俳優の神木隆之介が主演を務める10月期の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』（TBS系）は、1955年から石炭産業で躍進した長崎・端島（通称、軍艦島）と、現代の東京を舞台にした70年にわたる愛と友情、家族を壮大に描く物語。同作で一人二役に初挑戦する神木に、役作りで意識していることや、実際に島を訪れた印象などを聞いた。
戦後復興期から高度経済成長期の“何もないけれど夢があり活力に満ちあふれた時代”にあった家族の絆や人間模様、青春と愛を描く完全オリジナル作で、同局のドラマ「アンナチュラル」「MIU404」を手がけた脚本家の野木亜紀子さん、塚原あゆ子監督、新井順子プロデューサーがタッグを組む話題作だ。神木は、端島の炭鉱員の家で生まれ育った明るくまっすぐな主人公、鉄平に加え、現代の東京に生きる無気力で刹那的なもう一人の主人公、ホストの玲央役に挑戦する。
朝ドラ「らんまん」の前にオファー
－－制作陣が満場一致で神木さんへオファーされたそうですが、快諾するに至った理由を教えてください
「お話をいただいたのはけっこう前だったのですが、実際に野木さんや塚原さん、新井さんにお会いさせていただいて、仮の台本を読んだ時点で思ったことや疑問点を伝えさせていただいて、すごく親身に答えていただけましたし、塚原さんたちの目が自信に満ち溢（あふ）れていたのがすごく印象的だったんです。
自分は31歳ですが、日曜劇場には『集団左遷!!』（2019年）や 『あいくるしい』（05年）に出させていただきました。『集団左遷!!』では、（当時の）事務所の大先輩の福山（雅治）さんが真ん中に立ってみんなを引っ張っていく姿を見ているので、相当いろんな経験を積んだり、表現者として培ったものがある方が背負うぐらい重いものだと思っていたので、まさかこの31という年でお話が来ると思っていませんでした。正直不安というか、ちょっと弱気なところもありましたが、塚原さんたちの目を見て、逆に僕はこの人たちについて行こうと思えて、『では参加させていただきます』というお返事をさせていただきました。
満場一致の話は、あとから聞いたので、『そうなの？ めちゃくちゃうれしい』という感じでした。最近、野木さんのX（旧ツイッター）でも、（オファーの）お話が、（23年に主演を務めたNHK連続テレビ小説）『らんまん』の放送前から実はあったと見たので、すごくうれしかったですし、主役として今はすごく前向きに頑張ろうって思っています」
イメージは「ルフィ」
－－プロデューサーや監督からリクエストされたことはありますか？
「僕が演じる鉄平は、いかに端島を良くしていくかを軸に動く人間なので、基本的には複雑に悩むというよりは、前向きに元気なキャラクターでいてほしいという話がありました。後々どういう出来事が起きて、どういう風に生きていくのかというのはその先の話ではありますが、 基本的には元気よくやってくれれば、まあ（人気漫画「ONE PIECE」の主人公）『ルフィ』みたいな人がイメージって言われましたね」
－－現代と過去という2つの軸がある作品で、初の一人二役に挑戦していますが、神木さんが考えるこのドラマの楽しみ方を教えてください
「端島の物語はすごく明るくて楽しいですが、やはり当時の日本の状況や島の環境のことなど、背負うものが多いキャラクターがたくさんいるので、 それぞれのキャラクターに感情移入して『そうだよな～』『こんな思いだったのか～』などと、しみじみと見ることもできるパートだと思います。
逆に現代パートは現在に近いので、気楽に見ることのできる“休憩場所”とも取れますし、逆に今を生きる青年の玲央が、どういう風に過去の時代を見ているのか、そしてどういう印象を受けて、どういう風に関わりながら見方が変わっていくのか、玲央と一緒に端島のストーリーを見守っていくという目線でも見ることができると思います。一人二役で2つパートがあるので、限定されない見方ができる作品なんだろうなっていうのはすごい思いますね。
役作りは、第一印象で感じたことをもとに、それぞれが出す雰囲気やしゃべり方を意識して変えています。リハーサルで確認作業を行いながら構築していっています。玲央は『堕落』、鉄平は『ルフィ』といったことを意識しています」
神木自身は鉄平寄りか、それとも玲央タイプか？
－－ちなみに神木さんご自身、端島には行かれましたか？
「行きました！ 迫力ありますね。今回（ツアーで）初めて行ったのですが、軍艦みたいなシルエットが急に出てくるんです。その時に鳥肌が立つんです。異空間に行ったような感じがしました。今は誰も住んでいませんし、危険区域もいっぱいありますが、活気はあったんだろうなという面影が、なんとなくあるんです。廃虚ってなんか暗いイメージがあると思うのですが、ここにいた人たちって多分、楽しくて活気がすごくあったんだろうなと感じました。もちろん（今作を通じて）そのお話を聞いたりしている前提で見ちゃっているので、もしかしたらそういう偏見もあるかもしれませんが、生き生きしてるなと思いました」
－－玲央は堕落したキャラクターで、鉄平は「ルフィ」とのお話がありましたが、素の神木さんはどちら寄りですか？
「テンションが上がるとルフィっぽいですけど、家に引きこもっていると本当に堕落した生活になります。しばらく休みが続くと昼夜逆転して、朝6時とかに寝るようになっちゃうので（笑）。なので、基本的には鉄平ですが、ちらちら玲央が見える感じですね。両方持っているので良かったですけど。どちらの気持ちもわかりますからね」
－－最後に、今作の見どころやドラマを通して視聴者に伝えたいこと、メッセージがあればお願いします
「当時の端島をここまで本格的にドラマで描くのは今回が初めてなので、本当に一言では言い切れないくらいたくさんあります。現在は『軍艦島』として認識されていますが、僕も今作で初めて『端島』という名前を知りました。多くの方は、当時どういう人たちが暮らしていたのかあまり知らないと思います。なので、このドラマを通して、当時のすごく生き生きとした端島、そしてその時代にどういう人間ドラマが生まれていたのか、そして時代とともにどのように駆け抜けていったのかを、見ていただけたらなと思います。現代パートも見どころがいっぱいあるので、同時並行で楽しんでいただけたらうれしいなと思っています」
《神木隆之介 プロフィール》
1993年生まれ、埼玉県出身。「日曜劇場『グッドニュース』」（99年）に出演。昨今ではNHK連続テレビ小説「らんまん」（23年）や、映画「ゴジラ-1.0」（23年）での好演も記憶に新しい。民放での連続ドラマ主演は「11人もいる！」（テレビ朝日系、11年）以来13年ぶり。日曜劇場は今作が初主演となる。