを動かさずに会議をしたり、テレワークをしたりという用途で使っているというのです。会議の音が漏れずに、周囲に気兼ねなく発言ができるというクルマならではの特性を生した使い方です。まさに、仕事のための部屋がEVの中で実現されているわけです。

 EVになればデータ連携も可能ですから、家庭内で使用している家電で蓄積したデータを元に、その人の好みの温度や、シーンに合わせた明かりを提案し、EVと車のどちらで映画を見た方が省エネであるかといったこともAIが提案してくれます。当社独自のAI技術であるCE-LLM(Communication Edge-LLM)やAIoT技術を活用して、住空間/人/エネルギーの3つをつなぎ、快適でサステナブルな空間を実現できるというわけです。

 EVの世界の1つの可能性として、当社の強みを生かした提案がLDK+です。当社はブランド事業で、他社に真似される商品作りを目指していますが、EVの世界においても新たな価値を作り、提案するという姿勢を打ち出していきます。EVは当社が役に立てる領域であり、当社にとって、魅力的な市場だといえます。

 なお、SHARP Tech-Dayの開催初日には、「EVのグローバル動向とシャープのEV取り組み方針」と題して、日産自動車の副COOやニデックの社長を務めた鴻海精密工業 EV事業CSOの関潤氏と、私が登壇して基調講演を行う予定です。

●イノベーションアクセラレートプロジェクトで開発スピードを2倍に

―― SHARP Tech-Day'24では、50以上の展示のうち、CE-LLMを始めとするAI関連の展示が半数以上を占めます。シャープがAIに対する取り組みを積極化していることを感じます。

種谷 当社の経営トップを始め、多くの社員がAIはユーザーに届ける価値を変えることができる技術であり、そこにチャンスがあると捉えています。当社では、新たに「イノベーションアクセラレートプロジェクト(通称:I-Pro)」を、2024年5月からスタートしました。これは、1977年からスタートし、数多くの成果を上げてきた「緊急プロジェクト(通称・緊プロ)」を進化させたものであり、CEO主管の全社プロジェクトとなっています。

 各ビジネスグループから開発に適した人材を集めて総力を結集し、開発スピードを2倍に高めることを合言葉に、新規事業の早期創出を目指しています。現在、EVエコシステムに取り組む「I-001プロジェクトチーム」と、生成AIをテーマに活動している「I-002プロジェクトチーム」があります。

 いずれもキーになるメンバーが集まった組織であり、議論が促進され、全社にも波及しやすい体制となっています。I-Proの1つとして生成AIに取り組んでいることからも、当社がこの分野を重視しているかが分かると思います。私は、I-Proは「シャープらしさ」を取り戻すには必要不可欠な取り組みだと思っています。

―― それはなぜですか。

種谷 私は、「シャープらしさ」は脈々と残っていると思っています。SHARP Tech-Day'24に50以上ものNext Innovationを展示できるということは、まさに「シャープらしさ」が根づいていることの証です。その点は全く心配していません。

 ただ、欠けていたのはビジネスグループ主体の縦割りの開発体制によって、新領域に対してアグレッシブさがなかったという点です。縦割り組織では、イノベーションが生まれにくいのも事実です。組織横断で、CEO主管のもとに推進するI-Proは、「シャープらしさ」を取り戻すことにつながると考えています。

―― シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「シャープらしさが戻るまでには数年かかる」と言っています。時間がかかりますか。

種谷 CEOの立場で見れば、利益を得て初めて「シャープらしさが戻った」といえます。ただし、CTOである私の立場では、今「シャープらしい」商品や技術を出さないと、3年後には利益が出ません。少しでも早く「シャープらしい」商品を出すことが私の役割です。

―― シャープは、2024年度からスタートした中期経営方針の中で、デバイスのアセットライト化を打ち出しています。これまではデバイス(技術)とブランド(商品)がスパイラルで相乗効果を発揮し、シャープの成長を支えてきました。これが崩れることになるのではありませんか。

種谷 もともと当社のデバイスは、シャープの商品の特徴を出すために開発/生産を行ってきました。基本は内需向けです。しかし、途中からそのバランスが崩れ、他社のためのデバイスを作るところに力を注ぐようになりました。デバイスのアセットライト化は、それをもとに戻そうとしているものであり、決して、完全にデバイスをやめるわけではありません。

 開発は継続し、当社のブランド商品を特徴づけることができるのであれば、それはデバイスに埋め込んだ方がいいと判断するものもあるでしょう。デバイス開発は、当社のブランド事業を大きくするというミッションの元に投資することになり、他社の事業を特徴づけするデバイスに投資することはしません。

 かつてはスパイラル戦略という言い方をしていましたが、結果としてデバイスを売るための投資になっていたという反省点はあるにしても、その考え方は残っています。つまり、スパイラル戦略の形も変化することになります。

 今後は、CE-LLMとブランド商品のスパイラルもあるでしょう。また、CE-LLMをLSIに埋め込んだ方がいいと判断すれば、デバイスのスパイラルが生まれるかもしれません。

●AIの利便性を享受できる世界を作る「Act Natural」

―― シャープ独自のエッジAIであるCE-LLMは、2023年のSHARP Tech-Dayで発表されて話題を集めました。この1年でどんな進化を遂げましたか。

種谷 2023年はCE-LLMを発表し、概要をお伝えすることが中心となっていましたが、2024年は一気に「実装」の段階にまで入ってきています。CE-LLMの役割は、より重要性が増していますし、私自身、その手応えを強く感じているところです。2023年はぼんやりしていた部分も、2024年になってかなりクリアになり、視界が晴れ、これからはさまざまなものがローンチできると考えています。

 CE-LLMは、エッジAIならではの特徴を生かした提案ができます。例えば、ユーザーからの問いかけに対し、ChatGPTなどのクラウドAIで答えるのがいいのか、それともローカルLLMなどのエッジAIのどちらで処理するのが最適かを即時に判断し、スムーズで自然な会話のやりとりを実現することができます。

 今のAIでは、会話をしていると返答までに時間がかかることがありますが、その間、利用者はちゃんとした答えが返ってくるのかが不安になります。AIが「そうですね」といったような相づちを打ったり、「今、答えを考えているところです」といった内容を表示したりできるようになれば、利用者は不安にならないですみます。これも、クラウドAIに、エッジAIが組み合わせることによって実現できる機能の1つです。

 さらに、個人に依存するようなプライバシーを守りたい情報はエッジで処理したり、データ量が多いものは一部を切り出してクラウドAIにあげて処理したりすれば、ネットワークへの負荷を削減したり、データセンターでの処理を最小化し、電力を削減したりといった効果にもつながります。

 そもそも、CE-LLMが動作する末端のデバイスは、CPUを始めとして省電力を実現するための工夫が多く盛り込まれています。ここで前処理をすれば、社会全体の省電力化に貢献できるは明らかです。全てをクラウドAIに任せると、エネルギー問題においても懸念があることは多くの人に共通した認識です。

 CE-LLMは、人に寄り添うAIを実現するための要素技術であるとともに、クラウドAIと組み合わせることでAIの価値全体を引き上げることができ、社会問題の解決につなげることができます。

 CE-LLMが「実装」のフェーズに入る中で、今回のSHARP Tech-Dayではコンセプトをより明確にし、価値観をより多くの人に広げ、来年以降の「実用化」に向けたイメージをお見せしたいと考えています。また、CE-LLMでは引き続き、スタートアップ企業との連携も強化しており、その一端も紹介します。

 さらにSHARP Tech-Dayでは、当社のAI戦略の全体像やシャープが提供するAIの価値といったものを発表したいと思っています。新たなデモストレーションもお見せできます。ぜひ楽しみにしていてください。

―― シャープは生成AIによって、どんな価値を提供することができますか。

種谷 端的に言えば「Act Natural」です。Act Naturalでは、AIを利用することで生活そのものが、より自然になることを目指しており、日々の生活の中でAIの利便性を享受できる世界を作っていくことになります。

 ナチュラルな生活の実現が当社流のAIであり、そこに価値を提供します。その点では、知恵を授けるためのAIとは役割が異なります。そして、利用者のそばにあるエッジAIだからこそ、Act Naturalを追求できます。

 家電には数多くのボタンがあり、複合機も利用手順が複雑だったりします。あるいは、料理中にタッチ操作をしなくてはならないのに、手が汚れていて押せないといった不便を感じたことがある人もいるでしょう。Act Naturalが目指す世界は生成AIを利用することで、こういった余計な操作を排除し、リモコンを手に持つことさえ無くすことができるようにしたいと思っています。

 洗濯の際に、洋服の汚れの傾向や汚れ具合、最適な洗濯時間や洗剤の種類を、その都度、人が判断してボタンを複数回押すのではなく、人と洗濯機の間に生成AIが入って、スタートボタンだけを押せばいいという世界が理想です。もしかしたら、スタートボタンを押すことさえいらないかもしれません。これが、当社が目指すAct Naturalの世界観です。

 生成AIによって、あらゆるものが変化すると考えています。もっと自然に、もっと簡単にできるものも増えていくでしょう。そこに向けて発想を変えていかなくてはなりません。

 私たちは、TVのリモコンは便利だと思っていますが、本当に便利なのか、本当に自然な操作なのかということを、いま一度考える必要があります。リモコンを持っただけで片手が他のことに使えなくなります。これは果たして自然なのか――。

 生成AIを利用することで、リモコンの役割は明らかに変化します。機械を使うために操作するという感覚すらない、自然な操作が追求できる時代がやってきたといえます。今の操作は本当に自然なのか、リモコンの存在は自然なのかといったように、全てのことを疑いながら、より自然な操作は何かといったことをゼロベースで模索していく必要があります。こうした取り組みが、Act Naturalの実現につながります。

●AIoT 3.0で社会課題の解決のための基盤へと進化

―― シャープはAIとIoTを組み合わせた「AIoT」を提唱していますが、このほど「AIoT 3.0」を新たに打ち出しました。AIoTは、どんな進化を遂げているのですか。

種谷 2024年度から、シャープが進めているのが「AIoT 3.0」です。AIoTは、2015年にさまざまな家電をIoTによってクラウドのプラットフォームにつなぎ、AIによって人に寄り添う、優しい存在へと進化させることを目指してきました。まずは、シャープのTVや白物家電をAIoT化することで、家電の機能やサービスを拡張することを目指しました。

 例を挙げると、ヘルシオでは最新のレシピをダウンロードすることができたり、調理履歴を元に各家庭の好みを理解してメニューを提案したりといったことができます。これを「AIoT 1.0」とすれば、サービスをさらに進化させて複数機器との連携や住設機器との連携、他社サービスとの連携によって、新たな価値を提供してきたのが「AIoT 2.0」だといえます。

 2024年9月1日時点では991機種がAIoTに対応しており、対応製品の累計出荷台数は国内で900万台を超えています。

 こういった広がりをベースに、さらに進化を遂げたのが今回の「AIoT 3.0」です。ここでは社会課題の解決のための基盤として、AIoTが活用されることを目指しており、既に一部では関係団体や企業とともにPoCを開始しています。背景にあるのは、AIoT対応の家電が900万台普及したことで、新たな価値を提供できるようになったことです。

 例えば自然災害などが発生し、停電したり、場合によっては地域が孤立してしまったりといったことが国内でも起きています。多くのAIoT家電が接続されたデータをもとに、電気が停止したエリアなどを即座に把握することができますから、自治体や関連団体と連携することで、迅速な救助活動や支援活動につなげることも可能です。

 AIoTが防災レジリエンスや高齢者見守り、家事支援、カーボンニュートラルといった社会課題の解決に向けた基盤へと進化し、それを実現するために地域との連携を加速していく考えです。SHARP Tech-Dayでも、AIoT 3.0の展示コーナーを設けて、AIoTがどんな形で社会のお役に立てるのかを紹介する予定です。

―― 「SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”」の来場者には、何を感じ取ってもらいたいですか。

種谷 ひと言で言えば「シャープのDNAとは何か?」ということを、来場者の方々に感じ取っていただきたいと思っています。そして、「この技術を使ってみたい」と思ってもらえることが大切だとも考えています。

 Game ChangerやNext Innovationという言葉は、振り返ってみると当社が100年以上に渡って、脈々と受け継いできたものです。創業者である早川徳次氏の「他社が真似するような商品を作れ」という言葉も、当社がGame Changerとなり、Next Innovationを起こしたからこそ、他社が追随し真似されることになったわけです。

 私がシャープに感じるDNAは、早くユーザーの価値に気が付き、それを技術で解決するという意欲を持った社員で構成されている点だと思っています。これを、今回の展示の中で感じ取ってもらいですね。

 全ての展示の中に、当社のDNAが埋め込まれています。それを見たパートナー企業が、当社と一緒にやってみたいと思っていただき、学生にはシャープで働いてみたいと感じてもらいたいですね。

 SHARP Tech-Dayは技術展示イベントとは位置付けていますが、技術イノベーションの展示会ではなく、ユースケースイノベーションの展示会であり、そこからNext Innovationが生まれると思っています。

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