アルコール依存症の女性患者が急増。10年間で2倍近くに
仕事を終えた自分への褒美として、アルコールの癒やし効果は絶大です。しかし、「自分はこれぐらい大丈夫」と思って飲み続け、気付けば毎日飲酒するという事態に陥ってしまう人が少なくありません。アルコール依存症の患者は増え続け、昨年、全国の推計で初めて患者数が100万人を超えました。特に急増しているのが女性の患者で、この10年間で2倍近くに増えています。アルコール依存症とは、飲酒への欲望が強く自分でコントロールできない病気です。女性の社会進出が進み、アルコール飲料に接する機会が多くなったからだと予想できます。
アルコール依存症の診断基準は、次の6項目あります。依存症だと診断された女性は、家事や仕事に支障をきたしていることが多く見受けられます。
1. 止めることができない強迫的飲酒欲求
2. 飲酒の時間・場所・行動をコントロールできない状態
3. 飲酒を中断すると離脱(禁断)症状が発症し、幻覚やけいれんなどが出現
4. 酒への耐性が上昇し、飲酒量増加
5. 飲酒中心の思考や行動の生活
6. 心身の有害性を否認し飲酒
2013年12月の「アルコール健康障害対策基本法」は、飲酒に寛容な日本社会の中で、アルコールの有害性が引き起こした悲劇を生じさせないために成立しました。飲酒運転、暴力、虐待、自殺など飲酒によって起きる問題は、アルコールという薬物への「依存性」によってもたらされることがあります。その特徴は、飲酒者だけでなく、家族や周囲の人々、社会全体に深刻な影響を与えてしまうことです。
アルコール依存症の原因には、女性の生き方が深くからんでいる
女性は体質的に、男性より少ない飲酒量・飲酒期間で依存症になりやすいとされます。さらに、結婚や子育てといった人生変化のストレスで、飲酒が進む人もいます。周囲や社会からさまざまな役割を求められる女性は、アルコール依存症の成因として自身の生き方が深くからんでいるのです。実際、依存症患者の飲酒背景には、生き方や自立の悩み、夫婦関係や嫁姑関係、子育て、介護、更年期障害など、女性特有の出来事が関わっていることが少なくありません。これを周囲は当然のことと考え、理解しようとする態度が見られないと、寂しさのあまり飲酒に逃げ込んでしまいます。
治療は精神科領域でアルコール依存症に対するプログラムが組まれ、薬物療法などが施されます。治療上の主要な問題は、アルコール依存症の「否認」にあります。自分は病気ではないから治療の必要性がないという否認と、飲酒以外には問題がないという否認です。これが治療を妨げるので、精神療法も取り入れる病院もあります。女性患者のストレスワーストワンは、家族の人間関係です。治療においても家庭生活との両立が求められ、男性より複雑なサポートが必要になることが少なくありません。
私が営む北陸内観研修所では、対人関係を見直す内観療法を行っています。医療機関と連携し、夫婦関係の修復を目的とした患者・パートナーが研修を行います。これらの人々の中には、アルコール依存症を乗り越えて夫婦関係を見直し、互いを認め合うことができるようになり、その後の人生に明るい展望を見出した人もいます。
(長島 美稚子/心理カウンセラー)