環境の変化に伴い、子どもにもうつ傾向が見られるように
厚生労働省調査によれば、中学生の4人に1人はうつ症状だといいます。また、別の調査では、12.4%にうつ傾向が見られたそうです。従来、「子どもにうつ病はない」と考えられてきました。それは、うつ病というのは心身の疲弊した状態であるのに対して、子どもはエネルギー量が高いからです。また、否定的な感情を持っても、多くの場合は一時的なもので、子どもはすぐに気分を切り替えることができるからです。
それが近年になって、子どもを取り巻く環境が変わってきました。切り替えるのが困難な、持続的な負荷がかかるような状況が見られるようになってきたのです。いじめ、成績や部活での挫折、両親の不仲や離婚、家族の病気や死。これらの一部については、「昔からもあったではないか」と言われるかもしれません。しかし昔と違うのは、親や教師など、大人にも未成熟な部分があって、子どもをサポートしきれないことです。
また、価値観の多様化に伴って、大人が子どもに進むべき道筋を明快に示すことができないといった現実があります。そのために、子どもは負荷のかかった状況から気持ちを切り替えることができず、エネルギーを消耗し、うつに陥るようになってきたのです。
基本的安心感を持たせてあげることで、うつの予防につながる
では、子どもがうつにならないようにするには、どうすればいいのでしょうか?
子どもが少々言うことを聞こうが聞くまいが、勉強ができようができまいが、「あなたはあなたでいいんだよ」「私たちはあなたのことが大好きだよ」「何とかなるよ」というようなメッセージを送ってあげることです。「頑張って良い結果を出すことはすばらしいけれども、失敗したり、ダメだったりしても、あなたを受け入れているよ」という安心感を与えてあげるのです。
うつに陥る根底には、しばしば子ども自身の自己否定感があります。「自分が悪いんじゃないか」「自分はダメなんだ」という思いがあるのです。ですから、自己否定感ではなく、基本的安心感を持たせてあげることができれば、うつの予防につながります。
周囲にいる大人が心に余裕を
また、「ダメであってもあなたを受け入れている」というメッセージを伝えることによって、子どもは自分の抱えている辛さや苦しみを語ることができるようになります。子どもというのは意外に大人のことをよく見ています。自分が話すと説教される、あるいは心配され過ぎるなどと思っていれば、何でも話すわけではありません。いじめなどがあっても自分の中で抱え込んでしまい、そうした状態が続くことで、うつになるのです。
子どもは周囲の影響を受けやすい存在です。よって、まわりにいる大人に心の余裕があり、先の述べたような心配りを意識することができていれば、子どものうつは予防されうるのものだと思います。
(泉 和秀/精神科医)