Infoseek 楽天

新型Ryzen AI搭載の「ProArt PX13」はデスクトップPCの置き換えも可能なモバイルPCなのか? 試して分かった夢と現実

ITmedia PC USER 2024年9月18日 12時0分

 こんにちは! refeiaです。

 今日はスーパー全部盛りモバイルノートPCの夢を見ていきましょう。薄型小型なノートPCといえば、それほどパワフルでないCPUと、iGPU(CPUに内蔵されたオマケ的GPU)が当たり前でした。最近はイラストなど2Dコンテンツの制作には困らないパフォーマンスにはなってはきましたが、動画や3D、ゲーム制作などのクリエイティブ用途や重いゲームのプレイまでは対応しづらい、という状況が続いています。

 そこにさっそうと現れたのが、ASUS JAPANの13.3型ノートPC「ProArt PX13」(HN7306)です。

 ASUSのクリエイター向けブランド「ProArt」から8月に発売されたPro Art PX13は、基本的には普通の13.3型の格好でありながら、デスクトップ級のCPUとNVIDIAのLaptop GPUを搭載したノートPCです。

 多少心得のある人は「いやー、そんなCPUと外付けGPU積んだら15.6型じゃないと無理でしょ」と思うかもしれません。自分も正直半信半疑だったので、本機を触るのは楽しみにしていました。それでは、早速見ていきましょう。

●スペックをチェック!

 まずはProArt PX13のスペックを見ていきます。

・CPU:Ryzen AI 9 HX 370(12コア24スレッド)

・GPU:GeForce RTX 4070 Laptop GPU(グラフィックスメモリは8GB)

・ディスプレイ:13.3型 有機EL (2880x1800ピクセル/60Hz/コンバーチブル)

・メモリ:32GB(LPDDR5X-7500)

・ストレージ:1TB SSD(PCI Express 4.0 x4接続)

・バッテリー:73Wh

・重量:1.39kg(実測値/公称値は約1.38kg)

 CPUの「Ryzen AI 9 HX 370」は、2024年6月にAMDが発表したばかりの新作CPUで、新アーキテクチャであるZen 5ベースの12コアCPUと、Copilot+ PCの要求(40TOPS)に対応した50TOPSのNPUが搭載されています。

 そこにGeForce RTX 4070 Laptop GPUと、機構が重くなりがちなコンバーチブル式のディスプレイ、73Whの大容量バッテリー、ボディーも剛性感のあるものを採用して、1.3kg台という普通のノートPCの範ちゅうに収まっています。

 全体的に「これでもか、これでもか」という声が聞こえてきそうな全部盛り仕様の中で、リフレッシュレート60Hzのディスプレイだけが惜しいです。クリエイター向けの「ProArt」は60Hzが基本ということでしょうが、ゲームはもちろん、一般用途でも制作用途でも、120Hzの快適性は無視できません。

 それに、せっかく上位機を買ったらいろんな用途に使いたいというのも人情だと思うので、そろそろ一歩踏み出しても良い頃合いな気がしますね。

 価格は同社直販のASUS Storeで42万9800円、GPUを一つ下の4060 Laptopにしただけのバリエーションもあり、そちらは29万9800円です。どちらにしても安くはないですが、この価格差ならば下のモデルの方が折り合うケースも多そうです。

●見た目も美しく多彩な用途に対応するボディー

 それでは外観や接続仕様を見ていきましょう。ソリッドでシックなデザインで、質感も良いです。

 底面は広いグリルの造形がありますが、吸気口として穴が開いている部分はそれほど大きいわけではありません。

 薄型と言いたいけどどうかな、と一瞬迷うぐらいの厚さ(約15.8~17.7mm)があるにはありますが、日本マイクロソフトの「Surface Laptop」と比べてもわずかに分厚いぐらいです。

 CPUやGPU、HDMIのブランドのロゴシールは普段はどうでもいいと思うことが多いですが、カチッときまったデザインの本機にはうれしくない視覚的ノイズになっています。もし自分が買ったならば真っ先に剥がすと思います。また今回は詳しくは書きませんが、本機のトラックパッドは、左上の部分がダイヤルデバイスとして使える機能も入っています。

 左右の側面には排気口と、USB4対応のUSB Type-C端子が2基、USB 3.2対応のUSB Standard-A端子が1基、HDMI出力端子、microSDメモリーカードスロット、3.5mmのイヤフォン端子、専用充電端子があります。USB Type-C端子からも充電はできます。

 付属のACアダプターは出力200W対応の大型なタイプで、ケーブル込みで実測値は567gでした。外付けGPU搭載機だと、システム電力100W超えでぶん回すような使い方をしながらでも十分な速度で充電していける容量が要求されるので、大きく重くなるのは仕方ないです。

 手元の出力100Wや65WのUSB Type-C充電器を接続してみると、容量不足の警告は表示されても充電はされていくので、モバイル用途なら小型の充電器を用意するのも手かもしれません。また、ディスプレイはコンバーチブル式のため、タブレットのように使ったり、テントスタイルのような設置にしたりすることもできます。

 また、マルチタッチとMPP 2.0のペンプロトコルにも対応しています。今回は評価用の純正ペンが無いので詳しくは見ませんが、サードパーティーのMPPペンを試したら筆圧を伴って動作していて、普通のペン・オペレーションには問題なさそうでした。

●高品質な有機ELディスプレイを採用

 ProArtシリーズなので当たり前ではありますが、ディスプレイも良いものを採用しています。2880×1800ピクセルの有機ELで、光沢ディスプレイ、Display P3を100%カバーすることをうたっています。手元で測ると、DCI-P3やDisplay P3を優先しながらAdobe RGBにも手を広げたディスプレイで、映像だけでなく印刷物で色にこだわりたい人も十分に使えると思います。

 sRGB/DCI-P3/Display P3のカラーモードを持っているので、標準設定に準拠した制作もしやすいです。

 また、13型としてはかなり解像度が高いので表示も緻密で、有機ELらしいコントラスト感と色鮮やかさもあります。HDRにも対応しており、制作で頼りになるだけでなく、対応コンテンツの鑑賞デバイスとしても優れていると思います。

●性能をチェック

 さて、ついに来ました。性能を見ていきましょう。13.3型ノートPCのボディーにどれほどの力があるのか――。なお、今回はデスクトップPCとざっくり比較の形式にするので、より具体的な結果の数値を見たい人はこちらのレビューを参照してください。

 まずはCPU性能からです。手元のデスクトップPCは若干古い第12世代のCore i7-12700Kですが、13~14世代の上位モデルが品質問題に直面している今、かえって現役感が高まってしまいました。

 どうでしょう。若干の得意/不得意こそあれ、Core i7-12700Kと張り合える能力があるのが分かります。それでは外付けGPUはどうでしょう。ここでは、Ryzen AI 9 HX 370内蔵のRadeon 890Mと、手元のGeForce RTX 4070 Ti(デスクトップ版)を比べます。

 CPU内蔵GPUよりは数倍速く、デスクトップのGeForce RTX 4070 Tiからだと半分ぐらいでしょうか。GeForceは同じモデルでもデスクトップ版とラップトップ版に性能の開きがあるので、デスクトップ版と比べるならGeForce RTX 4060や4060 Tiあたりに近いと考えるのがよさそうです。

 ちなみに3DMarkでは、大型ノートPCで動いているケースが多いであろう他所の4070 Laptop GPUの結果と比べても、ひどく劣っているわけではないのが分かります。

 また、せっかくの小型PCなのでパフォーマンス設定とバッテリー駆動を変えた場合の性能も見ておきました。

 スタンダードモードで十分に速く、ぶん回しても冷却ファンの音量はほどほどに抑えられています。一方でパフォーマンスモードは性能向上がわずかの割には冷却ファン音が気になるので、基本スタンダードモードだけで良いでしょう。

 また、冷却ファンからの「サー」とか「シュー」という音に混じって、「キー」という高音のトーンが気になりやすいのは惜しく感じました。長時間ぶん回すような使い方を想定している人は、実機でファン音を確かめておくと良いかもしれません。

●設定を変えて一台三役

 先のグラフでも触れた通り、本機はもともとの性能が優れているので、パフォーマンス設定を下げたりバッテリー動作をしていたりしても十分に速いです。それに、GeForce GTX 1650に匹敵するといわれていた前世代のCPU内蔵GPUから、さらに改善したRadeon 890Mが搭載されています。

 そこで生きるのが、省電力モバイルノートPCとしての使い道です。設定アプリでGeForceをオフにしたり、ウィスパーモードに設定したりはすぐにでき、普通のモバイルPCのような使い方ができます。

 この設定で充電器を取り外してWebブラウジングを試したところ、バッテリーは約9時間でゼロになるペースで減っていきました。この設定ならば、コンパクトな充電器でも十分運用できるでしょう。

 個人的には、これが本機の真骨頂だと思います。デスクトップPCの置き換えにもなり、ハイパフォーマンスPCにもなり、モバイルPCにもなるわけです。

 自分みたいなPCオタクなら、まあ、目的ごとにPCを複数台持つハメになったとしても「置き場所もお金もなくなっちゃったね、楽しいね」で済んでいきます。ですが、クリエイティブ用途にPCが必要な人が、皆PC好きというわけではありません。デスクトップPCの煩雑さや複数台持ちの負担は避けられるなら避けたいというのが本音でしょうし、それがかなう可能性を本機は秘めています。

●Ryzen、AI、9、HX、370(なぜか滑らかに呼べない)

 ところで、本機が採用するRyzen AI 9 HX 370について、ももう少し触れておきましょう。基本的には従来通りのノートPC用Ryzenですが、従来の上位モデルと比較して大きく進化しています。

・CPUアーキテクチャがZen 4からZen 5に進化

・CPUコア数が8コアから12コアに増加

・内蔵GPUがRDNA3から3.5に進化、グラフィクスのコア数も増加

・NPU性能が16TOPSから50TOPSに向上

 といったところです。CPUも内蔵GPUもしっかり進化していますが、NPUの仕様値がざっくり3倍になっているのが目立ちますね。ところで、イマドキのモバイルプロセッサにはいろいろなものが入っていて、 幕の内弁当に例えることができます。下は「いらすとや」にある、8コアのCPUと5グラフィクスコアのGPUが載ったモバイルプロセッサのイラストです。

 弁当箱の容積の中で、バランス感や工夫をこらして食材を割り振っていくわけですね。そして下が、AMD製の幕の内弁当です

 左下のNPUが、かなりの面積を取っていることが分かります。モバイルプロセッサは、あるコストで作れる面積の割り振りの中で機能や性能が決まっていきます。例えば、仮にNPUを搭載しない決断をすれば、CPUをあと何コアか増やしたり、GPUの演算ユニットを数十%増やしたりといった面積の余裕ができます。そういうせめぎ合いの中で、大きなNPUを採用しているわけです。

 そして、良いトンカツを入れた幕の内弁当には「トンカツ幕の内弁当」と名付けたくなるように、RyzenにもNPUをたっぷり詰め込んだので「AI」を付けたくなったのかもしれません。その真偽はともかくとしてモデル名はこうなったわけですが、その結果、単にとっ散らかった印象になってしまったたけでなく、

・幻滅期に突入していくおそれがある言葉をモバイル中核製品の名前にしてしまい

・「2023年からこうする」と宣言したRyzen命名規則は1年と数か月でご破算になり

・もともとRyzen AIと呼んでいた「内蔵NPU」のブランディングもご破算になりました

 実際の製品はこんなにシッカリしているのに、なんでこう……ネーミングセンスというか……行き当たりばったり感というか――。最近は特に“忙しい分野”だしというのは分かるのですが、もうちょっと落ち着いてほしいと思ってしまいますね(個人的には「Ryzen 9 390HX」とかにして、堂々としていればいいのにと思います)。

●NPUの真価が分かるのはまだこれから

 また、虎の子のNPUですが、現状では使われているシーンを見かけるのはまれです。カメラ映像に効果をつける「Windows スタジオ エフェクト」を使えば、常時がんばっている姿を見ることができます。

 AMDのRyzen AIプロモーションページで筆頭に紹介されているAmuseというツールでも、わずかに使われていることが確認できます。

 本機のような強力なGPUを搭載したモデルでは、低消費電力でのバックグラウンド処理ならまだしも、ユーザーの待ち時間が生じるような処理ならばGPUをぶん回した方が良い体験を得られます。また、本機は現時点ではCopilot+ PCではありませんが、後日Copilot+ PCの機能が使えるようになる見込みです。実際にNPUがどれほどうれしいのかがハッキリしてくるのはもうすこし時間がかかるでしょう。

●まとめ

 それではまとめていきましょう

気に入った点

・シックでかっこよく、剛性感のあるボディー

・デスクトップ級のCPU性能

・GeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載

・正確な表示用途にも、美しさを味わう観賞用途にも対応できる有機ELディスプレイ

・大容量バッテリーの内蔵

・デスクトップPCの置き換えにもモバイルPCにもなる懐の深さ

難点になりえる点

・大きく重たいACアダプター

・やや癖のあるファンノイズ

・リフレッシュレート120Hz非対応のディスプレイ

 ASUS ProArt PX13 は、従来では難しかった、小型ノートPCのサイズとデスクトップPC並みの性能を両取りした製品です。小さなボディーから、デスクトップ版の第12世代Core i7とGeForce RTX 4060シリーズに近い性能を引き出すことができます。

 また、コンバーチブル式のディスプレイや大容量のバッテリーによって、タブレットPCやモバイルノートとしての使い勝手も妥協なく確保されています。クリエイティブ用途だけでなく、ビジネスや学習、趣味、コンテンツ消費などのさまざまな使い道において、高い満足感を伴って利用することができるでしょう。

 約43万円と高価ではあるものの、昨今は高性能なデスクトップPCを買えば20万円~、高品質なノートPCを買っても20万円~の時代です。これらを一台で両方がカバーでき、煩雑な接続や設置スペースの問題を解決できるとすれば、約30万円の下位モデルも含めて十分に検討する価値があると言えるでしょう。

 いやー…… 良いですね。自分用のPCにはそんなに多コアのCPUは買わないんですが、それでも少し古いCINEBENCHを動かして大量の枠がザッザッザッと進んでいくのを眺めるのは結構好きです。それがこんなちっちゃいモバイルPCでできてしまうんですね。良い時代になったもんです……。

この記事の関連ニュース