PFUが10月2日に発売した「HHKB Studio 雪」は、コンパクトキーボード「HHKB Studio」シリーズの新色モデルだ。英語配列と日本語配列が用意され、価格はいずれも4万4000円だ。
HHKB Studioが登場したばかりの頃は、マウス操作可能なポインティングスティックやキーボードの手前に設けられた左クリック、中クリック、右クリックのマウスボタンが便利だと感じていたし、独自のキーマッピングを設定できる点も大いに気に入っていた。
しかし、周囲が暗くなるとモノを見えづらくなるお年頃……。曇りの日の仕事部屋、プロジェクターを使ってプレゼンをするセミナー会場、雰囲気のあるカフェなどで、墨モデルのキートップ刻印が見えづらくなってしまうというケースによく遭遇するようになった。筆者は「かな入力」でタッチタイプできるが、英数記号はキートップの刻印を目視確認したいので致命的だった。
「はぁぁ、明るい色のHHKB Studioが出ないかなぁ。白モデルでいいから出ないかなぁ。雪モデルだったらテンション上がるだろうなぁ」など勝手なことを考えていたところ、ついに雪モデルの登場というわけだ。テンションが上ったのは言うまでもない。
本記事では、雪モデルと墨モデルを比較しながら新モデルの使い勝手などを紹介しよう。
●HHKB Studioとは? 雪モデルと既存モデルの違いは?
HHKBシリーズは合理的なキー配列によって、ホームポジションからあまり手を動かさずにほとんどのキーを押下できるコンパクトさをコンセプトとしている。HHKB Studioは、その「あまり手を動かすことなく行える操作」にマウス操作を追加したものだといえるだろう。
「G」と「H」キーの間にポインティングスティックを配置することで、親指や人差し指でマウスカーソルを動かしやすくなっている。また、左クリックと右クリック、中クリックのボタンを中央手前に配置することで、ホームポジションから手を動かすことなくクリック操作も行えるようにしている。
その他にもマウスホイールのような高速スクロール、ウィンドウの切り替え、入力カーソルの上下左右への移動を行えるジェスチャーパッドをキーボードの左右と手前の左右側面に配置するなどギミックは盛りだくさんとなっている。
片手をマウスに移動させることなく、最小の動きでマウス操作を行えるのがHHKB Studioの最大の強みというわけだ。
他のHHKBシリーズと異なる点は他にもある。例えば、静電容量無接点ではなくメカニカルスイッチを採用したことだ。メカニカルスイッチにありがちな「カチャカチャ」という騒がしさはないものの、独特な「スコスコ」というキータイプ音や、ふにゃりとしたキータッチはない。好みのキースイッチに変えられるホットスワップにも対応している。
ここで白についても触れておこう。雪モデルの特徴は、雪のような白がベースカラーであることだ。アクセントはシルバーカラーで塗装されたABS樹脂で、PBT素材のキートップに入った刻印はクールグレーカラーとなっている。
降り積もった雪の上に、椿など常緑樹の葉から落ちた水滴が描くコントラストに似ていると感じた。なお、キートップの刻印は他のHHKBシリーズと同じ昇華印刷を採用しているので、文字がすり減ってしまい見えなくなるという心配は不要である。
雪モデル登場と同時に、キーマップ変更ツールも改良された。1つはプロファイルごとに設定を保存し、それをインポート/エクスポート可能になった点だ。自分で設定したプロファイルの他に、他人が使い勝手を極めたHHKB Studioのキーマッププロファイルを追加することもできることになる。また、自分で作成したキーマップをベースに再編集することも可能だ。
2つ目は、WindowsとmacOS間で同じキーマッププロファイルをインポートできるようになったことだ。他人の作ったキーマッププロファイルを取り込む際に、OSの違いを気にする必要がなくなっただけでなく、どちらのデバイスも使うという人にとって、指が覚えたキーマップで入力できるのはメリットとなるだろう。
●HHKB Studio 雪モデルをじっくり観察する
それでは早速箱を開けてみよう。パッケージの中身は、HHKB Studio本体の他、電源となる単三形乾電池×4本、予備のポインティングスティックキャップ×4個、USB Type-Cケーブルとなっている。
地味にうれしかったのは、ケーブルの色も白でそろえてあるところ、そしてポインティングスティックキャップの色が墨モデルより明るめになっていたことだ。
左右カーソルキーとしての役割を持つジェスチャーパッド、左クリック、中クリック、右クリックのマウスボタン、ウィンドウ切り替え用ジェスチャーパッドを前面に搭載している。
左側面には上下カーソルキーとして使えるジェスチャーパッド、右側面には素早いスクロールが可能なジェスチャーパッドを備える。
背面にあるのは電源スイッチとUSB Type-C端子だ。
底面にはHHKB Studioのロゴが彫り込まれており、電池カバーや滑り止めのラバーソールの他、2段階で高さ調節可能なチルト機構を搭載している。
電池カバーを開けるとDIPスイッチが姿を現す。一時的にジェスチャーパッドを無効にしたい場合などに便利だろう。フタの裏側に接続先を切り替えるためのショートカットキー一覧が貼り付けられているのも良い。筆者はHHKB Professional HYBRID Type-Sを使っていた時にはショートカットキーを覚えきれず、デスク上に付箋を貼り付けていた。
従来の墨モデルと比べてみよう。色が異なるだけで、フットプリントや前側、後ろ側のサイズは、見たところ同じであった。
では、HHKB Professional HYBRID Type-S雪モデルと比べるとどうだろうか。ベース部やキートップの刻印の色に違いはあるのだろうか。
並べてみたところ、若干ではあるがHHKB Studioでは色が暗いように見えた。キートップの刻印の色のコントラストの問題かもしれないが。キートップの刻印ということで言えば、HHKB Professional HYBRID Type-Sでは装飾キーの1文字目が小文字であるが、HHKB Studioでは大文字であった。
刻印の色だけでなく、文字の大きさにも違いがあるHHKB Studio雪モデルのほうが大きいのだ。大きくしてあるおかげで、ボディーになじむような淡めの印字でも視認性が高いのかもしれない。
じっくり眺めた後は、実際に使ってみたい。
●刻印が見えるだけで入力しやすい
HHKB Studioの雪モデル(以下、HHKB Studio)に電池を入れ、PCに接続する前に、PC側にHHKB Studioキーマップ変更ツールをインストールした。筆者が使っているのは「ONEXPLAYER X1 mini」なので、Windows向けをダウンロードした。
それからPCとHHKB Studioをケーブルで接続し、HHKB Studioの電源を入れる。Bluetooth設定をしていなければ、これでキーボードやマウスとして使えるようになる。
しかし、本格的に使うからには自分好みにカスタマイズしたい。そこで、すかさずHHKB Studioキーマップ変更ツールを立ち上げて設定していく。
キーマップ変更のやり方は簡単である。役割を変えたいキーを上に表示されているHHKB Studioの図から選んで、下に表示されている割り付け可能なキーをクリックするだけだ。どのような種類のものがあるかを把握するために、「QWERTY配列」「すべて」「デバイス」「ショートカット」全種類をそれぞれクリックして、目を通しておくと良いだろう。
好みの配列にできたら、「HHKBへ読込み」ボタンをクリックしてHHKB Studio本体に設定を保存しよう。「読込みが完了しました」というダイアログが表示されたら、「OK」をクリックして完了だ。プロファイルを保存したい場合は「…」(メニュー)ボタンから「設定を保存する」→「現在のProfile」へと進む。
準備が整ったので、自宅仕事や出先での作業にHHKB Studioをガッツリ使うことにした。
それまで使っていた墨モデルと異なり、文字がはっきり見えるのが良い。天気が曇りで室内が薄暗くても問題なくキー入力を行える。何より英数字を入力しようとスペースキーの左側のキーを押したときに、確実に英数字を入力できる直接入力モードになっているのが良い。
また、墨モデルでもあちこち持ち歩いていたのだが、明るさが足りないと途端に作業効率が落ちていた。
しかし、雪モデルでは薄暗いカフェ店内でも、キートップの文字がはっきり見える。辞書登録していないアルファベットを使った製品名などを入力する際、ほぼ間違えることなく行えた。
狭いスペースでも、キーボード分のスペースを確保できさえすれば、マウス操作できるというのも良い。
惜しむらくは、HHKB Studioの厚み(最厚部41mm)と重量(電池含まず830g)だが、その短所を補って余りあるメリットを感じている。
●2種類のキートップセット
PFUはHHKB Studio向けキートップを自作できるよう、キートップの3Dデータを公開している。ユーザー自身が、さらに自分好みにカスタマイズできるように、とのことらしい。
にもかかわらず、今回の雪モデルでは、当初から2種類(実際には英語配列と日本語配列があるので4種類)のキートップセットの取り扱いを発表している。「黒印字」と「無刻印」だ。
キートップのつけ外しは簡単だ。装着済みキートップに引き抜き工具のワイヤー側を強く当て、キートップの下にワイヤーが入り込んだらわずかにねじり、キートップの下側の角をワイヤーで支えるようにする。そのまま真上に引っ張れば、キートップを引き抜ける。
後は間違えないように対応するキートップをはめ込んでいく。真上から押し込むようにして、キースイッチ周りを破損しないよう注意したい。
標準のものと黒印字バージョンでは、文字の大きさは同じだが、色が明らかに違う。
また、HHKB Professional HYBRID Type-Sの雪モデルとも、同じ黒刻印でも文字の大きさや太さが違う。
ここまで視認性を高めたのには理由がある。必殺HHKB仕掛け人であり、PFUのプロダクト・エバンジェリストでもある松本秀樹氏は、「Apple Vision Proを装着していても使えるようにするため」と語る。
いくらApple Vision Proのビデオシースルー機能が優れていて、ほぼ何もつけていないかのような視界をゴーグル内で再現するとしても、薄い文字だと見えづらくなってしまうかもしれない。「VisionOS2で完全対応するHHKB Studioで、入力時に見えづらいとなれば、それは体験のノイズになってしまう。ノイズレスなイマーシブ体験を実現したかった」と解説した。
Apple Vision Proを買える層は限られているかもしれないが、XRグラスを外付けディスプレイのようにしてPC作業をするのであれば、視認性の高さと最小限の手の動きでマウス操作も行える雪モデルは良い相棒となるだろう。
量販店での取り扱いはないものの、コワーキングスペースやギークな人達の集まるバーなどのタッチポイントで実機に触れられる。また、ゲオの「あれこれレンタル」を利用すれば14泊15日5480円で借りられる。気になっているのであれば、試してみるのも良いだろう。
キーマップ変更ツールやDIPスイッチなど便利そうな部分でまだまだ使いこなせているとは言い難いが、光量不足の環境でキートップの文字を見づらくなった筆者にとっては、この雪モデルを手放せなくなりそうだ。