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【海外発!Breaking News】火傷も骨折も気づかない 痛みを感じない一族 「マルシリ症候群」に世界の研究者が注目(伊)

TechinsightJapan 2018年1月5日 19時30分

普通の人が「ギャッ!」と叫んでしまうほどの痛みにも平然としている。痛みの感覚をほとんど持ち合わせていない人々がこの世の中にわずかばかり存在するそうだ。その極めて稀な疾患の名は「マルシリ症候群」。ある遺伝子の突然変異によるもので、あまりにも症例数が少ないため研究の途中ではあるが、上手くいけば痛みのケアに新たなる光を見出せるかもしれないという。

イタリアのシエナに暮らすレティツィア・マルシリさん(Letizia Marsili、52)。彼女は「ほとんど痛みというものを味わったことがありません。私の家族にはこの非常に奇妙な遺伝子疾患が多く見られます」と語る。つねろうが叩こうがまるで痛みを感じない人々など世界に例がないとして、研究者は彼女の一族の名から、これを「マルシリ症候群(Marsili syndrome)」と名付けた。

幼少期から火傷しようが骨折しようが、特に苦痛を感じなかったというレティツィアさん。一般の人が「麻酔して下さい!」と訴えるほどの痛みにも耐えられるという。母親と姉と自分、そして2人の息子と姪の少なくとも6名が同じ現象を訴えており、全員のある遺伝子に共通して変異が確認されたこともあって、緩和ケアなど痛みの治療が専門である世界の研究者たちから熱い注目が集まっているそうだ。

そんななか、英メディア『BBC』の取材に応じたレティツィアさんたち。24歳の息子ルドヴィコさんはサッカーをしているが、酷い怪我をしても何食わぬ顔でプレーを続けるため周囲はヒヤヒヤしてしまう。足首にたびたびトラブルを起こすといい、X線写真の結果そこに多数の微小な亀裂が確認された。また21歳のベルナルドさんは自転車から落ちて肘を骨折したことがあるが、痛みを感じないため再び自転車にまたがり、14kmもの距離を走ったことから診察した医師を驚かせた。

そしてレティツィアさんはスキーの転倒事故で右肩を骨折したが、涼しい顔で午後もスキーを続行。翌朝、手の指がうまく動かせなくなって初めて病院へ急いだ。また姉のマリア・エレナさんとその娘のヴィルジニアさんも「マルシリ症候群」である。マリアさんがとても熱い飲み物でしばしば上あごの粘膜を火傷してしまう一方、ヴィルジニアさんは冷たい氷水になかに手を入れて20分は耐えられるそうだ。

この痛みを感じないという現象は危険をはらんでいる。痛みは身体に起きた不調を知らせる重要なサインである。レティツィアさんも「完全に(痛みが)ゼロというわけではありません。実際には数秒間にわたりわずかですが痛みの認識はあり、これはとても大事なこと」と語っている。もっとも、一般人が感じる痛みを経験してみたいかと尋ねられれば、レティツィアさんをはじめ全員が首を横に振る。痛みは生活の質を確実に下げるもの。数奇な運命とはいえ、レティツィアさんは痛みを感じずに済むのであれば人生これほど楽なことはないと考えているそうだ。

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの主任研究者で、この一族について学術誌『Brain』に論文を発表したジェームズ・コックス博士は、「皆さんにはすべての神経がちゃんと揃っています。ただ中に機能していないものがあるということ。ZFHX2と呼ばれる遺伝子の変異が共通して確認されています」と語る。レティツィアさんも彼らの研究に協力しており、同遺伝子を欠損させたマウスを用いた2度の実験では大きな手ごたえをつかんだもよう。高温に対して鈍感であることもわかったといい、麻酔薬や痛みのケアに新たなる方法の発見につながる予感があると期待を寄せている。

またイタリア・シエナ大学のアナ・マリア・アロイツィ教授は、他の遺伝子との関連性についてもより多くの慎重な研究を行っていけば、慢性的な疼痛症候群について新しい治療法や医薬品の開発がなされるであろうと予想している。

画像は『The Straits Times 2017年12月17日付「Italian family with rare genetic mutation do not feel pain」(PHOTO: FACEBOOK/LETIZIA MARSILI)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)

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