発達障害の人の配偶者が抱える苦しみをどうしていくか
アスペルガーをはじめとする広汎性発達障害に対する社会的認識が、ここ数年で浸透して来ているのに伴い、発達障害の人の配偶者が抱える苦しみをどうしていくかもトピックになっています。
結婚後、パートナーに自分への思い遣りが意外に欠けていたり、夫婦間で当然期待される受け答え・心の通じ合いが足りなかったり。また、些末なことに強いこだわりがあって自分にもそれを強要されたり、常識を欠いた行動をして何とも思わなかったり…。そうした「普通」ならば考えられないような行動を注意しても全く本人には入っていかず、むしろ「逆切れ」をされて喧嘩になってしまう。しかも、同じ問題行動を繰り返し、その度に諭そうとするけれども、何度言っても改善されずに辟易として、ついには愛情も冷めてしまうという、ほぼ決まったパターンがあります。中には、喧嘩を避けて一人で我慢していることもあります。
発達障害の人の特徴として、本人には悪気はありません。それが天真爛漫という現れ方をしていれば問題ありませんが、何度話し合っても自分には問題はなく、相手が間違っているという態度であると配偶者は疲弊し、離婚を考えたくなったり、うつ等のメンタルな障害が発生するのも当然と感じさせられます。
発達障害が「障害」と感じられるか否かは夫婦関係に左右される
注目すべき事実は、パートナーの発達障害に気づく時期です。結婚後すぐにわかる場合も多いですが、数年経ってからようやく気づくケースも少なくありません。40、50歳を過ぎるまでよくわからずに頑張って来た、ということもあるのです。これは、発達障害の診断の難しさということの他に、発達障害が「障害」と感じられるか否かは、パートナー同士の関係に大きく左右されることを物語っています。例えば、パートナーに困ったところはあるけれども、性格が真面目なので大目に見て来た。ただ、あまりにも仕事で失敗が多く、調べてみると発達障害だった、ということもあるのです。
パートナーの障害が軽度の場合は、むしろ互いが長所で短所を補い合って、睦まじくやれている夫婦も大勢います。この場合は、発達障害を持つパートナー自身が自分の問題を自覚していて、他方がそこを助けていく関係ができています。それから、自分に体やメンタルの障害があるが、発達障害のパートナーがそれを全く気にせずに自分を好いてくれるので相手の障害も気にならないという、むしろ発達障害が幸いする例もあります。
専門相談の可能性も含め勇気を持って真剣な話し合いを
このように見ると、パートナー同士が愛情と正確な問題認識をもって、「障害」を非難したり否認するのではなく、うまく補いあう関係を作ることができれば、障害を克服できるといえます。発達障害そのものが「治る」ということはありませんが、補償していくことは可能です。大切なことは、障害を持つパートナーに、自分自身の問題を正しく認識し、補おうと努力する態度が不可欠なのです。かつ、健常者のパートナーも、相手の発達障害を、「障害」というよりも一つの「癖」のようなものとして大目に見てあげることが必要です。「診断」はパートナーにレッテルを張るためではなく、「障害」のために二人の間でこじれているトラブルを客観視し、互いを理解するのに役立つのです。
ぶつかり合いが続いて疲弊しているというケースでは、困難が大きいと言わなければなりません。発達障害の疑いのあるパートナーに対して、一度、専門相談の可能性も含め勇気を持って真剣な話し合いを提案しましょう。場合によっては離婚も辞さないという覚悟がいるかもしれませんが。深刻な場合、専門機関や同じ悩みを抱える自助グループに頼ると安心でしょう。
パートナーの問題によって自分が苦しんでいることを切実に訴えた時、パートナーが、配偶者のために「何かしなければいけないのかもしれない」と感じてくれたら、そこに解決の道が開ける可能性があります。
(池上 司/精神科医)