FMVシリーズなどを手掛ける富士通クライアントコンピューティング(FCCL)から、カラー表示に対応したA4サイズの電子ペーパー「QUADERNO A4(Gen.3C)」(直販価格7万9800円)と、A5サイズの「QUADERNO A5(Gen.3C)」(同5万9800円)が登場した。
目に優しいことで一定の人気がある電子ペーパーだが、これまではモノクロ表示の製品がほとんどだった。カラー表示に対応した製品も市場に少しずつ登場しているが、国内メーカーとして電子ペーパーの雄である「QUADERNO」シリーズからカラー対応モデルが発売されたのは、非常に喜ばしいことだ。
今回は手元にA4サイズのQUADERNO A4(Gen.3C)を借りてみたので、その魅力に迫っていこう。
●まずは外観をチェック
本体のカラーリングは白基調で威圧感が少ない。最近のタブレットのようにベゼルレスとまではいかないが、やぼったさを感じさせない狭ベゼルには仕上がっている。
QUADERNO A4(Gen.3C)はA4サイズをうたっているが、これは本体サイズがA4サイズという意味だ。ディスプレイ部分は約27(縦)×20(横)cmと、ベゼルの分だけ小さくなっている。ペンによる書き込みがメインであれば十分なサイズだと感じる。
本体の厚みは約5.7mm、重さは約368gと、非常に軽くて薄い。そのまま持ち運びしたいところだが、画面保護という意味でも専用カバーとあわせて利用したいところだ。
本体を横から見ると分かるが、背面は少し丸みを帯びている。これは、机の上に置いた状態から手でつかみやすくするための工夫だと考えられるが、ペンで書き込んだ際に不安定になるのではないかと疑問に思った。
実際に使ってみたところ、ペンで書き込んでも本体はがたつくことはなかった。購入を検討されている方は安心してほしい。
本体上部には電源ボタンとUSB Type-Cポート、リセットボタンとストラップホールが用意されている。
データ転送と充電用に利用するUSB Type-CポートはUSB 2.0対応と、最近の製品としてはレガシーなところが気になるが、QUADERNO A4(Gen.3C)で扱う主なコンテンツがPDFであることを考えると、USB 2.0でも必要十分なスペックともいえる。
USB PD(Power Delivery)充電器を利用すれば約2.5時間で満充電できる。一度充電してしまえば、Wi-Fi機能をオフにした状態で最長2週間、Wi-Fi機能がオンでも最大5日間は利用できる。電子ペーパーならではの驚異的な省電力性により、毎日の充電を気にしなくて済むのはうれしいところだ。
●豊富で便利なテンプレートで、すぐ万能ノートに
QUADERNOシリーズは、豊富で便利なテンプレートがメーカー公式サイトで公開されており、これらのテンプレートをスマートフォン向けユーティリティー「QUADERNO Mobile App」か、PC向けユーティリティー「QUADERNO PC App」を使って転送することで、特別なカスタマイズを施さなくても万能ノートとして利用できる。
例えば、「スケジュール」というスケジュール帳テンプレートを導入すると、月ごとのスケジュール確認や書き込みが可能だ。
また、PDF自体にそれぞれページリンクが設定されているため、画面右側にある各月をタップすると、対応した月のスケジュールが表示される。
さらに日付をタップすると、その日のスケジュールをびっしり書き込める方眼紙が表示されるので、スケジュール帳としても非常に便利だ。1年ごとにスケジュールテンプレートを転送すれば、毎年スケジュール帳を買う必要もなくなる。スケジュール管理という用途に限って使おうとすると高価な買い物になってしまうが、スケジュール以外にも便利なテンプレートが多数用意されている。軽量で持ち運びに便利な万能ノートとして考えれば、購入のメリットは非常に大きいのではないだろうか。
●ビジネス利用にもうれしい画面ロック機能
ビジネス用途でQUADERNO A4(Gen.3C)を使うのであれば、保存された手書きデータの取り扱いには注意したいところ。一般的なスマホやタブレットと同様に、画面ロック機能が用意されている。デフォルト設定では、画面ロック機能が無効になっているため、持ち運ぶのであれば必ず設定しておこう。
画面がロックされるとQUADERNO A4(Gen.3C)内のデータは暗号化されるので、ビジネス用途でも安心して使えそうだ。
ちなみに画面ロックの解除はパスワードを入力する方法と、あらかじめ登録しておいたNFC対応スマートフォンをタッチして解除する方法が用意されている。
●QUADERNOシリーズの真骨頂「Print to QUADERNO」
QUADERNOシリーズはスマホ向けのQUADERNO Mobile Appや、PC向けのQUADERNO PC Appを使ってファイルの転送を行うだけでなく、PCの印刷機能を使って、QUADERNOに直接PDFデータを転送できる「Print to QUADERNO」という機能が用意されている。
あらかじめQUADERNO PC Appをインストールして、QUADERNOとPCを有線または無線でペアリングしておく必要はあるが、PCの印刷機能で「Print to QUADERNO」を指定して印刷するだけで、QUADERNO側にPDFデータとしてドキュメントを転送できる。
実際にWi-Fi経由でPrint to QUADERNOを試してみたが、Acrobat Converterのような仮想PDFプリンタとほぼ変わらない速度でQUADERNOに転送できたので、専用ユーティリティーをいちいち立ち上げなくても、待ち時間を気にすることなくドキュメントデータをQUADERNOに保存できるので非常に使いやすい。
転送したデータは、付属のペンを使って直接書き込みできるので、学校の提出物や、スライドデータのゲラチェック用に大いに活躍してくれることだろう。
特に筆者の場合、技術同人誌を執筆している関係上、毎回ゲラチェックの際にA4用紙を100枚ほど印刷する場面がある。
原稿完成までにゲラチェックを複数回実施するため、A4用紙やインクカートリッジの消費は激しい。人間とは不思議なもので、PCのディスプレイ上で確認すると見落としてしまう誤字/脱字やレイアウトのずれが、印刷された紙だと気付きやすいことがある。よってPrint to QUADERNOには非常に大きな期待を寄せている。
●有償のAcrobatを利用しているなら注意が必要
Adobe Creative Cloudなどで、Adobe Acrobat Pro(有償版)を利用している方は、Print to QUADERNOを利用する際に注意が必要だ。
Adobe AcrobatにもドキュメントデータをPDF化できる仮想プリンタ「Adobe PDF」が用意されており、Adobe AcrobatをインストールしているPCであれば、必ず追加されているはずだ。
このAdobe PDFは「Adobe PDF Converter」というドライバを利用しているのだが、どうやら原稿執筆段階のバージョンでは、他の仮想PDFプリンタのドライバもAdobe PDF Converterを利用してしまうようで、Print to QUADERNOが正常に動作しない。
そのため、Adobe Acrobatを利用している場合は、Print to QUADERNOのプロパティ内にある「詳細設定」タブでドライバを「Adobe PDF Converter」から「Microsoft IPP Class Drive」に変更しておこう。
●カラーモデルの実力は? 実際にカラーPDFを転送して使い心地をチェック!
さて、ここまででQUADERNO A4(Gen.3C)の外観や、気になる機能をチェックしてきたが、実際にカラーのPDFを転送した際の動作はどうか。
「カラー電子ペーパーディスプレイの色再現度はどの程度なのか」「ファイルサイズが大きいPDFを開いた際に、快適にページ送りができるのか」「ペンでの書き込みに遅延は発生しないのか」など、気になるところは多数ある。
そこで、筆者が以前執筆した145ページ(18.8MB)あるPDFデータをQUADERNO A4(Gen.3C)へ転送し、実際の動きを確認してみたので以下に紹介しよう。
ディスプレイにバックライトは搭載しておらず、カラー表示は4096色までということもあり、色の再現度自体は落ちる。しかし、ゲラチェックや読み物としては必要十分な色再現性がある。
ページ送りの速度については、指でスライドしてページ送りのジェスチャーを実施してから約1秒で次のページが表示される。これは電子ペーパーディスプレイとしては十分に早い方だ。液晶や有機ELのような一般的なディスプレイと比べなければ、特にストレスを感じない。
ペンでの書き込みは、文字を書く場合は遅延を感じることはない。ただし、線を引く際に若干の遅延が発生する。
とはいえ、常に遅延が発生するわけでもないため、PDFの文章に線を引いたり、ちょっとした図を書き込んだりする用途ではストレスなく実行できた。
●刺さる人には刺さる、実売価格7万9800円のカラー対応電子ペーパー
PCからの簡単なPDF転送や、豊富なテンプレート、安心のセキュリティ機能、そしてカラーPDFデータ表示のパフォーマンスについて確認してきたが、普段ノートやメモを取る方や、筆者のように同人誌含め原稿を執筆している方にとっては非常に刺さる製品と言えよう。
そして何より、QUADERNO A4(Gen.3C)が実売価格7万9800円、半分のサイズになったQUADERNO A5(Gen.3C)なら5万9800円で購入できるという点が注目に値する。液晶や有機ELではなくカラーの電子ペーパーディスプレイが個人でも手の届く価格で手に入ることに感動すら覚える。
E-inkディスプレイが登場してから、電子ペーパーに大きな期待を寄せ、手頃な価格の大型ディスプレイのデバイスを夢見ていた方は、是非店頭でQUADERNO A4(Gen.3C)、QUADERNO A5(Gen.3C)の実機に触れてみてほしい。
(製品協力:富士通クライアントコンピューティング)