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子どものうつ病に抗うつ薬を使用すべきか?

JIJICO 2014年9月29日 12時0分

厚労省が、子どもには抗うつ薬を慎重に投与をするように指示

今年3月、厚労省が、6種類の抗うつ薬に対して、「『有効性が確認できないため、子ども(18歳未満)への投与は慎重に』という文言を薬剤の添付文書に記載せよ」との指示を出しました。これは、最近の海外での臨床試験で、この6種類の薬については有効性が確認されなかったというエビデンスに基づいています。これ以外にも、子どもへの長期投与の影響が不明なこと、また、抗うつ薬服用が自殺企図や周囲への攻撃的行動を誘発する例があったことなどから、子どもには抗うつ薬を慎重に投与をするように厚労省は通達しています。

当然の注意といえるでしょう。薬剤の有効性、安全性確認の追求法としては、いったん動物実験で安全性の確証が得られた後は、「人体での臨床試験を重ねる」「臨床例の情報集積によって副作用をくまなく記録していく」という芸のない手段しかありません。

抗うつ薬療法のベネフィットがリスクを上回ると判断されている

一般に精神科に限らず、どの診療科でも、大人の病気に対して開発された薬物を子どもに使用する場合の特殊性として、(1)成人と同じ効果が現れるとは限らない(2)成人ほどエビデンスがない(3)服薬の同意を親にも取る必要がある(4)成長への影響を考慮する必要がある、という点が挙げられます。特に(3)の理由により、子どもに対する臨床試験は行い難く、これが子どもにおける薬剤の安全性に関してエビデンスが得難い要因にもなっています。したがって、抗うつ薬も、特に成長に与える影響については、まだよくわかっていないというのが現状なのです。

さらに、子ども(児童・思春期)は成長段階にあり、特に環境に影響されやすいため、子どものうつ病は成人に比べ、はるかに環境調整や心理療法の効果が期待できます。それでもなお、子どものうつ病に対して抗うつ薬療法が用いられるのはなぜでしょうか。それは、日本うつ病学会・日本児童青年精神医学会の共同声明で「小児の大うつ病性障害には様々な重症度のものが含まれており、なかには心理的介入のみでは不十分なケースもある」と述べているような現状の中で、「治療のベネフィット(利益)がリスクを上回る」と判断されているからに他なりません。上記のような十二分なエビデンスがない状況なので、極めて現実的な判断から治療法が慎重に選ばれています。これは、何も精神科の抗うつ薬に限った話ではなく、すべての診療科で同様の事情があります。

リスクゼロの絶対安全な治療薬というのも存在し得ない

一般に精神科において子どもへの薬物療法(抗うつ薬に限らない)を行う時は、「薬の効果が明らかな疾患、症状であること(統合失調症、うつ病、ADHD、その他)」「緊急性のある場合(薬を使わずに様子をみていてはリスクが大きすぎる)」「薬以外の治療法で効果がなかった」のいずれかの基準を満たしている場合です。その他、精神科医は、自分が選ぼうとしている薬の安全性、当の患者への有効性を十分に吟味してから処方を行うことはいうまでもありません。

薬というものは、本来人間にとって「毒」であり、「毒(薬)を盛って毒(病気)を制す」というのが、ヒポクラテスでよく知られるギリシア古代医学以来の薬物療法の根本思想です。薬の安全性は限りなく追求されるべきですが、リスクゼロの絶対安全な治療薬というのも存在し得ないのです。

子どもの精神医学的治療の現状をふまえた上で、託した精神科医に最善の治療的選択について専門的判断を任し、納得のいく説明を受けた後、治療法の最終選択を行うことをお勧めします。

(池上 司/精神科医)

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