大都市圏への人口移動が収束しないと多くの地域が消滅の危機に
政府は、9月29日に召集された臨時国会において「まち・ひと・しごと創生法案」(いわゆる「地方創生基本法案」)を提出しました。公益財団法人日本生産性本部の日本創生会議・人口減少問題検討分科会(元総務相である東京大学大学院客員教授・増田寛也氏が座長)が、今年5月8日に発表した「ストップ少子化・地方元気戦略」という提言において、子どもを産む若年層こそが「人口再生産力」であり、このような若年層を中心とする地方から大都市圏への人口移動が今後も収束しないとすると、20歳から39歳女性人口が2010年から2040年にかけて半分以下になる自治体数は49.8%に上り、このままでは多くの地域が消滅すると警告されました。
自治体別リストまで公表されたことをきっかけとして、この問題に大きな関心を示してこなかった政府が目を覚ましたかのように突如として動き出し、9月の内閣改造で「地方創生担当相」を設置するとともに、首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」(地方創生本部)といった会議も新設され、今回の地方創生基本法案提出という非常に迅速な流れになっています。
人口密度が高くなるほど出生率が低くなる傾向にあることから、地方の若年層が大都市圏、特に東京に流出することは、日本全体の人口減少に拍車を掛けることになるものと心配されています。若年層の大都市への流出を抑え、あるいは大都市から地方へ流入させ、地方へ定着させることが必要となってきますが、そのためには、若年層にとって、地方を就労面や生活面で魅力的な環境にしていく政策が求められます。
政府がどこまで本腰を入れてやれるのかは今のところ未知数
ただ、政府が日本創生会議の提言に対し敏感に反応した背景には、2015年の統一地方選挙対策として地方向けのアピールを必要としていたからではないかとの穿った見方もありますし、2020年には東京オリンピックの開催も予定されているため、どこまで本腰を入れてやれるのかは今のところ未知数です。
また、地方創生には、自治体側の創意や協力も不可欠だと思われますが、地方の状況も多様ですし、地方制度の見直しに結びつくことを警戒する自治体側が保守的になってしまうおそれもあります。そうなると地方創生は、遅々として進まないことになります。
そういった意味では、地方創生基本法案が可決成立したとしても、大都市圏への人口流入、特に東京一極集中を是正するには、非常に長い年月が必要になってくるものと見込まれます。首都直下型地震の切迫という重大な問題もあることを考えますと、東京一極集中はやはり是正していくことが望ましく、政府には、効果的な政策を立案・実施してもらいたいものです。
(田沢 剛/弁護士)