Infoseek 楽天

「フレックスタイム制」の問題点と法改正への期待

JIJICO 2015年6月1日 10時0分

厚労省「フレックスタイム制」の導入拡大を促進する検討を進める

労働者が始業と終業の時刻を決めて、各自が自分のペースで労働時間を設定できる「フレックスタイム制」は、仕事と家庭の両立に向けたワークライフバランスの向上につながると期待されているものの、導入企業は5%程度にすぎません。ここでは、「フレックスタイム制」の問題点と法改正への期待について考えていきます。

労働基準法では、労働時間の上限を原則1日当たり8時間・週40時間と定めています。現行の「フレックスタイム制」では、1カ月を上限とする一定期間(清算期間)の総労働時間を定めた上で、その範囲内で日々の労働時間を労働者が自由に決めることができます。ただし、清算期間の上限が1カ月のため、所定の労働時間を超えた場合に翌月の労働時間を減らすといった調整はできず、繁忙期と閑散期の労働時間に差がある職場では現実的な制度とは言い難く、導入企業の伸び悩みを招いていました。

そこで、厚労省は「フレックスタイム制」の清算期間の上限を数カ月間に延長する方向で見直すことによって、繁忙期は残業をして閑散期は早い時間に退社する、子どもの病気や親の介護などで出勤時間を調整できる等、家庭の事情がある人もフルタイムで働ける柔軟な働き方が可能になることを目的とした規制緩和を行い、「フレックスタイム制」の導入拡大を促進する検討を進めているようです。これはこれで、期待できる規制緩和と評価します。

中小企業では「フレックスタイム制」のメリットを享受しにくい

「フレックスタイム制」のメリットは、労使双方にあります。使用者側は、仕事の繁閑に応じて労働時間の設定が可能になるため、総労働時間の短縮に結びつくことが最大のメリットです。労働者側も、時間管理能力のある従業員は、効率的な働き方ができ、残業の軽減につながります。また、ライフワークバランスの維持が可能になるため、精神的・身体的に余裕が生まれ、仕事への創造性や、働きがいが高まることも期待されます。

しかし、これは人員に余裕のある大企業に限定されたメリットと言えます。ぎりぎりの人員で経営している中小・零細企業で、大企業と同じようなメリットが享受できるとは思えません。なぜなら、中小・零細企業で「フレックスタイム制」を導入すれば、例えば、始業時に出社している従業員の不在や、取引先からの問い合わせに対応できない等、会社の信用問題に関わる基本的なトラブルも起こり得ます。

そこで、企業規模に関わらない「フレックスタイム制」のデメリット3点を挙げておきます。
(1)取引先の営業時間への対応
(2)組織構成員の自己管理能力の差により、組織の一体感や業務に対する緊張感が損なわれる
(3)社内の情報共有、コミュニケーション、組織感連携、会議の成立が困難になる

「フレックスタイム制」の拙速な導入は、リスクが小さくない

「フレックスタイム制」の法改正は、労使双方にとって福音である一方、諸刃の剣でもあります。「フレックスタイム制」を導入しても円滑なビジネスが約束されるよう、デメリットの芽を確実に摘む、非常に基本的な業務フローの整備が先決です。社内及び取引先とのコミュニケーションの仕組みを確立し、報告・連絡・相談のルールを定め遵守させること。管理者の目が行き届かないことから、人事考課にまで影響が生じる可能性があります。勤務時間に対する配慮であれば、「シフト制」の方が現実的でしょう。

「フレックスタイム制」の拙速な導入は、リスクが小さくないことを認識してください。

(大東 恵子/社会保険労務士)

この記事の関連ニュース