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OpenAIのサム・アルトマンCEOが日本で語った「ChatGPT」の未来像 「あと10年で世界は激変する」の真意

ITmedia PC USER 2025年2月10日 11時5分

 OpenAIが日本のソフトバンクグループ(SBG)と合弁会社を立ち上げ、大規模なAI事業プロジェクトを推進することになった。

 本件に合わせて、OpenAIのサム・アルトマンCEOが来日した。発表に先立ってアルトマンCEOは東京大学を訪れ、自社主催の開発者向けイベントに“事前予告なしで”登場した。自らの言葉でAIの近未来や直近に起こる可能性、OpenAIの今後について率直に学生や開発者と語り合った。

 このイベントの後、筆者はアルトマンCEOから直接話を聞く機会を得た。さまざまな軸で行った質問への回答を通して、彼が“心眼”で見ているAIの将来像や世界感が浮き彫りになった。話をする過程で出てきた話題を、整理して紹介することにしたい。

●「演算能力100倍」を達成すると何ができる?

 ご存じの通り、SBGは米国で設立された新会社「Stargate Project」に参画している。この新会社はOpenAIが現在のコンピューティングパワーの100倍に相当する演算能力を持つAIサービス向けデータセンターを構築することを支援するために誕生した。

 100倍という数字だが、OpenAIのLLM(大規模言語モデル)「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」が世代を重ねるごとに、前世代比でほぼ100倍の演算能力の向上が求められたことに由来する。初代(GPT-1)と比べると、現行の第4世代(GPT-4)は100×100×100=100万倍の演算能力が必要ということになる。アルトマンCEOによると、このペースは今後も変わらないという。

 現在、OpenAI内部では「GPT-4.5」に相当するLLMの開発が進められている。言い換えると、Stargate Projectのゴールは「GPT-5.5」相当のLLMを動かせる、初代比で1億倍の演算能力を持つデータセンターの構築だ。

 この話とは別に、インタビューでアルトマンCEOは「GPT-5とGPT-6の間のどこかで、(AIは)間違いなく『自分よりも賢い』と思えるしきい値を超える」と話してくれた。この予測が正しければ、「Stargate Projectの完成」は、AIによって人間よりも“賢い”知性が実現されるということを意味しそうだ。

●今後のGPTはどのように進化するのか?

 一方で、さまざまな質疑応答を通して、アルトマンCEOは「GPT-5(仮)以降の開発では、進化の方向性が従来とは異なるようになる」になるとも話している。

 OpenAIがGPT-3/4で挑戦していたのは、「事前学習について複雑かつ大規模にしていくと、どうパラダイムが変化していくか?」というテーマだった。規模が大きくなればなるほど、AIとしてのLLMは賢くなる。しかし、当然ながら求められる演算能力も高くなってしまう。

 それに対して、GPT-5(仮)や「GPT-6(仮)」は、強化学習やファインチューンの手法を工夫し、新しいアルゴリズムを導入することに重点を置くという。その基礎となるのが、OpenAIが「OpenAI o3-mini」などで例示している推論能力を持つAIモデルだ。物理学、生物学など、特定のジャンルにおける推論能力を高めることで、これまで知られていない新しい知見を発見していくようなものになると、アルトマンCEOは見ているようだ。

 推論能力を持つAIモデルが“どこに”向かうのか、“どのように”進化するのか――アルトマン氏などOpenAIの開発者たちは、常に思索をめぐらせているという。

 「最高のAIモデルが登場することで、新しいアルゴリズムや新しい科学的発見が可能になるかもしれません。“推論”AIモデルは、まだ生まれたばかりです。モデルのスケール拡大が急速に進んでいるので、次の10年で劇的に進化する可能性があります」(アルトマンCEO)

 アルトマンCEOは「ChatGPT」などのAIサービスは、これまでのような「会話型で質問に答える」というものから、「自律的に問題解決に当たるエージェント」へと変化し、AI自身がタスクをこなしていく方向に向かっているとも語る。

●「Deep Research」で何ができる?

 AIサービスにおける「エージェント」とは、特定のタスクを自律的に遂行し、ユーザーの目的を支援するシステムのことだ。ユーザーとの対話を通して指示を理解し、必要に応じて外部データやリソースと連携しながら、適切なアクションを実行していく。

 取材当日(2月2日)の朝、OpenAIはChatGPTに「Deep Research」を統合したことを発表した。アルトマンCEOは、DeepResearchは「世界で初めて本格的に実装されたエージェントだ」と語る。

 Deep Researchは、先述のOpenAI o3-miniを活用した高度なリサーチツールだ。インターネット上の多様な情報源からデータを収集/分析し、参照資料なども添付した包括的なレポートを自動的に生成する能力を持っており、ユーザーの指示に基づいて、Web上のテキスト/画像/PDFなど複数種のメディアを横断的に探索/解析し、関連情報を統合して提示してくれる。

 こうした複雑な異なる情報を参照/統合する作業を人間が行うと、数時間から数日を要する。それに対し、Deep Researchはこうした複雑なリサーチタスクを数十分以内で完了可能だ。

 現段階において、Deep Researchは開発初期の段階で、情報の信頼性の判断や不確実性の表現に課題が残っていることをOpenAIも認めている。しかし、彼らはこのコンセプトをさらに拡張していくという。

 その一例として、ソフトウェアのコーディングエージェントを大規模に実装する構想があるという。ユーザーの代わりにプログラムコードを書いてテストを実施し、必要に応じてバグの修正や振る舞いの調整を“自律的に”行えるようにすることを目指しているとのことだ。複数の実装エージェントを連携させるアイディアもある。エージェントは専門性の高い実装となるため、「得意分野を分けて協業する」という発想に立っている。

 そして、エージェントによる自律的な動きの中に、どのようにして人間の判断を介入させて、安全性を保証するかについても研究開発を行っている。エージェントに完全な自律性を与えると、安全性や誤作動などのリスクがあるため、人間が関与すべきタイミングを適切に判別し、「どこまで自律的に進めさせるか?」「いつユーザーに確認を求めるか?」を適切に設計することが重要だとアルトマンCEOは話る。

●「エージェント」の進化に必要な要素は?

 複雑なAIの使いこなしをエージェントが肩代わりすることで、ユーザーとAIの距離はさらに小さくなっていくだろう。これによって「生産性の向上が見込める」という考え方もあるが、「目的を達成するためのハードルを下げる」「リテラシーのギャップによる情報格差を縮小する」といった効果も期待できる。

 ただし、こうしたAIエージェントが進化するためには、同時にAIモデルの進化も不可欠となる。その上で最も大きな課題となるのが情報ソースの「マルチモーダル化」だ。

 より高性能なモデルへの進化に併せて、音声や画像など情報をマルチモーダルに分析する機能を組み合わせることで、エージェントはより強力なものとなり、応用の範囲も広がっていくだろう。

 アルトマンCEOは「今後のモデルでは『より長い時間を要する複雑な問いに対して簡単に回答をする』のではなく、『もっと良い答えがあるかもしれない』と“考え続ける”ようになる。これにより、科学的/技術的にも新しい発見や成果を生み出す可能性がある」と語る。AIエージェントが“新たな発見”を促す効果をもたらす可能性を示した格好だ。

 これを実現するには、外部データとの接続が重要になる。つまりエージェントが収集し、AIモデルを駆使してリサーチしやすくなるよう、他サービスなどとAPIで連携する方法を整備する必要があるということだ。

●「AIと人間との接続」は実現できるのか?

 アルトマンCEOと学生との質疑応答では「ブレインマシンインターフェイス(BMI/BCI)」への言及もあった。

 アルトマンCEOは「ブレインマシンインターフェイスを含む『脳とコンピュータとの直接的なインタラクション』は、今後大きな可能性がある」と語る。このテーマはOpenAIの直接的な研究テーマではないが、恐らくこうした脳との接続に関する技術は、今後さまざまなアプローチが出てくるのだろう。

 同CEOは「今はまだ試行錯誤の段階だ」と釘を刺しつつも、「将来的に脳波や脳活動のデータを詳細に入出力することを実現すれば、人間がより自然にAIと連携できるようになる」と期待を寄せた。

 これまでのBMI/BCIのアプローチは、脳に直接電極を埋め込むといった侵襲的な手法が主流だった。そうなると、倫理面や安全面での懸念がどうしても拭えない。しかし、アルトマンCEOは、軽量なウェアラブル型インタフェースなど身体的リスクを抑えたアプローチが有望になりつつあるとの見方を示す。

 今後、AIの性能が向上すればするほどに、インタフェースとしてのBMI/BCIの重要性も増す。言い換えれば、AIの進化は研究開発を促すわけで、OpenAIの研究が進むことで「今後もっと多くの面白い会社や研究者が出てきて、この領域が一気に実現に向けて動き始める」とアルトマンCEOは予想する。具体的な企業名は出さなかったものの、「この半年ほどで、興味深いBMI関連の新興企業をいくつか見てきた」とも語り、実用化が進む手応えを感じているようだ。

 ちなみに、どのような製品になるかは不明だが、OpenAIも独自のハードウェアを発売する予定があることは認めている。「次の来日の時に製品をローンチするかもね」とのことなので、そう遠い日のことではなさそうだ。

●「知能を安価かつ広範に提供する」の真意

 この日、アルトマンCEOがよく使ったフレーズが 「Intelligence too cheap to meter」だ。これは商用電力の発明/普及の黎明(れいめい)期にうたわれた「Electricity too cheap to meter(電力をメーターで測る必要がないほど安価に)」を引用した例えで、知能を誰でも使えるほど安価に提供することの必要性を説いている。

 OpenAIはGPT-3、GPT-4といったLLMをさらに拡張しつつ、推論リクエスト当たりの計算コストを削減すべく開発を進めてきた。推論アルゴリズムを洗練させることでコストは大きく下がっており、今後も継続的にモデルの高速化と効率化を進めていくという。

 またアルトマンCEOは全ての人がアクセスできる“知能のプラットフォーム”の構築も進めると語る。単なる言語処理だけでなく、計算/推論/問題解決など、あらゆる知的タスクを担うプラットフォームを整備し、それを広範に提供するという構想だ。サーバリソースやAPIキーなどの制限を極力下げて、世界中の個人/企業/学生が使える環境を作ることが目標だという。

 一方で、同社はさらに大規模なLLMの開発(GPT-5/GPT-6 など)も進めている。アルトマンCEOはGPT-4の推論能力を上回るモデルを動かすことを視野に入れつつ、最終的なユーザーへの利用コストを低減させるべく、計画的に歩んでいることを強調していた。

 使いこなしという別の視点での(結論を得るための)コストに関しては、エージェント機能の整備やマルチモーダル対応が鍵となる。音声や画像、外部APIといった複数のモードを統合し、必要に応じてシームレスに連携、使い分ける一体的なモデルを作り、全世界における各国語で利用可能にするという。

 その課程では電力のコストがハードルとなりうるが、アルトマンCEOは「核融合発電」の有望性に言及し、この発電方法がAIの発展への貢献つながると期待している様子が伺えた。

●「あと10年で世界は激変する」

 AIの進化は、知識を収集し、そしゃくし、自分の知能として獲得するためのコストを大きく引き下げる。その結果、科学的な発見や単純なタスクの自動化が飛躍的に進展し、世界は激変するとアルトマンCEOは話す。

 「AIがもたらす新たな科学的発見や自動化の進展によって、10年後の世界は、現在とは比べものにならないスピードで変化する」(アルトマンCEO)

 AIが進化することで、物理や生物学などの領域で、AIが既存の知識を超えた発見や新理論を提案可能になる見込みだという。また大規模モデルがコンピュータプログラムに新アルゴリズムを自分で生み出してコードとして実装できるようになる可能性や、仮説検証を一瞬で行うような未来を想定してるという。多くのルーティンワークをAIエージェントが担うことで、業務の自動化はさらに進み、人間がより創造的で付加価値の高い仕事へシフトすることを期待されるようになるだろう。

 一方で、アルトマンCEOは「人間らしさ」は失われないとも強調する。「テクノロジーが進展しても、人間の生活が非人間的になるわけではない」ということだ。

 意思決定や創造性を発揮するジャンルでは、引き続き人間が必要となる。AIは大部分の作業を自動化できるが、最終的な意思決定や新たなアイデアの着想には、人間固有の視点/共感力/倫理観などが重要となるからだ。AIは「共感力」や「倫理に対する感度」を備えない。

 「歴史的に見ても、産業革命やインターネット革命は、人々の暮らし方を大きく変えてきたが、技術的な前進はむしろ新しい職業や文化を生み出してきた。AIも同様に、より豊かな社会を創造しうる」(アルトマンCEO)

 既にAIによる社会変革は始まっている。後は我々がそれをどのように受け入れて変化していく。そこを真面目に考えなければならない時代になったといえる。

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