Appleの幹部が予告していたように、10月29日(日本時間)からAppleが立て続けに新しいMacを発表している。1日目(29日)は「iMac」、そして2日目(30日)はコンパクトになった新デザインの「Mac mini」だ。
いずれも2024年春にiPad Proでデビューを果たした「Apple M4チップ」が搭載されるが、Mac miniではより高性能な「Apple M4 Proチップ」も選べる。
まずはM4チップ搭載のiMacの簡単なリキャップを行った上で、Mac miniとM4 Proの詳細について掘り下げていきたい。
●M4チップを搭載しただけではない! 新型「iMac」の注目点
iMacに関しては、見た目こそ従来モデルから大きな変化は無い。しかし、いくつか重要なアップデートが行われている。先述の通りM4チップを搭載したことは大きな進化点なのだが、長い間使っていく観点に立つと、それ以外に変更された点が重要な意味を持つ。
まず、先代のM3チップ搭載モデルが発表された段階で懸念点として指摘していた付属のキーボード、マウス、トラックパッドの充電端子が、今回のタイミングでLightning端子からUSB Type-C端子にアップデートされた。
iPhone 15ファミリーを皮切りとして、Appleの純正周辺機器もLightning端子を備えるものは順次USB Type-C端子を搭載するものに切り替えられてきた。今回のiMacのアップデートによって、ほぼ全ての周辺機器の接続(充電)端子がUSB Type-C端子に切り替わった。
その上で、今回のiMacでは、画面の保護ガラスに新たに「Nano-texture(ナノテクスチャー)ガラス」のオプションが加わった。
このガラスは反射や映り込みが少ないというメリットがあるものの、当初のバージョンは指紋が付着すると拭き取るのが難しいことなど、取り扱いに注意を要した。しかし、最新のiPad Proに採用されたバージョン以降は指紋に対しても強くなり、簡単に拭き取りだけでメンテナンスできるようになった。
M4チップの搭載によってメディア処理の性能が大きく向上したこともあり、動画や写真などのデジタルメディアを扱うユーザにとって、iMacは魅力的な選択肢に進化したといえる。
もう1つのアップデートは、ディスプレイ上部に備わるカメラだ。従来は「1080p FaceTime HDカメラ」を搭載していたが、今回の新モデルでは「12MPセンターフレームカメラ」なるものを搭載している。
この新カメラは、名前の通り有効画素数が約1200万画素となったことと、ハードウェアベースの「センターフレーム」機能を備えていることが特徴だ。カメラ自身の画素数が高くなったため、センターフレーム機能を使っても1080p(フルHD/1920×1080ピクセル)の高画質で映像を伝送できる。
また、新カメラはレンズが超広角になったことも特徴だ。これにより、センターフレームを使う際により広範囲に移動できるようになった。ちなみに、撮影する際の画角はユーザー自身が選べる。
加えて、新カメラでは机の上に置いてあるものを映し出す「デスクビュー」機能も追加されている。資料などを手元に置いて説明しながら、内蔵カメラで手軽に映像を作れるのは便利だ。
さらに、「ピクチャーインピクチャー(PIP)」機能も備えている。デスクビューとセンターステージカメラを併用した撮影も、システムの機能として実装された格好だ。本人の映像をピクチャーインピクチャーでワイプに入れる使い方でも、後から編集する必要は一切ない。
●性能を向上しつつも小型化された「Mac mini」
iMacに続けて発表されたMac miniは、M2/M2 Proチップ搭載モデルから2年弱ぶりの刷新となる。ただし、今回は本体が大幅に小型化されている。
サイズ感に関しては、iPhoneを持っている人ならAR機能を用いて自分の机の上に置いてみると分かりやすいのだが、イメージ的には従来モデルよりもApple TVに近いサイズ感だ。具体的な寸法は約12.7(幅)×12.7(奥行き)×5(高さ)cmで、幅と奥行きは「Appple TV 4K」(9.8cm)の約1.3倍しかない。先代と比べると、設置面積は半分以下となっている。
このことは、ボディーに使うアルミニウム量の大幅削減に貢献している。さらに、このアルミニウムは50%がリサイクル素材で、生産に必要な電力を100%再生可能エネルギーとしている。Macとしては初の“カーボンニュートラル”を達成したことも特徴だ。
コンパクト化されてはいるが、接続ポート類は、むしろより充実している。
背面にはイーサネット(有線LAN)端子、HDMI出力端子、Thunderbolt(USB Type-C)端子×3が配置されている。そして前面には以前のモデルにはなかったUSB 10Gbps(USB 3.2 Gen 2) Type-C端子×2が配置され、背面にあったヘッドフォン端子が移設されている。その代わり、USB Standard-A端子はなくなったが、最近の周辺機器のトレンドを考えれば大きな問題にはならないだろう。
イーサネット端子は標準で1000BASE-T(1Gbps)対応となるが、CTOモデルでは1万5000円プラスすることで10GBASE-T(10Gbps)対応に変更できる。
Thunderbolt端子については、搭載するSoCによってスペックが変わる。M4チップモデルでは、最大40Gbpsの「Thunderbolt 4」準拠となる一方で、M4 Proチップを選ぶと「Thunderbolt 5」準拠となる。
Thunderbolt 5は最大80Gbpsでの双方向通信に対応しており、非対称通信モードであれば最大120Gbpsのスピードを出すこともできる(その代わり、反対方向の通信速度は最大40Gbpsに抑制される)。また、本規格ではDisplayPortの出力が「DisplayPort 2.1」規格となり、M4 Proチップ搭載モデルでは6K(5760×3240ピクセル)の映像を最大3画面出力できる(※1)。
より高い解像度のディスプレイを始めとして、より多くの周辺デバイスを接続できることは、このコンパクトさを考えると大きな魅力といえよう。
(※1)M4チップモデルの場合、Thunderbolt 4端子の映像出力はDisplayPort 1.4準拠で、最大で「6K画面×2+5K(5120×2880ピクセル)画面×1」の出力に対応する(ただし、HDMI出力端子を併用する場合は「5K(5120×2880ピクセル)画面×1」が「4K(3840×2160ピクセル)×1」となる)
M4 Proチップに関する掘り下げは後で行うが、今回は2世代前のM2/M2 Proチップからのアップデートだけに性能や機能の変化は大きい。
CPUのピーク性能だけでも、M4チップは「M1チップ」に対して最大1.8倍、M2チップとの比較でも最大1.6倍となる。また同じようにGPU性能もM1チップに対して最大2.2倍、M2チップに対して最大1.4倍……なのだが、単純に速くなっただけではない。
アプリケーションの実行速度において、例えば「Microsoft Excel」のパフォーマンスはM2チップ比で最大1.6倍、ゲームでも「World of Warcraft: The War Within」ではM2チップ比で最大10.2倍高速になるという。
AI(人工知能)性能の改善も顕著で、音声文字起こしアプリ「MacWhisper」は、M2チップの最大10.1倍高速で動く。
M4 Proチップの場合、その性能向上はさらに顕著で、ExcelのパフォーマンスはM2 Proチップ比で最大1.5倍、DNAの構造解析アプリ「Oxford Nanopore MinKNOW」のベースコールのパフォーマンスは最大1.3倍、MacWhisperの音声文字起こしは最大1.4倍といった具合だ。元々パワフルだったM2 Proチップから、さらにパワーアップしている。
●SoCの設計も見直したM4/M4 Proチップ
このように、M4/M4 Proチップはスピードが速くなったのはもちろんだが、搭載する各コアのアーキテクチャにも更新がある。
まずCPUコアだが、Armアーキテクチャベースであることに変わりはないのだが、命令セットが「Arm v8」から「Arm v9」にアップデートされた。これにより、従来はAppleが独自実装していた機械学習関連の命令セットは、Arm v9に用意された命令セットに統一される。
GPUコアは、「A18 Proチップ」と同じ最新アーキテクチャとなった。このアーキテクチャはM3チップファミリーや「A17 Proチップ」で刷新されたものの強化版で、メッシュシェーダーやレイトレーシングアクセラレーターの搭載とDynamic Cachingへの対応はそのままに、処理スケジューラーの改善を行うことで、高いパフォーマンスをより効率的に発揮できる。
「M3 Proチップ」から少し位置付けの変わったM4 Proチップ
Mac向けApple Siliconを少し振り返ると、ベースチップの強化版に当たる「Proチップ」において、第3世代の「M3 Proチップ」は先の2世代と比べると「性能重視」というよりも「電力効率重視」という方向に軌道修正していた。
一方で、新しいMac miniと同時に発表されたM4 Proチップは、少しだけ「性能重視」の方向へ“揺り戻し”が起こっている。軌道修正というよりも、M4ファミリーではアーキテクチャ面で「消費電力」や「熱」の問題がある程度緩和されたことから、積極的に性能を引き出す方向でバランス調整できた結果ということだと思う。
CPUコアは最大14基構成で、そのうちPコア(高性能コア)は最大10基となる。逆算すれば分かるが、Eコア(高効率コア)は4基固定だ。ちなみに、M3 ProチップではPコアとEコアが6基ずつ(Pコアは最大値)、M2 ProチップではPコアが最大6基、Eコアが4基という構成だった。
それぞれのチップでCPUコアの性能が異なるため、PコアとEコアのバランスが絶対性能の差を示すわけではないが、M4 Proチップは従来よりもPコアの比率が高いため、CPUをよく使うアプリでは大幅な性能向上が見込める。
GPUコアについては、M2 ProチップやM3 Proチップが最大19基構成だったのに対し、M4 Proチップでは最大20基構成となった。こちらも、わずかだが数を上乗せしている。
M2 Proチップと比べると設計が刷新されたこともあり、GPUに依存するアプリ(特にレイトレーシング処理を行うアプリ)では、レイトレーシングアクセラレーターの力もあって、大きなパフォーマンス向上が見込める。Dynamic Cachingに対応していることから、メモリの利用効率も高まるだろう。
加えて、M4 Proチップは性能向上に伴ってメモリインタフェースのチャネル数が増加しており、メモリ帯域も75%広がった。搭載できるメモリ容量も、先代のMac miniの2倍(最大32GB→最大64GB)となっている。
さらに、M4チップファミリーは「Neural Engine」(NPU:推論エンジン)の倍速動作がサポートされており、ピーク時のスループット(実効性能)は、M1チップファミリーの最大3倍、M2チップファミリーの最大2倍となっている。オンデバイスAIを活用するアプリも、より高速な動作を期待できる。
●Macの「Apple Intelligence」対応で何が変わる?
ところで、新しいiMacとMac miniは、いずれも「Apple Intelligence」への対応が強調されている。ただ、対応機種がiPhone 15 ProとiPhone 16ファミリーに限定されているiPhoneとは異なり、MacではApple Siliconを搭載する全機種で対応している。一見すると、MacではApple Intelligence対応を強調する理由は乏しいように思える。
では、初期のApple Silicon(M1チップファミリー)とM4チップファミリーでのApple Intelligenceにはどのような違いがあるのだろうか……?
出したリクエストの“複雑さ”にもよるが、M1チップファミリーでは1秒で応答していたものが、M4チップファミリーでは0.5秒で応答するとなった場合は、その積み重ねが“大きな違い”として認識されるだろう。
先に結論をいってしまうと、処理結果に違いはない。ただ、CPUコアやGPUコア、Neural Engineのパフォーマンスの違いがリクエストに対する応答時間(結果を出力するまでの時間)の差として出てくる。
ちなみに、米国ではApple Intelligenceのβテストが始まっているが、以下のようなケースで処理能力の高さを時間できるだろう。
【作文ツール】
「作文(Writing)ツール」は、Apple Intelligenceの目玉機能の1つだ。これはOS機能として組み込まれており、文章を作成するさまざまなアプリから呼び出せる。カーソルの位置も問わず、選択した文書の校正や書き直し、トーンの変更、要約などが行える。
【Siri】
音声エージェント「Siri」は既存機能ではあるが、Apple Intelligenceと組み合わせることでより賢くなった。Macをどのように使いこなせば良いのか、自然な言語で質問してみるとアドバイスがもらえる他、必要な設定項目を呼び出してくれたり、Macで管理する個人情報の中身に対して、必要な情報を発掘するために手伝いをしてくれたりする。
【写真】
「写真」アプリでは、iOSのアプリと同様に推論エンジンを用いることで画像の取り扱いがとてもスマートになった。自然な話し言葉で画像を検索できる他、映り込んだ不要な被写体をワンクリックで除去可能だ。今後のアップデートにより、昨日の拡充が一層行われるだろう。
新しいiPad Proの発表時に行われた「Final Cut Pro」や「Logic Pro」のAI機能の強化等にもあるように、今後AI技術を用いて大幅に機能を刷新したアプリが続々登場する予定となっている。それらを活用する際に、M4チップファミリーのパフォーマンスは、顕著な差として出てくるだろう。
新しいMac miniは9万4800円からという価格設定となっている。メモリの容量は16GBからとなっており、最大構成ではM4チップモデルが32GB、M4 Proチップモデルが64GBを選べる。既に予約販売が開始されているが、発売は11月8日だ。
そのパフォーマンスに関しては今後じっくりとテストした上でレポートしたい。