経団連、中断されていた政治献金への関わりを復活させる方針
経団連の榊原定征新会長は、2010年から中断されていた政治献金への関わりを復活させる方向性を明らかにしています。2008年当時、経団連の会員企業からの政治献金については、自民党に対し約27億円、民主党に対し約1億1千万円という「実績」があります。しかし、2009年に民主党政権が発足し、「企業からの献金は受け取らない」という民主党の姿勢を受け、それ以後、経団連が関与する政治献金は中断されていました。
政権交代を実現した民主党が「企業献金を受け取らない」という姿勢を打ち出したことは、むしろ当然のことでした。民主党の最も大きな支援団体は労働組合です。企業側から多額の献金を受け取ってしまうと、労働組合側の求める政策を実現することが難しくなりますし、何よりも労働組合の反発を招くからです。
その後、2012年12月の総選挙で3年3か月ぶりに自民党が単独過半数を獲得し、政権奪還を果たした上、一時は低迷した安倍晋三内閣の支持率も、このたびの内閣改造を受けて50%台にまで回復しています。経団連の政治献金復活への動きは、安倍政権との距離を縮め、法人税減税など経済界が求める政策の実現を目指そうとするものだと言われています。
日本の政治を振り返れば、「政治と金の問題」の繰り返し
さて、政治献金とは、政治活動の資金として広く募る「寄付」のことです。おおざっぱに言うと、企業(団体)献金と個人献金とに分けることができます。企業献金を受け取れるのは、政党及び政治資金団体に限られ、政治家個人への献金は禁止されています。これは、特定の企業などへの「見返り」を防止するための制約です。ただし、この制度にも「抜け穴」はあります。いったん政党に献金されたものを政治家個人の資金管理団体へ資金移動させることが可能だからです。その意味では、政治家個人への献金禁止は実効性がないとすら言われています。
とはいえ、政治には「お金」が必要です。日本の政治を振り返れば、その歴史は「政治と金の問題」の繰り返しだったと言っても過言ではありません。その「お金」の部分を大きく占めてきたのが企業からの献金であり、政財界の関係やその距離が必要以上に近くなることで、そこに「癒着」の問題が生じてきました。ロッキード事件、リクルート事件、ゼネコン汚職、日歯連闇献金事件、西松建設事件など、「政治とお金」をめぐる事件を数えあげるとキリがありません。
政治資金規正法の改正には消極的な傾向に
このような「政治と金」に関わる事件が起きるたびに「政治資金規正法」の改正について議論が巻き起こります。政治資金規正法は、民主政治における政党・政治団体及び公職候補者の政治活動を国民が監視・批判できるよう、政治団体や公職候補者の政治資金を公開や規正などすることで、公明・公正な政治活動を確保し、民主政治の健全な発達に寄与することを目的とするからです。
しかし、企業献金に支えられている自民党はもとより、労働組合からの団体献金に支えられている民主党も、政治資金規正法の改正には消極的な傾向にあります。「政治と金」の問題解決のためには、企業(団体)献金の全面禁止が有効なことは明らかですが、その実現は困難ないし不可能と言えるでしょう。
経団連が企業献金の復活を主導しようとする姿勢には、「政治と金」への問題意識や過去の不祥事への反省などをうかがうことはできません。経団連には、「政策をお金で買う」という批判だけではなく、議会制民主主義や政党政治に対する「見識」そのものが問われていることを忘れてほしくありません。
(藤本 尚道/弁護士)