Samsung Electronics(サムスン電子)のSSDに、新製品「990 EVO Plus」が追加された。HMB(Host Memory Buffer)を用いるDRAMレス設計を採用しており、1TBあたり100ドルというメインストリーム価格帯に投入される製品だ。
●大容量4TBモデルを追加 毎秒7GBクラスの速度に向上!
この990 EVO Plusと2024年1月にリリースされた「990 EVO」を比べると、HMBを採用するところは同じだが、4TBの大容量モデルがラインアップに加わったことがまず1つ目の違いだ。
990 EVO Plusでは第8世代V-NANDが採用されているとされる。今回、990 EVO Plusと990 EVOそれぞれ2TBモデルを借用したが、990 EVOはNANDが2チップ、990 EVO Plusは1チップと実装枚数が異なっていた。
また、990 EVO Plusは連続読み出しで最大毎秒7.25GB、同書き込みで最大毎秒6.3GBとされている。990 EVOはここが読み出しで最大毎秒5GB、書き込みが最大毎秒4.2GBだったので、公式が言うには読み出しで45%向上、書き込みで50%向上したとのことだ。
スペックをよく見ていくと、ランダム読み出し/書き込みも向上しており、実売価格や容量単価はさておき、同セグメントのSSDでより速いモデルを求める方にはここがポイントになる。
その他、990 EVOの段階でも電力効率を高めたとされていたが、990 EVO Plusもこれを受け継ぎ、同じ容量モデルでの比較ではいわゆる稼働時、平均消費電力が引き下げられている。
同社が言うには電力効率が70%以上改善し、同じ電力でデータをより高速に転送できるとのことだ。特に2TBモデルの読み出し時は990 EVOが5.5Wだったのに対し、990 EVO Plusは4.6Wで0.9Wも低く、発熱面の改善も期待できそうなので今回入手したサンプルで調べてみよう。
ちなみに、今回の990 EVO Plusのリリースでは「第8世代V-NANDと5nmコントローラー」の採用が大々的にうたわれている。990 EVOのリリース時にこのあたりの情報が抜けていたので推測になるが、同じ容量モデルでNANDのチップ数が違うことからNANDも990 EVOと990 EVO Plusでは異なる可能性があり、コントローラーもわざわざ5nmとアピールしていることから新型と思われる。
●速度と発熱をベンチマークでチェック
今回は990 EVO Plusと990 EVO、それぞれ2TBモデルを用いて実際の性能をAMD/Intel環境で検証した。検証環境の前提として、最大のパフォーマンスを見るべくマザーボード上にある第1番のM.2スロット、つまりCPUに接続されたPCI Express 4.0 x4接続に対象SSDを搭載している。OSが入ったSSD(システム)は別途第2番のスロット(チップセット側に接続されているもの)に装着した。
まずはCrystalDiskMarkの結果だ。AMD Ryzen 5600Xを用いたシステムでは連続読み出し(1MB/Q8T1)が毎秒7.28GBと公称値通りだったが、同書き込みは毎秒5.7GBと、こちらは公称値に及ばなかった。
ランダムアクセスもQ1T1で読み出しが毎秒87.41MB、書き込みが毎秒243.28MBとまずまず速い。Intel Core i9-13900Kを用いたシステムでは連続読み出し(1MB/Q8T1)が毎秒7.09GB、同書き込みが毎秒5.8GBだった。ランダムアクセスはQ1T1で読み出しが毎秒95.69MB、書き込みが毎秒345.93MBとAMD Ryzenシステムよりも速かった。
では、990 EVOと比べて990 EVO Plusはどれだけ速くなっただろうか。Intel環境での比較となるが、CrystalDiskMarkで比較グラフを作成してみた。連続読み出しが毎秒5GB→毎秒7GBに高速化したのは大きいが、他も全項目で990 EVOを上回っている。あまり数値が大きくないランダムアクセスQ1T1でも読み出し/書き込みとも高速化しているところは目を引く。
以降については、Intel環境で検証していこう。実運用では連続アクセスだけ速ければよいというものでもなく、データサイズもさまざまだ。実際の用途において990 EVO、990 EVO Plusはどのくらいの転送速度が得られるだろうか。
3DMarkのStorageテストは実際のゲームのロード、ゲームの録画やインストール、保存、移動といったテスト項目で構成されている。実使用に近いベンチマークなので、例えば990 EVOから990 EVO Plusに乗り換えたとしてどのくらいの性能向上が見込めるのかイメージしやすいと思われる。
まず、スコアとしては990 EVO Plusが4229ポイント、990 EVOが3810ポイントだった。転送速度のグラフでは、全項目990 EVO Plusの方が高速という結果だが、990 EVOに対しておおむね10%前後の向上となる。連続アクセスの45%アップというインパクトよりは控えめだが、普段使いの実性能として1世代10%の向上は大きい。
引き続き3DMark Storageテストで計測できるアクセスタイムも比較しておこう。アクセスタイムは、ストレージがコマンドを受け取ってから実際にデータ転送を開始するまでの時間だ。990 EVO Plusは990 EVOよりもアクセスタイムが短縮、つまりレスポンスが速くなっている。
3DMark Storageテストの最後に温度推移をチェックしよう。990 EVOの頃から低消費電力がうたわれており、990 EVO Plusも受け継ぐ形で仕様上の消費電力値ではそれほど差がないように見えたが、実際に測定してみると990 EVO Plusは990 EVOよりもおおむね10度低いあたりの温度で推移しており、負荷がかかるとさらに差が広がる格好だった。
もちろん計測条件は統一している。同じM.2スロットを用いており、どちらもM.2 SSD向けにアフターパーツとして販売されているヒートシンクを装着し、どちらもケースファン1基をフロントファン想定の位置に設置した状態だ。消費電力が負荷時で0.5~0.7W差あるので同条件なら温度が抑えられるだろうことは予想できたが、ここまで大きい差になるとは驚いた。
●テストスコアは高くなっても動作温度は従来モデルより下がる
次にPCMark 10のStorageテストを2つ見てみよう。3DMarkはゲーム中心のストレージ性能になるが、PCMark 10はFull System Drive Benchmarkがシステムドライブを想定したアプリの起動などを行うテストで、もう1つのData Drive Benchmarkはデータドライブを想定してファイルの読み書きが中心のテストだ。
こちらも990 EVO比で10%向上(Data Drive Benchmarkは8%)あたりになる。ゲームだけでなく、業務用PC、家庭用PCといった用途でも向上が期待できる。
最後にTxBENCHを用いた検証を実施した。テストは全域連続書き込みで、10分間実行した際の転送速度と温度推移を見てみよう。
まずは転送速度だが、990EVO Plusは990 EVOと比べると序盤の高速で転送できている時間が長く、以降は990 EVOと大差ない毎秒1.3GB付近に落ちるものの、その領域も印象としては990 EVOよりも若干高速であるように見える。
次の温度推移では、ここでも990 EVO Plusは990 EVOよりも温度域が低かった。こちらは長時間の連続書き込みということもあって990 EVO Plusでも50度台で推移しているが最大でも58度とまだ安心できる温度だ。
一方で990 EVOは70度台と、2モデルの間では17~18度程度の差があった。先の3DMark Storageテストだけではにわかには信じられなかったが、TxBENCHの検証でも990 EVO Plusが990 EVOよりも低発熱という結果なので、実際に990 EVO Plusが低発熱になっていると見て間違いないだろう。
●「Plus」で済ませていいの!? 性能も省エネも大きく向上した新モデル
ここまで、Samsungのメインストリーム向け新SSD、990 EVO Plusを試してきた。まず毎秒5GBクラスの990 EVOから、990 EVO Plusでは毎秒7GBクラスへと引き上げられた。そして、実運用に近い想定のベンチマークにおける転送速度も向上を見せ、アクセスタイムも速くなっていた。
これだけでも十分検討に値するところだが、3DMark StorageテストやTxBENCHの結果の通り、発熱もかなり抑えられているようだ。こうしてみると、990 EVO→990 EVO Plusは製品名としてはあまり大きく変わった印象はなくとも、製品としては大きく進化したと言ってよいだろう。
さて、990 EVO Plusの用途だが、メインストリームユーザーにとってのシステムドライブ、パワーユーザーにとっては大容量モデルが投入されたことでデータドライブ用として検討されるあたりになるだろう。価格は4TBモデルが実売4万5000円前後、2TBモデルが実売2万7000円前後、1TBモデルが実売1万6000円前後となり、注目度の高い製品になることは間違いない。
ただし既報の通り、4TBモデルは初回出荷以降は5万2000円前後になるとのことなので購入時は注意しよう。