先日、「M4 Maxチップ」を除くM4チップファミリーを搭載するMacの“実力”をベンチマークテストを通してチェックした。
M4チップファミリーを搭載するMacは、搭載メモリが16GB以上となった。M2/M3チップモデルを継続販売する「MacBook Air」についても、最低メモリ容量が16GBに改められた。
とはいえ、「Macを買いたい(買い換えたい)けれど、どれいいのか分からない」という人も少なくないだろう。そこでこの記事では、M4チップファミリーを搭載する「iMac」「Mac mini」「MacBook Pro」について、ベンチマークテストでは分かりづらい部分のファーストインプレッションをお伝えする。
●iMacやMacBook Proの「Nano-textureガラス」は扱いやすく
新しいiMac(8コアCPU構成を除く)とMacBook Proでは、Apple Storeなどで購入できるカスタマイズ(CTO)モデルにおいて、画面ガラスとして「Nano-texture(ナノテクスチャー)ガラス」を選択できるようになった。これにより、Mac関係の純正ディスプレイは「MacBook Air」と8コアCPUのiMac以外の全てがNano-textureガラス対応となった。
Nano-textureガラスは、その名の通りに表面にナノメートルクラスの極めて微細な起伏を施した特殊ガラスだ。このガラス自体は以前から導入されているもの、かつては極めて高価だった。しかし、M4チップ搭載の「iPad Pro」に採用されて以降、比較的リーズナブルに選べるようになった。
その落ち着いた見え味は、とても印象的……なのだが、初めてオプションが用意された「Pro Display XDR」のNano-textureガラスは、極めてセンシティブだった。専用のマイクロファイバーを使ったクリーナーが付属するものの、ちょっとした汚れでも、きれいに吹き上げるのは難しかったからだ。日常の清掃すら難しいのは、ちょっと考え物だった。
しかし、タッチ操作やペン入力を基本にすることにあってか、M4チップ搭載のiPad Proに採用されたNano-textureガラスは汚れに強くなった。構造上の都合から、油脂成分の付着による効果の低下こそ存在するものの、それにも増して落ち着いた風合いと高い色純度、シャープな描写の併存は維持できている。
タッチ操作やペン入力に対応しないものの、新しいiMacやMacBook Proで選べるNano-textureガラスは、M4チップ搭載iPad Proと同様に防汚対策を強化したものだ。特に大画面なiMacでは、Nano-textureガラスがもたらす体験は驚くに値する。あくまで筆者の主観ではあるが、追加のコストを払うだけの価値はある。「エントリークラスの製品だからもったいない」ということはなく、人によっては「SoC(プロセッサ)の絶対的な性能の向上」よりもインパクトを与えるだろう。
なお、Nano-textureガラスを選択した場合の追加金額は以下の通りとなる。
・iMac(8コアCPU構成を除く):3万円
・MacBook Pro(14インチ/16インチ共に):2万2000円
リアルのApple Storeなど、Nano-textureガラスを搭載したiMacやMacBook Proの実機を展示している店舗もある。気になる人は、実機展示の内容を確認した上で選択の有無を検討するといいだろう。
●同じ「M4 Proチップ」で性能差や発熱差はある?
次に触れておきたいのが、MacBook ProとMac miniの冷却性能の違いだ。もっと具体的にいえば、CPUやGPUに対する負荷を長時間かけた場合のシステムの振る舞いの差である。
とても小さくなったとはいえ、新しいMac miniには比較的直径の大きな冷却ファンが装着されている。どうしても冷却ファンを薄型/小型にしないといけないMacBook Proの方が放熱面では不利……と思いきや、MacBook Proは、Mac miniよりも高性能な(≒発熱が大きくなりうる)「M4 Maxチップ」を選択できる。もしかすると、熱設計面ではMacBook Proの方が上限値を高く設定されているのかもしれない。
先に紹介したベンチマークテストでも触れた通り、M4 Proチップ構成同士で比べてみると、14インチMacBook ProとMac miniでは大きなパフォーマンスの差は見受けられない。強いて違いを挙げるとすると、冷却ファンのノイズの出方が違う程度だ。もっとも、冷却ファンがけたたましい音を立てて回るのは、マルチスレッド処理でCPUに高負荷をかけ続けた時のみと考えていい。
GPUコアに対して負荷をかけた場合も、それなりの発熱が生じる。しかし、「CINEBENCH 2024」でGPU負荷が100%となる状況を10分、30分となるようにテストを回してみたのだが、サーマルスロットリング(過剰発熱を避けるための性能抑制)は見られない。本体はほんのり暖かい程度だ。GPUに関しては、サーマルスロットリングを気にする必要はないだろう。動画のレンダリングなどを含むGPU依存が高い処理では、安定して長時間のパフォーマンスを期待できる。
なお、より発熱が増えるであろう「M4 Maxチップ」を搭載するMacBook Proでは、状況に応じた電力制御が加わると予想される。
●「低電力モード」と「高出力モード」でパフォーマンスは変わる?
一方で、CPUコアに高い負荷を与える場合は、SoC全体により大きな発熱が生まれ、サーマルスロットリングが入る確率が高くなる。すなわち、M4 ProチップではCPU負荷が高いシチュエーションの方を気にしないといけないだろう。
新しいMac miniとMacBook Proは共に、エネルギー/バッテリー設定で「低電力モード」に加えて「高出力モード」なるものが用意されている。デフォルトでは「自動」に設定されているが、ユーザーがどちらかを能動的に選ぶことも可能だ(MacBook Proは「電源アダプタ使用時」と「バッテリー使用時」で個別に設定できる)。
通常は「自動」にしていても、十分に消費電力は低く、バッテリーの駆動時間も長い。そのため、低電力モードを使うシチュエーションはあまり思いつかない。一方、高出力モードはCPU依存の大きいアプリではパフォーマンスの改善につながるかもしれない。
“かもしれない”というのは、CINEBENCH 2024でマルチコアのCPUレンダリングのテストを行うといった、全てのCPUコアが完全に回り切る状況でしか違いを計測できなかったからだ。M4 Proチップにおける冷温時の1ループ目のスコアは「1654ポイント」だったが、自動モードではこのテストを行うと数分動かすだけでサーマルスロットリングが作動し「1583ポイント」に低下してしまう。
とはいえ、スコアから見える性能低下率は4~5%程度で、ほとんど変わらないといっても差し支えはないだろう。
これを高出力モードに切り替えると、どうなるだろうか。CINEBENCH 2024のテスト中、冷却ファンはフルに回転するようになり、かなりけたたましい音を立てるようになる。「お、これは高いポイントが出るか?」と思いきや、結果は「1643ポイント」と自動モードとの大きな違いはない。ピーク性能を長く引き出す必要に迫られない限りは、自動モードで問題ないだろう。
少し見方を変えると、高出力モードはM4 Maxチップ搭載モデルのために用意されたと考えるのが妥当だ。動作の様子を見る限り、Mac miniにもM4 Maxチップを搭載できる余力がありそうなのだが、なぜ用意されなかったのだろうか……?
●USB Type-C端子になったMagic Keyboardは一部のキーに変更
ところで、今回に新モデルに合わせて、Magic Keyboard(ごく一部を除く)、Magic Trackpad、Magic MouseといったLightning端子を搭載するデバイスは、USB Type-C端子に置き換わった。
既報の通り、M4チップ搭載のiMacに付属するMagic KeyboardとMagic Mouseも、USB Type-C端子搭載の新バージョンに更新されている。
(※1)Magic Keyboardについては、8コアCPUモデルはテンキー/Touch IDなし、10コアCPUモデルはテンキーなし/Touch ID搭載のものが標準となる(カスタマイズモデルでは変更可能)。Magic Mouseについては、カスタマイズモデルではMagic Trackpadに変更できる
今回レビューしたiMacには、テンキー/Touch ID付きMagic Keyboardが付属していたのだが、実はUSB Type-C端子搭載キーボードは一部のキー配置が変更されている。具体的には、メインキーの右下に入力言語の切り替えキーが追加され(※2)、BackSpaceキーの右側にポップアップメニューを表示させるキーが追加された。
(※2)テンキーなしのMagic Keyboardも同様の変更を実施している
ポップアップメニューをキーボードからも操作可能にしたのは、「将来的により便利に使えるように」といった何らかの意図もあるのかもしれないが、現時点ではこのキーが必須となるような場面は感じていない。むしろ、BackSpaceキーの右側にあるので、ミスタイプで後方の文字を消すつもりがポップアップメニューが起動してしまい、操作が滞ってしまうこともある。ただし、そこは“慣れ”だけだろう。
現時点ではあまり気にする必要はないと思うが、特にテンキー付きMagic Keyobardを選びたい人は、チェックしておくといい。
●ポテンシャルがより高まったM4ファミリー搭載Mac 処理余力は心強い
性能面のレビューは別記事に譲るとして、最後に個人的な感想も交えつつ、まとめに入ろう。
M4チップ搭載の新しいiMacは、アプリの性能向上も明らかで、また先代(M3チップモデル)と比べると熱に関しては有利になっているように感じられた。
また、薄型設計なせいか、先代は意外と冷却ファンが動作する機会も多かったのだが、M4搭載モデルに関しては、多くの場合でファンの動作が気になることがなかった。その上、動画編集では、複数の4Kストリームを扱うようなシーンでも全く問題のないパフォーマンスを発揮してくれる。
M4チップは、M4ファミリーのベースグレードではある。しかし、M2ファミリーの上位モデルに匹敵するパフォーマンスを備えている。「エントリークラスの製品」といってスルーするのはもったいない。パーソナルなクリエイティブツールとして、十分なパフォーマンスを備えている。
おそらく今後、ベンチマークテストなどが進んでいくと「SSDの速度がMac miniやMacBook Proよりも遅い」との指摘が入るかもしれないが、これはストレージモジュールの“構成”に依存する。iMacではストレージモジュールが1基しか接続されていないのに対して、Mac miniやMacBook Proでは2基使われるため、より速度が出る。
しかしながら、アプリの動作テストにおいては、その違いが顕著に現れていないことも同時に報告しておきたい。
一方で、M4 Proチップを搭載するMac miniとMacBook Proに関しては、電力効率の高さはもちろん、サーマルスロットリングの起こりにくさも踏まえると、M3 Proチップを搭載するMacよりも負荷の高い使い方に向いている。メモリ帯域のテストでも大幅な向上を示しており、処理能力の余裕を感じさせる。
これだけ高性能だと、今回はテストを行っていないが14インチMacBook Proにおけるエントリー構成となる10コアM4チップモデル(24万8800円)も積極的に評価できそうだ。一方、従来は「Maxチップ」でないと力不足を感じていた用途で使っていた人は、今回については「Proチップ」も検討してみていいだろう。