仕事は、「やる気がなくてもするもの」
「最近の若者には、仕事に対する意欲が感じられない」「いつも受け身で、自分から何かをやってみようという『やる気』が感じられない」といった声を企業のリーダー研修などでよく耳にします。
しかし、そう嘆いている人自身も、毎日働く意欲を持って仕事に取り組んでいるでしょうか。「今日は気が乗らない」「疲れがたまってやる気が出ない」と思っても、仕事には責任を持って取り組んでいるのではないでしょうか。これは会社で働くことだけに限らず、育児や家事についても同じです。
もちろん、毎日、意欲的に仕事に取り組むことは素晴らしいことですが、働くことに対して「やる気」「意欲」を重視しすぎると、「やる気がないと仕事はできない」という価値観に支配されてしまいます。仕事は「やる気がないとできない」ものではなく、「やる気がなくてもするもの」。まず、この点に気をつけておきましょう。
自己否定感が強いと仕事に対する意欲を感じられない
では、若者に働く意欲を持ってもらうためにはどうすれば良いのでしょう。「働きたい」という意欲は、何かを与えれば生まれるものではなく、本来その人の中にあるものです。それを「いかに消さずに引き出すか」という視点でとらえた方が結果が出やすいでしょう。
学生や企業の新人研修で気になるのは、「失敗してはならない」「他人と比べて自分に自信が持てない」「他人からの評価が気になる」など自己否定感が強いこと、失敗することを恐れて一歩足を前に踏み出せずに停滞していることです。
自分を否定して止まっている状態では、仕事に対する意欲を感じることができません。「働く」という行動を引き出すには、「自分はどう生きていきたいのか」「どんな人生を送りたいのか」ということが見えてこなければならないのです。そうでないと、働くということに対して「やらされ感」だけが強化され「自ら進んで努力する」という意欲と行動につながりません。
夢や目標など、若者の言葉を「聴く姿勢」が求められる
そして、「働く意欲」と「働くという行動」をつなげるには、「自分が今までやってきたことが、この仕事のこの部分に生かせる」ということに、本人が気付くことが重要です。
そのためには、今まで一生懸命に取り組んできたことや努力したこと、自分の将来の夢、目標などを言葉に出して話してもらうことが効果的です。話をすることで、「自分では当たり前だと思っていたことが、実は自分の強みだった」と気付いて、自分を肯定的に捉えることができるようになるからです。
また、将来の夢や目標を言葉にすることで「やれるかもしれない!」「やってみたい!」というワクワク感が引き出されてきます。「別に目標なんかない」という若者にも、最初から否定したり評価しないで、とことん相手の気持ちをわかろうとして「聴く姿勢」が大人には求められます。
若者自身が自分と向き合う時間が「やる気」を育てる
大人が一方的に正論を述べたり、アドバイスをしたりするのは逆効果です。本人がじっくりと自分と向き合う時間こそ、やる気を育てるために必要な時間なのです。
「自分の夢の周辺やその先に何があるのか」と、自分とコミュニケーションを取りながら探していくと、今ここで生かせるもの、仕事に使えそうなアイデアやヒントが出てくることがあります。これがやる気の火種になるのです。
若者が「仕事にやりがいを感じる」「この仕事は面白い」「自分の仕事が人の役に立てて嬉しい」と感じられるチャンスを作るのは、先輩である人たちの責任です。今後は、「勉強だけをすれば良い」という勉強最優先の生活から若者を解放して、子どもの頃から家の仕事や家事の手伝いを任せるなど、大人も子どもも共に「働く」というリアルな就業体験が必要になってくるでしょう。「家族(人)のために自分が働くことで家族(人)が喜んでくれる」という体験が、将来の働く価値観を形成する基盤となるからです。
汗を流して働くことの価値、自分がやりたいと思える仕事を見つけるチャンス、これは日常の暮らしの中にたくさん潜んでいることを、若者や子どもを育てる人たち自身が忘れないことが大切といえるでしょう。
(栗栖 佳子/コミュニケーションコーチ)