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朝ドラ「おむすび」制作統括・宇佐川隆史さんインタビュー〈後編〉テーマは平成&阪神淡路大震災「今を元気づけたい、今につなげたいと思い選んだ」

iza(イザ!) 2024年9月25日 11時0分

30日からスタートするNHK連続テレビ小説「おむすび」で、制作統括を担当する同局の宇佐川隆史さんがインタビューに応じ、作品に込めた思いや裏話などについて語った。

111作目の朝ドラとなる「おむすび」は、平成元年生まれの主人公、米田結(橋本環奈)が、栄養士として人の心と未来を結んでいく青春グラフィティ。どんなときも自分らしさを大切にする「ギャル魂」を抱き、激動の平成と令和をパワフルに突き進む姿を描く。脚本は、連続ドラマ「正直不動産2」(総合ほか)などを手がけた根本ノンジさんが担当。主題歌の「イルミネーション」をB`zが歌い、語りを俳優のリリー・フランキーが務める。

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困難が多い時代も乗り越え「楽しかった」

直近3作の朝ドラを振り返ると、「らんまん」「ブギウギ」「虎に翼」はいずれも大正から昭和の時代が舞台で、主人公にはモデルとなる人物がいた。しかし、今作の主人公は完全オリジナルで、物語も「現代劇」。1990年代以降の平成から令和にかけての時代が舞台になる。

1989年にバブル経済が崩壊し、その後も阪神淡路大震災や東日本大震災という未曾有の災害が起きた平成。経済学者らから「失われた30年」と呼ばれる長期停滞を経験し、「平成はいろいろあって大変な時代だった」と言われることが多い。しかし宇佐川さんは、自身が青春時代を過ごした平成を「決して苦しいだけの時代ではなかった」と断言。根本さんたちと「そうはいっても何とか生きてきたし、楽しかったよね。がんばってきたよねなどと盛り上がった」というエピソードを紹介しながら、この時代を本作の時代設定に選んだことについて「楽観的過ぎるかもしれないけど、激動の平成を生きて来た証を見ていくことで、『だから大丈夫だよ』『楽しんでいこうよ』というストレートなメッセージが届けられるのではないかと思った。今を元気づけられるために選んだ」と説明した。

根本さんは「食べ飽きない料理が詰まっている」

今回、脚本を担当する根本さんとは、自身がプロデューサーを務めた「正直不動産」(2022年放送)でもタッグを組んだ。宇佐川さんは、根本さんの魅力を「非常に人気の町中華」と表現。そのうえで「作っているものはフランス料理のような繊細なものではなく、ラーメンや、チャーハンのような火力で元気よく炒めた日常の料理。しかしその裏に本物の技が隠されている。完成したものは一見シンプルだけど、毎日食べたくなる。食べ飽きない本気が詰まった料理のような部分が、私が根本さんに惚れているところ」と絶賛する。

宇佐川さんは自らを「思い先行型」と語る。作品への思いや平成の思い出を話し、それを構成作家出身の根本さんが、そのことをくみ取りながらプロットや初稿を作っていく。大変なのは朝ドラの放送時間が1話につき主題歌を入れて15分しかないこと。またこの時間は、朝食を食べたり、出勤・通学の準備をしたりと、視聴者が「何かをしながら」番組を見ている点も意識しなければならない。最近では、考察やキャラクターが発した細かい言葉がネットニュースなどで取り上げられ、話題になることも多いが、根本さんとは「とにかく作品を楽しんでもらえたらいい」と話しているという。

30年を経過して描く意義

ヒロインを演じる橋本が平成時代のギャルを演じることが注目されるなかで、もう1つポイントとなるのが2025年に発生から30年の節目になる阪神淡路大震災を描くこと。これまで「あまちゃん」(13年度前期)、「おかえりモネ」(21年度前期)という作品で東日本大震災が描かれたが、阪神淡路大震災が劇中で描かれるのは「わかば」(04年度後期)以来となる。宇佐川さんは「語れる人も少なくなったというのを聞いた。何が起こったのか、どんなことが大変だったのかをちゃんと伝えたい」。あの震災をエンタメのなかで描くことが「責任と覚悟」とし、「震災は簡単に扱うべきものではない。しかし、ただ間違いなく、震災もギャルという存在も平成のできごと。物語に沿って、テイストを変えるのではなく、『これが平成だったんだ』とすべてを同じドラマに、同じ熱量で、そのままの形で描けるかというのが難しいポイント。だが、それを覚悟を決めて制作している」と力を込める。

東日本大震災が発生した時、宇佐川さんは報道番組のディレクターとして、ライフライン情報を発信する活動に従事していたという。今回、ドラマを制作するにあたり、舞台の1つになる神戸にスタッフ総出で1年以上前から足を運び、100人を超える被災者を取材。また元日に発生した能登半島地震の被災者にもリモートで話を聞いた。「阪神淡路大震災で感じた皆さんのつらさ、思いが今の時代に生かされているのか? という思いもあって、そう考えた時に題材として配慮することもものすごく大事なんですけど、ストレートに真正面から描くことも大事なんじゃないかと感じている。経験された方が歩んできたなかであったできごとを描くことで、これからも経験するかもしれない私たちが、一歩進むためにも、そして自分事として考えられるためにも、どう学んでいくかが大事だと思って、アプローチを真正面にすえた」と宇佐川さんは話す。

震災を真正面から伝えるため橋本らにオファー

被災者の気持ちや受けた困難を伝えていくため、物語をどう描くか真剣に悩んだ。朝ドラの伝統は、主人公をオーディションで選び、新人を抜擢し育てるということだが、「この題材をしっかり届けるということも考慮して、家族はしっかりとしたキャスティングで行こうと今回は決断した」。主演には演技力に定評がある橋本を抜擢。彼女の脇を固める家族たちも豪華で、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、松平健、宮崎美子という、朝ドラらしいぜいたくな布陣がそろった。

一方、主人公が関係する「ギャル軍団」のメンバーなどで、朝ドラの王道ともいえる大規模なオーディションを実施。ギャル軍団「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の総代表、真島瑠梨(ルーリー)に元「egg」モデル、みりちゃむが抜擢された。また男子高校生役にも若手を起用。宇佐川さんは「新しい人材を皆さんに見つけてもらえたらと思っている」と期待を込めている。


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