イギリスに住む8歳の少年は、ほとんどの食べ物に拒絶反応を見せ、チョコレートやポテトチップスなど非常に限られた物しか食べることができなかった。他の食べ物を食べさせようとすると体調不良を起こし、食べ物の匂いも受け付けず、見ることさえもできなかった。困り果てた母親が藁にもすがる思いで催眠療法を試してみたところ、それまでのことが嘘のように少年はすぐに野菜などを食べられるようになったと、英ニュースメディア『WalesOnline』などが伝えている。テックインサイト編集部では、催眠療法を行った認知行動療法士に取材を行い、治療の秘密に迫った。
英サフォーク州イプスウィッチ市に住むロッコ・オブライエン君(Rocco O'Brien、8)の食べ物に対する拒否反応は、離乳食を開始した頃から始まった。
「ロッコは何を食べても吐き気をもよおしてしまうのです」と話す母親のハイジ・オブライエンさん(Heidi O’Brien、45)は、息子のロッコ君が生後4か月と少し早い時期から卒乳を試み、少しずつ離乳食を与え始めたという。しかしロッコ君は食べ物を欲しがらず、食べると体調不良をきたすようになった。また、ロッコ君は食べ物の匂いや、見ることも受け付けず、一緒にレストランへ行くこともできなかった。
「パスタを食べさせようと思って、ロッコの手にパスタを握らせたことがあったのですが、まるでクモを掴んでしまったかのように悲鳴をあげたのです。半年ほど前にはチキンナゲットを握っただけなのに、泣き出してしまいました。」
ハイジさんによるとロッコ君は自閉症であり、最初はクラッカーやビスケットなどベージュ色のものだけを口にしていたそうだ。しかし、次第にそれらを食べることはなくなり、チョコレートブランド“キャドバリー(Cadbury)”の板チョコや、チョコレート味のシリアル“ココポップス(Coco Pops)”、チョコレート風味のスプレッド“ヌテラ(Nutella)”、そして“プリングルズ(Pringles)”のポテトチップスを食べるようになった。
ロッコ君の食べ物に対する異常な拒否反応は、“感覚情報処理障害”が原因であるとハイジさんは説明する。
「ロッコはとても敏感で、全ての感覚が刺激されているように感じるのです。食べ物に触れることを怖がるので、哺乳瓶でミルクを飲むことしかできませんでした。6歳になる頃にはやめさせましたけどね。」
ハイジさんはロッコ君の栄養不足を心配して栄養士に相談したが、ビタミンなどの栄養素を多く含む粉末飲料“ネスクイック(Nesquik)”を勧められただけで、根本の解決にはならなかった。ハイジさんが自身で調べてみると、「回避・制限性食物摂取症(以下、ARFID)」という病気に行き着いた。栄養士や心理士も「恐らくそうだろう」と同意したものの、この病気について詳しいことは何も知らなかったという。
専門家から助けを得ることができず、「周りの人に悪い親であると思われているような気がして、いつもそればかり考えていました」とハイジさんは悩み続けた。ところがある日、オートキャンプ場へ出掛けた時、売店の女性が「私もARFIDだった」と打ち明けてくれ、認知行動療法士のデイヴィッド・キルマリー氏(David Kilmurry)に出会って治ったと話してくれたのだ。ハイジさんは早速、デイヴィッド氏に連絡を取り、その日の夜に治療を受けることになった。
デイヴィッド氏は催眠療法により、食物恐怖症で8年以上もチーズサンドしか食べられなかった10歳少年や、20年間も摂食障害で苦しんでいた女性を救った過去を持つ。
テックインサイト編集部では、デイヴィッド氏に取材を行い、催眠療法の詳しい方法について尋ねた。
「催眠術を掛ける前には、治療のために様々なテクニックを使います。事前に両親からこれまでのバックグラウンドや、現在食べられるものなどの情報を教えてもらい、信頼関係を築くために、ロッコ君と興味を持っているものについて話しました。ロッコ君も私もサッカーが好きだと分かったので、サッカーを通じてロッコ君と心を通わせることができました。」
実際にサッカーボールでロッコ君と一緒に遊んだというデイヴィッド氏は、自身も過去に食べられないことがあって苦労した事実を打ち明け、ロッコ君を安心させた。こうして徐々にロッコ君との信頼関係を築いたデイヴィッド氏は、「ストレスなく初めて見る食べ物に接する個人的な方法である『1-2-3アプローチ』と、そのメリットも説明しました」と、自身が過去に試した方法をロッコ君に伝えた。
デイヴィッド氏が触れた『1-2-3アプローチ』では、食品そのものは見せず、指でつまめる程度に小さくした食品を3つ用意する。まず1つ目を口にして、新しい食品を味わってみる。そして2つ目を食べた後には、“良い”・“悪い”・“まあまあ”の判断を、サムズアップ・ダウンのハンドサインで教えてもらう。そして最後の3つ目を口にしたあとは、10点満点で評価を行う。点数を付けることが重要なのではなく、楽しみながら行い、新しい食品を口にすることで、徐々に自信を付けていくことが大切になる。デイヴィッド氏は自身で『1-2-3アプローチ』を説明する動画の他にも、子ども向けにバットマンがこの方法を説明する動画も作成している。
こうした動画を見せるなどして時間をかけて事前準備を行い、いよいよ催眠療法に入る。「最初はリラックス催眠療法から始めました。そうすることで、摂食障害でない人であれば自然になるはずの、“休息・消化状態”を促します。催眠療法中に、患者に合わせて方法を変えていきます。ロッコ君には好きな選手とサッカーをしている場面を想像してもらい、ペナルティを受けないように落ち着いている必要があると伝えました」と、デイヴィッド氏は催眠療法について振り返る。
そして催眠を終えると、ロッコ君が食べられるチョコレートやポテトチップスから食べてもらい、それから新しい食べ物に挑戦した。ロッコ君の場合、食べられるものは基本的にジャンクフードだった。これらは糖分を多く含んだ食べ物だったので、デイヴィッド氏はリンゴや洋ナシ、ホウレンソウ、キャベツ、芽キャベツなど、天然の糖分を多く含む食品を用意し、『1-2-3アプローチ』で試した。
今まで新しい食べ物を見るとヒステリックに拒絶していたロッコ君だったが、それが嘘のように、デイヴィッド氏が用意した食べ物をすんなりと口にし始めたのだ。この光景を見たハイジさんは、驚きながらも喜んでいた。ロッコ君本人も嫌々食べているわけではなく、楽しんで食べていたという。ロッコ君は現在、毎日新しい食べ物に挑戦し、食べられる食品を増やしている。
ロッコ君と同じくARFIDや選択的摂食障害(Selective Eating Disorder)を患う人は、社会生活に影響が出やすいと、デイヴィッド氏は説明する。
「食べ物は生活の大きな部分を占めるので、食べ物のせいで強い不安を抱えてしまうと、新しい食べ物に対してだけではなく、レストランやデートへ出掛けるような状況に挑戦することへの障壁にもなってしまいます。食べ物に恐怖を抱くほとんどの人は、限られた食事で何とか間に合わせているので、食事の時間は楽しくないですし、むしろ大きなストレスや不安を引き起こします。」
「周囲の人は『これはこうやって食べればいい』とアドバイスしますが、それは患者にとっては恐怖を感じる行動の促しになります。そのため患者は頭をゆすったりこすったりして拒絶し、1人でいるときにだけ食事を摂るなどして対応するため、孤立しやすくなるのです。家族との間に軋轢が生まれることもあるので、患者の家族も心を痛めてしまう場合も。バランスのとれた食事が健康でいるためのベストな方法であることは、誰でも知っている事実です。ARFIDの人は体に必要な栄養素が不足するので、健康上の問題が顕著に表れやすくなります。」
最後に、ハイジさんと同じような状況で悩んでいる保護者へのアドバイスを尋ねると、デイヴィッド氏はこのように答えてくれた。
「これは1つの障害であり、保護者の育児の方法や能力が影響したものではないことに気付くことです。この複雑な障害からお子さんを救い出すための助けは存在しますし、知識は大きな力となります。この病気は非常に誤解されやすいですし、保護者や医療専門家をもどかしい状況に陥れてしまうのです。治療のためには、患者中心のアプローチと忍耐が必要です。この病気で苦しんでいる患者とご家族に、暗いトンネルの先には希望の光があることを知ってほしい。祈っています。」
画像は『WalesOnline 2023年10月17日付「Boy who could eat only chocolate and crisps cured after seeing David」』『LADbible 2023年10月18日付「Boy who refused to eat anything other than crisps and chocolate would scream at other foods」(CreditL SWNS)』『The Mirror 2020年9月2日付「Hypnotherapy helps boy who would only eat cheese spread and would consume tub a day」(Image: Anita Maric / SWNS)、2018年11月13日付「Woman ate only ice cream and sausages for 20 YEARS as sight of veg made her sick」(Image: Caters News Agency)』『New York Post 2020年10月7日付「Boy who has eaten nothing but sausages his whole life has been cured」(SWNS)』『Pedestrian TV 2020年12月7日付「A Current Affair Brought Out An Actual Hypnotherapist To Cure This Woman’s Snake Addiction」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)
英サフォーク州イプスウィッチ市に住むロッコ・オブライエン君(Rocco O'Brien、8)の食べ物に対する拒否反応は、離乳食を開始した頃から始まった。
「ロッコは何を食べても吐き気をもよおしてしまうのです」と話す母親のハイジ・オブライエンさん(Heidi O’Brien、45)は、息子のロッコ君が生後4か月と少し早い時期から卒乳を試み、少しずつ離乳食を与え始めたという。しかしロッコ君は食べ物を欲しがらず、食べると体調不良をきたすようになった。また、ロッコ君は食べ物の匂いや、見ることも受け付けず、一緒にレストランへ行くこともできなかった。
「パスタを食べさせようと思って、ロッコの手にパスタを握らせたことがあったのですが、まるでクモを掴んでしまったかのように悲鳴をあげたのです。半年ほど前にはチキンナゲットを握っただけなのに、泣き出してしまいました。」
ハイジさんによるとロッコ君は自閉症であり、最初はクラッカーやビスケットなどベージュ色のものだけを口にしていたそうだ。しかし、次第にそれらを食べることはなくなり、チョコレートブランド“キャドバリー(Cadbury)”の板チョコや、チョコレート味のシリアル“ココポップス(Coco Pops)”、チョコレート風味のスプレッド“ヌテラ(Nutella)”、そして“プリングルズ(Pringles)”のポテトチップスを食べるようになった。
ロッコ君の食べ物に対する異常な拒否反応は、“感覚情報処理障害”が原因であるとハイジさんは説明する。
「ロッコはとても敏感で、全ての感覚が刺激されているように感じるのです。食べ物に触れることを怖がるので、哺乳瓶でミルクを飲むことしかできませんでした。6歳になる頃にはやめさせましたけどね。」
ハイジさんはロッコ君の栄養不足を心配して栄養士に相談したが、ビタミンなどの栄養素を多く含む粉末飲料“ネスクイック(Nesquik)”を勧められただけで、根本の解決にはならなかった。ハイジさんが自身で調べてみると、「回避・制限性食物摂取症(以下、ARFID)」という病気に行き着いた。栄養士や心理士も「恐らくそうだろう」と同意したものの、この病気について詳しいことは何も知らなかったという。
専門家から助けを得ることができず、「周りの人に悪い親であると思われているような気がして、いつもそればかり考えていました」とハイジさんは悩み続けた。ところがある日、オートキャンプ場へ出掛けた時、売店の女性が「私もARFIDだった」と打ち明けてくれ、認知行動療法士のデイヴィッド・キルマリー氏(David Kilmurry)に出会って治ったと話してくれたのだ。ハイジさんは早速、デイヴィッド氏に連絡を取り、その日の夜に治療を受けることになった。
デイヴィッド氏は催眠療法により、食物恐怖症で8年以上もチーズサンドしか食べられなかった10歳少年や、20年間も摂食障害で苦しんでいた女性を救った過去を持つ。
テックインサイト編集部では、デイヴィッド氏に取材を行い、催眠療法の詳しい方法について尋ねた。
「催眠術を掛ける前には、治療のために様々なテクニックを使います。事前に両親からこれまでのバックグラウンドや、現在食べられるものなどの情報を教えてもらい、信頼関係を築くために、ロッコ君と興味を持っているものについて話しました。ロッコ君も私もサッカーが好きだと分かったので、サッカーを通じてロッコ君と心を通わせることができました。」
実際にサッカーボールでロッコ君と一緒に遊んだというデイヴィッド氏は、自身も過去に食べられないことがあって苦労した事実を打ち明け、ロッコ君を安心させた。こうして徐々にロッコ君との信頼関係を築いたデイヴィッド氏は、「ストレスなく初めて見る食べ物に接する個人的な方法である『1-2-3アプローチ』と、そのメリットも説明しました」と、自身が過去に試した方法をロッコ君に伝えた。
デイヴィッド氏が触れた『1-2-3アプローチ』では、食品そのものは見せず、指でつまめる程度に小さくした食品を3つ用意する。まず1つ目を口にして、新しい食品を味わってみる。そして2つ目を食べた後には、“良い”・“悪い”・“まあまあ”の判断を、サムズアップ・ダウンのハンドサインで教えてもらう。そして最後の3つ目を口にしたあとは、10点満点で評価を行う。点数を付けることが重要なのではなく、楽しみながら行い、新しい食品を口にすることで、徐々に自信を付けていくことが大切になる。デイヴィッド氏は自身で『1-2-3アプローチ』を説明する動画の他にも、子ども向けにバットマンがこの方法を説明する動画も作成している。
こうした動画を見せるなどして時間をかけて事前準備を行い、いよいよ催眠療法に入る。「最初はリラックス催眠療法から始めました。そうすることで、摂食障害でない人であれば自然になるはずの、“休息・消化状態”を促します。催眠療法中に、患者に合わせて方法を変えていきます。ロッコ君には好きな選手とサッカーをしている場面を想像してもらい、ペナルティを受けないように落ち着いている必要があると伝えました」と、デイヴィッド氏は催眠療法について振り返る。
そして催眠を終えると、ロッコ君が食べられるチョコレートやポテトチップスから食べてもらい、それから新しい食べ物に挑戦した。ロッコ君の場合、食べられるものは基本的にジャンクフードだった。これらは糖分を多く含んだ食べ物だったので、デイヴィッド氏はリンゴや洋ナシ、ホウレンソウ、キャベツ、芽キャベツなど、天然の糖分を多く含む食品を用意し、『1-2-3アプローチ』で試した。
今まで新しい食べ物を見るとヒステリックに拒絶していたロッコ君だったが、それが嘘のように、デイヴィッド氏が用意した食べ物をすんなりと口にし始めたのだ。この光景を見たハイジさんは、驚きながらも喜んでいた。ロッコ君本人も嫌々食べているわけではなく、楽しんで食べていたという。ロッコ君は現在、毎日新しい食べ物に挑戦し、食べられる食品を増やしている。
ロッコ君と同じくARFIDや選択的摂食障害(Selective Eating Disorder)を患う人は、社会生活に影響が出やすいと、デイヴィッド氏は説明する。
「食べ物は生活の大きな部分を占めるので、食べ物のせいで強い不安を抱えてしまうと、新しい食べ物に対してだけではなく、レストランやデートへ出掛けるような状況に挑戦することへの障壁にもなってしまいます。食べ物に恐怖を抱くほとんどの人は、限られた食事で何とか間に合わせているので、食事の時間は楽しくないですし、むしろ大きなストレスや不安を引き起こします。」
「周囲の人は『これはこうやって食べればいい』とアドバイスしますが、それは患者にとっては恐怖を感じる行動の促しになります。そのため患者は頭をゆすったりこすったりして拒絶し、1人でいるときにだけ食事を摂るなどして対応するため、孤立しやすくなるのです。家族との間に軋轢が生まれることもあるので、患者の家族も心を痛めてしまう場合も。バランスのとれた食事が健康でいるためのベストな方法であることは、誰でも知っている事実です。ARFIDの人は体に必要な栄養素が不足するので、健康上の問題が顕著に表れやすくなります。」
最後に、ハイジさんと同じような状況で悩んでいる保護者へのアドバイスを尋ねると、デイヴィッド氏はこのように答えてくれた。
「これは1つの障害であり、保護者の育児の方法や能力が影響したものではないことに気付くことです。この複雑な障害からお子さんを救い出すための助けは存在しますし、知識は大きな力となります。この病気は非常に誤解されやすいですし、保護者や医療専門家をもどかしい状況に陥れてしまうのです。治療のためには、患者中心のアプローチと忍耐が必要です。この病気で苦しんでいる患者とご家族に、暗いトンネルの先には希望の光があることを知ってほしい。祈っています。」
画像は『WalesOnline 2023年10月17日付「Boy who could eat only chocolate and crisps cured after seeing David」』『LADbible 2023年10月18日付「Boy who refused to eat anything other than crisps and chocolate would scream at other foods」(CreditL SWNS)』『The Mirror 2020年9月2日付「Hypnotherapy helps boy who would only eat cheese spread and would consume tub a day」(Image: Anita Maric / SWNS)、2018年11月13日付「Woman ate only ice cream and sausages for 20 YEARS as sight of veg made her sick」(Image: Caters News Agency)』『New York Post 2020年10月7日付「Boy who has eaten nothing but sausages his whole life has been cured」(SWNS)』『Pedestrian TV 2020年12月7日付「A Current Affair Brought Out An Actual Hypnotherapist To Cure This Woman’s Snake Addiction」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)