ソニー凋落のニュースやレポートは世に溢れている
トランジスタラジオ、トリニトロンテレビ、ウォークマン、コンパクトディスク、プレイステーション。これらは、ソニーの輝かしい時代を築いた製品群です。オーディオビジュアル(AV)のソニー。それは憧れのブランドであり、世界の音楽や映像関係者の必須アイテムです。
しかし今、スマホ事業の減損処理で2015年3月期連結最終損益が当初見込みの▲500億円から▲2300億円に拡大。1000人の人員削減、上場来初の無配、相次ぐ投資不適格レンジへの格下げなど、ソニー凋落のニュースやレポートは世に溢れています。
対照的に盛田昭夫ソニー元会長を崇拝するスティーブ・ジョブズ(2011年10月死去)率いるアップルは、一時期、倒産寸前になりながらも、画期的な製品を世に出し、時価総額世界一の企業に昇りつめました(スティーブ・ジョブズ亡き後のことですが…)。
業界標準競争に後塵を拝してきたソニー
鑑みると、これまでソニーは全く新しい製品を世に出し、市場を創造してきました。象徴的な製品がウォークマンによる携帯音楽プレイヤー市場。サイクリングしながら、好きな音楽をパッケージし、イヤホンで楽しむ。今となっては当たり前のことですが、当時としては誰もが驚き、憧れたものです。ソニーはワクワクする製品を上市し続けていました。
よく比較されるソニーとアップル。アップルの範になったソニーの微細化技術、デザイン、独自規格は、良きにつけ悪しきにつけ、マーケットシェアが突出していればこそ成立します。でなければ、プラットフォーム共通化が大勢の現状、占率低い独自規格ほどユーザーにとって使い勝手が悪いものはありません。例えば、記憶メディアのメモリースティックはソニー独自の製品以外は汎用性が高くありません。同様に、ソニーのマイクロUSBケーブルは使用可能なデバイスは限定され、低占率ではむしろ購入を敬遠されるネガティブ要因にさえなってしまいます。反対に、iPhoneやiPadの充電に使うUSBケーブルは独自規格であり該当製品しか使えないものの、高占率ゆえ、他社も追随し、利益の源泉になっています。
ベータvs VHS、ウォークマンvs iPod、ウォークマン公式ミュージックストアvs itunesストアなど、ソニーは残念ながら業界標準競争に後塵を拝してきました。
過ぎたリストラは組織の士気を下げるばかりか技術流出を加速
世の中をあっと言わせるソニーの製品開発は、異才・異能・奇人の集まりといわれる研究所によるところが大きいといえるでしょう。いわば異端が経営側の干渉を受けずに、研究に没頭することで、世界レベルの開発ができたのです。しかし、現状では、体力的余裕がなく、手放しで研究開発させる状況にないといいます。そのため先進的な開発ができず、他社のマイナーチェンジに甘んじる現状を創業者の盛田昭夫氏にはどう映っているのでしょうか。
「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」。1946年、ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書第一条です。起草は、創業者の一人井深大氏。千人単位のリストラが続くと上記のような社訓がかすみます。過ぎたリストラは組織の士気を下げ、体力を奪うばかりか、功労者を中韓台などの同業者やEMS(電子機器受託サービス)メーカーが高給で採用し、技術の流出を加速させてしまいます。その結果、ソニー本体のみならず日本の家電メーカーの収益を圧迫する、いわば、天に唾する悪しき構図に陥ってしまっています。
高度なAV技術を持つニッチャーに専し、再び市場を創造すべき
生前、盛田昭夫元会長は「世の中に技術革新が頭打ちになったという悲観論があるようだが、それは間違いである。技術こそ人間が持っている叡智。どんな難しい世の中でも技術があれば乗り越えていける。資源が少ない日本ではたくさんの人が難しい世の中を生き抜いて行かなければならない。その最後の頼りが技術。だからこそ技術屋としての誇りと責任を感じている」と語っています。
FeliCa、CMOSイメージセンサー、ハイレゾなど将来性ある製品は少なくありません。これ以上の安易な人員削減、事業の切り売り、不動産業転化に歯止めをかけ、これらの有望資源の再配備による新たな市場の創造を期待したいところです。ソニーはパナソニックや日立、東芝のように総合家電メーカーではなくAV専業メーカーです。つまり、フルラインの製品を全包囲型に備える必要がある業界リーダーではなく、高度なAV技術を持つニッチャーに専し、市場を創造する製品を世に送り出してほしいと思います。アップルの製品ラインがMac、iPhoneなど6ラインに収斂しているのが好例でしょう。くしくも17年前ひん死の状態からV字回復を遂げたアップルのiPhoneやiTunesのように。
(村上 義文/認定事業再生士)