360度カメラ市場にチャレンジし続けているKandao Technology──同社の最新作が「QooCam 3 Ultra」です。最近は細長い形状の製品が多い360度カメラですが、かつての「GoPro MAX」のような箱型のボディーを持つモデルです。
前後の光軸がズレている(レンズの位置が前後でズレている)このスタイルは、GoPro FusionやGoPro Maxといった一部機種でしか採用されませんでした。詳細は後ほど触れますが、ハッキリとした長所と短所を併せ持つ形状です。
今回はメーカーから評価機を手に入れたので、その個性的な要素を見ていきましょう。
●画質を最優先したハードウェア構造
Kandao Technologyというメーカー名に聞きなじみがない方もいるかもしれません。同社は2016年に創業し、プロフェッショナル市場向けにハイエンド360度カメラの開発/製造を行ってきました。
一般消費者向けモデルとして初めて登場した「QooCam」(2018年発売)は、360度の全天球映像とVR180の両方を1台で撮影できるというユニークな機能を備えていました。
2020年にはライバルに先駆けて8K/30fpsの360度映像を撮影できる「QooCam 8K」を発表するなど、一般消費者向け製品においても高画質性能を追求し続けています。
AI技術への取り組みも積極的で、2019年には独自の補完技術を用いて8K/30fpsの映像を8K/240fpsに、4K/60fpsの映像を4K/480fpsに変換し、全天球スローモーション映像を作成できる環境を提供しました。
QooCam 3 Ultraは、2023年に発売された「QooCam 3」のアップデートバージョンでもあります。動画の最高解像度は8K/30fpsで、コンシューマー向け360度カメラの中でも最高スペックの1つを誇ります。ソニーセミコンダクタソリューションズ製の1/1.7型センサーを2基搭載し、F/1.6の明るいレンズと組み合わせている点も特徴的です。
ビットレートは最高150Mbpsとなります。10bitのHDR動画も記録可能です。静止画撮影時は最高9600万画素(13888x6966ピクセル)となります。
外観上の大きな特徴として、箱型のボディーと、前後レンズの光軸がふぞろいなデザインが挙げられます。この設計は画質面で有利な効果をもたらします。
一般的なスティック型の360度カメラは、前後180度+αずつ撮影するレンズとセンサーを薄型化のために工夫して配置します。その際、屈曲光学系やペリスコープと呼ばれる技術が採用されています。これらは、レンズからの光をプリズムで屈曲させ、センサーに届ける構造で、スマートフォンの望遠カメラなどにも使われています。
ただし、この構造には光量が減少しやすいという欠点があります。
これに対して、QooCam 3 Ultraはレンズとセンサーの光軸が正確に一致する設計を採用しています。プリズムによる光量ロスがないため、画質劣化が抑えられ、暗所でも画質を維持しやすいです。
一方で、この設計には弱点もあります。周辺部の像が流れやすく、前後の映像をステッチングする際に難が生じる場合があります。
どちらの方式が優れているかは、一概には判断できません。撮影したいシーンや状況によって最適な選択肢が変わるため、それぞれの特徴を踏まえた使いこなしが重要です。
●プロ機材を思わせる端的なUI
前後/左右の音を捉える4つのマイクを搭載している点も、QooCam 3 Ultraの大きな特徴です。サウンドフォーマットはAAC(4ch)で、変換作業が必要ですが空間オーディオの作成が可能です。
このマイクにより、XRヘッドセットで360度動画を視聴する際の没入感がさらに強化されます。例えば外付けのアンビソニックマイク「ZOOM H3-VR」を使用しなくても、単体で立体的な音響を録音できるのは非常に貴重です。また、BluetoothマイクやUSB接続マイクにも対応しています。
ディスプレイはタッチ操作対応の2.19型サイズを採用します。ボディーは大きめでやや重めですが、操作性は工夫されており、フィジカルなプッシュボタンが3つ、タッチ式の電子ボタンが2つ配置されています。レイアウトに余裕があるため、操作系が充実している点も魅力的です。
ストレージは、内蔵の128GBに加えて、最大1TBのmicroSDメモリーカードに対応しています。また、IP68という高い防水防じん性能を備えている点にも注目すべきでしょう。
●空間表現に長けた、ハイレベルな撮影品質
ここからは、QooCam 3 Ultraで撮影した作例とともに解説していきましょう。東京の湾岸地帯で提供されているシェアリング3輪EVバイクの後ろカゴに一脚を固定してみました。QooCam 3 Ultraで撮影した360度全天球映像をトリミングして4Kで書き出しています
明るい日中での撮影だと、QooCam 3 Ultraのセンサーおよびレンズの性能がフルに活用されていると感じます。全域がパンフォーカスでシャープですし、空間の広がりも実感できます。
専用PCソフトの「QooCam Studio」は、特定の被写体を中央部に収めるようトリミングを自動化してくれるAIトラッキング機能が使えます。ドローンが被写体の後ろからついてきながら撮影しているような雰囲気の映像を作ることができます。
トラッキングしたデータを反映させたあと、マニュアルでの微調整も可能です。被写体を真後ろから追いかけるだけではなく、左右にシフトさせた状態の映像作りも簡単です。
雨模様の日でしたが、360度全天球映像の作例もご覧ください。シャープで見やすい映像ですよね。ズームアップするとスマホカメラのデジタルズームのような塗り絵っぽさが見えてきますが、焦点距離がフルサイズ換算9.36mmの魚眼レンズという仕様上当然の結果です。
専用PCソフト、専用スマホアプリによる後処理となりますが、ブレの補正力も高くて安心できます。上下のブレが格段に増える砂浜の上を歩くという、歩行動画撮影において過酷な状況であっても水平線が真っすぐ整うので、違和感のない動画が作れます。
高い防じん防水性能もQooCam 3 Ultraの魅力です。この動画は三脚を砂浜に埋めているために、はじけた水滴しか付着しませんでしたが、ちゅうちょすることなく寄せては返す波の動きが見える位置からの撮影ができます。ただし、海の波打ち際や海中などで撮影した場合、撮影後に本体を拭き上げて塩分を含む海水の影響を受けないようにしましょう。
前述したように、QooCam 3 Ultraは近い距離にある、そしてステッチ部分に重なる被写体を撮るのは苦手です。
ストレート型光学系を持つ360度カメラ独自の弱点をカバーするには、専用PCソフトのダイナミックステッチ機能を使います。しかし写真であればいいのですが、映像だと全フレームを的確にステッチするのが難しいようで、被写体周囲がじわじわとゆがんでいるのが分かります。
このシーンでは前レンズを海側に向けていますが、もっとも近い位置にある被写体にレンズの光軸を向けることで違和感を低減できます。
暗い場所での撮影品質もチェックしましょう。これは新宿・歌舞伎町の入口で撮影したシーンですが、点光源は周囲が飽和しているのが分かりますが、黒い空は真っ黒に染まっており、スッキリとした映像だと感じられます。なお専用PCソフトでファイルを読み込んだ段階では空一面が輝度ノイズに汚染されており、後処理による補正力が極めて高いことを実感できます。
ゴールデン街の中の路地で撮影した360度全天球映像もご確認ください。先ほどよりも低照度な場所ゆえにざわつきが残る映像になっていますが、それでも街中であれば、深夜でもきれいな映像を撮影できることに驚きます。
写真の解像感もご覧ください。フルサイズミラーレス級のダイナミックレンジはありませんが、スマホのカメラと比較するのであれば同等か、勝っているのではないかと感じます。センサーサイズに余裕があることと、HDR記録が前提となることが功を奏しているのでしょう。
●弱点はあるが、それ以上の長所を持っている
「QooCam 3 Ultra」を使ってみて実感したのは、得手不得手、どちらも合わせて個性となること。苦手なシーンはあります。しかし扱い方でその苦手部分を極力感じさせない動画が作れますし、得意分野を生かせばポケットサイズの超々広角カメラとしてのポテンシャルを活用できます。
本体価格は9万6800円と、ライバルと比較するとやや高めです。しかし、高価なだけのポテンシャルは持っていると感じるのも事実です。360度カメラ欲しいと考えているならば、検討の余地は大いにアリでしょう。
(製品協力:Kandao Technology)