Infoseek 楽天

仕事に役立つ独自AIアプリを用意! ASUS 「ExpertBook P5」はビジネスノートPCの新形態となるか? 実際に試して分かったこと

ITmedia PC USER 2025年1月15日 11時5分

 ASUS JAPANから、ビジネス向けノートPC「ExpertBook P5」(P5405CSA)が登場した。14型で重量が約1.27kgというスリムなモバイルノートPCだが、もう1つの特徴がIntel「Core Ultra 200V」シリーズを搭載するCopilot+ PCである点だ。

 2025年に新規でPCを買う、あるいはWindows 10の延長サポート終了(EOS)に伴い買い換えを検討していたり、AIを活用したいと考えていたりするビジネスユーザーに最適なモデルといえる。そして、そのAIを活用するビジネス向け機能として、「ASUS AI ExpertMeet」を備えているのも見逃せない。

 本機は1月15日から発売されたが、今回は最上位モデル(P5405CSA-NZ0054X/直販価格24万9800円)を試した。ただし、後述するようにまだβ版としての機能もある点には注意してほしい。

●スリムでスタイリッシュなボディー! AI時代のモバイルノートPC

 まずはExpertBook P5のデザイン、サイズ感や重量について紹介しよう。アルミニウム製のボディーのカラーリングはミスティグレーで、ディスプレイ天板部左に「ASUS ExpertBook」ロゴを置く他はフラットに仕上がっており、ビジネスに溶け込むデザインだ。米国軍用MIL規格(MIL-STD-810H)に準拠しているのも心強い。

 ボディーサイズは約312(幅)×223.2(奥行き)×14.9~16.4(厚さ)mmとなっている。最厚部でも16.4mmしかないため、かなりスリムな印象だ。重量は約1.27kg(実測だと1.264kg)と、今どきのモバイルPCの標準的な重量よりも少し軽いあたりになるだろうか。

 モバイル時のイメージとして、ACアダプターとケーブルの重量も計測してみた。出力65WのACアダプターは実測で211.6g、ケーブルは94.7gだった。純正品を使う場合はこの重量になるが、USB Power Delivery(PD)に対応しているので、サードパーティー製品を利用可能だ。なお、参考として本体を含むフルセットでの重量は約1.57kgとなった。

 ミニマルなデザインだがインタフェースは充実している。左側面にThunderbolt 4(USB Type-C)×2、HDMI出力、USB 10Gbps(USB 3.2 Gen 2) Standard-A、マイク/ヘッドフォンと各端子がある。

 右側面にはUSB 10Gbps(USB 3.2 Gen 2) Standard-A端子が1基ある。使用イメージとしては、右側にUSBマウスを、左にUSBメモリやカードリーダーなどを接続するのがよいだろう。また、電源はThunderbolt 4のUSB PD充電を利用する。映像出力はHDMIおよび2つのThunderbolt 4端子を利用できる。

 無線LANはWi-Fi 6Eをサポートし、Bluetooth 5.3も利用可能だ。

 採用する14型ディスプレイは、2560×1600ピクセルと高解像度だ。16:10のアスペクト比としたことで、一般的な利用では1画面内に表示される情報が増える。例えな、表計算ソフトなどを表示した際、表示できる行数が16:9比のパネルと比べて数行多いといったメリットがある。リフレッシュレートも144Hzと高く、Webブラウザも滑らかにスクロールしてくれる。

 一方で、16:9比の映像を視聴するような場合は、上下に黒帯が生まれてしまう。とはいえ、ビジネス用途には16:10比である点で生産性向上につながる部分だろう。なお、パネル表面はノングレア(非光沢)だ。

 ベゼル上部には207万画素Webカメラがある。手動のプライバシーシャッター付きなので、Webカメラ機能を利用していない時など物理的にカバーすることで情報漏えいを防げる。また、赤外線カメラ機能を内蔵しており、Windows Helloによる顔認証もサポートする。

 キーボード面にも注目したい。キーボード自体は84キーの日本語配列だが、最上段にあるF1~F4キー部分には青くラインを設けて見分けやすくしている。音量調整、ミュートなどビデオ会議で多用するキーだ。同列の右上位置に指紋認証と一体になった電源ボタンを配置している。このあたりはビジネス用途で役立つはずだ。

 そしてタッチパッドのサイズも大きい。実測で幅130mm、奥行きも85mmほどあり、かなり繊細なカーソル操作が可能だった。

●ビジネス向けの独自AIアプリ「ASUS AI ExpertMeet」を導入済み

 本機の標準搭載OSはWindows 11 Proだ。社内ネットワーク接続などでドメイン参加するような際を考えると、ビジネス向けモデルなので当然の選択だろう。

 AI活用アプリケーションという点では、Copilot+ PC向けにいくつか用意されている。リアルタイムで音声を字幕に変換する「ライブキャプション」、ペイントアプリ上でラフなお絵かきからアーティスティックな絵を生成する「コクリエーター」、ビデオ会議時などでカメラ映像の明るさを調整や背景ぼかしといったエフェクトを付ける「スタジオエフェクト」などだ。そしてセキュリティ面で議論を呼んでいるが、そのPCで過去に行ったことの履歴をたどれる「リコール」もInsider Previewでテスト中だ。

 これらに加え、本機では同社のAIアプリケーション群「ASUS AI ExpertMeet」を利用できる。AI ExpertMeetはスタートから起動してもよいし、タスクトレイに常駐する「ASUS ExpertPanel」からも素早く呼び出せる。

 AI ExpertMeetには「AI ミーティング議事録」(AI Meeting Minutes)、「透かし」といった機能がある。検証段階ではまだβ版であり、日本語対応できていなかった。以下のスクリーンショットは、英語/中国語しか対応していない段階で日本語(多少の英単語は話す)のWeb会議を試みてキャプチャしたものだ。

 AI 翻訳字幕(AI Translated Subtitles)は、ビデオ会議での発言をリアルタイムで翻訳するといった機能である。ライブキャプションは文字起こしだったが、AI 翻訳字幕なら翻訳も同時に行える。AI ExpertMeetを起動し、AI 翻訳字幕のタブに切り替えた後にZoomなどWeb会議アプリで会議を開始したら、AI 翻訳字幕の録画開始ボタンを押す。使い方としてはこのような手順だ。

 AI 翻訳字幕側のウィンドウに、小さなビデオ会議画面と横にリアルタイム翻訳されたテキストが表示される。このビデオ会議画面は小さいため、Web会議アプリとAI 翻訳字幕側を並べて配置する方が良いだろう。モバイルディスプレイを組み合わせて2画面に配置すればなお良い。ウィンドウ内にある通り、テキストファイルとしてエクスポートもできる。音声としても保存されるので、次のAI ミーティング議事録にも利用可能だ。

 AI ミーティング議事録は、文字起こしと要約という2つの機能で構成されている。こちらはリアルタイムではなく、会議後に利用するものだ。先のAI 翻訳字幕用に録音したデータが保存されていたので、「ファイルの取込」から指定し取り込んだ後、実行する。

 要約タブに切り替えれば、改めてAIがWeb会議の要約を作成してくれる。15分程度のWeb会議だったが、要約の作成にはさほど時間はかからなかった。一瞬とまではいかないまでも、人力で行うよりはだんぜん早い。

 また、透かしについては、例えばビデオ会議の際にカメラ映像に自分の名刺を表示したり、公式発表前の情報などに「Confidential」のようなウォーターマークを重ねたりといったことができる。

 現時点では日本語非対応なので、現状は日本語におけるAI性能を判断できない。本機のレビュー中にも何度かアップデートが入るなど日本語対応に向け開発を進めているとのことなので、それを待ちたいところだ。もちろん、AI ExpertMeet自体がUIを含めて進化していくこともある。

 とはいえ、海外との円滑なコミュニケーション、文字起こし、要約をまとめるといった作業が、業務の負担になっているような場合、AIがこれを軽減してくれる。まれにAIについて勘違いされている人もいるので補足をしておくと、AIが作成してくれた翻訳、文字起こし、要約も人間によるチェックが必要だ。

 現状、これらを部下に任せた場合をイメージして欲しい。上司のチェックなしに次に回すようなことは通常しないだろう。AIの精度が向上し、チェックせずに済むレベルに達するかもしれないが、それはまだ未来の話だ。

 ただし、議事録やメモが自動的に行われ、文字起こしを省けるだけでも時間の大幅な節約になるし、上司への報告や同僚への共有が簡単にできるのも事実だ。このようなAIパワーを利用しないのはもったいし、一刻も早く体験しておくのがベターといえるだろう。

●AI性能はCPUで決まる AI利用を考慮したスペック選びが重要

 それでは、本機の内部スペックについて見ていこう。本機には3つのモデルがあるが、最も重要なスペックの違いはCPUだ。まずどのモデルがどのCPUを搭載しているのか、スペックをまとめた。

 それぞれCPUが異なるが、実はPコア4基/Eコア4基の計8スレッドといったコア構成は共通だ。クロックについてはCore i7(最大4.8GHz)の方がCore i5(最大4.5GHz)よりも高い。同じコア数でも、より高い性能を求めるならCore i7が適している。

 CPU内蔵GPUは、Core i7モデルだけIntel Arc Graphics 140Vとなる。グラフィックスコアのXe-coreの数がCore i5よりも1基多い8基備えており、動作クロックも高い。性能を数値で見ると、Intel Arc Graphics 140Vは64TOPS(INT8)、Core i5のIntel Arc Graphics 130Vは53TOPS(同)と、11TOPSのパフォーマンス差がある。

 本機はAIノートPCなので、この差はグラフィックスパフォーマンスというよりはAI性能と捉えるのが良いだろう(GPUもAIに活用される)。

 NPUについてはIntel AI Boostで共通だが、実はここにも性能差がある。Core Ultra 7 258Vは47TOPSなのに対し、Core i5モデルは40TOPSだ。GPUと合わせて計算すると、Core Ultra 7 258Vは111TOPSであるのに対し、Core i5モデルは93TOPSとなる。

 もう1つ大事なのはメモリだ。Core Ultra 200VシリーズCPUは、メモリをCPUパッケージに内蔵しているため、CPU次第でメモリ搭載量が決まる。Core Ultra 7 258VとCore Ultra 5 228Vは32GB、唯一Core Ultra 5 226Vは16GBだ。

 AIに興味のある人なら、AIでは大量のグラフィックスメモリを消費すると耳にしたことはないだろうか。本製品は統合型GPUを利用するノートPCなので、AIはメインメモリを使う。メインメモリのトレンドは8GBを脱し、数年前から16GBへと移行してきた。そしてここにきてAIがブームだ。16GBは必須、できれば32GBは欲しい。Core Ultra 5 228Vが32GBを搭載しているのはそのためだ。

 実際、どのくらいメモリを消費するのだろうか。ULのベンチマーク「Procyon」のAIベンチマークを実行し、メモリ消費量を確認してみた。

 まずAI Image Generation BenchmarkのStable Diffusion 1.5(画像生成)では、FP16とINT8、iGPUとNPUとも物理メモリ使用量は14GB前後だった。次はより処理が重いStable Diffusion XLのFP16、iGPU使用時で26.5GB、テキスト生成のAI Text Generation Benchmarkでは24.2GBだった。

 なお、この検証はベンチマークのみ起動、他のアプリケーションは何も起動していない。実際のAI運用では、他アプリケーションとの連携が重要になってくる。その他アプリケーション分のメモリ使用量を加味したい。そうなると、ExpertBook P5シリーズを検討するならメモリ容量が32GBのP5405CSA-NZ0054X、またはP5405CSA-NZ0150Xを本命としたい。

 もちろんどのようなAIを利用するのかでメモリ使用量は異なる。メモリ消費を抑えたものなら16GBで足りることは十分にあり得る。また、物理メモリの容量を上回ると仮想メモリを使用するため、速度はさておき全く動かないというものではない。まず動かす、AIの可能性を探るというなら16GBモデルを選ぶというのもありだろう。

 せっかくなので、Procyon、AIベンチマークのスコアも提示しておこう。以下では、全てツールキットはIntel Open VINOを指定している。

 一方、ストレージについてはCore i7モデルが容量1TB、Core i5モデルが容量512GBとなる。

●ビジネスアプリケーションは快適に動作 統合型GPUも性能アップ

 最後に「ExpertBook P5」(P5405CSA)のPCとしてのパフォーマンスをベンチマークで計測した。

 CINEBENCH R23によるCPU性能計測では、Multi Coreが9806ポイント、Single Coreが1892ポイントだった。Multi Core側は8コアなりの性能だが、古い世代の8コアよりは高い。Single Coreも1800を超えていれば十分に高いと言えるだろう。

 PCMark 10のスコアは7435ポイントだ。Essentialsが1万657、Productivityが1万375、Digital Content Creationが1万86ポイントだった。統合GPUモデルであることを考えればおおむね高性能ビジネスノートPCと言ってよい。

 意外にもDigital Content Creationスコアが高く、一般的なビジネス用途だけでなく、比較的軽めのデジタルコンテンツを扱う際にも不満のないパフォーマンスだ。

 統合GPUモデルなので、3DMarkは軽量なテストを中心に計測した。Fire Strikeは8748ポイントといった具合で1万ポイントには達していない。つまりフルHD(1920×1080ピクセル)/DirectX 11でも少々重いわけだが、Solor BayやWild Life、Night Raidといったより軽量なテストのスコアは十分なため、グラフィックス負荷が低いゲームであれば楽しめるポテンシャルがある。

 そこで、「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」を計測してみた。フルHDでは、最も軽量なプリセットの「標準品質(ノートPC)」で8877ポイント、快適評価といったあたりだ。平均60fpsはかろうじてクリアしている。

 とはいえ、実際にスムーズな映像を楽しみたいとなるとHD(1280×720ピクセル)に解像度を下げた上で「高品質(ノートPC)」あたりに調整するのがよいだろう。これならとても快適評価となる89.77fpsを得られた。

 バッテリー駆動時間の公称値は、JEITAバッテリ動作時間測定法Ver.3.0の動画再生時で10.09時間、アイドル時で18時間、同Ver.2.0で22.7時間と長めだ。参考までに、電源設定を電力効率に指定した上で、ディスプレイの輝度を50%で計測したPCMark 10のバッテリーベンチマーク「Modern Officeシナリオ」の結果は22時間10分だった。

●AI PCがベールを脱いできた

 パフォーマンスの総評としては、十分に高性能なノートPCだ。ただし、Core iシリーズのようなCINEBENCH R23のMulti Coreで1万ポイントを超えるようなものではないが、モバイルPCに求められる性能を十分に満たす高い性能だ。PCMark 10のDigital Content Creationのように、これまで統合GPUモデルが不得意としていた部分も、1万ポイントを超えてきている。そして、この高性能という指標に新たに加わったのがAIだ。

 AIは今後進化していくものなので、第1世代(実際には200シリーズなので第2世代だが)の本製品は、ある程度の性能を持ちつつも、AIが発展した未来から見ればまだ十分な性能とはいえないのかもしれない。とはいえ、AIでビジネスがどのように変化するのかは、実際に運用してみなければイメージできないだろう。

 本機にインストールされたASUS ExpertMeetは、検証時はβ版だったものの完成した時にはビデオ会議の効率を向上させ、負担が減った分を別の仕事に回せる、同じプロジェクトでも納期を短縮、より多くの受注を受けられるといったメリットを生み出すだろう……といったAIを活用するビジネスのビジョンを提示してくれる。AIの可能性を探るために、ExpertBook P5に触れてみるのはよい選択といえるだろう。

この記事の関連ニュース