Appleは10月31日、プロフェッショナル向けノートPC「MacBook Pro」のラインアップを刷新した。第2世代の3nmプロセスを採用した第4世代Apple Silicon「M4チップファミリー」を搭載することで、性能と処理効率の両面で大幅な改善を果たしたことが特徴だ。
ただ、新しいMacBook Proは、SoC(System on a Chip)の刷新だけが注目点ではない。搭載メモリが最低16GBに引き上げられ、ディスプレイ上部のカメラが新しい「iMac」と同様に約1200万画素の超広角カメラに変更された点もトピックだ。ベースグレードに相当する14インチのM4チップモデルについては、Thunderbolt 4(USB4)ポートが3基となったことで、ポート数の観点で上位SoCを搭載するモデルと違いがなくなった。
そして、新しいMacBook Proでは、M4チップファミリーの最上位となる「M4 Maxチップ」を搭載するモデルも用意される。新しい「Mac mini」と同時に登場した「M4 Proチップ」と併せて、M4チップファミリーは大きく3種類がそろったことになる。
この記事では、M4チップファミリーについて発表内容をチェックした上で、新しいMacBook Proについて掘り下げていく。
●M4チップファミリーは「電力効率」が改善 上位は「性能重視」シフト
ご承知の通り、M4チップファミリーのベースグレード「M4チップ」は、熱設計に厳しい「iPad Pro」で先行デビューを果たした。先述の通り、新しいMac miniに併せてM4 Proチップ、今回の新しいMacBook Proに併せてM4 Maxチップが発表されたことで、ファミリーのラインアップは大きく3種類となった。
その上でM4チップファミリーの全体を俯瞰(ふかん)すると、前世代の「M3チップファミリー」と比べると電力効率が改善されたことを伺い知ることができる。
このファミリーは、iPhone向けSoCでいうとiPhone 16シリーズで使われた「A18チップ」、あるいはiPhone 16 Proシリーズで使われた「A18 Proチップ」と同世代の設計だ。新しいMacBook Proでは、14インチモデルにおいて3種類のいずれも選べるようになっている(16インチモデルではM4チップを選べない)。
ベースグレードのM4チップには、最大4基のPコア(高性能コア)と6基のEコア(高効率コア)を組み合わせた、最大10基のCPUコアが搭載されている。GPUコアは10基で、メモリは最大32GBまで搭載できる。メモリの帯域幅は毎秒120GBと、先代(M4チップ)比で17%高速化している。
M4チップの上位モデルに当たるM4 Proチップは、最大10基のPコアと4基のEコアを組み合わせた最大14基のCPUコアを搭載している。GPUコアはM4チップの2倍となる最大20基に強化されている。メモリは最大64GBまで搭載できるが、新しいMacBook Proでは最大48GBに設定されている(64GB以上はM4 Maxチップで用意)。メモリの帯域幅は毎秒273GBと、先代(M3 Proチップ)から実に75%高速化している。
そしてM4 Proチップの上位となるM4 Maxチップは、最大12基のPコアと4基のEコアを組み合わせた最大16基のCPUコアを搭載している。GPUコアは最大40基で、「16コアCPU+40コアGPU」の構成はノートPCとしては現状で世界最強のSoCといえる。メモリの容量は最大128GBで、帯域幅も毎秒546GBと超高速なので、従来はノートPCでこなすのが困難だった大規模な科学技術演算のワークフローにも組み込みやすい。
M4 Proチップでは、M3 Proチップに比べてCPUにおけるPコアの比率が高められている。M3 Proチップは「M2 Proチップ」までと比べるとEコアを重視した構成になっていたが、コア構成がより高性能な方向に変化しており、M4チップファミリーがM3チップファミリーよりも高い電力効率を実現した(≒Pコア比率を増やしても消費電力面での悪影響が出にくい)ことを示唆している。事実、後述するように新しいMacBook Proでは、公称のバッテリー駆動時間も長くなっている。
●新しいMacBook Proの狙いは「Intel Mac」ユーザー?
新しいMacBook Proにおいて、Appleが目指しているのはIntel CPUを搭載していた(2020年まで)のMacBook Proの“一掃”だと思われる。というのも、Appleが昨今推している「Apple Intelligence」は、MacではApple Siliconを搭載しているモデルでないと動作しないからだ。
「Intelモデルのリプレースがターゲットです」とAppleが公言しているわけではないが、新しいMacBook Proのパフォーマンス比較では、ほとんどにおいてベースライン(主な比較対象)をIntel CPU(Core i7プロセッサまたはCore i9プロセッサ)モデルとしている。
例えば、Core i7搭載モデルと比較して(以下同様)、M4チップ搭載モデルでは「Affinity Photo 2」での画像処理速度が最大7倍、「Blender」でのレンダリングパフォーマンスが最大10.9倍だという。また、M4 Proチップ搭載モデルでは、Core i7搭載モデルと比較して「Topaz Video AI」でのビデオ処理速度が最大21倍、「Oxford Nanopore MinKNOW」でのDNA解析処理速度が最大29.9倍とのことだ。
4年前のモデルとの比較とはいえ、圧倒的な差を示している。
M4 Maxチップの性能はさらに印象的で、「MATLAB」でのシミュレーション速度が最大5.8倍、「Redshift」でのレンダリングパフォーマンスが最大7.8倍、「Xcode」でのプロジェクトビルドが最大4.6倍の高速化を果たせる。このチップを選ぶユーザーは、恐らくメディア処理のスループットを重視する傾向にあると思うが、「ProResビデオ」の同時処理が4K(3840×2160ピクセル)解像度なら最大66ストリーム、8K(7680×4320ピクセル)解像度でも最大15ストリームを同時に扱えるパワフルさを備える。
M4ファミリーに共通して搭載される16コアの「Neural Engine」(NPU)は、1秒あたり38兆回の演算処理を行える。これはM1チップの約3倍で、オンデバイスでのAI処理能力が大幅に向上している。
また、「Media Engine」では新たに「AV1」形式の動画のデコードをサポートしたことで、「YouTube」や「Netflix」など、同形式で動画を配信するストリーミングサービスの再生時の処理効率が改善された。
もちろん、Apple Siliconを搭載したMacBook Proから買い換える検討している人もいるだろう。M1世代やM2世代のモデルからの買い替えは、十分に検討する余地はあると考えるが、この点については実機が手元に来てからチェックしていきたい。
●14インチモデルはバッテリーでの「24時間駆動」を実現
M4チップファミリーの電力効率が先代よりも有意に改善されているという仮説は、新しいMacBook Proの公称バッテリー駆動時間である程度証明できる。
14インチモデルには定格72.4Whのリチウムポリマーバッテリーが搭載されているが、M4チップ搭載構成ではビデオストリーミングで最大24時間、ワイヤレスWebブラウジングで最大16時間の駆動時間を達成している。公称値で“24時間”というのは、MacのノートPCとしては史上初となる。
M4 Proチップ構成ではビデオストリーミングが最大22時間、ワイヤレスWebブラウジングが最大14時間と少し短くなる。パワフルなM4 Maxチップ構成ではビデオストリーミングが最大18時間、ワイヤレスWebブラウジングが最大13時間とより短くなってしまう。
一方、16インチモデルは定格で99.6Wh(仕様表記上は四捨五入して100Wh)のリチウムポリマーバッテリーを搭載している。M4 Proチップ搭載構成ではビデオストリーミングが最大24時間、ワイヤレスウェブブラウジングで最大17時間の使用が可能だ。そしてM4 Maxチップ搭載モデルではビデオストリーミングで最大21時間、ワイヤレスウェブブラウジングで最大14時間の持続時間となっている。バッテリー容量が大きくなった分、ゆとりが増えた格好だ。
ちなみに、M4 Proチップ搭載構成では「ハイパワーモード」というものが用意されている。名前からもある程度想像が付くかもしれないが、これを有効にすると高い負荷がかかる処理が長時間続く場合でも、高い性能をコンスタントに発揮してくれる。8Kカラーグレーディングやレンダリングなどで、パフォーマンスを最大化できる。
電源アダプターは、14インチモデルは70Wまたは96W(※1)、16インチモデルは140W出力のものが付属する。14インチモデルでは96Wアダプターで、16インチモデルでは140W出力のアダプターを使えばバッテリー残量0%の状態から30分で最大50%までの充電が可能だ。
(※1)M4チップ構成とM4 Proチップ(12コア)構成の場合は70W、それ以外の構成は96Wとなる(Apple Storeなどで購入できるカスタマイズモデルでは、より大きな容量の電源アダプターも選択可能)
●「Apple Intelligence」への準備が進むMac
Mac向けの最新OS「macOS Sequoia」には、Apple Intelligenceと呼ばれる新しいAI機能が搭載されている。現時点では米国英語でのみ利用が可能だが、2025年4月以降には日本語を含む複数の言語で順次利用可能となる旨が発表済みだ。
クラウド上のAIサービスを言語の壁を突破するために活用している人は多いだろうが、Apple Intelligenceも使いこなせば、言語の壁もかなり突破してくれるツールになりうる。日本人にもかなり大きな意味のある機能だ。
Apple Intelligenceが対応するデバイスには、パーソナルかつプライベートの情報が集まってくる。スマートフォンやPCで扱う情報を言語や画像を問わず識別/生成可能で、異なるアプリ間で扱う情報の連携を実現するなど、個人向けインテリジェンスシステムとして、極めてユニークな存在になることを目指している。
実際に、この機能がどこまでデバイスのSoCやメモリに対して負荷をかけるのかは想像する他ない。しかし、1つ分かったことがある。
それはApple Intelligenceの機能のほとんどが、オンデバイスで動作することだ。オンライン状態だと一部の処理がクラウドに投げられることもあるが、それでも処理の多くはオンデバイスで動作している。これは米国英語で使えるβ版でも確認できるが、Appleへの取材を通しても明らかとなっている。
先に触れた通り、Macの場合はApple SiliconでさえあればApple Intelligenceが利用できる。2020年から登場したば第1世代のM1チップファミリーも対象だ。
では、最新のM4ではどのような違いが得られるのだろうか。結果の品質に関しては変わりない一方で、応答性には大きな違いが出る。つまり、リクエストに対して速やかに結果を出してくれる価値こそが、Apple Intelligenceに最適化された最新モデルの価値ということになる。
また、Appleははっきりと明言しているわけではないが、このタイミングでモデルチェンジしないものを含めて、全てのMacのメモリを16GB以上に統一したのは、Apple Intelligenceを使いこなしていく上で、さまざまなシステムやアプリケーションにまたがった質の高い回答を実現するために、メモリの量がそれなり必要になってくるからではないかと想像している。トークンの最大数を増やすために、メモリを増やしたという見立てだ。
まだ全てではないものの、Apple Intelligenceは少しずつOSの中に統合されてきており、標準搭載のアプリでも活用されている。これについてはまた別途、取り上げていく機会を作りたいと思うが、幅広く製品ラインアップを一新したこの3日間は、Apple Intelligenceへの最適化を目指したものだろう。
●さまざまな種類の“プロフェッショナル向け”を極めたMacBook Pro
ベースグレードのM4チップ搭載モデルでもThuderboltのポート数に違いがなくなったことで、新しいMacBook Proは極めて幅広いユーザー層に対して訴求するシリーズになったといえる。
またM3チップ世代では、ターゲットとする性能領域が1段下がったように感じられた「Proチップ」モデルは、M4チップ世代ではメディア処理など、重たい負荷に対する対応力をむしろ高めている。Proチップモデルが「Maxチップ」モデルに近づいたというわけではなく、両方のバリエーションモデルがより高い性能へとスライドしたように感じる。
今回はベースグレードのM4チップの性能も十分に高いことから、MacのエントリーモデルになっているMacBook AirがM2/M3チップに据え置かれていることも(不満を持つ読者もいるだろうが)ふに落ちる。
最後に、新しいMacBook Proの価格設定についてまとめておこう。詳細はAppleのWebサイトをチェックしてほしいが、Apple Storeにおける最小構成の価格は以下のようになっている。
・14インチモデル
・M4チップ:24万8800円から
・M4 Proチップ:32万8800円から
・M4 Maxチップ:39万8800円から
16インチモデル
・M4 Proチップ: 39万8800円から
・M4 Maxチップ: 55万4800円から
M4 Maxチップモデルはメモリは最大128GB、ストレージは最大8TBまで搭載できる。16インチモデルの最上位構成の価格は63万4800円となる。
なお、実機のパフォーマンスについては追ってレポートをお届けする予定だ。