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試して分かった10周年モデル「Apple Watch Series 10」 消えない秒針と見やすくなったディスプレイ、新たな健康機能が魅力

ITmedia PC USER 2024年9月17日 21時5分

 世界で最も売れている腕時計と言われる「Apple Watch」。世界を驚かせた発表会から10年が経過した2024年、10世代目となる新製品「Apple Watch Series 10」は、より大きく薄く、見やすい画面と、さらに進化した健康機能が魅力だ。

 従来のアルミのモデル(5万9800円から)に加え、鏡面仕上げで軽量なチタニウムモデル(10万9800円から)が新たに登場した。今回、美しい光沢を放つ新色、ジェットブラックのアルミニウムモデルを試す機会を得たので所感をまとめたい。

●10年の技術進化で誕生した“消えない秒針”

 まず大きくなった画面や、斜めから見ても見やすい画面以上に大きな違いを感じるのが秒針の存在だ。

 これまでのApple Watchにも秒針付きの文字盤はあった。しかし、ユーザーが時計を見ずに腕を休めている時は節電モードに切り替わり、画面の書き換え頻度が遅くなるため秒針を表示できなかった。

 しかしSeries 10は、新開発の第3世代のLTPOディスプレイ(LTPO3/有機EL)が節電モードでも1Hz、つまり毎秒画面を書き換えられるようになった。これによって新しい2つの文字盤「リフレクション」と「フラックス」において、節電モードになっても消えず、いつでもそこにある秒針の表示が可能になった。

 一般的に日本人は時間に正確などと言われるが、筆者も番組の放送開始やイベントの開始時になると、つい時計の秒針を見てカウントダウンをしてしまう。そのような際、これまでのApple Watchではカウントダウンの最中にApple Watchが利用者は腕を休めていると誤解し、節電モードに入り秒針が消えてしまうことが少なくなかった。10年の技術進化の積み重ねでようやく可能になった、この消えない秒針だけでSeries 10に大きな魅力を感じる人は少なくないのではないだろうか。筆者もこれで改めて、ようやく本物のタイムピースになったと感じた。

 続いて、2つの文字盤について紹介しよう。

 1つ目のリフレクションは、高級時計にもよく採用される美しい幾何学的パターンで“魅せる”ギヨシェ彫りというスタイルをデジタルで再現した文字盤だ。中央から放射状に伸びたギヨシェ彫り調の線が腕を動かすとそれに合わせて少しだけアニメーションし、まるで光を反射してきらめいているように感じる。故にリフレクションという名前なのだろう。

 ウォッチを見ている間は、滑らかに流れるように秒針が回転をし、節電モードになると時計の針が1秒に1目盛ずつ断続的に時を刻むようになる。

 一切のコンプリケーションの追加を許さないシンプルな美しさを重視した文字盤なので、最初は時計に情報量を求める人には向かない気がした。しかし、よく考えると最近のApple WatchではDigital Crownを回せば即座にSiriインテリジェンスでさまざまな情報が出てくるし、もしかしたらほとんどの人にはそこまで大きな問題ではないのかなという気もしてきた。

 Appleもそれを意識しているのか、もう1つ追加された文字盤、フラックスも極めてシンプルで、色や数字のカスタマイズはできてもコンプリケーションの追加はできない。

 デジタルだからできる表現を模索して作られたフラックスは、2トーンカラーの文字盤だ。画面いっぱいに時間と分を表す数字が表示され、地の色が1秒ずつ下から塗り変わり、1分かけてその色が新しい地色になるというもの。LTPO3では何色であれ画面に色を表示するとその分、電力を消費してしまうので節電モードでは数字がアウトラインだけの表示になり地色も消えるが、代わりに現在どこまで塗り変わったかが分かる線が表示され、これが毎秒動き続ける。

 今後のApple Watchは、こうした大きく見やすくコンプリケーションのないシンプルな文字盤が主流になっていくのかもしれない。

 ところで、Series 10の基本機能を試していて2つだけ残念に感じたのは、従来からあった文字盤が更新されておらず、旧来からの文字盤では節電モードになると相変わらず秒針が消えたり止まってしまうことにある。もう1つは、秒を数字として表示するデジタル文字盤がないことだ。この辺りは、ぜひ今後のwatchOSのアップデートなどで対応をしてほしい。

 ただ10世代目の製品のためにAppleが頑張って開発したLTPO3のディスプレイの大きさと見やすさは、そんな問題を忘れさせてくれる。

●大きく美しく見やすくなった3世代目のLTPOディスプレイ

 10年目のApple Watchは、ディスプレイを中心にデザインが大きく進化した。ものすごく細かい部分ではあるが、個人的に歓迎しているのはセルラーモデルであることを示す赤いリングがなくなったことだ。

 Apple Watchは当初、単体での通信機能を持たなかったが、Series 3からiPhone無しでも通信ができるセルラーモデルが投入された。それを機に製品がセルラーモデルであることが分かるようにDigital Crown(竜頭/リュウズ)の内側に細く赤い円が描かれるようになった。目立たない赤ではあるが、必ずしも全てのスタイルに合う装飾ではなかった。

 Series 10では、この慣習を見直して廃止され、おかげでDigital Crownはシンプルな単色に戻った。

 これまでアルミの黒モデルはツヤ消し仕上げとなっていたが、Series 10では光沢の美しいジェットブラックに変更されている。30工程の酸化被膜処理を重ねて完成したという新ボディーは、ディスプレイ部と本体の境界をあまり感じさせない美しい仕上がりとなった。

 画面サイズは直前のSeries 9と比べると7%大きくなっている(46mmの場合。42mmは9%)。一回り小さかったseries 4から6までの画面と比べると25%(42mmは30%)、初代からSeries 3までと比べると65%(同75%)も大きくなったそうで、まさに十年一昔、隔世の感を覚える。

 実はこの画面サイズだが、上位モデルのApple Watch UltraやUltra 2と比べても3%ほど大きい。この画面サイズの差や、斜めから見ても明るい表示性能によって、これまでは小さ過ぎて読みづらかったコンプリケーションでもしっかり読みやすいものがある。

 この画面に慣れた後、改めてこれまでのApple Watchを見るとちょっと物足りなく、小さく、分厚く感じてしまう。その時、何よりも違いを感じるのが画面を斜めから見た時の明るさだ。

 実際にiPhoneで両手撮影している時や自転車を漕いでいる時、いつもなら見えないはずの左腕のApple Watchが秒を刻んでいるのを確かに確認できた。

 世の中のほとんどのディスプレイは正面から見るように設計されており、正面から見ると明るくきれいな色で表示されるが、斜めからのぞき込むと画面が暗く見えてしまう。のぞき込む角度が画面の角度に近づけば近づくほど暗くなるが、Series 10が採用したLTPO3のディスプレイでは、60度のアングルで見た時の画面表示がSeries 9と比べて40%も明るくなっているという。

 この斜めから見た時の明るさは、Apple Watch Ultra 2と比べても明るい。その代わりApple Watch Ultra 2は最大3000ニトと最高輝度が高いため、太陽光の下など明る場所でも見やすい強みがあり、その点では最大2000ニトのSeries 10に勝っている。

●充電速度が向上! 内蔵スピーカーで音楽再生も楽しめるように

 日常生活において、最もうれしいのは充電時間の高速化だ。万が一、バッテリーが切れそうになっても、わずか30分で約80%、15分充電するだけで約8時間動作させる急速充電に対応しているため、例えば寝る直前にバッテリー不足でも歯磨きやシャワーの間に充電するだけで、睡眠中も利用が可能になり、後述する睡眠時無呼吸症候群の診断に必要なデータを記録できる。

 Apple Watch Series 10には、もう1つこれまでとは使い方が変わる機能がある。音楽やオーディオブックなどの音声コンテンツを内蔵スピーカーで再生する機能だ。Apple Watchには通知音など単純な音を再生するスピーカーが内蔵されており、ボイスメモで録音した音を確認するなどは既にできた。

 しかし、せっかくの内蔵スピーカーを音楽やオーディオブックの再生には利用できずにいた。機能重視のユーザーの中からは不満の声が上がることもあったが、今回、改めてその理由がAppleが何よりも品質を重視する会社だったからだと明らかになった。

 Series 10ではスピーカーが再設計され、より大きくきめ細やかな音が出せるようになった。それに加えて音系のソフトウェアエンジニアが頑張ったらしい。これによってApple Watchのスピーカーからでも、同社製品のブランドイメージを損なわない品質で音の再生ができるようになった。今回、初めてApple Musicの音楽やApple Booksのオーディオブック、Podcastなどの音をApple Watch単体で内蔵スピーカーから再生することがソフトウェア的に可能になったのだ。

 小さな時計から出てくる音なので、音量はそこまで大きくなく(Ultra 2だとスピーカーが2基あるため、もっと大きな音になるとのこと)、特別優れた高音質というわけではないが、カジュアルに音楽を楽しむには十分な音質と言える。

 音の再生だけでなく、収音の性能も上がっている。通話中に周囲がうるさくても、雑踏音を打ち消してユーザーの声だけを分離して相手に届ける機能が追加されたのだ。もっとも、これはマイク性能が良くなったわけではなく、ニューラルネットワークを使ったインテリジェンス機能が音声解析をして行っている(とはいえ、そういったうるさい環境では、相手の声が聞こえないので結局はAirPodsなどのヘッドフォンを付けて通話してしまいそうだが)。

●ウォーターアクティビティー対応と画期的な睡眠時無呼吸症候群の兆候判定

 Apple Watchでは毎モデル、アクティブなスポーツを応援する機能も追加される。Series 10ではウォーターアクティビティー系の機能が強化され、水温センサーも加わり、これまでApple Watch Ultraシリーズでしか利用できなかった「水深」アプリが利用できるようになった。水深6mまで計測できるという(ちなみに、Apple Watch Ultraは水深40mだ)。

 大きく明るくなったディスプレイも、水中での利用に役立ちそうだ。

 また、watchOS 11に新たに追加された「潮位」というアプリでは、セイリングやサーフィン、Stand Up Paddle(SUP)などに役立つ海の状態に関しての情報を表示してくれる。

 あらかじめよく行くビーチを登録しておくと、現在の潮位や満潮に向かっているか干潮に向かっているかがグラフィカルに表示され、Digital Crownを回して数時間後(あるいは数時間前)にどんな潮位かを調べることもできる。天候や水温、風の強さや向きといった情報も表示される。

 ここまででもSeries 10は、さすが10周年のApple Watchだけあって魅力が満載であることが分かったと思うが、実は最もすごいのは「睡眠時無呼吸症候群」の兆候を特定する機能の追加だ(watchOS 11にアップデートすれば、Apple Watch Ultra 2や前モデルのSeries 9でも利用できる)。

 睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が繰り返し止まってしまう病気で、日中の眠気や体の怠さなどの症状に始まり、心臓/脳/血管への負担から脳卒中/狭心症/心筋梗塞などの重篤な合併症を来たす危険もある。日本にも300万人以上いると言われているが、意識がない睡眠中の症状であることや、病院での検査が大掛かりなために発見しにくいという問題がある。

 この機能を設定すると、新しい睡眠時無呼吸の通知のアルゴリズムが30日ごとに呼吸の乱れのデータを分析するという。睡眠時無呼吸の兆候が示されると、Apple Watchがユーザーにその旨を通知する。この通知には、睡眠時無呼吸がいつ発生したかや治療を受けることの重要性をユーザーに示し、医療機関で受診する際に役立つ3カ月間分の呼吸の乱れのデータ/通知の詳細/追加情報を記載したPDFを出力できる。

 おそらく10月の末頃にはソーシャルメディアなどで「通知が出た」という投稿が見え始めるのだろう。治療が必要だが、簡単ではない病気なだけに、できればこの通知のレビューはしないで済むことを祈っている。

 ただし、心拍の異常や血中酸素濃度、歩き方などの運動能力の変化や耳の健康を損なう騒音といった日常生活に隠れる健康を害する兆候を日々記録し、転倒した場合や交通事故にあった場合、利用者の意識がなくても救援を呼んでくれるなど既に提供済みの機能も多い。Apple Watchは最も包括的にユーザーの生命と健康を守ってくれる究極のウェアラブル製品として世界に認められており、毎年世界中からAppleに多くの感謝状が届く理由にもなっている。

 今回、その信頼からか日本の厚生労働省も製品発表前に承認してくれたのは素晴らしいことだと思う。

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