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朝ドラ「おむすび」脚本・根本ノンジさんインタビュー〈後編〉「ギャルは『失われた30年』を肩で風切って歩いていた」

iza(イザ!) 2024年9月30日 12時0分

女優の橋本環奈主演で30日にスタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。本作で初めて朝ドラの脚本を担当した根本ノンジさんのインタビュー、後編は作品のモチーフの1つであるギャル文化に対する思いや、時代背景となる平成時代の受け止め方などについて聞いた。

ギャルのポジティブな生き方が周りを明るくする

――ギャルの物語を描く面白さを感じているところは?

「令和のギャルブームは意外と受け入れられていると思いますし、今われわれが描いているギャルたちはクリーンでいい子たちですけれども、平成の頃の現実のギャルにはそれだけじゃない側面もありました。ですから、最初ギャルを主人公、テーマにすると悪いイメージを持たれる可能性もあると考えましたが、一方で、彼女たちにはそれを超えるパワフルな力強さがあるなとも思いました。平成の『失われた30年』と言われている時代を一番、肩で風を切って颯爽と厚底ブーツで歩いていた彼女たちの物語をきちんと描いた方が新しい朝ドラになるんじゃないかなと思って、あえて挑戦しています」

――ギャルについてリサーチするなかで驚いたことはありましたか?

「ルミリンゴ(ファッションモデルの板橋瑠美)さんに取材させていただいて、監修もしていただいているんですが、とにかくポジティブですよね。それを押し付けるんじゃなくて、自分たちがポジティブに楽しんでいるから、周りが明るくなっていく。彼女たちを見ていると元気になれる。それが一番大きなことかなと思いました」

ブームが下火になった時期に着目したワケは

――ギャル文化が縮小していった時期を描く狙いは?

「そっちのほうが面白いからです。ギャルが全盛の時よりも下火になってもやり続けている子たちが今に通ずるなと思ったので、あえてその時期から始めようと思いました。ブームの途中から、ヤンキーに行っちゃう子と、ギャルとしてのおしゃれを突き詰めていく子に分かれていきました。『うちらギャル貫いてる』という人たちのほうがかっこいいし面白いし、応援したくなると思ったので、そちらをとりあげるようにしました」

――当時、根本さん自身はギャルをどのように見ていましたか?

「接する機会もなかったので、街でたむろって怖いというイメージでビクビクしてた記憶がありますね」

――今日に至るまでにそうしたイメージが変わるようなことがありましたか?

「自分が若い頃は、ギャルの子たちのバックボーンなど知らずに、単にたむろって、お風呂も入ってない感じのイメージだったんですが、自分が大人になるにつれて、元ギャルだったという人に会ったり、接していくうちに普通の子だったり、いろんな事情を抱えた子だったりということが徐々にわかってきました。そういうところが多分、今回の作品にも出てるのではないかと思います」

――ギャルは見た目のインパクトが強いですが、目に見えないそのマインドを描くうえで意識されたことは?

「セリフ回しと、主人公の悩みとの向き合い方がギャルらしくなっていくのを表現していくようにしています。前向きだったり、楽観的だったり、周りを明るくしていくという形で表しています」

平成は失われた暗い部分だけではなかった

――宇佐川さんが「平成を総括して、どんな時代だったか考えたい」、根本さんとおふふたりで話した時『「失われた30年」って言いながら楽しかったよね』という話をしたと仰っていて、そう言われてみれば、平成時代をきちんと朝ドラで見つめたことはあまりなく、どうしても昭和と漠然とした“現代”という捉え方が多かったと思いまして、今作の視点は面白いなと感じたんですが、実際に振り返りながら書かれている根本さんとしては、平成に対してどんなことを思われますか?

「自分がテレビの世界に入って一番バリバリと仕事をしていた時代で、ドラマもバラエティもどっちも現場で楽しかったんですね。予算はだんだん減ってきてる感じがして、めちゃくちゃ大変だったなっていう意識はありましたが、それでも新しいカルチャーや、IT機器など、いろんなものが生み出されて飛躍的に伸びてるのも平成だなと思っていて。当時もう20代中盤から後半でしたが、自分の中では青春を振り返りながら書いている感じです。もちろんその間に悲しい災害や悲惨な事件もたくさんありましたが、その中でも失われた暗い部分だけではなかったことをきちんと描きたいし、自分はそういう時代だったと感じています」

あまり説教めいたことは言いたくない

――脚本家・放送作家としての根本さんは、昭和よりも新しい時代のムードみたいなところで視聴者の支持を得ておられるのではないかと思うのですが、そうした昭和的なものと根本さんたちの世代が作るものの違いというようなことは意識していますか?

「表現の中ではそれほど意識はしていません。ただ、あんまりお説教めいたことは言いたくないというか、ドラマの中でこれが正しいんだと頭から突きつけるものは、そんなに見たくないんじゃないかなあと思うんです。それよりは『こういう考え方もあるんじゃない?』というぐらいの方のライトな提示の仕方、みんなの考えが出て『どれも正しいね』という感じのほうが好きなので、おそらくそれがどの作品にも出ているんだと思います。テーマ性がないと言われてしまう時もありますが、人ってそういうことで一つにくくれないものではないのではないかといつも思ってるので、もしかしたらそこが昭和の先生方の作品と違うのかもしれないですね」

――今作では、主人公の祖父、父親がどちらかというと昭和的なキャラクターに思えますが、彼らもまた根本さん的なテイストの人物になっていくのでしょうか? あるいは、昭和的なものも盛り込もうという意図がありますか?

「結のおじいちゃんもお父さんも昭和のオヤジ感満載ですが、物語の展開や時代の流れで、平成的な感じに変わっていくさまを描きたいと思っています。それは描いていくうちに自然とそうなっていくと思います」

初の朝ドラ「挑戦しがいがある」

――宇佐川さんから、根本さんは朝ドラに対する愛情が大変深いとうかがいました。初めて朝ドラの脚本を担当されるにあたって、視聴者だった時との感覚の違いをお聞かせください

「見ているだけの時はのんきに朝ごはんを食べながら見ていたんですが、やるとなると物量が普通の連続ドラマの倍以上あって、しかも普通の連続ドラマが1回あたり1時間だとすると、朝ドラは15分×5話で75分あるので、1週分がスペシャルドラマの感覚なんですね。それが二十何週も続くというのは、『誰がこんな企画を考えたんだろう?』と思うくらい、無茶苦茶だなと思うんですけども、やりがいもありますし、挑戦しがいのある枠だと受け止めています」

――1回15分のテンポはもうつかめましたか?

「15分だとあっという間に終わっちゃうので、最初は、ちょっと長いセリフを書いたらすぐページも行っちゃって、『あ、どうしよう?』なんて思ってたんですけど、民放で言うところの“CMまたぎ”みたいな感覚で作っていくと、だんだんできるようになってきたって感じです。わりと早い段階で、第1週を書いている時に掴んできた感じです」

朝見るものとして不快にならないように

――宇佐川さんは、根本さんの脚本について、書いていくうちにブラッシュアップして、シンプルでストレートになっていくと仰っていましたが、そのあたりの制作過程についてお聞かせください

「まず、週ごとのテーマというか1週から25週までのざっくりとしたコンセプトを作って、そこからスタッフみんなで集まって構成会議をして、第1章から第3章という感じで大きく分けてから、また『第1章の第1週はこういう感じだね』というふうに、“箱書き”という要素を書き出す段階に進みます。そこに皆さんの意見をいただいて初稿に入り、初稿にも意見をもらって直すという繰り返しです」

――脚本の作り方として、朝放送されるドラマとして調整してるところはありますか?

「朝見るものというのはまず大前提として心がけていて、見ていて不快にならないというか、震災を描くことから重いシーン、重い週も出てきますが、なるべくセンシティブな表現は気をつけながらやっています」

息抜きはサウナ

――脚本執筆が煮詰まるようなことはありませんか?

「今までの経験から、早めにいろんな準備はしていました。先ほども触れましたように、最初に全体構成、キャラクター表も分厚いのを一人ひとり作ったり、各章がある程度進んだら、一度振り返ってプロットをみんなと共有したりというように自分なりに手を打っています。今後の展開についても、早めにリサーチしてもらったり、だんだんスケジュールは詰まってきてはいますが、まだ現段階では楽しくやらせてもらっています」

――半年という長丁場を乗り越えるコツはつかめましたか?

「息抜きにサウナに行くことでしょうか(笑)『サ道』(19、21、22、23年、テレビ東京)というドラマを書いたこともあるんですが、サウナが好きなので、一仕事終えたらサウナに入って英気を養い、また書くというローテーション、自分のスピードはつかんできたと思います。今のところ、風邪をひいたり体調を崩していないので、体調管理だけ気をつけながらとは思ってやっています」(おわり)

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