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「AirPods 4」はより小さく、より多機能に! 「AirPods Pro 2」は数億人の生活の質を変えうるデバイスに 林信行氏が速攻レビュー

ITmedia PC USER 2024年9月16日 21時5分

 2016年、最初のAirPodsが登場した時、ケーブルもないバラバラの小さなピースがケースから取り出すだけでiPhoneとペアリングされる魔法のような体験に、そして身につけていることをほとんど感じさせずにユーザーを音楽で包み込む体験に世界が驚かされた。

 中には、当時はまだ珍しかった利用する姿を茶化す人もいた。しかし、世界中のファッションセレブやトップアスリートが身につけている姿がニュースやスポーツ中継で当たり前に見られるようになった頃には、もはやそんな声は目立たなくなった。

●基本モデル「AirPods 4」に込められたAppleの優しさ

 2024年秋、この世界で最も人気のあるヘッドフォンが全面リニューアルされた。今回、最新の「AirPods 4」と「AirPods Max」を先行して試す機会を得たのでレポートしたい。

 まずは、最も大きな変化を遂げたAirPods 4から見ていこう。

 AirPods標準モデルの4世代目となるAirPods 4だが、実は今回から2種類のバリエーションが用意されることになった。ほぼ従来通りの機能を提供するAirPods 4の基本モデルと、AirPods Proに迫る数々の機能を備えた「アクティブノイズキャンセリング搭載モデル(以下、ANCモデル)」だ。

 AirPodsと言えばヘッドフォンと耳の隙間を埋めるイヤーチップがない、ソフトな装着感のオープンイヤーヘッドフォンだ。このオープンイヤーヘッドフォンでノイズキャンセリングをするのは技術的にもかなり難しいはずだが、Appleはこれをやってのけてしまった。

 だが、基本モデルとANCモデルの違いはこのアクティブノイズキャンセリング(ANC)だけではない。本体を紛失した際に、iPhoneを使って探すことができる「探す」機能の対応や、USB Type-Cのケーブルをささないでも充電器に置くだけで充電可能なワイヤレス充電にも対応する。Qi(チー)という規格のワイヤレス充電機に加え、Apple Watch用充電機、iPhone用のMagSafe充電機にも対応している。

 これだけの違いがあって、基本モデルの価格2万1800円に対して、ANCモデルの価格は2万9800円と両モデルの価格差はたったの8000円だ。積極的に基本モデルを選ぶ理由はほとんどない。ただ、8000円の価格差を大きく感じる人もいるだろう。そうした人が基本モデルを購入したとしよう。実は両者の外観はほぼ一緒なので、装着している状態で見分けることはできない。これはAppleの優しさなんじゃないかと感じた。

●ANCにとどまらないAirPods 4新モデルの機能

 それでは実際の製品を使って、もっと細かい部分を見ていこう。

 まずは充電と持ち運び用のケースからだ。ケースは従来の第3世代AirPodsと比べて1回り小さくなった。ANCモデルはワイヤレス充電対応ヘッドフォンケースとしては世界最小だそうだ。

 非常にAppleらしい変化もある。LEDインジケーターの穴と再ペアリング用のボタンがケースから消えたのだ。製品の要素を減らして、少しでもシンプルにしていくのは同社の伝統で、元々1ボタンだったMacのマウスからボタンを無くしてしまったり、長い間、iPhoneの象徴だったホームボタンも無くしてしまったりした。

 充電中を示すLEDインジケーターは、本体の内側からケースを透過して光る仕様になった。またAirPodsを他のiPhoneとペアリングする際には、これまでのようにボタンを押す代わりにケースのフタが開いた状態で、本体の手前をトントンと2回指で叩く仕様になった。

 操作方法が可視化されていないため分かりにくいといえば分かりにくいが、今時のユーザーは特殊な操作をどうしたら良いか悩んだら検索する人が増えてきたので。それほど大きな問題にはならないだろう。

 ケースの変化で言うと、実は1カ所だけ基本モデルかANCモデルかを区別できるポイントがある。ケースの下に3つのスピーカー穴(とその反対側に空気を通して音の反響をよくする穴)があるか否かだ。

 ANCモデルはケースを紛失した際、iPhoneを使ってどっちの方向にあるかを調べたり、音を鳴らしたりして探すことができる。その際、このスピーカーから聞こえやすく見つけやすい音が出る。

 デザイン的に最も進化したのは、耳に装着するイヤピースだ。何千もの耳の形状や5000万以上のデータを元に形を見直し、どんな耳にもフィットしやすくなった。耳の形は1人1人大きく違うため、万人のための評価はできないが、筆者の耳でもこれまで以上にしっかりフィットし固定できるようになった。第3世代と見比べると一部の局面がより細くなって鋭角になっているように見える。

 最大の特徴であるアクティブノイズコントロールも試してみたが、確かに部屋のエアコンの音や機械が発するノイズ音、工事現場の音などがきれいに消え去るのでまるでAirPods Proのようだ。

 もちろん、イヤーチップで耳の隙間を密閉するAirPods Proと直接聞き比べるとProの方が上で、特に高音のノイズなどはあまりキャンセルできず、例えば地下鉄の発着時に出るブレーキの高音などはAirPods Pro 2よりもはっきりと聞こえるが、それでも3万円を切る製品による日常使いのノイズキャンセリングとしては十分以上の品質に感じた。

 AirPods 4には「頭のジェスチャ」という新しい操作方法も加わっている。AirPodsを利用していると「メッセージ/メールが届きました読み上げますか?」といった具合にSiriから音で通知を受けることがある。電車の中などにいて声を出せない時、この機能をオンにしておけば首を縦に振ることで「はい」、横に振って「いいえ」の返答をすることができる。

 こういった機能は、高性能なH2プロセッサ搭載によって実現している。同プロセッサ搭載のもう1つの恩恵は、雑音がうるさい場所で通話をしても、マイクがユーザーの声だけを分離して相手に届けてくれる「声だけを分離」での通話が可能な点だ。

 もはや、進化の余地などないと思っていた標準AirPodsが、まだまだこれだけ進化できたことには正直驚かされた。

 しかし、最後に紹介するAirPods Pro 2の進化はさらにすごいので、そちらもぜひ注目して欲しい。

●新しいカラーバリエーションが加わった「AirPods Max」

 もう1つの目玉であるAirPods Pro 2の進化を紹介する前に、Appleが「究極のオーバーイヤーヘッドフォン」とうたうAirPods Maxの最新モデルを紹介したい。

 原音に忠実な音と無粋な機能を隠して、代わりに素材の色と質感を際立たせた外観の評価が高くファッションアイテムとしても人気を博している製品だ。

 今回、発表後初めてリニューアルされ、ブルー/パーブル/ミッドナイト/スターライト/オレンジのやさしくも鮮やかな新しいカラーバリエーションを用意して新登場となった。そのついでUSB Type-Cでの充電にも対応した。

 人気を確立すると、1年も経たずに新モデルが登場し新機能を追加、複雑化で人気があせるヘッドフォン製品が少なくないが、AirPods Maxはこれとは真逆のアプローチを取っている。究極のシンプルに到達した完成形を作ったからには簡単に変えないという姿勢なのか、2020年の発表以来、4年目にして初めてのリニューアルとなった。しかも、新色追加以外の仕様変更はUSBType-C充電対応だけと極めてミニマルだ。

 しかし、形が変わっていないからといって製品の魅力が色あせるわけではない。AirPods Maxは一見、全く工夫のない単純な形状に見えるが、さらふわ感のあるクッションや長時間つけても頭頂が涼しいキャノピーなど、各パーツとも熟考と吟味を重ねて作り込まれている。製品の特徴でもある大きなアルミ製のイヤーキャップも、シンプルに見えて実はどんな光がどんな角度から当たっても美しい製品シルエットを描き出すように計算し、形作られている。

 そしてカラーバリエーションだ。初代のAirPods Maxは、どちらかというとクールさを感じさせるカラーバリエーションで、ピンクモデルですらピンクさの上に太陽が沈んだ後のブルーモーメントと呼ばれる時間の光をまとったような冷たさがあった。

 これに対して新しいカラーバリエーションは逆で、陽が沈む直前のゴールデンアワーと呼ばれる夕陽の光をまとったような暖かさを感じさせる。中でも突出しているのはAppleが最近、気に入ってさまざまな製品で採用してきたスターライト色だろう。白色なのだがクリーム色のようなベタっとした感じではなく、それよりはるかに手前の絶妙な加減で温かみが加わっておりシャンパンゴールドのような華やかさを感じさせる。初代製品のホワイトのクールさと好対照だ。

●「AirPods Pro 2」の新機能が数億人の生活を変える

 AirPods Pro 2は今回、製品ハードウェアは新しくなっていないが、代わりにまもなく行われるソフトウェアアップデートで、画期的な「聴覚の健康」のための一連の機能が追加される。

 WHOによれば、難聴は世界で15億人が抱えている問題だという。耳の聞こえが悪くなると、会話に参加できないことから孤独感を感じることが増えるなど、耳以外の健康面にも波及していくことが多い。とはいえ、しっかりとした聴覚テストなどを受けずに過ごしている人がほとんどだろう。

 AirPods Pro 2は「聴覚の健康」のために「予防」「認知」「補助」の3段階の機能を提供している。

 予防は、ユーザーの耳を痛める大音響から守る機能だ。ミシガン大学公衆衛生大学院および世界保健機関と共同で実施した、長期的なバーチャル公的研究調査である「Apple Hearing Study」によると、3人に1人は聴覚に影響を及ぼす可能性のあるレベルの大きな環境騒音に日常的にさらされているという。

 AirPods Pro 2は、毎秒4万8000回の速さで周囲の音を検知する。耳にダメージを与えるような大きな音については、ノイズキャンセリングモードがオンになっていなくても自動的に低減する仕様になっており、大音響のコンサートでも装着することを想定し、耳を守りながら自然な音でコンサートの演奏を楽しめる設計になっている。

 認知と補助の機能は、米国にいる間に試す機会を得た。音が鳴ったら画面をタップするという数分程のテストを左耳/右耳に対して行うと、それぞれの聴覚の健康状態の診断結果が表示される。テストは聴力検査で世界的ゴールドスタンダードとなっている純音聴力検査に基づいた臨床レベルの検査となっている。

 どの周波数帯でどの程度の聴力の減衰があるかを「dBHL(デービー・エイチ・エル)」という単位で記した聴力レベルのグラフを表示してくれる機能があり、診断後に問題があり医師に相談する際に、結果をPDFとして出力する機能も備えている。

 だが、これで終わりではない。万が一、ここで軽度から中程度の難聴が認められた場合、今度はAirPods Proが補聴器のように使える、臨床レベルのヒアリング補助装置として機能するのだ。

 補聴器は一般的な片耳用のものでも10万~30万円ほどと比較的高価で、100万円を超える製品も珍しくない。通販などで数万円で販売している格安の製品もあるが、こういったものの多くは単純に周囲の音を集めて大きくしているだけの「集音器」や「助聴器」で、厚生労働省から正式に「医療機器」として認定された「補聴器」とは異なる。

 ヒアリング補助機能がオンになったAirPods Pro 2も、そういう意味では厚労省に認定された補聴器とは異なる。しかし、厚労省認可の聴力テスト機能に基づいて左右それぞれの耳のプロフィールを作成し音楽/映画/ゲーム/通話といった状況に応じて音のレベルを自動的に調整してくれるという点で、ある意味、単純な補聴器よりも優れた製品となっている。

 さらに面白いのは会話を補助する機能だ。難聴の人が苦手とする状況の1つに3人以上での会話がある。誰か1人が話している内容は集音器などでレベルを上げることで聞き取れることがあるが、この時、周囲の人も同時に話しだすと、聞きたい相手の話が聞こえなくなってしまう。

 iPhoneからの設定で会話モードをオンにすれば、自分が向いている方向の相手の声だけが拡大される。さすがミシガン大学などと組んで16万人以上が参加したApple Hearing Studyという聴覚に関する大規模調査を行ってきたAppleだけあって、機能の設計がしっかりしていると感じた。筆者は補聴器と集音器を数度試したことがある程度の健常者なので、日常生活でどの程度役に立ちそうかまでは評価ができないが、会話モードをオンの状態で視線を動かすと、それに合わせて声のフォーカスが自然に変化する体験には驚かされた。

 なお、AirPods Pro 2を補聴器代わりにすることには、もう1つ大きなメリットがあると思った。これまでも障がいをもつ人の取材やデザインコンペの審査員として、さまざまな補聴器を見てきた。それら多くの「補聴器」は「聞こえ」の悪さという自分のハンディキャップを隠すべく、性能をあげつつもいかに目立たなくするかが課題となっていた。多くの製品が小型化をし、時にはさまざまな肌色のカラーバリエーションや特注オーダーを通して、この問題に当たっていた。

 しかし、AirPodsは冒頭でも触れた通り、現在、世界中のファッションリーダーやトップアスリートも愛用する世界的なファッションアイテムの1つとなっている。実は隠すことなく、誰にも不自然に思われず堂々と耳につけておくことができるのだ。

 最近では、まるでつけていないように自然に周囲の音が聞こえるトランスペアレンシーモードの認知も広まったため、ちょっとした買い物などでヘッドフォンを装着したまま会話をする姿も日常風景として珍しくなくなりつつある。

 今後、そうやってAirPodsを付けたままの人が増えることは、世界中に15億人いる難聴者が孤立せず、より自然に馴染める社会を作る行動なのかもしれない。

 Appleが作る最小のコンピュータともいえるAirPodsだが、これからの社会に与えるインパクトはかなり大きそうだ。

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