日曜劇場『VIVANT』(TBS系)の最終回が放送された9月17日、都内でファンミーティングが開催された。会場に登壇した同ドラマの原作・演出を手がけた福澤克雄氏の口からは興奮のためか、安堵のためか、いくつかの本音も飛び出した。それ以上の言及を避けるかのように、マイクをドラマのキャストに渡した福澤氏であったが、そこまでに話した内容だけでもかなり注目すべき点があった。ネット上では『VIVANT』について「次回作はあるのか?」「いつになるのか?」といった声が飛び交っているが、福澤氏の脳裏にあるものはちょっとやそっとの「考察」では及びもつかない展開だ。事実、これまでの福澤氏の発言からは、最早『VIVANT』“次回作”レベルを超越する構想が垣間見えている。
福澤克雄氏が以前、男性誌「エスクァイア日本版」の対談企画で「Netflixが大ブームとなるなか、自分自身はまだ“日本のお茶の間”でどうウケるかを考えているが、日本ドラマも“海外へ”を意識した変化が出てきた」という趣旨の発言をした。この対談が配信されたのが2022年2月だ。それから『VIVANT』が放映を開始した今年7月まで、1年以上の時間が経過している。福澤氏の構想はその間にさらに大きく膨らんだに違いない。
先日のファンミーティングでは、これまで「日本のドラマは国内に向けて作っていた」と自戒するように話しており、「そろそろ外(海外)に出なきゃいけない」と世界の舞台で渡り合えるドラマ作りの必要性を説いた。「何か転換期になるドラマを作らねば」ともファンミーティングで語った福澤氏。これこそがその「転換期」であり、その思いを込めたのが『VIVANT』だったのだろう。
豪華すぎると言われた出演陣や制作費1話1億円とも報じられた『VIVANT』を取り巻く「異例の」布陣を振り返ってみよう。主演の堺雅人をはじめ、阿部寛、役所広司、二宮和也、二階堂ふみ、松坂桃李といったいずれも主役級クラスの俳優陣を揃え、脇を固めるキャスト陣も檀れい、竜星涼、キムラ緑子、橋本さとし、小日向文世といった錚々たるメンバーを集めた。ドラマ放映前はメインキャストのあまりの豪壮さに「これでコケたらどうするの?」と懸念する声すら聞かれた。だが誤解を恐れずに言うならば、これらの懸念はあまりにも視界が狭いと言わざるを得ない。福澤氏が次に上がる舞台と見据えているのは「世界」だ。WBC2023の“侍ジャパン”にたとえれば、世界一になるために大谷翔平、ダルビッシュ有、山本由伸、佐々木朗希、吉田正尚、村上宗隆、岡本和真、牧秀悟、源田壮亮、近藤健介らが招集されたことに、誰が疑問や懸念を抱いたであろう。世界一を勝ち取るためには当然の布陣だと日本人の多くが栗山英樹監督の決断を支持、称賛した。
福澤氏は日本ドラマ界の“侍ジャパン”を作り上げ、世界に打って出る作品を狙っているのだ。『VIVANT』からはまさに「ドラマの転換期にしたい」、ひいては日本から世界一のドラマを作り出さなければならない、との福澤氏の危機感と渇望が伝わってくる。
現状、世界における日本ドラマ、映画の認知度は低い。アニメ作品ではジブリ映画の一部は世界的に有名だが、あれほど話題になった『鬼滅の刃』ですら、実は海外での人気を支えたのは各国のアニメファンであった。
そして日本ドラマもたとえ“侍ジャパン”クラスの俳優をキャスティングしたからといって、世界を舞台にして戦えるとは限らない。
福澤氏はキャスティング以外の世界一獲得への試行錯誤も『VIVANT』のなかで一部ではあるが、実践している。モンゴルを舞台に選び、ロケではCGを使わずに迫力のあるシーンを撮影することに成功した。トム・クルーズのようにCGを嫌い、スタントマンを使わずリアルな撮影にこだわる作品が他のハリウッド映画とは一線を画す高い評価を得ていることを考えると、世界一に到達するまでのひとつの手法と言えるだろう。さらにモンゴル人俳優を起用して、モンゴル語のセリフを多用し、日本人キャストにもモンゴル語や英語のセリフを多く与えた。決して流ちょうではないセリフが、むしろリアリティの訴求に一役買っていたことは否定できない。また日本人俳優に、あえて外国人(バルカ人)の役を演じさせたことも見逃せない挑戦だ。『VIVANT』そのものが、世界で通用する役者を見極めるための実践型オーディションであった可能性もある。
ファンミーティングでは、続編について「頭の中では三部作まで考えてる」と次回作の可能性をほのめかした福澤克雄氏。しかし、繰り返すが彼の中ではすでに日本国内でウケる「次回作」というレベルは超越している。次は世界で、特に欧米で、しかも一部の日本好きな外国人だけでなく、世界中の老若男女を広く熱狂させる日本発のドラマを作る構想が膨らんでいる可能性が高い。『VIVANT』の続編については噂の段階だが、キャストに渡辺謙や真田広之の名前が挙がっている。もし実現すれば、ドラマ界の“侍ジャパン”はさらに強化されるだろう。これも正式ではないが、『VIVANT』の続編は2年後になるという情報もある。それだけの時間を費やすということは、TBSだけではない、全ての局、業界関係者を巻き込んだチームジャパンの組閣、あらゆる垣根を超えた協力体制が必要であるということを意味する。
福澤克雄氏は現状のままでは、日本のエンターテイメント全体が衰退していくであろうことを誰よりも痛感し危機感を持っている。そのためには世界の舞台で戦える布陣が必要だ。さらに言うならば、前述の通り世界の舞台に立つことが出来たとしても、それはゴールではない。「世界一」になることで日本のエンターテイメントの未来が初めて開ける。そのためには、チーム同士の優勝争いを二の次にすることも今だけは致し方ない。ハリウッド級の巨人への「憧れをやめ」、「世界一」を勝ち取るため、あらゆる垣根を越えて“侍ジャパン”を結成する。福澤氏が『VIVANT』をその試金石として位置づけていたとしても、なんら不思議ではないのだ。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)
福澤克雄氏が以前、男性誌「エスクァイア日本版」の対談企画で「Netflixが大ブームとなるなか、自分自身はまだ“日本のお茶の間”でどうウケるかを考えているが、日本ドラマも“海外へ”を意識した変化が出てきた」という趣旨の発言をした。この対談が配信されたのが2022年2月だ。それから『VIVANT』が放映を開始した今年7月まで、1年以上の時間が経過している。福澤氏の構想はその間にさらに大きく膨らんだに違いない。
先日のファンミーティングでは、これまで「日本のドラマは国内に向けて作っていた」と自戒するように話しており、「そろそろ外(海外)に出なきゃいけない」と世界の舞台で渡り合えるドラマ作りの必要性を説いた。「何か転換期になるドラマを作らねば」ともファンミーティングで語った福澤氏。これこそがその「転換期」であり、その思いを込めたのが『VIVANT』だったのだろう。
豪華すぎると言われた出演陣や制作費1話1億円とも報じられた『VIVANT』を取り巻く「異例の」布陣を振り返ってみよう。主演の堺雅人をはじめ、阿部寛、役所広司、二宮和也、二階堂ふみ、松坂桃李といったいずれも主役級クラスの俳優陣を揃え、脇を固めるキャスト陣も檀れい、竜星涼、キムラ緑子、橋本さとし、小日向文世といった錚々たるメンバーを集めた。ドラマ放映前はメインキャストのあまりの豪壮さに「これでコケたらどうするの?」と懸念する声すら聞かれた。だが誤解を恐れずに言うならば、これらの懸念はあまりにも視界が狭いと言わざるを得ない。福澤氏が次に上がる舞台と見据えているのは「世界」だ。WBC2023の“侍ジャパン”にたとえれば、世界一になるために大谷翔平、ダルビッシュ有、山本由伸、佐々木朗希、吉田正尚、村上宗隆、岡本和真、牧秀悟、源田壮亮、近藤健介らが招集されたことに、誰が疑問や懸念を抱いたであろう。世界一を勝ち取るためには当然の布陣だと日本人の多くが栗山英樹監督の決断を支持、称賛した。
福澤氏は日本ドラマ界の“侍ジャパン”を作り上げ、世界に打って出る作品を狙っているのだ。『VIVANT』からはまさに「ドラマの転換期にしたい」、ひいては日本から世界一のドラマを作り出さなければならない、との福澤氏の危機感と渇望が伝わってくる。
現状、世界における日本ドラマ、映画の認知度は低い。アニメ作品ではジブリ映画の一部は世界的に有名だが、あれほど話題になった『鬼滅の刃』ですら、実は海外での人気を支えたのは各国のアニメファンであった。
そして日本ドラマもたとえ“侍ジャパン”クラスの俳優をキャスティングしたからといって、世界を舞台にして戦えるとは限らない。
福澤氏はキャスティング以外の世界一獲得への試行錯誤も『VIVANT』のなかで一部ではあるが、実践している。モンゴルを舞台に選び、ロケではCGを使わずに迫力のあるシーンを撮影することに成功した。トム・クルーズのようにCGを嫌い、スタントマンを使わずリアルな撮影にこだわる作品が他のハリウッド映画とは一線を画す高い評価を得ていることを考えると、世界一に到達するまでのひとつの手法と言えるだろう。さらにモンゴル人俳優を起用して、モンゴル語のセリフを多用し、日本人キャストにもモンゴル語や英語のセリフを多く与えた。決して流ちょうではないセリフが、むしろリアリティの訴求に一役買っていたことは否定できない。また日本人俳優に、あえて外国人(バルカ人)の役を演じさせたことも見逃せない挑戦だ。『VIVANT』そのものが、世界で通用する役者を見極めるための実践型オーディションであった可能性もある。
ファンミーティングでは、続編について「頭の中では三部作まで考えてる」と次回作の可能性をほのめかした福澤克雄氏。しかし、繰り返すが彼の中ではすでに日本国内でウケる「次回作」というレベルは超越している。次は世界で、特に欧米で、しかも一部の日本好きな外国人だけでなく、世界中の老若男女を広く熱狂させる日本発のドラマを作る構想が膨らんでいる可能性が高い。『VIVANT』の続編については噂の段階だが、キャストに渡辺謙や真田広之の名前が挙がっている。もし実現すれば、ドラマ界の“侍ジャパン”はさらに強化されるだろう。これも正式ではないが、『VIVANT』の続編は2年後になるという情報もある。それだけの時間を費やすということは、TBSだけではない、全ての局、業界関係者を巻き込んだチームジャパンの組閣、あらゆる垣根を超えた協力体制が必要であるということを意味する。
福澤克雄氏は現状のままでは、日本のエンターテイメント全体が衰退していくであろうことを誰よりも痛感し危機感を持っている。そのためには世界の舞台で戦える布陣が必要だ。さらに言うならば、前述の通り世界の舞台に立つことが出来たとしても、それはゴールではない。「世界一」になることで日本のエンターテイメントの未来が初めて開ける。そのためには、チーム同士の優勝争いを二の次にすることも今だけは致し方ない。ハリウッド級の巨人への「憧れをやめ」、「世界一」を勝ち取るため、あらゆる垣根を越えて“侍ジャパン”を結成する。福澤氏が『VIVANT』をその試金石として位置づけていたとしても、なんら不思議ではないのだ。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)