現在の社会では、死刑廃止が国際潮流に
20世紀末からヨーロッパ諸国が死刑制度を廃止するようになりました。国連においても国際人権(自由権)規約第二選択議定書(いわゆる死刑廃止条約)を打ち出し、国連人権委員会(後の国連人権理事会)が、1997年以降、毎年のように「死刑廃止に関する決議」を行い、その中で死刑存置国に対し「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼掛けを行うなど、現在の社会では、死刑廃止が国際潮流となっております。
このような中で、日本は上記の死刑廃止条約を批准せずに死刑を存置し、その執行を続けているため、国連から死刑廃止についての勧告を受け続けています。2013年には、国連拷問禁止委員会から「死刑制度を廃止する可能性についても考慮するよう」勧告を受けており、日本弁護士連合会も、死刑廃止についての議論を呼び掛けているところです。
死刑を廃止すべき4つの理由
死刑を存置すべきである立場は、凶悪犯罪者に対する社会的制裁や犯罪抑止、被害者遺族の応報感情などを理由にしています。
一方、日本弁護士連合会をはじめとして死刑を廃止すべきであるとの立場は「(1)すべての人々が尊厳をもって共生できる社会を目指さなければならないのに、死刑はその可能性を完全に排除してしまう点で問題がある」「(2)裁判には、常に誤判の危険があるため、死刑判決が誤判であった場合には取返しがつかない」「(3)死刑には他の刑罰(例えば終身刑)などと比較して特に犯罪の抑止力があるということが証明されていない。特にアメリカでは、死刑廃止州よりも存置州の方が殺人事件の発生率が高いというデータがある」「(4)死刑は憲法36条が禁止する残虐な刑罰に該当する。特に日本の死刑は絞首刑として行われるもので、受刑者に不必要な肉体的・精神的苦痛を与える」ということを主な理由に挙げています。
死刑と無期刑とのギャップを埋める新たな刑罰の検討も必要
我が国では、死刑制度を維持すべきであるとの国内世論がいまだに根強いために、議論がなかなか進んでおらず、先日8月29日も死刑囚2人に対し死刑の執行がなされたばかりですが、いつまでも国際潮流に目を背けているわけにはいきません。
死刑制度を一気に廃止してしまうための社会的コンセンサスが得られないとしても、現行の刑罰制度には、仮釈放のない終身刑が存在しないなど、死刑と仮釈放のある無期刑とのギャップが大きいといった問題があります。そのギャップを埋める新たな刑罰を設けることを検討することも必要でしょう。死刑が廃止された大半の国で、被害者遺族の応報感情についてどのような解決が図られているのかについての検証や情報開示も積極的になされるべきです。
(田沢 剛/弁護士)