日本人NGでカジノ解禁となれば、憲法上の問題を避けられない
海外からの観光客誘致のためのカジノ解禁について、厚生労働省がギャンブル依存症の人が増える懸念を理由に、日本人のカジノ利用を認めないよう求めていく、という報道がありました。もし、日本人はカジノが利用できないという条件でカジノが解禁された場合、差別的な取扱いではないかと法の下の平等(憲法14条1項)が問題になるかと思います。この他に、自己決定権(憲法13条)なども取りざたされそうです。
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めています。形式的な文言からすると、日本人については一律にカジノ利用を禁止するわけで、日本の国民間では平等な取扱いがなされているため、問題ないように見えます。しかし、憲法は、外国人にも権利の性質上、日本国民のみを対象とするもの以外の人権を保障しているとされていますので、カジノついてのみ形式的な文言を理由として憲法上の問題を避けることはできないでしょう。
カジノでギャンブル依存症増加の想定は必ずしも合理的ではない
また、判例では、賭博罪に問われた被告人が、国や地方公共団体が競馬などの賭博を開催しているのに、私人の賭博を処罰することが法の下の平等に違反すると主張した事案があります。この事案で最高裁は、私人の賭博を処罰するかどうかは立法政策の問題で憲法の問題ではないとしました(昭和54年2月1日第二小法廷決定)。しかし、立法政策こそ憲法に規制されるべきものです。この最高裁決定のような憲法判断からの逃げ方には問題があるといえるでしょう。カジノ解禁という大きなテーマに対し、再びこのような逃げ方をするとは思えません。
法の下の平等の問題になるとして、憲法14条に違反するかどうかは、合理的根拠に基づく差別的取扱いかどうかで判断されます。カジノを利用できない日本人からすると、ギャンブル依存症の増加防止の目的が合理的としても、相当金額の入場料を課すなどの他の方法もあることから、「一律禁止は行き過ぎで不合理」などと主張することになろうかと思います。
そもそも競馬や宝くじといった公営ギャンブルやパチンコなどが盛んで、ゲーム喫茶や闇カジノが摘発されているのか疑問に思える現状で、新たなカジノによってギャンブル依存症がさらに増えると想定するのは必ずしも合理的ではないでしょう。また、日本のカジノを利用できる外国人からすると、ギャンブル依存症になるような危険なカジノを利用できる状況に置かれたことは、日本人と比べて不合理な不平等だと日本国に対して言い出すかもしれません。他には、カジノの事業者からすれば、「日本国内の他のギャンブルは日本人も客にできるのに、カジノだけが規制されることは不合理な差別だ」と主張したくなるのではないかと思います。
政策の検討においては、憲法の規定についての考慮を
カジノ解禁くらいしか目立った経済政策は残っていないのかもしれませんので、どのような形にせよ、いずれは解禁されることになるのでしょう。省庁間の利権争奪や地方間のカジノ誘致の競争も既に激しいようです。日本はギャンブル依存症の割合が高いと言われていますので、「経済のためのカジノ」という小さな議論ではなく、我が国におけるギャンブルのあり方を今後どうするのか、政府や国会の中でよく検討していただきたいと思います。
カジノに限ったことではありませんが、政策の検討においては、法の下の平等など憲法の規定についての考慮も十分してもらいたいものです。
(林 朋寛/弁護士)