法人税の実効税率引き下げによる代替財源をねん出することが狙い
政府は2015年度の税制改正で、もうけた企業ほど税負担が軽くなる仕組みを導入する方向で検討に入ったそうです。来年度から実施する「法人税の実効税率引き下げ」による代替財源をねん出するため、赤字企業も対象となる「外形標準課税」を強化することで、赤字を放置すると増税となり、利益を増やした企業は減税となる制度の実現を目指すとのことです。
そもそも法人税というのは法人の稼得した「所得」に対して課税されるので、所得がマイナス、つまり赤字の会社には法人税はかかりません。現在、日本にある会社のうち約7割の会社は「赤字法人」といわれていますので、これらの会社は法人税を払っていないこととなります。また、現在は黒字でも、過去に赤字のあった場合にはそれを現在の黒字から差し引くことができる「欠損金の繰越控除」という制度があります。これを考慮すると、実際に法人税を払っている会社の割合はさらに少なくなるものと考えられます。
このような状況で現行の法人税率を下げると、大幅な税収減が予想されており、試算では1%の実効税率の引き下げで約5千億円の税収減となると言われています。外形標準課税は、企業が黒字か赤字かにかかわらず、給料や家賃の金額に応じて税金を払う仕組みなので、これを導入することで税収不足を補おうということです。外形標準課税は、現行では、資本金が1億円超の企業に対してだけ課税されています。もともとは、赤字企業であっても行政サービスを受けているので、その対価を支払うべきだという考え方に基づいています。
代替財源を確保する一方で倒産や失業に伴う社会的コスト増が懸念
さて、政府は外形標準課税の導入により、「黒字企業の税負担が減り、赤字だと負担増しになるため、収益力強化に向けた改革につながる」と発表しているようですが、この理屈には疑問を持つ人は多いのではないでしょうか。というのも、世の中の多くの企業は、「税金を払いたくないから」という理由で業績が悪いわけではないからです。「赤字でも税金がかかるから黒字化の努力をするだろう」というのは、かなり無理があると思います。
4月の消費増税に続いて来年10月はさらなる消費増税があります。外形標準課税は給与の金額などに基づくので、赤字でも人件費が多い企業は多額の負担増しとなりかねません。資金繰りの悪化要因となることに加え、人件費削減のインセンティブにもなります。「赤字企業であっても行政サービスの対価を支払うべき」という外形標準課税の趣旨は最もなところですが、代替財源を確保する一方で倒産や失業に伴う社会的コスト増が懸念されます。
(西谷 俊広/公認会計士)