11月8日、M4チップファミリーを搭載する新型Macが一気に登場する。
M4チップファミリーのベースとなる「M4チップ」は、iPad Proで先行採用されたが、Macでの採用は今回が初めてだ。また、新しいMacと併せる形で上位チップ「M4 Proチップ」「M4 Maxチップ」も登場した。わずか1週間の間に、(出るかどうかは不明だが)「Ultraチップ」以外のファミリーが勢ぞろいした格好だ。
クリエイター向けの「Mac Studio」や「Mac Pro」の新モデルが発表されていないため、今後M4 Ultraチップが追加されるかどうかは分からない。しかし、M4/M4 Proチップを搭載する新モデルをテストしてみた所、M4 Maxチップを最上位とする現状のバリエーションでもかなりのパフォーマンスを高い電力効率で実現できていることが分かってきた。
●テスト機について
今回は、Apple Japanから以下の機材を借用して各種ベンチマークテストを実施した。なお、M4 Maxチップを備えたレビュー機は借りることができなかったため、テストを実施していない。
・iMac(10コアM4チップ搭載/10コアGPU/24GBメモリ)
・Mac mini(14コアM4 Proチップ搭載/20コアGPU/48GBメモリ)
・14インチMacBook Pro(14コアM4 Proチップ搭載/20コアGPU/48GBメモリ)
14コアM4 Proチップ搭載/48GBメモリのマシンが2台ある状態だが、両者はサーマルスロットリング(発熱による意図的な性能低下)のポイントが若干異なる程度で、テストのスコアもほとんど差がなかった。そのため、14コアM4 Proチップのテスト結果については、Mac miniとMacBook Proでベターだった方を掲載する。
ちなみに、テストのスコア(≒性能)の差はほとんどないものの、実際は冷却ファンの音質等の体験は異なるため、その点はテストの折に触れることにしたい。
●「M4」はマルチコアでM3 Pro超え 「M4 Pro」はM2 Ultraに迫る
今回は、一般的なベンチマークテストアプリである「Geekbench 6」のCPU/GPUテストと、「CINEBENCH 2024のCPU/GPUテストと併せて、2D/3Dレンダリングツール「Blender」と同じエンジンを用いるベンチマークテスト「Blender Benchmark」と、Adobe Creative CloudおよびDaVinci Resolveを利用したベンチマークテスト「PugetBench for Creators」を使って実用上のパフォーマンスも確かめた。
いずれもクロスプラットフォーム対応なので、Windows PC向けのCPU/GPUとの比較もしやすい。Webサイトではユーザーから提供された(またはテストの開発者が計測した)テスト結果も公表されているので、M4ファミリーのMacを購入する前でもパフォーマンスを横並びで確認できる。
なお、これらのテストのうち、PugetBench for Creatorsについては、テストに用いるアプリのライセンスが必要で、スクリプトを使ってアプリを操作する都合からOSとアプリの表示言語を「英語」にしないと正常に動作しないので気をつけたい。
まず、M4ファミリーのCPUコアは予想以上にピーク性能が向上している。具体的なスコアは以下の通りだ。
・Geekbench 6(CPUテスト)
・10コアM4チップ
・マルチコア:1万4831ポイント
・シングルコア:3779ポイント
14コアM4 Proチップ
・マルチコア:2万2540ポイント
・シングルコア:3808ポイント
CINEBENCH 2024(CPUテスト)
・10コアM4チップ
・マルチコア:887ポイント
・シングルコア:172ポイント
14コアM4 Proチップ
・マルチコア:1659ポイント
・シングルコア:172ポイント
ベースグレードの10コアM4チップでも、マルチコアスコアは「M3 Proチップ」を超えて「M2 Maxチップ」に迫っている。これは、M3 Proチップが省電力性の高さをかなり重視した設計だったことにも起因すると思われる。
Pコア(高性能コア)が10基となる14コアM4 Proチップでは、2個のチップを連結したはずの「M2 Ultraチップ」のマルチコアスコアを上回っている。M3ファミリーには現時点でUltraチップが存在しないので何ともいえないが、同様にUltraチップのないM4ファミリーでは、Proの段階で2世代前のUltra超えを果たしている。
●GPUコアの演算能力は「M4 Pro≒M1 Max」
GPUコアの演算性能は、以下の通りだ。
・10コアM4チップ(GPUコア10基)
・Geekbench 6(GPUテスト):5万4834ポイント
・CINEBENCH 2024(GPUテスト):4425ポイント
14コアM4 Proチップ(GPUコア20基)
・Geekbench 6(GPUテスト):10万8047ポイント
・CINEBENCH 2024(GPUテスト):9063ポイント
M4ファミリーのGPUは、メッシュシェーダやレイトレーシングのハードウェアアクセラレータが搭載された新しい世代のGPUコアが採用されている。ファミリー内の比較では、GPUコアの数がそのままスコア(≒パフォーマンス)の差につながっている様子がうかがえる。
GPUコアを20基搭載している14コアM4 Proチップは、演算スループットだけ見るとM1 Maxチップとほぼ同等となる。ただし、Geekbench 6とCINEBENCH 2024のGPUテストは純粋に演算性能を比較しているだけなので、M4ファミリーにおける新しいハードウェアアクセラレーターの効果は見えない。
GPUのハードウェアアクセラレーターの効果は?
GPUのハードウェアアクセラレーターの効果は、Blender BenchmarkのGPUテストでいかんなく発揮された。併せて実施したCPUテストも含めたスコアは以下の通りだ。
・10コアM4チップ(GPUコア10基)
・CPUテスト:230.94ポイント
・GPUテスト:392.34ポイント
14コアM4 Proチップ(GPUコア20基)
・CPUテスト:392.34ポイント
・GPUテスト:2523.52ポイント
GPUテストの結果を過去のサンプルデータと比べると、M4 Proチップの20コアGPUは60コアGPU備えるM2 Ultraチップに迫るスコアを記録している。3分の1のGPUコアで、現状の「Mac Studio」の最上位構成とほぼ同じパフォーマンスということだ。
先述の通り、M4 Proチップは、M2 Ultraチップに対してCPU性能では超える面もある。最大メモリ容量の違いも考慮する必要があるとはいえ、M4 ProチップはM2 Ultraチップに匹敵する性能を備えると考えて良いだろう。
M4チップでも4K動画を快適に制作できる
PugetBench for Creatorsで「Adobe Photoshop」とDaVinci Resolveのパフォーマンスをテストした結果は以下の通りだ。
・10コアM4チップ(GPUコア10基)
・Photshopテスト(スタンダード):1万353ポイント
・DaVinci Resolveテスト(スタンダード):4529ポイント
14コアM4 Proチップ(GPUコア20基)
・Photshopテスト(スタンダード):1万1109ポイント
・DaVinci Resolveテスト(スタンダード):7407ポイント
M4 ProチップのスコアはM3 Maxチップのスコアを少し下回る程度だ。M4チップも、スコアだけ見るとそこそこ高速で侮れない。
GPU内蔵アクセラレーターが有利に働くBlender Benchmarkのテストでは、M4 ProチップはM1 MaxチップとM2 Maxチップの間ぐらいの性能を発揮た。そしてPugetBench for CreatorsのテストではプロクリエイターがPhotoshopを使いこなす上で十分な性能を発揮し、M4チップモデルでも、DaVinci Resolveでは(少なくとも一般的な編集用途では)4K動画の編集作業を十分快適に行えることがよく分かった。
今回はM4 Maxチップモデルのテストを行えていないが、M4ファミリーはM1ファミリーで「プロフェッショナルクリエイター向け」とされたハイエンド環境に迫る性能を実現している。とりわけ、M4 Proチップはこれまでのデスクトップ型Macにおける最高峰に匹敵する全体性能を備えている。
●極めて良好な「ワッパ」と「高い性能」を両立
正直に告白すると、M4ファミリー全体をテストするまでは、この新世代がここまで高性能だとは想像はしていなかった。iPad Proで初登場したこともあり、とりわけM4チップは「最新世代のApple Siliconを薄く軽量なタブレットに搭載すべく最適化されたSoC(System on a Chip)」だと考えていた。少し言い方を変えれば、電力効率(いわゆる「ワッパ」)の高さに大きくベットしたファミリーなのだと想定していた。
しかし、それはM4ファミリーの特徴の“ある一面”を切り取っていただけのようだ。Mac miniやMacBook Proといった冷却性能や供給電力に余裕のあるプラットフォームでは、極めて高いパフォーマンスを発揮できる性能面でのスケーラビリティーを確保していたのだ。
もちろん、そもそもの話でいえば、Apple Siliconは高いワッパを売り物としてきた。M1チップ搭載のMacが初めて登場した際は、業界に衝撃が走ったと表現しても大げさではないだろう。
その特徴はその後のApple Siliconにも反映されてはいるが、M3ファミリーへのアップデートでは、少し方向性が変わっていたように見受けられた。業界内でもワッパが最も高い設計になっていることに変化はなかったものの、他社に追いつかれつつある印象もあったからだ。
絶対的な性能は予想の範囲内ではあったものの、消費電力や発熱の面では期待値を少し下回っていたように思う。
しかし、ベンチマークテストをしてみて感じたが、今回のM4ファミリーは再び元の立ち位置に戻ったと思う。テスト中に他のApple Siliconとの関係について触れたが、性能が大幅に向上し、より多くのコアが同時に動作するシーンが多くなったにも関わらず、M3ファミリーを搭載するMacと比べるとサーマルスロットリングを含む発熱にまつわる問題が緩和されている。
14コアM4 Proチップ搭載のMac miniと14インチMacBook Proでストレステストをすると、14インチMacBook Proの方が高周波方向の冷却ノイズが発生しやすいが、冒頭で触れた通り性能差はわずかだ。
別の視点で見れば、M4ファミリーは電力効率が向上した分を特にCPUコアの構成をアグレッシブにすることに回したとも考えられる。M3 ProチップはPコア最大6基+Eコア6基という12コア構成だったが、M4 ProチップではPコア最大10基+Eコア4基という“Pコア偏重”構成となった。パフォーマンスの向上は、Pコアの大幅増による面が大きい。
こうしたCPUコアの構成変更も、SoC全体の電力マネジメントがより優れたものになったからといえるのではないだろうか。M3 Proチップの登場時、「高い性能を求めるニーズはMaxチップに任せ、Proチップはもっとベースグレードに近いところを狙う」と方針転換すると思っていたのだが、M4ファミリーでは「Proチップは無印チップとMaxチップの中間」という位置付けに戻され、かつての上位バリエーションを脅かす存在になった。
●M4 Ultraチップの登場はあるのか?
こうなると、当面は「M4 Ultraチップは登場するのか?」ということに焦点が集まる。
オンラインのベンチマークテストのデータベースには、既にM4 Maxチップに関する情報もアップロードされている。それらと今回の結果を照らし合わせれば、M4 Maxチップの位置付けもおのずと見えてくるだろう。
個人のクリエイターが求める(必要な)性能は、今回の発表で出そろったM4ファミリー“だけ”でも十分にカバーできるだろう。ベースグレードのM4チップでも、「自宅でデスクトップPCを使っていろいろな動画を編集する」という使い方に十分耐えられるだけの可用性は備えている。クリエイターにとっても、十分に魅力的な性能を備えているのではないだろうか。
そして、上位のM4 Pro/Maxチップは、よりプロフェッショナルなクリエーターにとって魅力的なものに変わりはない……のだが、「やっぱりM4 Ultraチップを搭載したMac StudioやMac Proがあったらいいなぁ」なんて考えている人もいるだろう。
Blendar Benchmarkの結果を考えると、仮にM4 Ultraチップが出てくればNVIDIAの「GeForce RTX 4080 SUPER」と「GeForce RTX 4090」の中間のパフォーマンスを発揮できる可能性がある。極めて高い電力効率のシングルパッケージに収められた小型コンピュータが、それだけの性能を発揮できる――なんと魅力的だろうか。
もしもM4 Ultraチップがリリースされるとしたら、2025年6月をめどに開催されるだろう「WWDC(World Wide Developers Conference) 2025」当たりになると思われる。約8カ月後が今から楽しみだ。