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【海外発!Breaking News】新型コロナと闘う―台北編 政府への圧倒的信頼で一致団結する国民 キーマン「鉄の部長」陳時中氏が見せた涙

TechinsightJapan 2020年4月14日 14時20分

今、世界的に見れば、新型コロナウイルスの抑え込みに成功しているとされる台湾だが、警戒は緩むどころか徐々に強まっている。台湾を代表するスポットであるナイトマーケットは、4月10日付で人数制限の実施が発表された。政府は事業者と消費者にマスクの着用を義務付けるほか、消費者に対しナイトマーケットでの食べ歩きを控えるよう呼びかけている。また4月4日から台北メトロや市内の路線バス利用時のマスク着用が必須となっている。これ以前には、タクシー乗車の際にもマスク着用が要求され、マスクを着用していない客に対し、ドライバーは乗車を拒否できるようになっていた。

新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に深刻な影響を及ぼすなか、台湾の街はどう変わったのか。筆者が暮らす台北市では、検温やアルコール消毒が徹底されている。たとえば小学校では登校前に自宅で検温、校門で検温、正午にも検温。週に1回は学校内を消毒している。デパートなどの商業施設では入り口を狭め、検温担当スタッフを配置。デパート内のパン屋でさらに検温を受けたこともある。病院は小規模なところでもマスクを着用していなければ診察を受けられなくなった。

市内の多くの企業はテレワークや交替制を導入。テレワークで対応できない業務はフロアを分けて働くなど、ソーシャルディスタンスを確保するためにさまざまな工夫が行われている。

また影響の大きい飲食業界では、宅配サービスやテイクアウトに活路を見出す店も少なくない。宅配を始めたところ、以前より売上が増えた店もあるという。いつもは日本人観光客でにぎわう小籠包の名店「鼎泰豊」はテーブルとテーブルの間隔を大きく広げて営業を続けている。そのほかショッピングモールのフードコートではテーブルを透明なボードで仕切り感染防止を図るなど、それぞれが対策を取って未曾有の危機を乗り越えようとしている。

自粛要請を受けてから出歩く人は減っているが、完全に自粛しているわけではない。休日にはデパートへの入場待ちの車が列を作っており、4月2日からの4連休には台湾中部や南部の観光地で行楽客がごった返し、中央感染症指揮センターがソーシャルディスタンスを確保するよう警報を発令する事態となった。混雑する観光地で現地メディアにマイクを向けられた観光客が「台湾は安全だから」と答えたのが印象的だった。その気の緩みは危険だが、この政府への信頼が防疫管理には大切な要素だと思う。信頼がなければ行動につながらない。

1月初旬、初めて中国武漢で多くの肺炎患者が出ているニュースを見た時、ウイルスが台湾に来るのは時間の問題だろうと思った。しかし台湾政府の対応は速かった。1月20日に対策本部となる中央感染症指揮センターが設置され、水際対策を強化。肺炎症状がみられる訪台旅行者を隔離する措置を実施するなどした。

品薄になったマスクへの対応も速かった。連休明けには街からマスクが消え、使い捨てマスクだけでなく布製のものも売り切れ、高値で転売されるようになっていたが、政府はすぐに転売を禁止し国内生産のマスクをすべて買い上げ、その供給の管理を開始した。

とにかくスピーディーという印象だったが、当時はまだ生活の中でその効果を実感するまでには至らなかった。政府がコンビニで販売したマスクには限りがあり一人3枚と制限されていたものの、販売開始とほぼ同時に売り切れてしまう状態だったからだ。

効果が実感できるようになったのは、マスク購入に実名制が導入されてからだ。台湾の対策で特に注目されているのは、このマスク購入の実名制ではないだろうか。始まった時は、そんなことが短期間でできるのかと驚いたものだ。開始当時は7日間に一人2枚。その後はマスクの増産が進み、今では大人は14日間で一人9枚、子供は14日間で一人10枚にまで増えた。しかもアプリでの予約購入もできるようになり、1週間から2週間後にコンビニで受け取れるシステムになっている。

マスクの供給量の安定や予約販売の実施でこれまでの行列が解消されるかと思ったが、「マスク2、3枚のために何時間も並ぶのは」と思っていた人たちが「一度に9枚買えるなら」と並ぶようになり、開店前の薬局には相変わらず長い行列ができている。それでも当初のような苛立ちや不安に満ちた雰囲気は薄れたように思う。情報が明確に伝えられ、今は耐える時だと皆が感じているからではないだろうか。

台湾の人々をそうした意識に導いたのは、対策本部長である陳時中氏にほかならないと筆者は感じている。対策本部が設置されてからは毎日記者会見が開かれ、感染状況の報告や対策の説明が行われているが、陳氏は一日も休まず出席し、その実直で熱心な働きぶりから「鉄の部長」と称賛されている。世論の満足度は91パーセントにも上り、政治的に対立しがちな台湾の人々が一致団結して、彼を支持していることが分かる。その要因は柔軟で迅速な防疫管理の能力だけなく、陳氏の言葉の一つ一つから「国民の健康を守りたい」という強い思いが伝わってくるからだろう。

武漢市からのチャーター機第一便で帰国した台湾人の一人に新型コロナウイルス感染が確認されたことを報告する記者会見で、陳氏は感情を抑えきれなくなり涙を見せた。その後「ただ、皆に健康でいてほしいと思ったら泣いてしまった」と説明しているが、指揮センターのFacebookページには第一線で闘う彼らへの感謝や、陳氏に「寝てください」「泣いた罰として、休みなさい」といった健康を気遣うコメントが9万件以上寄せられた。そして、これが台湾の人々が防疫を意識する契機となったのだ。

先日、ツイッターで一時トレンド1位になった「#吉村寝ろ」のメッセージには、台湾の人々と陳時中氏につながるものを感じた。これをきっかけに日本も一致団結して、この危機を乗り越えてくれることを願わずにはいられない。

画像は『中時電子報 2020年2月6日付「為何哭了?陳時中一句話解密男兒淚」(圖/中時資料照片)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 片倉愛)

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