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朝ドラ「虎に翼」制作統括・尾崎裕和さんロングインタビュー《前篇》俺たちの轟(戸塚純貴)は当初から同性愛者と設定 同性婚の話は「必然」

iza(イザ!) 2024年8月30日 12時0分

現在放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」で、制作統括を担当する同局の尾崎裕和さんがインタビューに応じ、残すところあと1か月と終盤を迎えるなか、これまでの物語を振り返りながら作品に込めた思いや裏話などについて語った。

日本初の女性弁護士、三淵嘉子さん(1914-1984)をモデルに、日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ1人の女性の骨太なストーリーを追いながら、事件や裁判が見事に解決されていく爽快感を一緒に味わえる朝ドラ「虎に翼」。女優の伊藤沙莉が主人公の佐田寅子を演じている。物語は第22週「女房に惚れてお家繁盛?」(第106~110回)まで進み、事実婚の相手である星航一(岡田将生)の家に同居し始めた主人公、佐田寅子(伊藤沙莉)が、星家の子供たちとの関係構築に奮闘。職場では女性法曹の労働環境改善に尽力する姿が描かれた。9月2日から始まる第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」(第111~115回)では、「原爆裁判」が長かった準備手続を終えて口頭弁論へと進んでいく。

石田ゆり子さんが帰るまで伊藤さんが泣いていた

――裁判官編と新潟編を振り返って印象に残っている場面は?

「第12週の(寅子の母)猪爪はる(石田ゆり子)さんが亡くなる傍らで、伊藤さんと(義姉・猪爪花江役の)森田望智さんが一緒にいるシーンで、おふたりの本当に真に迫ったお芝居、お母さんが亡くなることに対して寅子が泣きじゃくる演技が印象に残っています。悲しい気持ちを作りすぎてしまったのか、カットがかかって撮影が終わり、石田さんが帰ってしまうまで伊藤さんがずっと泣いていて、ご本人も『変になっちゃったみたい』って言っていました。新潟編では第16週で、もめごとを仲裁しようとした寅子が川に落ちてしまうシーンでしょうか。かつての朝ドラでは主人公が水に落ちるのが定番化していたので、『今作はここだな』と思いながら見ていました。花岡悟(岩田剛典)を突き飛ばしたシーンのアンサーでもあるんですよね」

「ブギウギ」コラボ、発案はスタッフから

――前作「ブギウギ」とのコラボについて、「ブギウギ」の世界観を今作に入れるのはどなたの発案でしたか? また、初回で梅丸少女歌劇団の名前を出すだけにとどまらず、茨田りつ子(菊地凛子)までを登場させた経緯や苦労などをお聞かせください

「台本打ち合わせで吉田さんとスタッフで一緒に話すのですが、発案はスタッフからでした。脚本の吉田恵里香さんもさすがに茨田りつ子が出る前提でいきなり書くことはできません。『ブギウギ』と年代がシンクロしているので梅丸の名前が出ることもあり得るかも、というスタッフの話を吉田さんがうまく盛り込んでいってくださったという流れですね。第13週の「愛のコンサート」は当初から考えていた展開だったので、そこに茨田りつ子を出せたらいいですねという感じで話が盛り上がりまして、僕がブギウギ』で制作統括を担当した福岡利武さんに相談したら、面白いということで菊地さんに話していただいたうえで、私からもご説明して、出ていただけそうな感じでしたので、吉田さんにお伝えして書いていただきました。というように、ちょっとずつ確認・調整しながら進めました」

――けっこう段階を踏んで大変なところがあった?

「そうですね。でも第13週の演出を担当した橋本万葉が、以前、菊地さんが出演された作品の演出をしていたこともあって、菊地さんにも快くお受けいただけました」

――菊地さんがダメだった場合の代案は?

「それはなかったので出てくれてよかったです(笑)」

新潟の言葉でやってよかった

――新潟編では、一切妥協なく新潟弁が展開していましたが、新潟編にかけた作り手の思いを聞かせてください

「一番こだわったのは、ご指摘のとおり言葉だと思います。杉田太郎役の高橋克実さんが新潟県三条市のご出身で、寅子が新潟に行くという流れを考え始めた頃に、オファーして出演していただくことになりました。ほかにも新潟地家裁三条支部の深田庶務課長を演じた遠山俊也さん、地主の森口役の俵木藤汰さんも新潟ご出身で、キャスティングの時点で言葉がネイティブの方に入っていただくことで、より新潟の感じが出るようにしました。ほかの新潟ご出身ではない俳優さんには新潟言葉の指導を受けていただきました。今作は、東京が主な舞台でしたので、方言はそれまであまり使っていませんでしたが、新潟は寅子が本格的に生活する場所でしたから、その土地の空気みたいなものを出すということで、新潟弁はしっかりやろうと考えていました」

――視聴者の反響は?

「新潟の方からは、ネイティブの俳優さんたちがしゃべる言葉が本当にそのままで、自然に感じると。なかなか新潟の言葉ってテレビドラマで出てこないと思うので、それを喜んでくださった方もいらっしゃったようです。逆に、『こんなにネイティブで他県の人はわかるんだろうか?』という心配もありましたが、言葉が少しわからなくても、お芝居の流れと気持ちでちゃんと伝わるので、やっぱり新潟の言葉でやってよかったなと思います」

夫婦別姓や同性婚「考えるきっかけになれば」

――夫婦別姓や同性婚など、現在も議論が続いている問題が織り込まれています。これは最初の企画段階からある程度想定していましたか? あるいは放送開始後の反響を踏まえながら作っていったのでしょうか?

「第21週で、いわゆる事実婚という関係で航一と寅子が結婚します。吉田さんともいろんな打ち合わせをして、寅子がこれまで積み重ねてきた人生、2回目の結婚であることや、民法改正に携わった経験などを経て到達する結論として、あのようなストーリーになりました。轟とそのパートナーの遠藤時雄(和田正人)の話は、当初から轟を同性愛者と決めていましたので、彼が年齢を重ねていくなかでパートナーを見つけて、法律上の結婚ができない自分たちをどう考えるかというのは、必然的な流れでした」

――朝ドラでそうした問題を取り上げることには意義があると感じる一方で、異質なものという受け止めもあると思いますが…

「登場人物たちの考えや行動を見て、どう受け止めるかは見てくださった方の自由ですし、ドラマでこうしたテーマを扱うことで何かを考えるきっかけ、問いかけのようになればいいのかなと思っています」

戦争は終戦後も途切れずに続いてる

――原爆裁判や総力戦研究所について、モデルになった三淵さん夫妻がそれぞれ実際にかかわられた史実に基づいて書かれていると思いますが、各々の問題に関しておふたりがどのように感じ、何を考えておられたのかという、記録に残っていない部分についても劇中で掘り下げられていました。そうした繊細な問題について創作していくのはある種恐れ多いことで、そこにトライしたことは素晴らしいと思うのですが、尾崎さんはそのことに関してどのように感じ、脚本化・映像化していく過程で抱えた問題、悩みなどをどのように乗り越えていかれましたか?

「実際に行われた裁判なので資料はあって、弁護士の方たちが残した記録が資料化されてネットでも見られます。それに沿った形でドラマに落とし込みました。三淵嘉子さんは原爆裁判の合議の3人の裁判官の1人で一番長く関わられた人ですが、合議で誰が何を言ったかは合議の秘密ということで書き残されていませんので、寅子たち裁判官がどう考えたかについてはフィクションで、判決は変わりませんが、このドラマの寅子であればこういうふうに考えるのではないかというところを描いています。悩んだというか、スタッフと議論したのは判決文のところでしょうか。法廷で読み上げるのは裁判長なのですが、どう演出すると一番伝わるのかはすごく話し合った記憶があります」

――原爆投下から終戦の時期の寅子の感情を一切描かなかった理由は?

「寅子も夫の優三(仲野太賀)とお兄さんの直道(上川周作)を戦争で失った大きな悲しみはあって、それは劇中でも描いていたと思います。ただ今作は、戦争が終わった後も戦争は終わってないというか、戦争っていつ終わるんだろう?ということにウエイトを置いています。総力戦研究所での経験を航一がずっと背負っていたり、原爆が投下された時だけではなく、何年も経った後でも被爆者の方たちが苦しんでいて裁判にもなるというふうに、戦争というものがどこかでスパッと終わるのではなくて、途切れることなくずっと続いてるのではないかという捉え方で描いています」

――だからこそ原爆が落ちた瞬間や、玉音放送をあえて描かなかった?

「結果的に、ですかね。原爆については東京にいた寅子には目撃できないし、情報もどの程度入ってきたかということもあります。玉音放送についてもいろんなシチュエーションがあったと思うので、今作では描かなくていいのではないかという判断になりました。最初からオミットする考えだったわけではなく、構成していくなかでそうなりました。戦争の時代を描くよりも、戦後の、戦争を引きずってる人たちを描くことを選択しました」

―――女性の生きづらさを描く物語としてスタートしたと思うんですが、中盤に来て、戦争を深堀りするエピソードが多い印象を受けました。ここまで戦争にフォーカスしていく狙いは?

「女性の生きづらさというテーマは幹としてずっとありますが、そこから広がっていってるというか。戦争によってもともと社会的に不利だった女性がもっと弱い立場になると思うのですが、男性もまた戦争で苦しんでいて問題が広がってくる。さらにドラマが進んでいくと、玉(羽瀬川なぎ)が戦争で障害を負って車椅子で暮らしているというように、さまざまな人が苦しみ傷ついていると、広げて描いていっています。今作に限らず、戦間期を挟む朝ドラではしっかり描いてきたテーマで、それは何回描いてもいいものだと思うし、2024年時点で戦争を描こうとした結果こういう形になったということですね」(つづく)

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