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PCやプリンタはまだまだ便利になる 着々とAI活用例を増やすHPが続々と新モデルを投入

ITmedia PC USER 2024年10月1日 11時5分

 米HPは9月24日(米国太平洋夏時間)、米カリフォルニア州パロアルトの本社において年次イベント「HP Imagine 24」を開催し、同社の新製品や最新戦略について発表した。

 企業や個人の「AI(人工知能)」への関心がここ数年で高まる中、PCでもAIにフォーカスした「AI PC」が2024年初頭から市場に投入され始めた。PCメーカー各社やMicrosoftを含むソフトウェアベンダー各社は、自身のAI分野での取り組みを活発にアピールしている。

 この点において、HPも多分に漏れない。7月には米ニューヨーク市でAIに特化したイベント「HP Imagine AI」と題したAI特化のスペシャルイベントをしている。

 今回のイベントは、そのアップデートとなる。本稿では、イベントでの発表内容にフォーカスして掘り下げていく。

●HPはAI時代に“何を”提供していくのか?

 2022年末にOpenAIが「ChatGPT」を発表して以降、さまざまなベンダーが大規模言語モデル(LLM)を主体にした「Generative AI(生成AI)」に取り組み、対話型インタフェースを通じてコンピュータを使ったさまざまな作業を効率化するサービスを提供すべくまい進してきた。

 例えばMicrosoftは、「Copilot」という名称で自身が提供するオフィスアプリにさまざまな付加機能を提供するようになったし、Windows PCを出荷するメーカー各社もまた「AI」を冠するさまざまな仕組みを自社製品と共に提供することで、製品の差別化を進めている。

 このトレンドが始まってから2年弱の期間が経過しているが、企業ユーザーは最新の生産性ツールを取り込み、業務改善の試みを進めている。国や企業文化の違いによって活用方法や進展具合はまちまちだが、先端企業ではそれなりの成果が見えつつあるという話も出てきている。本イベントの冒頭であいさつしたエンリケ・ロレスCEOも、以下のように述べている。

 HPは、80年以上前から「人と仕事の関係」を再定義することに常に貢献してきた。(コロナ禍を経て)リモートワークからハイブリッドワークまで、さまざまなワークスタイルを模索する中で、従業員と雇用主の両方の期待が変化し、未来を創造するための働き方を再定義する機会が到来している。 私たちは、AIがこの変化において重要な役割を果たすと認識している。一方で、私たちがまとめた「Work Relationship Index」によると、ナレッジワーカー(知的労働者)のうち「仕事との健全な関係を築いている」と答えた割合はわずか28%であり、そのうち必要なツールが提供されているのはさらに27%でしかない。 従来のように雇用主が単にデバイスを用意すればいいというわけではなく、必要な人に必要なツールが提供されることが重要だと考えている。私たちは現在、(ビジネスユーザーを主体とした)コマーシャル市場に注力しているが、その事業規模は4000億ドルで今なお成長を続けており、これはHPという企業にとって大きなチャンスだと考えている。

 ロレスCEOは、AI時代でHPがどのようにユーザーを支援していくのか、以下の3つのポイントを挙げた。

・AIのパワーやインサイト、自動化を備えたプラットフォームの提供

・パーソナライズされた体験を提供可能にするスマートテクノロジー

・最良のコラボレーションが可能なチーム体験

 プラットフォームの提供については、同社が「Workforce Experience Platform」により、予測分析と自動化された環境のもと、27万台以上のデバイスを管理することで、CIO(最高情報責任者)やIT部門の負荷を軽減できるとする。

 スマートテクノロジーについては、例えば7月に発売された「Omnibook Ultra 14 AI PC」では、最大55TOPSのパフォーマンスを備えるNPUによって、オフィス文書の分析や会議の文字起こしやサマライズ、必要に応じてのコンテンツ生成などがオンデバイスで素早く行えるようになるという。本モデルはAMDの「Ryzen AI 300シリーズ」を搭載したモデルだが、同様にIntelの「Core Ultra 200Vプロセッサ」やQualcommの「Snapdragon Xシリーズ」など、CPU/SoCベンダーとの協業によるAI PC群も順次投入されており、ユーザーがニーズに応じて最適な製品を選べることも強みだとする。

 チーム体験については、境目のないシームレスなワークフローを実現するツール群の提供を図るという。今回の製品群にも、オンライン会議向けのビデオバー/ビデオ会議「Poly Studio」の最新モデルが含まれているが、NPUで強化されたPC群と合わせ、企業のコラボレーションを強化していくという。ロレスCEOは「結果として、ITマネージャはシステム保守のみならず、企業のデジタル変革にも集中できるようになる」とメリットを強調する。

 HPでは今後も、半導体メーカーやソフトウェアベンダー(ISV)との協業体制で積極的にユーザーを支援していく意向だ。

●GPU共有を可能にする「HP Boost」と AIを活用した生産性アップも

 生成AIにおいて、学習済みのモデルを利用するケースならCPU/SoCに統合されたNPUが効力を発揮する。しかし学習そのものの作業は、今なおパフォーマンス面でGPUの“独壇場”となっている。

 一方で、学習に利用できるレベルのGPUやメモリリソースを個々のPCに用意するのは、コスト面や可搬性の面からも現実的ではないケースもある。そこでHPが新たに提案するのが「HP Boost」だ。

 簡単にいうと、HP Boostはデスクトップワークステーションに装着したGPUのリソースを社内(同一ネットワーク内)の別のPC/ワークステーションから“借用”できるサービスだ。主にデータサイエンティストなどが利用することを想定しており、普段は可搬性の高い軽量モバイルノートPCなどで作業を行いつつ、学習/分析作業でGPUリソースを利用したい時にワークステーションへとアクセスすることで学習/分析パフォーマンスを向上できる。

 この他、以前より同社がアナウンスしている「HP AI Studio」のソリューションに、ビジネスに有用なAI開発を支援する「Gen AI Lab」「AI Creatin Center」に改めて触れると共に、PCのCPU/SoCにあるNPUを活用して動作する「AI Companion」と「Poly Camera Pro」の機能についても紹介された。

 AI CompanionやPoly Camera Proについては、ピーク性能が40TOPS以上のNPUを備える、いわゆる「新しいAI PC(Copilot+ PC)」の要件を満たすHP製ノートPCを対象としている。

 AI Companionは、PC内のローカルファイルや情報を活用して各種作業を支援したり、トラブルシューティングを行ったりする機能だ。Poly Camera Proは、ビデオ(Web)会議で使うWebカメラの各種エフェクトをNPUにオフロードすることで高効率かつ低消費電力で行う機能となる。先述のHP Boostと組み合わせると高度な分析処理も可能となるため、PCの利用の幅が広がるというのが狙いだ。

 また、同社が業界初という「Remote Remediation Service」により、リモートでありながらUEFI(BIOS)より下の階層でのトラブルシューティングが実現する。これにより、従来ならIT部門スタッフ(情シス)や業者の出張作業(または引き取り後の作業)が必要だった問題、例えばBSoD(ブルースクリーン)への対応も、リモートで行えるようになるため、作業負荷やダウンタイムが軽減され、結果として生産性が向上するメリットがあるという。

●AIはプリント体験も変える

 このように、さまざまなAI活用による業務改善の例が紹介された今回のイベントだが、実は筆者が最も興味を持ったのは「HP Print AI」と呼ばれる同社製プリンタ向けの新機能だ。

 以前に比べると「プリンタの使用頻度はだいぶ減った」いう人も多いと思う。個人事業主である筆者も、年に数回程度しかプリンタを利用する機会がなかった。そのため、つい先日に行った引っ越しを機に、プリンタとFAXを廃棄して、コンビニでのネットプリント利用にシフトししてしまった。

 一方で、PDFを含む「情報の一覧が可能な出力」という観点では、“印刷”の仕組みはいまだに利用機会が多い。Webページのスクラッピングから、そのまま印刷が可能な提出用フォーマットによる書類作成まで、A4用紙に収まる形式での出力は、今でも頻繁に行っている。ただ、例えばWebページを印刷する場合は、元が画面出力を想定していることもあり、レイアウトからフォントサイズまで印刷に最適化されているとは言い難い。

 そこで登場するのが、HP Print AIだ。生成AIによる対話インタフェースを用いることで、レイアウトを印刷に最適な形にして出力してくれる。

 気に入ったレシピがWebサイトに掲載されていて、これを保存しておくために印刷しようとしたところ、文章や写真が印刷上適切な形では配置されておらず、無駄なページを大量に出力してしまった――そんな経験をしたことがある人もいるだろう。

 ここでHP Print AIを使うと、ページ内容を理解し、ユーザーのプロンプトによる指示に合わせて、印刷に最適な形での出力を提案してくる。例えば写真を多めに配置したり、テキストの部分にレシピのポイント(要点)や作業手順のみを箇条書きで抜き出したり、要点を見やすく再配置したりといったことができる。

 印刷に最適化されたレイアウトとなるため、無駄なページを印刷することもなくなる。

 同様の悩みは、作業用にスプレッドシートを広く使いたい一方で、出力となるとさらなる調整が必要な表計算アプリ(Excelなど)でも生じがちだ。普通に印刷すると無駄が多くなりがちなので、オブジェクトやチャートを手作業で再配置する必要になる。

 しかし、これもHP Print AIが最適化して、印刷に適した出力を提案してくれる。インクを無駄遣いしないための省力印刷などの指示も可能で、印刷ツールとして非常に有用だ。

 強いて難点を挙げると、本機能は英語のドキュメント類を想定しており、日本語を含む他言語への対応はそれほどなされていない。また、本機能は最新のHPプリンタのデバイスドライバに統合されているため、利用するには同社製プリンタの購入が必要となる。生成AIを用いたグリーティングカードの作成機能なども提供されるが、素材がまだ米国向けのものが中心だ。

 今後は、米国を中心とする英語圏“以外”への最適化が課題となる。

●発表された新製品群を写真でチェック!

 今回のイベントに合わせて、HPは最新のRyzen PROプロセッサやCore Ultra 200Vプロセッサを搭載するCopilot+ PC準拠ノートPCや、ビデオ会議やリモートワークを想定した周辺機器群、先述のプリンタなどを発表した。順番に写真でチェックしていこう。

HP OmniBook Ultra Flip 14

 「HP OmniBook Ultra Flip 14」は、HPとしては初めてCopilot+ PC準拠の2in1ノートPCとなる。Core Ultra 200Vプロセッサを搭載しており、最上位の「Core Ultra 9 288V」を備える構成も用意される。米国では既に受注を開始しており、最小構成の想定価格は1449.99ドル(約20万9000円)となる。

HP OmniBook X 14

 「HP OmniBook X 14」は、クラムシェルタイプのビジネス向けノートPCで、AMDの「新しいRyzen PROプロセッサ」を搭載している。Copilot+ PC準拠のノートPCとしては初めて量子ハッキングからの防護機能を備えていることも特徴だ。

 米国では12月の発売を予定しており、想定価格は発売が近づいたタイミングで改めて発表される。

Poly Studio V/Xシリーズ(会議システム)

 「Poly Studio Vシリーズ」はPCと接続して使うビデオバー(カメラ/マイク/スピーカーの一体型デバイス)で、「Poly Studio Xシリーズ」はVシリーズをベースにスタンドアロン(単体)でビデオ会議(Microsoft Teams/Zoom/Google Meet)にアクセスする機能を追加したビデオ会議システムだ。

 今回の発表では、小さな会議室向けの「Poly Studio V32」「Poly Studio X32」と、大きな会議室向けの「Poly Studio V72」「Poly Studio X72」が新製品として披露された。

HP Series 5 Proシリーズ(液晶ディスプレイ)

 HP Series 5 Proシリーズは、ビジネス向け液晶ディスプレイの新モデルだ。23.8型~34型までの8機種を取りそろえており、上位モデルにはPoly Studio対応のWebカメラとマイクが内蔵されている。機能や予算に合わせて選びやすいことが売りだ。

HyperXブランドのゲーミングデバイス

 発表会場にはHyperXブランドのゲーミングデバイスも展示されていた。目玉はワイヤレスヘッドセット「HyperX Cloud MIX 2 Headset」だが、マイクやキーボードの新製品も用意されている。

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