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朝ドラ「虎に翼」猪爪花江役・森田望智ロングインタビュー《前編》第15週の口論は「親友のけんかではなく、夫婦げんかです」

iza(イザ!) 2024年7月12日 12時0分

現在放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」で、伊藤沙莉演じる主人公の女学校時代からの親友で義姉でもある猪爪花江役を好演している女優の森田望智。「おかえりモネ」(2021年度前期放送)以来となる2度目の朝ドラで抜群の存在感を示し、毎朝、多くの視聴者を楽しませている。物語は、第15週「女房は山の神百石の位?」(第71~75回)まで進み、「家庭裁判所の母」とまで呼ばれ、女性法曹の嚆矢として活躍してきた主人公の佐田寅子(伊藤沙莉)が、新潟地家裁三条支部への異動を命じられた。これを契機に、花江以下同居する家族に無意識に我慢を強いていた現実に気づかされ、家族との向き合い方に悩む寅子の姿などが描かれた。花江はこの週、寅子のカウンターとして大活躍した。

独特の花江ボイスは衣装から逆算

――出演が決まった際の時の心境は?

「伊藤沙莉ちゃんのヒロイン発表があって、これは絶対に見るぞって思っていて。沙莉ちゃんとも2回ぐらい共演しているんですが、本当にお芝居がすてきなのと題材も面白そうで、どうにかオーディションがないのかなーなんて思っているなか、声をかけていただきました。自分がすごくいいと思っている作品から声をかけていただいたことがまず、とてもうれしかったですし、また朝ドラのオーディションに何度も何度も挑戦して、落ちては少し役をいただいたりというのを繰り返しているなか、オーディションなしで役をいただけたことに、責任感と信頼していただけるありがたみを感じました。花江ちゃんという役もとても魅力的ですし、女性が主人公の女性たちのお話というところもすごく惹かれて、ありがたいな、うれしいなと思いました」

――花江の役作りをどう準備しましたか?

「内面的には自分と似ているんですけど、しゃべり方は似てないと思っていて、台本の初見でハートマークとか音符マークとかがセリフの後ろについていて、そこからのイメージでかわいらしいしゃべり方を連想してしました。

衣装合わせの時に、花江ちゃんはピンクだよねと皆さんに言われて、やっぱりそういう感じなのかと思って、着てみたらすごくお花があしらわれたかわいらしいお着物。これを選ぶ子はこれが似合わなくてはいけないというところから逆算してああいうしゃべり方になりました。後々モノマネされて気づいたんですが、クセを強くしようって思ったわけではなくて、そういうイメージでした。

それから、トラちゃんがバーってしゃべるので花江ちゃんはゆったり、ということも言われていて、いろんなイメージが組み合わさった結果でもあります。ほかに意識しているのは、年齢を重ねていくので、私の年齢より若い10代の時には幼いというか、ちょっと地に足が付く手前のようなイメージ。まだふわっとしている。高校生の時の私もそうだったんですが、まだ高校とその周りの世界しかわからなくて、広い世界がまだ見えていない状態のイメージもありましたし、どんどんお母さんとしてたくましくなっていったら、すごくどっしりとしていきますし。あと、ホームビデオで私の母の若かりし頃のビデオを見た時に、すごく声が高かったんですね。今の母も高いんですけど、さらに高くてどんどん低くなっているっていう。変わらないようで変わっているんだって思ったんです。だからそういう意識もなんとなく持っていて、でもやりすぎると不自然になってしまうので、考えすぎず、どこか頭の片隅に、年齢をとって気持ちの持ちようが変わっていくだろうなっていうのは感じていて、これから実年齢よりもっと年上になっていくので、それはすごく楽しみです」

花江は視聴者の目線でもある

――ヒロインの寅子は「剛」、花江は「柔」という印象ですが、森田さんご自身が捉えている花江の人物像、演じるうえでの心がけは?

「トラちゃんと対照的ということは、よく言われていて、たしかにトラちゃんが猪突猛進なのに対して、花江ちゃんは一歩引いて戦略を練る、そういうタイプとしては違う2人ですが、根本的にはすごく似ているとも思っています。2人とも地に足がついていて目的のために努力を惜しまない、着実に一歩一歩、自分の成し遂げたいことを進めていく強い女性という意味では同じ。(脚本を担当する)吉田恵里香さんの描く女性たちは、よねさん(土居志央梨)をはじめとした女子部の皆さんであったり、はる(石田ゆり子)さんも含めてすごく強い人たちなので、トラちゃんと花江ちゃんだけということではないんですが、そこはすごく似ていると思っています。

あと、よく言われるのが、少しあざといとか、第3話(4月3日放送)で『したたかにいきなさい』とトラちゃんに言うセリフがあったからだと思うんですが、したたかだということで、『したたか』という言葉には『あざとい』というニュアンスもありますが、反対に粘り強くて力に屈しないという意味もあって、たぶんそういう面も備わっているところが、トラちゃんに似ているなとも思います。自立した一人の女性であるということ、家庭で家を守る女性だけれども、それも一つの女性の生き方であり、働く女性たちが偉いわけではなく、どんな女性たちも平等で尊い存在であるということを花江ちゃんは体現しているのではないかと思って、そこを大事に演じています」

――ご自身と花江の共通点は?

「今までやったどの役よりもすごくやりやすくて、たぶん気持ちがわかるからだと思うんですが、花江ちゃんは視聴者の目線でもあると思っていて、華やかで一見柔らかそうだけれども、強いし、頑固な部分もあるし、しっかり者だと思っています。私も、実際は違うんですが、見た目から柔らかいと思われることのほうが多くて、そういう面は似ているなと思います。それから、周りの人をよく観察していて本質を見抜く力があると思うんですが、自分のことになるとちょっと見えなくなってしまうところがかわいいですね。私も自分のことがよくわからなくなって、『どれが私だっけ?』となる時があります」

優未のくしゃみや「猪爪家劇場」の裏話

――脚本の吉田恵里香さんがNHK出版の公式ガイドブックのインタビューで、花江について「もう一人の主人公のつもりで書いている」と語っておられますが、そうした吉田さんの思いを強く感じた場面や、セリフがありましたか?

「吉田さんがそう言ってくださっていることは後から知ったんですが、あまり意識はしていないです。でも、常にトラちゃんの考え方だけが正しいわけではないということを、近くで見守っている花江ちゃんの気持ちを描くことで、誰の気持ちも尊重したくなるような作りにしてくださっている。そういう面では、トラちゃんと同じような家庭環境で両親から愛されて育ってきて、同じ年齢ですし、すごく似ているんですよね。壁にぶち当たる部分も同じタイミングだったと思うんです、これまでも。だから時代性という意味でも、2人が同じところにいるなかでの違いを描くという面で、吉田さんが花江ちゃんを大事な存在として描いてくださっていると感じています」

――第50回(6月7日放送)で優未(斎藤羽結)が家族で話している時にくしゃみするハプニングがありましたが、そのままお芝居が自然に続いて、多くの視聴者から「癒された」という声がネットに寄せられました。あの場面で、カットがかかった後の現場はどんな様子でしたか?

「あれは現場でカットがかかった後も、それが当たり前みたいな雰囲気で。くしゃみが特別視されることなく、流れのなかで自然に出たものだったので、私やはるさん、子供たち含めて、いつもの前室にいるときの雰囲気がそのまま画面に映っただけで特別、慌てるようなこともなく『大丈夫かな? 風邪かなー?』みたいなぐらいで、カット後が穏やかに過ぎていきました。優未ちゃんが天使なので、かわいいなという気持ちがそのまま(映像に)乗ったような気がします」

――第3週の劇中劇「猪爪家劇場」でもハプニング、アドリブがたくさんあったのでは?

「ありましたね。猪爪家劇場は、セリフを全部トラちゃんがナレーションで言っているんですね。現場ではもう好き勝手に、トラちゃんがナレーションしてくれるから何言ってもいいやと、アドリブいっぱいでした。面白かったのは、岡部さんがお饅頭を食べて亡くなってしまう場面で、『いい香りが鼻から抜けて…』みたいなことをアドリブで言って、それがおかしすぎて皆笑いが止まらなくなったり、はるさんがほくろをつけたいって言ったら、皆がつけたがったり、そういうのにあふれた、いい意味で楽しくふざけて猪爪家劇場をいいものにしたいという思いで全力で遊んだ記憶があります」

放送で使われなかったアドリブも役としての思い出になる

――伊藤沙莉さんとのシーンで印象に残っている場面は?

「第60回(6月21日放送)のはるさんの遺言で彼女の日記を燃やすシーンですね。日記を燃やすとともに、はるさんへの思いを消化していくところで、トラちゃんがはるさんと向き合い、それを花江ちゃんが見ているっていう場面でした。はるさんからのメッセージを読んだトラちゃんが感極まって、花江ちゃんがトラちゃんの肩を抱くところまでが台本には書かれていたんですが、その後をアドリブでやらせていただいていて、その間1、2分ぐらいカメラを回してくれていたと思います。全部使うわけにはいかないんですが、すごく長く使っていただいていて、あれは相手が沙莉ちゃんだからこそ出た自然な気持ち、関係性が、それまで半年撮影を続けてきたなかで生まれたものだったり、花江ちゃんとトラちゃんを超えて、私と沙莉ちゃんの気持ちが通ったようなシーンでもあって、すごく印象に残っています。

本当にゆり子演じるはるさんが大好きでいなくなってしまったっていうことに対して役としてももちろん、自分として思いがすごく乗って。それは沙莉ちゃんも同じだっただろうなって見ていて感じたので、お芝居の楽しいところってこういうところだよなって思ったシーンでした」

――カットをかけずに長めに回すことは事前には知らされていなかったのでしょうか?

「そうですね。アドリブが好きな現場で、台本にないトラちゃんと花江ちゃんを映したかったというのもあると思うんですが、全部が全部オンエアで使われなかったとしても、私の記憶の中には残っているんですね。その時の情景、その1分間、2分間が。それがこれから演じるうえで記憶になりますし、花江ちゃんのなかでアドリブが使われるかどうかは大事ではなくて、役としての思い出を少しでも長く作れる時間だと思っているので、そういう面ですごく大事な時間だったと思います」

長丁場の朝ドラだからこそ関係性が変化

――制作統括の尾崎さんに取材した際、もしかしたら花江は寅子と最も長い時間に過ごすことになるかもしれないと仰っていました。森田さんからご覧になった花江と寅子の関係をどう捉えていますか?

「朝ドラの長丁場の撮影だからこそなのかもしれませんが、花江ちゃんとトラちゃんって最初の関係性からどんどん変わっていって、戻ったり離れたり、一時として同じような関係性の時がないというか、こんなにも変化していくんだって思ったんですよね。それはたぶん長く描けるからで、普通のドラマとか映画とかだったらその関係性の一瞬を描いて終わりですが、その一瞬の後にどうなるのかがすごく人間らしいと思っていて、トラちゃんとはずっと親友でい続けますが、第15週で気持ちのぶつかり合いというか、花江ちゃんの言いたいことが爆発して、けんかっぽくなってしまい、今まで言えてなかった分、トラちゃんへの不満が爆発するっていう流れでした。そこで『なんで親友なのに言いたいことが言えないんだろう、家族だから言いたいこと言っていいのに、こんなに我慢する子だっけ、花江ちゃんは?』って疑問に思ったんです。

でも、その時はたぶん親友っていう存在ではなくて、夫と妻の関係性だったんですね。だから妻として夫を立てたりするなかで、夫に対して我慢しなくてはいけない。妻だから家を守って働きに出てくれているトラちゃんを支えなくてはいけない。だから自分の気持ちには蓋をしてというふうな思いだったんですよね。それがすごく腑に落ちて。監督にも『これは親友のけんかではなく、これは夫婦げんかです』って言われました。親友だったら踏み留まれるところを、夫だから、けんかした時にお互いのことを顧みないというか、本当に気を使わず言ってしまう部分っていうのもすごく夫婦げんかっぽいなと思って。それを経てまた別の家族の形になっていきますが、トラちゃんに対して夫婦、家族、親友といういろんな思いが花江ちゃんに乗ったトラちゃんの見え方になっていくところが面白いですし、長丁場ならではだなと思います」

(後編につづく)

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