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朝ドラ「おむすび」脚本・根本ノンジさんインタビュー〈前編〉「自然災害の理不尽さに向き合い、どう立ち上がるかが大きなテーマ」

iza(イザ!) 2024年9月30日 7時0分

女優の橋本環奈が主演を務めるNHK連続テレビ小説「おむすび」が30日にスタートする。平成元年生まれの主人公米田結(橋本)が、どんなときも自分らしさを大切にする「ギャル魂」を抱きながら、栄養士として人の心と未来を結び激動の平成と令和をパワフルに突き進む姿を描くんでいく青春グラフィティー。本作で初めて朝ドラの脚本を担当した根本ノンジさんが、作品やキャラクターに込めた思いや創作過程の裏話などを明かした。その模様を2回に分けて掲載する。

コメディエンヌ・橋本環奈を絶賛

――誰が主人公を演じるかで人物像が変わると思うのですが、橋本さんが演じるという前提で、結をどう描こうと考えていますか?

「米田結というヒロインは、常に前向きはわけではなく、悩んだり、怒ったり、愚痴ったりしながらも食べることが大好きな等身大の女性です。橋本さんも、もともとおいしそうに食べたり、元気な感じをポテンシャルとして持ってる方ですし、橋本さんが見事に演じて、どんどん融合していっている感じがしています」

――橋本さんのそのコメディエンヌぶりについての感想を

「すばらしいですね。今回初めて一緒にお仕事をさせていただいたんですが、もともとキャラクターを立たせるのがとても上手でコメディーの感覚が優れていると思っていました。ツッコミセリフや、心の声のトーンと間が完璧なんです。笑いの間というんでしょうか。第1週の本読みに同席させていただいた時に、橋本さんなら、どんどん笑いのセリフを入れても大丈夫だなと思いました」

伝説のギャルは仲里依紗一択

――結の姉で伝説のギャルだった歩を演じる仲里依紗さんの印象は?

「仲さんとは『フルーツ宅配便』(2019年、テレビ東京)という深夜ドラマでご一緒した時に、『すごい女優さんだな』と思っていて、今回伝説のギャルをやってもらうには仲さんしかいないだろうと。まだ仕上がり全部は見ていませんが、本当に期待以上で、面白い芝居だけでなく心を震わせる芝居もしていただいて頼もしいです」

――気に入っているキャラクター、配役は?

「ヒロインの祖父、永吉が自分で書いていても面白くて、しかもそれを松平健さんが演じてくれていることがすごく幸せです。あと、高校球児の四ツ木翔也を演じている佐野勇斗君が栃木弁でしゃべるのですが、発音が見事で、立ち姿も愛くるしいというか。このおふたりだけではなく、、登場人物全員が、愛おしくて、かわいらしくて大好きです」

B’z主題歌に感激「稲葉さん松本さんと一緒に…」

――制作統括の宇佐川隆史さんも根本さんも初めて聞いたときに泣いたと仰る、B’zによる主題歌「イルミネーション」についての感想を

「もともとB’zさんが大好きで、宇佐川さんから『主題歌の候補として当たってみます』と言われて、決まったらうれしいなと思っていました。できあがった楽曲を聞かせていただいた時に、B’zサウンドでありながら、歌詞の内容が、朝ドラ、この『おむすび』というドラマの空気にすごくフィットするなぁと。まだ映像ができてない状態で曲を作っていただいたわけですから、台本を読んでいただいて、そこから稲葉さんが作詞し、松本さんが作曲した。一緒に何かを作ったんだといううれしさもありますし、それを詞と曲すべてから感じてすごく感動しました」

身近にある自然災害をフィクションのなかで描きたい

――阪神・淡路大震災の、ご自身の中での位置付けは?

「当時25歳で、放送作家としても見習いで、焼き鳥店で働いていたと思いますが、その時にテレビで見た状況ですね、最初に阪神淡路大震災を知ったのは。その後、関西にゆかりがなく、友人もいなかったので、ほとんど触れてこなかったという感じでした。改めて東日本大震災を東京で体験した時に、振り返って『阪神・淡路大震災ってどうだったんだろう?』と。その後、津波で被害が拡大したのとは異なる日本初の都市型の地震だったということを聞いて、振り返って調べていった感じでした。そしてこの作品をやるにあたって、また改めて調べ直していきました」

――今作と同じく脚本を担当された連続ドラマ「監察医 朝顔」(19、20、22年、フジテレビ)でも、主人公の母親が東日本大震災で亡くなった設定がありましたが、物語上の舞台装置という意味での阪神・淡路大震災はどう捉えていますか?

「平成になって日本ってすごく平和で、戦争もなく過ごしてきましたが、どうしても自然災害とは切っても切り離せない国だと思うんですね。それが常にわれわれの身近にあるということをフィクションの中できちんと描くべきじゃないか。フィクションだからこそ、ドキュメンタリーと違う側面で描けるんじゃないかなと思って。自分の母が19年前に事故で亡くなったんですが、『じゃあ明日ね』って言ってた人に翌日会えなくなるみたいなことって、誰にでも起こりうることだなといつも思っていて、それが一つの大きな地震によってたくさんの人たちが亡くなったり大変な目に遭った人たちがその理不尽さにどう向き合って、そこからまた立ち上がるのかが、自分の中でいつも大きなテーマだなと思って描いております」

笑いとシリアスは切り離せない

――震災という実際に起こった事実を扱いつつも、社会派的なトーンになりすぎないように物語の中になじませていくのが、脚本家としての根本さんの腕の見せどころでもあると思うのですが、執筆していくなかで感じている難しさや、工夫についてお聞かせください

「全体のトーンとしては明るい物語で、コメディーの場面も多いですが、それだけじゃないというか、人が生きていくなかで経験するリアルなものも織り交ぜて描こうと思っています。笑いの部分と、シリアスな部分は切り離せないというか、全体のトーンの中に災害とか事故も入っている。人生は笑って泣いてということでもあると思うので、なじませるとか描き分けるという感じでもないですね。すべてを含めて、主人公とその家族の人生として描いているという感じです」

栄養士は食がテーマの過去作にない切り口

――結は、今後栄養士になるということですが、ドラマにするうえで他の職業にはない栄養士ならではの面白さはどんなところにありますか?

「わりと早い段階で『食』をテーマにしようと決めたんですが、『ごちそうさん』(13年)など過去の朝ドラに、食をテーマにしたすてきな作品がすでにありますので、今までやったことのないものをどう作るか考えた末に栄養士という仕事にたどり着きました。栄養士さんって、食べ物で人を元気にする職業なんですね。たとえば赤ちゃんの離乳食や病院での食事、学校の給食、高校・大学は学食で、就職したら社食、コンビニやレストラン、さらに年老いて入院して、最後ご飯が食べられなくなった時にもメニューを考えているのは栄養士さん。調べれば調べるほど、食を通して人の人生に一生かかわる仕事なんだということがわかって、きっとドラマになるなと確信しました。また、私の父が食道ガンにかかって胃を切除し、胃ろうにした時に管理栄養士さんが病院ですごく献身的にいろいろやってくださって、亡くなる直前までお世話になったことから、栄養士の物語を書くべきだという思いもありました。そういった切り口が、今までの作品にない特徴と言えるのではないでしょうか」

――「おいしいものを食べたら悲しいことを忘れる」というセリフが第1週で2回登場します。このセリフに込めた思いは?

「自分の作品の中では常に食を大事にしていて、どんなドラマでも頻繁に食べるシーンを出してきました。食べるという行為にキャラクターや人生がにじみ出るので、意図的に出すんですが、おいしいものを食べたら少しは悲しいことも忘れられる。本当に忘れられるわけではないけれど、一瞬だけでも忘れられるということは常に自分の中で思っているので、この作品の大きなテーマにもなっています」

――「監察医 朝顔」も「朝ドラっぽい」という視聴者の声が多い作品だと記憶していまして、今のお話を聞いていて、食事シーンに込めた思いが重なるような気がしました。そういった過去の作品で積み重ねてきたことが朝ドラに生きている点はほかにもありますか?

「漫画原作のあるドラマを多く書いてきましたが、オリジナルで半年という長丁場の作品を書くうえで、今までに書いたドラマのシーンやキャラクターが、いろんな場面で『あの時こうだったじゃん』という感じでめちゃくちゃ背中を押してくれていて。もちろん朝ドラとしてチューニングする部分もあるんですけれども、集大成というにはまだ早いんですが、集大成のように自分の過去のキャラクターたちが背中を押してくれてる感じがして、心強く感じています」(後編へ続く)

※〈後編〉「ギャルは『失われた30年』を肩で風切って歩いていた」は30日正午に掲載します。


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