民法の規定(債権法)が、約120年ぶりに全面的に改正
私たちの日常生活において最も基本となる契約のルールなどを定めた民法の規定(債権法)が、約120年ぶりに全面的に改正されます。このたび、法制審議会の民法部会で同法の概要が示され、大筋で合意されました。
一つ目は、売り手が契約の最後に買い手に提示する「約款」に関する規定の新設です。現行民法では「約款」について規定はなく、当事者が自由に内容を決定することができ、ネットショッピングが一般的になるにつれて、「約款」をめぐるトラブルも増えていました。そこで、こうしたトラブルを防ぐため、例えば、買い手が著しく不利になる項目を取消可としたり、売り手が契約後に無断で「約款」を変更することを禁じたりする内容が盛り込まれます。
二つ目は、買い手が買った商品に瑕疵(欠陥)があった場合に、買い手が売り手に修理や交換を請求できることが明記されます。現行民法では、中古車など、いわゆる特定物の売買において欠陥があった場合に、瑕疵担保請求としては契約の解除と損害賠償しか求めることはできず、修理や交換を求めるためには、理屈を一工夫する必要がありました。しかし、瑕疵担保請求として修理や交換を請求できることが明記されることで、より消費者保護が進むと言えるでしょう。
敷金に関する規定が新設。また、時効、法定利率を見直し
三つ目として、賃貸借契約における敷金に関する規定が新設されます。現行民法には敷金について明示の規定はなく、契約終了後どこまでの費用が敷金から控除されるかをめぐり、賃貸人・賃借人間のトラブルが増えていました。このため、敷金で担保される修繕費を、賃借人が壁に穴をあけた場合などに限定し、経年劣化による修繕の場合は賃借人に負担させないなどの基準が明記されます。
四つ目は、時効についてです。現行民法では、一般的な債権は10年で時効により消滅し、例外的に10年より短期に消滅するものとして、ホテル・旅館の宿泊費は1年、塾や学校の授業料は2年、医療費は3年などと細かく規定されているのですが、これを原則5年に統一しようというものです。
五つ目は、法定利率についてです。現行民法では年5%とされていますが、低金利が長期間続いている経済情勢を踏まえ、これを年3%とし、その後は3年に一度、市場金利を参考に見直すことにするものです。例えば、交通事故の被害者が受ける損害賠償の額は、当該被害者の本来働くことができた期間中に得られたはずの収入の合計から、当該期間の利息を控除して算出されるのですが、この改定に伴い、控除される利息の額は減るため、被害者が受ける賠償額は増える計算になります。
消費者保護や中小企業を保護する視点が重視される
六つ目として、借金をする際の連帯保証人のあり方が見直されます。つまり、第三者の個人が中小企業の連帯保証人になろうとする場合には、原則として公証人との面談が義務付けられ、「リスク」をきちんと理解しているかが確認されます(もっとも、当該企業の役員や主要株主などは除外されます)。
七つ目は、いわゆる債権譲渡禁止特約の緩和です。現行民法における譲渡禁止特約には、これに反して行った債権譲渡(又は担保の提供)自体を無効とする強い効力があるのですが、これでは取引先に対する債権以外に担保を持たない中小企業にとって酷な場合があることから、一定の類型の譲渡禁止特約の効力を制限し、特約があっても譲渡(又は担保の提供)ができるようにします。この規定により、中小企業の資金調達手段が多様化することが期待されます。
全体的な基調としては、インターネットの普及など時代の進展に合わせた消費者保護や中小企業を保護する視点が重視されていると言ってよいと思われます。
(名畑 淳/弁護士)