次々と“昔懐かしい、どこかで見たことのあるような”製品を展開しているAYANEOが、過去に登場したポータブルゲーム機やPCのデザインをオマージュする「AYANEO REMAKE」ブランドの新製品として、ニンテンドーDSをオマージュした「AYANEO FLIP」を発表したのは1月のこと。そして国内正規代理店の天空が予約販売をスタートしたのは3月であった。
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それから半年以上――海外クラウドファンディングサイトのIndiegogoで出資していた「AYANEO FLIP KB」がようやく編集部に届いた。本製品は、2画面を搭載する「AYANEO FLIP DS」と同時に発表されたキーボード搭載モデルで、発表当初は日本国内でも販売が予定されていたのだが、残念ながら国内流通の見込みが現時点で立っていない。
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とはいえ、販売予定を立てた時点で「第2条第19号に規定する特定無線設備」に関する技術基準適合証明を受けているので、海外モデルでも日本で使用して問題がない状態だ。せっかく製品版の実機が手元に届いたので、レビューをお届けしたい。
●早速開封!
AYANEO FLIP KBは、ニンテンドーDSをオマージュしてデザインされたポータブルゲーミングPCだ。AYANEOブランド製品で初となるクラムシェルタイプで、本体にQWERTYキーボードを搭載しているところが、兄弟モデルともいえるAYANEO FLIP DSと異なる点だ。
ディスプレイはタッチ対応の7型(1920×1080ピクセル/リフレッシュレートは最大120Hz)となっている。色域はsRGB比で120%、DCI-P3比では100%をカバーしている。ゲームの世界をゲーム開発者が意図したビジュアル通りに表現できるだろう。
ディスプレイの開閉角度は無段階ではなく、120度/150度/180度の3段階となっており、それぞれの角度でカチッと止まる。ヒンジの強度が高いため、ディスプレイ側を指でつまんで振っても角度が変わるようなことはない。また、閉じたディスプレイはマグネットで固定されるので、バッグの中で不意に開いてしまうという事故も防げそうだ。
インタフェースは背面に集中しており、前面にあるのは3.5mmイヤフォン/マイク端子のみで、USB4(USB Type-C)、USB 3.2 Gen 2(USB Type-C)、Oculink、microSDメモリーカードスロットも背面にある。
天面にはデザインのアクセントになっているAYANEOのロゴが、底面には大きな給気口がある。排気口は背面にあるので、向かいに座る人に温風が当たらないように注意して利用したい。
仕様を見ていこう。出資したAYANEO FLIP KBのAPUはAMD Ryzen 7 8840U(8コア16スレッド/3.3GHz~5.1GHz)で、メモリは16GB(LPDDR5x)、ストレージは512GB(PCI Express 4.0/M.2 2230 SSD)となっている。
その他には32GB/2TB、64GB/2TBといったモデルも存在するが、価格が倍近くに跳ね上がってしまう。
サイズは約180(幅)×102(奥行き)×29.8(高さ)mmで、重量は公称値で約650g、実測で657gだった。厚みはあるが、フットプリントがコンパクトなのでポーチやサコッシュ、ボディーバッグなどにも入れやすい。
●ゲームの操作性は?
AYANEO FLIP KBはポータブルゲーミングPCを名乗っている。ゲームを操作するゲーミングパッド(コントローラー)はどのような仕様になっているのだろうか。
まず、ディスプレイを開くと左右にジョイスティックが現れる。このジョイスティックはドリフト現象という不具合を起こしにくくするホール効果センサーを搭載している。
右側上部にはA/B/X/Yボタン、左側中央には十字キーがある。どちらもストロークは浅いが、しっかりとしたクリック感があり、押したのか押していないのか分からないということはない。
右側のジョイスティックの下にはデフォルトでホーム画面に戻る機能を割り当てられているカスタムボタンとAYASpaceボタン、左側の十字キーの下にはViewボタンとMenuボタンが並ぶ。
ショルダーの左右にはそれぞれLT/LB/LCボタンとRT/RB/RCボタンがあり、LCボタンとRCボタンは短押しと長押しでの動作を割り当てられる。なお、デフォルトではLCボタンの短押しでソフトキーボード、長押しでタスクマネージャーが立ち上がり、RCの短押しではEscキー操作、長押しではタスクビューが開くようになっている。
最も気になるのは、ディスプレイを閉じたとき邪魔にならないように凹部に設置されたジョイスティックの操作性だが、少し操作するだけで慣れるだろう。
筆者の場合は、むしろ指をすべらせるように動かすだけでA/B/X/Yボタンや十字キーに移動させられるこの配置の方が使いやすいとさえ感じたほどだ。
電源ボタンは指紋認証一体型で、その右にはマウス操作を行うための光学式フィンガーナビゲーションが並ぶ。基本的にAYANEO独自のユーティリティーソフト「AYA Space」がバックグラウンドに常駐していれば、左のジョイスティックでマウス操作を行えるのだが、アプリによっては利かないことがある。そのようなときに補助的に使うことができる。
光学式フィンガーナビゲーションの感度は非常に良いのだが、良すぎるため予期せずクリック操作をしてしまっていることがある。タッチスクリーンを搭載しているので、面倒でなければ画面に触れて操作する方が正確なのではないかと感じた。
●ベンチマークスコアやいかに
さて、ハード面で優れたAYANEO FLIP KBだが、実際のところAAAタイトルのゲームプレイを楽しめるのだろうか。AYASpaceでパフォーマンスを「Extreme」(最大)に、FPS Limitを「120」(最大)に、TDP Limitを「30W」(最大)に、ファンの性能も最大に設定してテストした。
まずはストレージのテストでおなじみの「CrystalDiskMark 8.0.5 ×64」(ひよひよ氏・作)でベンチマークを測定した。設定ではNVMe SSDを選び、5回計測してその平均値を取った。その結果、読み出し速度の平均は毎秒5115.65MB、書き込み速度では平均毎秒3892.16MBであった。なお、それぞれ最高は読み出し速度が毎秒5235.24MB、書き込み速度が毎秒3935.28MBであった。
続いてCPUの処理性能を測る「CINEBENCH 2024」で、マルチコアとシングルコアのスコアを計測した。こちらはマルチコアの平均スコアが538.33、シングルコアの平均が62.33であった。
さらに、グラフィック性能を測るため「3DMark」を使いベンチマークスコアを取った。試したのは「Wild Life Extreme」だ。5回テストしたところ、スコアの平均値は「4908.5」で、フレームレートは「29.395」であった。最大値はそれぞれ「4926」と「29.5」だった。
最後に、快適にゲームプレイできるかをテストしてみたい。使用したのは「ファイナルファンタジーXIV:黄金の遺産(レガシー)」だ。
デフォルトでは「高品質(デスクトップPC)」となっており、その状態でのスコアは「4315」で「普通」という評価だった。試しに「最高品質」にしてみたところ全員が「やれやれ」という表情と仕草をする「設定変更を推奨」のスコア「3726」であった。とはいえ、デフォルトの高品質画質で普通という判定だったことから、AAAタイトルでも問題なくプレイできると考えても良さそうだ。
なお、画質を「標準品質(デスクトップPC)」に落としてもスコアは「5233」で「普通」だったので、どちらを選ぶかはプレイヤーに任されるといったところか。
後編では、ゲームプレイ時の操作性、ビジネス用途としての使い勝手などについて検証していきたい。