盲導犬が刺されてケガ、埼玉県警は器物損壊罪で捜査
7月、全盲の人が連れた盲導犬がフォークのようなもので刺されてケガをしたという痛ましい事件がありました。盲導犬育成団体によると、このような被害の他にも、タバコの火を押し付ける、イタズラ書きをする、といった被害事例もあったそうです。視覚障害者にとって大事な存在であり、抵抗しない盲導犬に対する加害行為は、心情的に許し難いものです。
上記の事件で埼玉県警は器物損壊罪で捜査しているそうです。動物は「人」ではありませんので、「人」に対する罪である傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)には該当しません。動物は「物」として扱われるため、器物損壊罪(3年以下の懲役または30万円以下の罰金・科料)の対象となります。この罪は、他人の財産である「物」に対する侵害を処罰するものです。
また、犬は「愛護動物」に含まれますので、盲導犬を傷つけた行為は、器物損壊罪と同時に、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)違反の罪にも該当します。同法では、「愛護動物」を正当な理由なく殺傷した行為は犯罪とされています(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)。
各種法律に盲導犬を傷つける行為について処罰する規定はない
また、身体障害者補助犬法という法律がありますが、この法律では、盲導犬を傷つけた場合についての罰則はありません。この他、視覚障害者の保護する法律で処罰できるかというと、身体障害者福祉法や障害者虐待防止法には盲導犬を傷つけるような行為について処罰する規定がありません。
私個人としては、盲導犬を傷つける行為について、刑法233条の偽計業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)にも該当するとして、より重く処罰したい気もします。しかし、視覚障害者が盲導犬を連れて移動することを同条の「業務」(職業などの社会生活上の地位に基づいて継続して行う事業などのこと)に含むと解釈するのは無理があります。したがって、現実的には偽計業務妨害罪での処罰は難しいでしょう。
器物損壊罪には懲役刑もあり、一概に軽い罪ではない
結局、盲導犬にケガをさせた行為は、器物損壊罪と動物愛護法違反の罪に問われることになります。一つの行為で複数の犯罪が成立する場合は、その犯罪の中で最も重い刑で処断されることになりますので、今回の事件で犯人とされる者が見つかり、起訴されて裁判の結果として有罪とされた場合は、器物損壊罪の法定刑の範囲で刑が下されることになるでしょう。
盲導犬が、あるいは、犬など動物が、単なる「物」として扱われ、器物損壊罪にしかならないのはおかしいという意見もあるようです。しかし、器物損壊罪には懲役刑もあり、一概に軽い罪というものでもありません。また、盲導犬を傷つけた行為について何年も懲役刑に処することが、他の事件での刑とのバランスを取れるのかも考える必要があるでしょう。
なお、警察が被疑者を特定した段階で、マスコミを中心にその人物をバッシングすると予想されます。しかし、結果的に冤罪だったり、検察官段階で起訴猶予の処分となったり、裁判になって罰金や執行猶予で終わる場合もありえます。そうなったとしても、バッシングによってその人物には回復し難い社会的制裁が加えられそうです。これはこれで問題です。
(林 朋寛/弁護士)