条例化にあたっては、単に性犯罪者への対策にとどまらない
性犯罪者GPS監視とは、性犯罪を犯した前科前歴のある者を、GPSを利用して監視する制度のことをいいます。2010年12月、宮城県において、大学教授らによる懇談会が発足し、女性と子どもへの暴力的行為をなくす対策の検討を開始。震災のため一端中断されていましたが、性犯罪の前歴者やドメスティックバイオレンス(DV)の加害者へ、衛星利用測位システム(GPS)を常時携帯させ、行動監視し、違反者には刑罰を科するなどの案の条例化の検討を再開した、という報道も昨年ありました(なお、宮城県は条例案の検討を中止する方針を固めたようです。日本経済新聞2013/5/18)。このように性犯罪者GPS監視については、たびたび議論に上がっています。
性犯罪被害者保護の観点や性犯罪者の再犯率の高さからすれば、性犯罪を防止する対策を行うことについては、誰もが賛成するところだと思います。しかし、同条例化にあたっては、以下のように、単に性犯罪者への対策という視点にとどまらない重要な問題点があるため、このような対策をとるかどうかは、慎重に検討されるべきであると考えています。
GPS監視の制度の導入は、国会による立法の手段で行われるべき
憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定し、現行刑法上、刑罰は、死刑、懲役、禁固、罰金、拘留及び科料の主刑と没収の付加刑のみで、GPS監視というのは含まれていません。我が国の刑罰、犯罪予防の政策の大きな変更を伴う制度であるという点に注意が必要です。
また、「法律」には、地方議会による条例を含むと解釈されていますが、刑の執行を受け終わった者に対するプライバシー権を常時制約する規制を加えるものであり、二重処罰や新たな刑罰を創設するに等しいため、過度な制約であり、条例制定権の範囲を超えてしまうのではないかという問題点もあるところです。少なくとも、よほどの地域の実情がない限り、根本的な刑罰制度を変える恐れがある性犯罪者GPS監視の制度の導入は、国会による立法の手段で行われるべきでしょう。
より人権制約の少ない他の手段での対策を検討することが先決
平成25年度の犯罪白書における出所事由別5年以内累積再入率(平成20年の受刑者の人員に占める同年から平成24年までの年末までに再入所した者の累積人員の比率)によれば、強姦が18.5%、強制わいせつが28.5%と性的な犯罪における再犯率は高いものといえるでしょう。しかし、他の犯罪における累積再入率についても、強盗21.5%、窃盗48.5%、傷害・暴行40.7%、放火19.0%、覚せい剤取締法違反49.3%となっており、再犯率の高い犯罪は性犯罪だけではありません。
性犯罪者GPS監視の導入については、他の再犯率の高い犯罪にも拡張される可能性の残る制度といえるでしょう。性犯罪防止のプログラムについては、まだまだ議論が熟された状況ではなく、より人権制約の少ない他の手段で対策が可能かどうかを検討することが先決ではないかと思うところです。
(大西 隆司/弁護士)