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朝ドラ「虎に翼」稲役・田中真弓ロングインタビュー「私はまだ伸びしろだらけ、70で新人です」

iza(イザ!) 2024年7月26日 12時0分

現在放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」に、元女中の稲役で出演する声優の田中真弓が、作品への思いや演じる稲について語った。

日本初の女性弁護士で、のちに裁判官になった三淵嘉子さんの人生をもとにした物語を描く「虎に翼」。女優の伊藤沙莉が主人公の佐田寅子役を演じている。田中が演じる稲は、寅子の親友にして義姉の猪爪花江(森田望智)の実家で女中をしていて、寅子とも親交があった。これまでに、第1週「女賢しくて牛売り損なう?」(第1~5回)第2回(4月2日放送)、第3回(同月3日放送)、第7週「女の心は猫の目?」(第31~35回)第33回(5月15日)の3回に出演。特に第33回では、弁護士資格は取得したものの、法曹界で数少ない女性で未婚であるために一人前と見なされず、落ち込む寅子の将来を心配して旧来の女性観から“女の幸せ”を説き、寅子の迷う心を揺さぶる重要な役割を果たした。

ドラマは第17週「女の情に蛇が住む?」(第81~85回)まで進行。花江の発案で、新潟地家裁三条支部の支部長となり仕事と家事・育児の両立に奮闘する寅子を、新潟に住む稲がサポートすることになった。2人の再会は12年ぶりで、旧交を温めながら、寅子が新しい人間関係を築いていく様子が描かれた。

「18になったら朝ドラの主役に抜擢されると思ってました」

――朝ドラ出演は「なつぞら」(2019年度前期)以来2作目となりますが、出演に至った経緯、出演が決まった時の感想を

「本当にうれしかったですね。経緯はわからないんですが、ずっと演劇はやっているので、どなたか舞台を見てくださってたのかな。『なつぞら』の時は出演したのが1回だけで、(福祉事務所職員の)村川さんって役名でしたが、やはりどこかで今回のように、準レギュラーというか、回を重ねて出てくる役をテレビドラマでやりたいとずっと思っていたので、とにかくうれしかったですね。だるまに目を入れたぐらいです、本当ですよ」

――実際に連ドラに複数回出演してみて、どんなところに喜びとか面白さを感じますか?

「小学生の時に学校行く前に(1966年度放送の朝ドラ)『おはなはん』を見ていたんですね。(主演の)樫山文枝さんが大好きで。その後も(翌年度放送の)『旅路』の日色ともゑさんとか。学生時代になると、『新劇』とか『テアトロ』という演劇雑誌に載っている文学座、青年座、俳優座や民芸といった大きい劇団の募集を見て、応募したんですが全部落ちてしまって。その頃だって小さい劇団はいっぱいあったんでしょうけども、今みたいに情報がないもんですから。小学生の頃は、役者になりたいと思えばなれるもんだとあらぬ夢を見られたんですよ。だから18になったら連続テレビ小説の主役に抜擢されるんだって思ってましたから(笑)。なかなか、誰も抜擢しないなと思っているうちに70になりました。で、出られたので、それはそれはうれしい。そんな感じですか。まだ本当に始めたばっかりなんで面白くてしょうがないんです。(同じ場面の中でカットを細かく割っていくため)手元のアップだけ別に角度を変えて撮り直したり、自分がそこにいるはずなのに(カメラに映らないから)いなくてもいいですと言われたり、トラちゃんと話しているはずのシーンで、トラちゃん不在のまま、それらしいところに目線を定めて自分の演技だけ撮ったり、『慣れれば私だって!』と思っているんですが、慣れないです、今のところは(笑)」

友達は「真弓が絶対言わないセリフを吐いてた」と

――「なつぞら」で演じられた村川役と同様に、今回の稲さんも、女性が社会に出て男性と同じように働くことについて、主人公に苦言を呈するというような役柄でしたが、田中さんご自身は、まさに寅子やなつ(広瀬すず)のように共働きで頑張ってこられた方であり、若い頃の自分自身にダメ出しするようなセリフをどういう思いで演じられましたか?

「本当に周りの友達からは、電話やLINEで『真弓が絶対言わないセリフを吐いていたな』『お前は絶対逆側だよ』って言われまして、自分もそう思いました。女は結婚すると同時に、今までやってきたことを辞めなきゃいけない、子供が産まれたら辞めなきゃいけないという固定観念が、今はそうじゃないって言っていても、子供が5歳になるまでは母親が見るべきだとか言う人もいるし、やっぱりどこかで自分もそんな風にも思っていたところがありました。ただ、自分の人生を大事にしてきた自負もありますので、たしかに私が言わなそうなことを言ったなという印象でした」

――稲さんとしてではなく、いち視聴者の目線でこのドラマを見た時に、男性優位の社会で頑張っている寅子や彼女の仲間たちにどんな言葉を贈りたいですか?

「今も全然やっぱり男性優位だよっていうふうに思っているので、始まったばかりというか。トラちゃんたちはその立ち上げの時代にすごく頑張ってくれた人たちで、それを引き継いで、男として女としてではなく、人として頑張っていこうよねという感じですね」

――第7週で寅子に「全ては手に入らないものですよ」と結婚を後押しする場面がありました。先ほどお友達から、絶対にあなたが言わないセリフだと言われたと仰っていましたが、このセリフに込めた心情は?

「トラちゃんを自分の娘のように考えて、その時代の母親にとっての女の幸せは、自分もそうだったろうし、それを子供にもと思う時に、花江さんはそういうふうに育ってくれたので安心でしたが、女の幸せという点でトラちゃんの人生は本当に大丈夫かな?と思ったんでしょうね」

「新潟編はコメディエンヌ的な方向で演じました」

――演じるのが難しかったところは?

「第1週『女賢しくて牛売り損なう?』第2回(4月2日放送)と第7週『女の心は猫の目?』第33回(5月15日)では、女の幸せっていうものをちゃんと考えてる人で、本当に賢い人、トラちゃんのように法律の勉強をしたいと思ったくらいの頭のいい人なのかなと思っていました。新潟編では逆に愉快な人というか、世が世なら歌手や女優になりたいような人です。役づくりが変わってしまったんですが、今思えば、1回目、2回目の出演場面で、チーフ演出の梛川(善郎)さんが仰っていた『もっとやっちゃっていいですよ』という言葉の意味が、もしかしたら『三枚目的なお芝居を最初の時からやっていいですよ』ということだったんだろうなって。でも、第2回の花江ちゃんと直道(上川周作)さんの結婚式の招待状を書いているシーンで、役をひょうきんに面白くしようという考えが及ばなくて、とりあえず腹でも叩いておこうかと思ってやってみたら、そこはカットされていたので、やっぱり望まれていないのかな(笑)と思っていたんですが、新潟編ではコメディエンヌ的な役どころなのかなと思えたので、その方向でやってみました」

――稲さんは第1、7、17週以降で登場しますが、こういう飛び飛びでの登場の仕方というのは最初から説明されていたんでしょうか?

「新潟編で再登場することは言われていましたが、だいぶ間があいて、テレビで見ながら『本当なのかな? 出てくる隙があるのかな?』とドキドキした感じで待っていたので、台本をいただいた時はすごくうれしかったです」

――第7週までの時と第17週からでは、だいぶ役の印象が変わったと仰っていました。この間、戦争などさまざまなことが起こりましたが、ドラマに登場していない間の稲さんの変化や設定についてはどういう役作りをされましたか? あるいは演出からの指示や要望がありましたか?

「地理的なこと、トラちゃんの家と稲さんの住んでるところ、家裁の事務所があるところの場所の関係性などは説明されました。助かったのは新潟弁じゃなかったこと。今までどおり、トラちゃんや花江ちゃん、優未(竹澤咲子)とかかわるだけで、地元の人とのシーンはないのでそのままで大丈夫ですと言われてホッとしました。出ていなかった間のことは、細かく説明されたというよりは、寅子との会話で夫を亡くしたことなどがセリフに盛り込まれていましたので、いろんな苦労があったんだなと。それでも基本的には陽気な方だなというのは、先ほども話しましたが新潟編で初めて感じました」

――根は楽しい人だけれども、第7週までは使用人という立場から抑えていたという感じでしょうか?

「そういうふうに見ていただければありがたいです」

「トラちゃんの間がすばらしかった」

――今回初共演となった主演の伊藤沙莉さんとの芝居についての感想を

「やっぱり人気のある、ちゃんと仕事ができている人ってすごいなと思いました。私は舞台はずっとやっているんですが、映像作品の演技に慣れてないので、1つのシーンの中でカメラのアングルが変わって、手元だけ撮影するとか、今どちら側から撮られているのかわからず、『次何をすればいいの?』ってなってしまっている時に、すごく自然に、相手の負担にならないように導いてくれる気の遣い方が『違うな!』と。とにかく明るい。一番疲れているだろうに、沙莉ちゃんの笑い声で救われるというか笑ってくれてましたね。だから、トラちゃんのお芝居の優三(仲野太賀)さんの出征を見送る場面の変顔とか、亡くなった時のお芝居が余計に悲しいですね」

――伊藤さんとやり取りをしてる時に、何か役者として感じたことはありましたか?

「私たち声優は、間を自分で作っていないんです。アニメ、洋画にしても自分ではない人のしゃべった間に(セリフを)入れていくんですね。つまり、自分の間を知らないのが声優の仕事なんです。自分の体を通してやったら違うであろうに、それがわからないでセリフを継いじゃうんですよ。それで『しまった!』って思ったことが、2、3回ありましたね。沙莉ちゃんの間がいいんです! 私は次のセリフがあると、そのセリフを早く言ってしまおうとするんです。それでトラちゃんのセリフより先に出ちゃったことがあって、演出の方からから指摘されるまで、私、気づいてもいなくて、謝ったら沙莉ちゃんが『いやいや私が遅かったんです』って言ったんですけど、それ違うんです。後々考えても、トラちゃんの間がいいんです」

――ああ、なるほど

「声優の芝居というのは、『間』を自分で作っていないんです。決められているので、それに慣れてしまっているんです。トラちゃんの間がすばらしかったですね」

――寅子と稲のシーンで印象に最も印象に残っているのは?

「第85回(7月26日放送)で、トラちゃんから、喫茶店『ライトハウス』を手伝ってくれないか、両立が無理なら我が家に来るのをやめてもいいと言われた時の、お互いの表情のお芝居がすごくうまくいったなという気がしています。ちゃんと受け取れたし、受け取ってもらえたなと印象に残っているシーンです」

――それは脚本に書かれている以上に、伊藤さんとの関係性のなかで出た芝居ということですか?

「はい!」

舞台との違いに戸惑うも「うれしくてしょうがない」

――先ほど、声優と俳優で演技の間が違うと仰っていましたが、田中さんは、舞台のお仕事もされているので、声優、映像と舞台の3つをやっているからこその強みもあるのでは?

「舞台は年間7本少なくても5本はずっとやり続けてるので、ある程度の自信はあるんですが、やはり映像演技は慣れなくて、続けてやらせていただきたいなと思っているところです。久しぶりだと、また次(のカットで)何やるの?っていう感じになっちゃうんですよね。(時系列の)順番どおり(に撮影されるわけ)じゃないじゃないですか? 舞台は行き過ぎる時間なので、そういう意味では舞台が一番役者のものかなっていう気はします。演出家も本番が始まってしまえばどんなに嫌だと思っても止められないですが、映像は撮り直せるし、撮る順番のこともあるので、回数を重ねないと慣れないと思います。私はまだまだ伸びしろだらけなんです、もう70ですけど。ふふふ(笑)。だからやりたいと思ってます」

――チャレンジできる喜び、やりがい、手応えがあると…

「うん、もううれしくてしょうがない感じです。70で新人です(笑)」

――主役と、脇でインパクトのあるセリフを残す稲さんのような役の違いは?

「映像作品に関しては、役の大きさについて言えるほどの経験がありませんが、舞台については、若い時はやはり出番の多い役をやりたいと思いました。でもこの年になると、作品がすごく面白くて、意味のあるちょっと出てくる役を演じられることはうれしいですよね。出番は少なくても、ものすごく必要な役、いい役、生かされているなと思って演じている時もあります。だから演劇に関しては主役をやりたいとは思っていないです」

――今作でも、出演回の間が空いていても前回のセリフをちょっと思い起こして、ストーリーにつながりがある役でした

「すごく大事な役でしたね。第2回に出演した時は、招待状の表書きをしているだけでいいぐらいの役かと思っていました。花江さんの家の女中さんの設定で、第17週でわざわざ新潟に帰りますって言ったのも、きっと続きの出番があるからだろうとは思っていましたが、新潟編からはこうしてみようかな、ああしてみようかなと考えられるようになりましたね。最初の2回はもうわからないことだらけで、そこまで考えられなかった」

――そこからだいぶ経って、第17週の新潟で寅子と再会しての稲の気持ち、考え方の変わったところはどう捉えましたか?

「ちゃんと結婚もしたし、子供も持ってなんか良かったなと。花江さんから言われて、仕事が忙しいトラちゃんの力になれるなら、それは稲にとっても必要とされるということはすごくうれしい。第85回でトラちゃんに『ここに来るのは迷惑でしたか?』と尋ねるシーンがありましたが、やっぱり助けになってるし、優未が慕ってくれてることもうれしかったと思います」

ルフィが大好きな岡田将生を喜ばせたセリフとは…

――第17週での稲は、はる(石田ゆり子)さんが亡くなった後の、花江や寅子の母親代わりという感じの位置付けかと思いますが、演じるうえで一番心がけたことは?

「稲さんのセリフから、夫はいたけれども子供はいなかったようですから、トラちゃんもそうだし、特に花江ちゃんは小さい時からずっと面倒見てきた間柄で、自分が育てたぐらいな気持ちだったと思うので、優未は孫のようで、やっぱり頼られることって必要とされることってすごくうれしいんだろうなと思いました。トラちゃんは自分と優未のかかわりで頑張ろうとしてたところに、花江ちゃんが良かれと思って稲さんを差し向けて、一瞬迷惑だったかなというところもありましたが…」

――第17週で久しぶりに伊藤さん、森田さんと現場で再会して変化を感じた部分は?

「育ったんだなとは思いましたね。いろんな経験をした花江ちゃんが新潟に来て、再会した稲がずっと泣いているというシーンがあったんですけど、『それは泣くわね』というぐらい。おふたりの話ではないんですが、実は第17週の私の出番はライトハウスの場面から撮り始めていて、星航一役の岡田(将生)くんに最初会った時には全然おくびにも出さなかったんですけど、次にメイクルームでお会いした時に、ルフィの大ファンだったことがわかって、(ルフィの声で)『お前は俺の仲間だ』ってセリフを言ったら、『うぁ~っ!』って崩れるぐらい喜んでくれて。『良かった、ルフィやってて』って思いました(笑)」

――最後に視聴者の方に向けてメッセージを

「男も女も、明日から頑張ろう。私も『虎に翼』を見て勇気もらっていて、今後もきっと元気になれるお話なので、男も女も頑張っていこう!って感じですね」

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